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奈岐編 注釈三

3-1-1
3-1-2
状況
穢れの調査前
奈岐を食事に連れ出す鼎。
ご飯をあーんする鼎、食べる奈岐。
続けて他の巫女候補と遭遇、神住と縁子の小言。
食堂を抜け、寮を出る奈岐と鼎
時間
二十六日目・夕
場所
寮・食堂
設定
・鼎の見立て通り、食が細い奈岐 (2-4-2-1)
・奈岐は、辛いものが苦手、猫舌
・高遠家の家訓、ご飯は残したらダメ
伏線(大)
伏線(小) f7-8, 見鬼

奈岐“「遠山、その怒りもパフォーマンスか?
だとしたら、滑稽だ。 御花会をまとめる
理想の人間像からぶれているぞ」”

“「よく見ろ。利き手に拳を作っているし、顔も赤い。
つまり、パフォーマンスではない。
図星を指されて苛立っている」

「静かに相手をたしなめたつもりが、
怒り心頭に発している。たった一言、
下らないと自尊心に傷をつけられただけでな」”
テキスト
T18-5, 穢れの調査 / f13-4, 八弥子の力、境遇

奈岐“「高遠、協力すると言ったな?
今夜も穢れを相手に試したい事がある。付き合えるか?」

鼎「夜に……ですか?」

奈岐「人目に付かないからな。都合がいい」

先輩が夜な夜な出歩き、寮に戻らない訳が薄々分かった気がした。”

“鼎「先輩、今まで穢れを一人で祓っていたんですか?」

奈岐「そうだ。そもそも話が通じないだろう。
皆が皆、巫女の座を目指して躍起になっている」

鼎「うーん……でも、八弥子さんなら手伝ってくれそうですよ?」”

奈岐“「それに……禰津は穢れを祓うためとはいえ、
戦うべきではない。少なくとも私にはそう見える」”

脚本
⇒ようやく希望の兆しが見え始め、
居場所を見つけつつある中で、
神住と縁子の攻撃的な姿勢が緊張感を与えてくれる。

この時点で奈岐との甘い時間が長続きしないのは、
脚本家の口説き上手な所だと言える
演技
神住“「鬼子……」”

⇒奈岐への怒りを込めての一言。
聴く者の憎悪を掻き立ててくれる、良い声音
演出
作画
補足






3-2-1 3-2-2-1
状況
穢れの調査に向かう奈岐と鼎
星霊石について聞かされる鼎
時間
二十六日目・夜
場所
寮前

設定
・穢れの外見的特徴
長い爪、木の幹ほどあるような太い腕、鋭い牙
・穢れは星霊石の力に引き寄せられている
・奈岐による星霊石改名案
零七式闇喰狼(ズィーベン・ヴォルフ)、
吸血暴君(ダーイン・スレイヴ)、魔触石(ましょくせき)
伏線(大)
F9-13, 巫女の真実

奈岐“
「星霊石だったか……松籟会の
ネーミングセンスは今一つだな。
もっと禍々しいものにすれば、注意も払えるだろうに
」”

“「高遠、その方がいいと言っただろう。
石を禍々しいものだと認識すれば、
その扱いにも注意を払うはずだ」”
伏線(小)
テキスト
T1-21, 鼎の強い意志、母への想い

“命に関わるような……そんな出来事がこの先に待っているんだ。

指先が腰に下げた勾玉に自然と触れていた。

お母さん……。

心の中で母に呼びかけながら、私は夜の森へ入っていく。”

T15-9, 奈岐の洞察

奈岐“「高遠、まず遠山という女が御花会をまとめている人間である、
その肩書きに目が眩んでいないか?」

「そんなものを取り払って、遠山個人を見てみろ。しがらみの中、
自分自身がいかに優れた人間であるかを見せようとしている」

「特に今年の一年生に対し、異常なまでの拘りを示している。
言ってしまえば、奴は偏愛を持ったが故、さらに歪んでいる」”

⇒既存の価値体系に組み込まれ、そこで自身の有用性を示す事に
躍起になっているだけでもある意味では歪んでいるのに、
その半ば公的な立ち場にありながら、
私を優先しつつある様は、矛盾を孕み、滑稽ですらある。
神住の行動理念は、奈岐の対極に位置する

T1-22, 鼎の強い意志、母への想い
T1-6-7, 鼎の判断力 / T17-7, 消え入るような鼎

“もしかして穢れから姿を隠すため、
月の光が届いていない道を進んでいるのだろうか?

そうだとしても……さすがに視界のほとんどを
遮られている状況は不安を掻き立ててくれる。

注意して僅かに息を吐く――
情けないことに唇が震えていた。

恐怖から目を逸らそうとすればするほど、
穢れの存在が頭の中で鮮明に描かれていく。

長い爪、木の幹ほどあるような太い腕――
得体の知れない仮面に隠れた鋭い牙。

もし引っ掻かれれば、もし噛み付かれたら、
腕や足なら確実に持って行かれるだろう。

まだ手足が繋がっているものだと信じてやまない
間に、奴らは食いちぎり、引き裂き、
絶望を与えてくる。

そうなった時、私はまだ戦えるだろうか?

勾玉を握りしめた手先が震え始める。

死に直面するのは怖いし、恐怖して当然。
でも、怪我を負うことも恐怖してしまう。

痛い思いなんてしたくない。誰だってそうだ。
特にあんな化物に一撃でももらったら――。

鼎「…………」

落ち着け、と頭の中で繰り返す。

思考が悪い方向に傾いているようだと、
怖くないものでも、怖いと感じてしまう。

そして恐怖は絶対的な隙を生む――
だから、落ち着こう。”

“今も手で勾玉を握りしめたままだ

こうしているだけでも、お母さんの勇気を少し
分けてもらえるような気がしてくる。”
脚本
演技
演出
作画
補足






3-2-2-2
状況
穢れの行動的側面、発生的側面について聞く鼎。森の奥へ
時間
〃(六月三日)
場所
森 ~ 森の奥
設定
・穢れにはそれなりの知性がある
・穢れは群れを作らない
・テリトリー意識は無い
・絶滅するほど少ない訳でも無い
・複数での出現は、多くて三匹程度 (それを相手に出来る程の実力が、奈岐にはある)

・幸魂での支援とは、ある巫女が荒魂を発現させた後、もう一人の巫女が持つ星霊石に触れ、力の交信を行う事。
そして、もう一人の巫女が幸魂を発現させる。そこから幸魂の巫女は力をコントロールし、ペアの巫女に集中させる
・森の奥までは、一時間以上歩く(鼎の感覚で)、その場所は海が近く、風に乗った磯の香りが届く辺り
・奈岐は穢れの記録を取っている。その日、穢れが現われたかどうか(活動周期を絞り込む為)
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T18-6, 穢れの調査 / T15-10, 奈岐の洞察 / T17-8, 消え入るような鼎
疑問九, 穢れと装飾 / f7-9, 見鬼

奈岐“「アレは血の匂いに寄りつく獣と同じだ。穢れは石の力を感じ取り、姿を現すことが多い」

「もし私や高遠がここで石の力を使ったとしよう。恐らく森を徘徊する奴らが近くにいれば、姿を見せるだろう」

鼎「……石の力に……でも、もしそうだとしたら、昼間の模擬戦の時が危険じゃ……?」

奈岐「悪くない着眼点だ。しかし、模擬戦の時に奴らが現れることは無い。考えられる理由は一つだ」”

“「奴らはそれなりの知性を持っている。候補とはいえ、複数のが揃う場所を襲撃すれば、袋だたきもいいところだ」

「ならば、徒党を組んでみてはどうか? そう考えてみたが、奴らは群れで行動しているわけではないらしい」

あの穢れが群れで……想像するだけでも嫌な汗が出てきそう。

鼎「もし群れで現れるようなら……最初の最初で危なかったです」

奈岐「群れを作らない理由として、まず考えたのがテリトリー意識だ。
猫が群れを作らない理由、一匹狼の由来、その他諸々……」

「テリトリー意識があれば、単独でも狩りに出る理由も説明は付くが
奴らの行動を見ても、テリトリーを意識している様子が無い」

「マーキングもなければ、見回りもしていないだろう」

「次に考えたのが絶対数の少なさだ。数が少ないが故に徒党を組むことが出来ない――しかし、今度は絶滅しないのだ」

「どれだけ狩ったとしても、奴らは姿を消さない。夏が……祭りが近づくにつれて、むしろ増える一方だ」

鼎「でも……群れたりはしないんですよね?」

私の不安そうな声を聞いて、先輩が顔だけ振り返ってみせる。

奈岐「複数を相手取ったこともあるが、多くて三匹程度だ。巫女候補達を襲うには数が少なすぎる」

三匹を相手に……先輩は簡単そうに言ったけれど、それってすごいことなんじゃ?

「穢れは一晩探しても見つからない時もあれば、複数に出くわすこともある」

「あの大柄な身体を得るにはそれなりの成長時間が必要となるはずだが……小型の穢れを発見したことも無い」

「生物のカテゴリーからは既に外れていると考えた方がいい。
そこで気になるのが……奴らが身につけている面のようなもの、腰蓑のような物だ」

人工物にしか見えない面や腰の装飾……穢れと呼ばれる化け物はみんな同じ姿をしているのだろうか?

疑問に思い、先輩にそう尋ねようとした時、

「よく見ているな。穢れはいつもあの姿で――」

鼎「えっ?」

質問よりも先に答えが返ってきていた。

これってどういう……? あ、あれ?

奈岐「…………」

戸惑う私を見て、先輩は少しだけ慌てたように再び歩き始めた。

「高遠、先に結論から告げよう。私は穢れを捕獲したい。力で祓えば消えてしまい、存在を確かめることも出来ない」

そして、何事も無かったかのように話が再開される

私、ホントに質問した覚えは無いのに……あ、あれ?”

T18-7, 穢れの調査

奈岐“「ああ、これは戦闘記録だ。穢れが現われる現れないにせよ、データとして収集する必要がある」

「その日、穢れが現われたか否か――記録を残すことで、
奴らの活動周期を絞り込むことが出来るかもしれない」”

“「……六月三日、快晴。月は満月に近い、一日前か。
時間は午後九時十分を過ぎたところ。風は北東より、風速二メートル程度」”

脚本
⇒“ペアを組む”という事が、疑似的な交際関係を思わせる
演技
鼎“「初戦って……先輩と私のペアで、ですか?」

奈岐「……そ、そうだ」

模擬戦ではさっぱりだけど……こんな形でもペアを組めるのは嬉しいかも。

ううん、とても嬉しい。ずっと一人だって思い込んでた分だけ、すごく嬉しい気持ちになれる。

奈岐「…………」

「その……なんだ……高遠、私も誰かと組むのは初めてだ。至らない部分も多いと思うが、よろしく頼む」

鼎「こちらこそ、ふつつか者ですがよろしくお願いしますっ」

と、頭を下げるが、先輩は明後日の方向を見たまま帰ってこない。”

⇒やはり上擦り気味の、この初々しさが良い
演出
作画
補足






3-2-2-3
状況
神狼伝説を聞く鼎
時間
場所
設定
・奈岐が狼のマントを付けているのは、神狼の加護を受ける為
・奈岐の長くて独特な猫毛は、一度でも触れてしまえば、そのまま撫で続けてしまう魔性の力を持つ
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T8-6, 神狼伝説 / F9-14, 巫女の真実 / T17-9 消え入るような鼎

奈岐“「猿神伝説というものがある――地方により伝わる者は様々だが、織戸伏の地方に伝わるのは一匹の狼の話だ」”

“「昔、山に住む猿神が毎年、若い娘を贄として麓の村に要求をしていたそうだ。
もし贄を出さぬ年があれば、災害が訪れる、と……よくある話だ」

「そこで……ある時、白羽の矢が立った家の父親は、娘を差し出したくないが為、
猿神が住む社に忍び込み、奴のことを探った」

「父親は猿神の寝床にて、奴が漏らした独り言を聞く」

「奴はある神狼から逃れ、この地に辿り着いたこと。その神狼は自分のことを
探しているようだが、まだ気付いていないこと」

「父親は猿神の弱点は、その神狼にあると知り、八方を尋ね、ようやく織戸伏の地で神狼と会うことが出来た」

「神狼はその願いを聞き届け、贄を要求された夜に、たった一人で猿神に挑む」

「そして翌朝、村人達は打ち倒された猿神と、同じく、骸と化した神狼を発見する」

「村人達は神狼に感謝を示し、手厚く葬り、新たな社を建てることとなった――という話だ」”

“「その神狼はな、真っ白な狼だったと伝わっている」

「奇しくも、織戸伏で生まれる子は、稀に色素の薄い……白に近い、髪や肌を持つ」”

“「鬼と呼ばれるのが癪でな、私は自身を伝承にある神狼、その眷族だと考えている」

「そして、この島に現れる穢れは、猿神が残した呪いではないか、あの人の形を模した醜悪な風貌はそうも思わせる」

「いずれにしても悪しき者、この世の者ではないだろう」”

“「もし私が神狼の眷族であるならば、穢れを打ち倒すことに、厚い加護を得ることが出来る」”

“「眷族たる者が穢れを祓う――加護を得られるだけの行為だ」

「だから、高遠――私と共に戦う限り、穢れに屈することは無い。何も恐れることなど無い」”

“もしかして……私が穢れを怖がったことを、気にしてくれているのだろうか?”
脚本
演技
演出
作画
補足






3-2-3-1 3-2-3-2
状況
穢れをおびき寄せる奈岐達 穢れを倒した二人。名前で呼び合う奈岐と鼎
時間
場所
森 ~ 浜辺
設定
伏線(大)
F9-16, 巫女の真実 / T18-7, 穢れの調査

“どれもが共通して、この世のモノとは思えない出で立ち。

そして人為的な装飾品らしきもの。

先輩はこいつを猿神が残した呪いだと言った。

こうして二足で歩行してくる辺り、そう考えられるかもしれない”

“穢れを切り裂いた確かな手応え――。

でも先輩が言った通り、奴らは痕跡を残さない。

血であれ、肉であれ……切った箇所は、
夜の闇に溶けるようにして消えていく。

まるで実体の無い何かと戦っている。

そんな錯覚すら覚えるけれど、奴らは確かにそこにいて、
一度腕を振るえば、木々をなぎ倒すほど、凶悪な一撃を放つ。”

“穢れが消え去った後も、手には肉を割いたような感触が残る。

こういうのだけはしっかり残していくから……厄介。”
伏線(小) f7-11, 見鬼

奈岐“「ッ――!? くっ、目に頼り過ぎだ、私は……!」”

f17-1, 水蒸気爆発

“鼎「あの先輩……さっきの衝撃なんですけど、もしかして……」

奈岐「ああ、氷と炎が正面からぶつかると、どうなるか――
警告しておくべきだった」”

“どれぐらいの熱をはらんでいるのか分からない私の炎と、
先輩の氷が水になり、そのままぶつかってしまえば……。

当然のように水蒸気が発生して、あのような霧を作り出した。

衝撃はその時の産物と考えても良さそう。”
テキスト
T19-2, 八弥子と奈岐 / T20-1 奈岐への想い /
F9-15, 巫女の真実 / f7-10, 見鬼

“先輩を中心に氷塵が踊り、月明かりに反射して煌めく。

神秘的な光景――でも、凍てつく空気はいつか
八弥子さんが言ったように、冷たく、人を拒む。

奈岐「近くにいるなら来い――」

呼ぶ声。

人ではなく穢れを呼び寄せるための声。

それが今はどうしてか胸を痛ませる。

奈岐「お前達が悲鳴をあげているのは知っている。
私には視えるんだ」”

“「……私は此処にいるぞ」”

“先輩の言葉通り、此処にいる事を伝えるように、
幾度も力が抜ける。

でも、その声は幾度も私の胸を苛む――痛む。

得体の知れない痛みに目を閉じた瞬間、
周りの冷気が収束していく。”

“巫女として星霊石の力を使い、内なる魂を具現化した。

先輩を守るようにして、
氷柱のような切っ先の鋭い短刀が浮かぶ。

他者との絶対的な距離、他人を拒む冷たさ――
全てが形作られていく魂の姿。

巫女の力を発現させるということは、
自身の内面を晒すことに通じる。

私は向山奈岐という先輩を知った。

そう、知った――知ったはずだった。知ったつもりだった。

でも、一歩たりとも先輩に歩み寄れていなかった。

それをこの冷気が嫌というほど、私の身に刻んでくれる。

だから、痛みを感じたのかもしれない。

これから知っていけばいい――
なんて軽々しいことは思えないし、思いたくもなかった。

そんな気持ちで向き合ったら、
きっと目の前にいる人には届かないし、
何一つ伝わらない。それが分かっている。

だったら、どうすれば?

それはもう決まってる。知っていくなんて真似はしない。

私が向山奈岐という先輩を知るために出来ること――
すべきこと。

きっと私だから、私の魂だからこそ出来ること。

私は先輩に歩み寄り、輝く星霊石に触れ、
力の交信を交わす。

そして――。

鼎「……燃えろ」

勾玉を握りしめ、静かに、然れど強く言葉を発する。

彼女へ続く道を冷たい氷が閉ざすなら――。

私の炎でこじ開けるまで――
それが私のやり方、私の魂の在り方。

「燃えろッ!」

二度目の言葉はさらに強く。

全ての氷を溶かすほど、燃え盛る炎を呼び起こす。

肌に張り付いていた冷気が溶け、
熱気に包まれていくのが分かる。

でも、まだ先輩には届かない。

だから、もっと――。

勾玉を掲げ、全ての炎を集束させていく。

「もっと燃えろッ!!」

冷気があの人を閉ざすなら、私の炎が溶かすだけ。

絶対にあの人に触れる。

そして、向山奈岐という人を知るんだ。

それが一対であること、一つの魂になること。

勾玉に収束した炎が衝撃で駆け抜け、
火の粉を散らしていく。

「もっと――!」”
T21-1, 鼎への想い / T20-2, 奈岐への想い / f7-12, 見鬼

奈岐“「いや、高遠が謝る必要は無い。私の力を見た結果、
高遠が思ってくれたことを否定するつもりは無いし……」

鼎「私が思ったこと……? えっと……ま、まさか伝わりました?」

いつも以上の力で炎を爆発させただけにしか、
見えないと思っていたんだけど……。”

奈岐“「あ、いや、……その……勢いを……感じたんだ」

少し言葉を選ぶようにながら先輩が呟く。

「け、決して悪い意味じゃない勢いでっ……
その……なんだ……」

ぼそぼそと呟いた先輩の言葉の続きを待ってみるが、
口籠ってしまったまま、何か言うことは無かった。

鼎「えーと……次は少し抑え気味でいきますね」

きっとこれが最善の選択かな、と先輩に告げる。

奈岐「ま、待って、高遠が抑える必要は無いっ……」

鼎「えっ、でも、そうしないとまた爆発しちゃうかもですよ?」

奈岐「だから、奈岐に問題があっただけで……高遠は別に……」

あれ? 先輩、今自分のことを……。

鼎「奈岐?」

奈岐「えっ?」

僅かに潤んだ瞳が私を見上げていた。

何がどうなっているのか分からないけれど……
私が名前を呟いたことに先輩が反応したの……かな?

「あ……うっ……」

自分でも気付いたのか、先輩の頬が見る見る内に上気していく。

「と、とにかく、高遠はそのままでいい! いいなっ!」

鼎「は、はいっ」

掴みかかるような勢いで言われて、思わず返事をしてしまう。

でも、本当にあの調子でいいのかな?

奈岐「高遠、炎と氷だ。相反するもの故、調整するところだ」

鼎「……そうですよね、今日が最初だったわけですし」

奈岐「人と合せようとしたのも、今日が始めてだ。
だから、私の方に問題が出てしまったのだろう」

責任は全部自分にあると先輩は繰り返す。

でも、それは何だか違うように思えて……。

鼎「私も合せようとしたのは初めてですよ。 それに一対って
ぐらいですし、どちらかだけの問題じゃないと思います」

奈岐「……で、でも、拒んだのは奈岐の方で……」

鼎「それを無理にこじ開けようとしたのは私です」

と、微笑んでみるが、先輩の顔が晴れてくれないので、
間近にある頭に手を伸ばす。

奈岐「んっ……」

先輩の頭をなだめるように撫でると、
どこか心地良さげに目を細めていく。

あれ……怒られない?

じゃあ、今しかない――と思い、
私は頭の端に留めていたことをゆっくりと口にする

鼎「私、先輩と友達になれますか? あ、ちょっと違う……
先輩と友達になってもいいですか? うん、これだ」

奈岐「えっ……?」

鼎「仲良くなるのもそこからスタートかな、と」”

八弥子さんが先輩は氷を使うと言い当てたので、
あの時の約束を果たさないといけない。

『もしヤヤが正解したらね――
カナカナはナギっちと友達になること!』

そんなこと言われちゃってたし。

それに何よりも今はもっと先輩のことをしるべきだ。

でないと、あの氷を溶かすことは出来ない。

その先にいる先輩のところには辿り着けない気がするから。

奈岐“「と、友達になったら……どうなる?」

おっかなびっくり、そんな様子で先輩が尋ねてきた。

鼎「名前で呼びます。 敬語も止めます。
一緒にご飯も食べます。スキンシップも増えます。
あと今まで以上に楽しくなります」

奈岐「…………」

鼎「付け足しておくと――嫌って言わせる気はあまり無いです」

気持ちを正直に告げると、先輩が思わず吹き出していた。

奈岐「お前は……正直だ、本当に真っ直ぐすぎる」

鼎「あはは、嘘もはったりも得意じゃないんで」

奈岐「それに……そんな風に言われると、断れないじゃないか」

鼎「じゃあ、返事は『はい』でいいですか?」

奈岐「……それで……うん、それでいい」

緊張からか、不思議に揺れる先輩の瞳を見つめつつ、
私は微笑む。

鼎「それじゃ、失礼して――こほんっ、これから奈岐って呼ぶね」

奈岐「うっ……な、なんだか、照れ臭い……それ……」

鼎「だから、奈岐も鼎って呼んで」

奈岐「うっ……ぅ……」

これ以上無いぐらい顔を赤くした先輩の視線が、
下を向いたまま帰ってこない。

鼎「照れ臭いのは私も同じだから、ほら」

僅かに熱くなっている自分の頬を指さす。

奈岐「……少し赤い、な」

鼎「あはは……すぐに切り替えるのは難しいしね。
でも、そうしていきたいって今は思うから」

敬語もちゃんと無しにしないと、いつもの調子に戻りそう。

意識、意識――意識しようと繰り返す。

奈岐「…………」

「そう……だな」

「マントが森の中だ。回収に行く」

「それから、今日はもう引き上げよう――か、鼎」

背中を向けた先輩がすたすたと歩いて行く。

鼎「あはは、照れるね……でも、ちょっと嬉しい」

距離が少しだけ縮まったような、そんな気がして、
おのずと口元が緩んでしまう。

「奈岐、明日の夜はどうするの?」

今は意識して名前を呼ぶようにしているけど、
それはすぐに自然と馴染んでいくだろう。

奈岐「……鼎に問題がなければ、明日も試すつもりだ」

鼎「じゃあ、もし問題があっても、色々パスして来る」

奈岐「やれやれ、鼎らしい回答だな」

自然な関係になれた時、一対としてどこまで近づけているか
それは始まったばかりだから、まだ想像も出来ない。

でも、今よりももっと――
もっと仲良くなれているはず、そう思いたかった。”
脚本
⇒一文一文に魂が込められている。脚本家が言葉を
精神の内奥から引き出す様な深みと力強さが感じられる
演技
演出
作画
補足
⇒この時に起きた水蒸気爆発について。
気体となった水の体積は、仮に過熱していないとして、
100度なら液体時の約1800倍の体積を占める。
これは気体の状態方程式に当てはめるだけで判る。
ただし、この時のエネルギーの規模やら何やらは現状、
筆者の力の及ぶ範囲には無い






3-2-4 3-2-5
状況
穢れ調査を終え、寮に戻る二人
鼎、起床、学校へ。昼休み、八弥子と食事
時間
二十七日目・朝 ~ 昼
場所
寮前 ~ 寮・奈岐の部屋 ~ 寮・自室
寮・自室 ~ 教室 ~ カフェテリア
設定
・一階の部屋の一つは空き部屋、
ここの鍵は簡単に外せるように細工済み(奈岐によって)
・奈岐の部屋の鍵は、左に一回、右に一回、左に二回傾けると開く
・黄泉の国から帰ったイザナギは、海水で穢れを祓った(清めの塩の由来)
・昨日、水蒸気爆発が起きた地点は、島の北方
・次の模擬戦は一週間延期。
御花会での活動は一対での訓練となる
・これは神住達が真琴達に負けた為
・巫女の力以外では、穢れを祓えない
伏線(大)
伏線(小) f14-3, 葉子の実力

奈岐“「どうだろうな? 金澤葉子も食えない教師だ。
私が使っていることを知って放置しているのかもしれない」”

(鍵の細工を誰も知らないのかと訊く鼎に対し)
テキスト
T21-2, 鼎への想い / T20-3, 奈岐への想い

奈岐“「ん……鼎、どうした?」

鼎「えっと、入っていいの?」

奈岐「ああ、鼎は……と、友達だからな」

鼎「ふふっ、ありがと」

奈岐に微笑んでから私も部屋の中へと続いた。”

T18-8, 穢れの調査 / F9-17, 巫女の真実 / f7-13, 見鬼

奈岐“「今日は事故があったとはいえ……久々の三匹か」

ベッドに腰をかけた奈岐を見ると、
ノートにメモを取っているところだった。

「海辺に誘い、海水をかけてやったが効果は無かった」

鼎「二匹相手にそんなことしてたの」”

奈岐“「古事記の話になるが、黄泉の国から帰ったイザナギは、
海水で穢れを祓った――清めの塩の由来だ」

鼎「こ、古事記……? うーん、その辺りはサッパリかも」

奈岐「普通はそうだろうな。ただ穢れやらを相手にする以上、
巫女として知っておいても損はしないだろう」”

“「今回は海水に浸けたところで効果が無かった、ということだ」

鼎「じゃあ、塩も効果無いのかな?」

奈岐「効果が無いとは言い切れない。神官達が正しい過程を経て
生成した清めの塩なら、効果は見込めるかも知れない」

「ただし、そういった物は手に入れる方が難しいな」”

“「もし穢れが霊的なものであれば、多少の効果は見込めると
思ったのだが……見当違いだったか」

鼎「霊的なもの……幽霊みたいな?」

奈岐「そうだ。実体も残さない上、奴らは――い、いや、
何も残さないのは、高遠も……いや、鼎も確認しているだろう」

何故か奈岐がしどろもどろになっている。

きっとまだ慣れていないんだろう、ということにしておく。

鼎「うん、でも、幽霊でもないなら……穢れって何だろう?」

奈岐「海水に対して耐性があるなら、
妖怪という線も考えるべきかもしれないが……」

鼎「妖怪には海水は通じないの?」

奈岐「よく考えてみろ、海水が通じるのならば、
今頃、海の妖怪は絶滅している」

鼎「あー……あはは、それもそうだよね」

効果あるなら、海坊主とか伝説ごと綺麗さっぱり浄化されてそう。

奈岐「幽霊か妖怪かは、実体を持つか否かで論じられるところだが……
穢れに関して言えば、霊的なものに近いと判断している」

鼎「その理由は?」

奈岐「何も残らないから。それに――いや、それだけだ」”

T21-3, 鼎への想い / T20-4, 奈岐への想い

奈岐“「鼎は部屋に戻るのか?
ここは見ての通り一人部屋だ。休む場所ならあるぞ」

鼎「うーん。もしかしたら、ルームメイトが心配してくれてるかもだし、
ちゃんと戻っておくよ」

奈岐「……そうか。風間の奴一緒の部屋だったな」

鼎「あ、でも、シャワーだけ貸してもらえると助かるかも。
さすがにいっぱい汗かいちゃってるし」

奈岐「ああ、好きに使ってくれ」

鼎「うん、ありがと」

奈岐に礼を言ってから、早速シャワー室に向かう。

鼎「ね、奈岐も一緒にシャワー浴びる?」

奈岐「わ、私もっ!? い、いや……後で、いいっ!」

と、全力で拒否されてしまったけど……
こういう時、白い肌って分かりやすくていいなって思う。

真っ赤になってて、ちょっと可愛い。”
T19-3, 八弥子と奈岐 / T20-5, 奈岐への想い

それから、どこか……
とても優しげに八弥子さんが微笑む。

八弥子“「ね、カナ。ナギっちがね、誰かと
一緒にいようなんて思ったの、
きっとこれが初めてだから――
仲良くしてあげてね」

今まで奈岐を見てきた八弥子さんの言葉に、
背中を押された気持ちになる。

八弥子さんなりに、奈岐のことをずっと
気にかけてきたんだろう。

だから、今は力強く頷く。

鼎「もちろんですよ」

と、私の返事を聞いた後、
八弥子さんはいつもの笑顔でテーブルに、
身を乗り出してきた。

八弥子「それから!ヤヤにもナギっちの髪を
もふもふさせてね!」

鼎「あはは……それは奈岐と相談して下さい」

今日の放課後、
奈岐と会うのが待ち遠しくなってくる”

T12-1, 鼎の疲労

“昨日の疲労が……全然、抜けていない。

模擬戦もしたし、穢れとも戦ったし……
あと歩き回った。 思い出すだけでも、
身体がだるくなってくる。”



脚本
⇒鼎に古事記の知識が無いのは、一般的な読み手を想定している。
読み手は、鼎も分からないと言うのを見て安心を覚える
(2-2-1-4 / 9-2-3 脚本)
演技
演出 ⇒奈岐の部屋に鍵が掛けてあるのは、奈岐の心の象徴でもある
作画
補足
⇒ベッドは空いているという奈岐の申し出に対し、
ルームメイトが心配するから戻るという鼎。周りが良く見えている。
恋に溺れていないという事
(しかし曖昧な感情を、明確に恋と呼ぶのは適切ではないだろう)
⇒“そんな気持ちにされてくれた
昼休みだった――。”

これは受動態ではなく、能動態を使う所。
タイプミスの可能性が高い






3-2-6 3-2-7-1
状況
御花会の活動。砂浜を幸魂の支援で走る訓練
穢れの調査二
時間
二十七日目・放課後 ~ 夕 二十七日目・夜
場所
姫渡り海岸(漂着場所でも、昨日の場所でもない) ~ 寮・自室
寮・自室 ~ 森
設定
・姫渡り海岸は、崎曄女学園の生徒、御花会ぐらいが利用可能
(この時期は御花会が専用で使用)
・巫女候補の活動は、他の生徒や島民には伏せられている
・穢れのことも同様
・水蒸気を目撃した学生は何人か
・学園の北には、祭りで使う祠がある
・何を祀っているのか分からない神社も同様に
・穢れは南方で遭遇することは少ない
伏線(大)
伏線(小) f19-1, 祠 / f20-1, 神社
T20-7, 奈岐への想い / T21-4, 鼎への想い

鼎“「どうして学園の北なの? こっちに何かあるの?」

奈岐「祭りで使う祠がある。あとは何を祀っているの
分からない神社か――鼎、実際のデータを見た方が早い」

奈岐がポケットからいつものマル秘ノートを差し出してくる。

鼎「読んでもいいの?」

奈岐「鼎は私と同じく穢れの正体を追い求める者――
同士だからな」

鼎「ありがと。でも同士より友達の方が嬉しいかな」

奈岐「……と、友達だから」

わざわざ言い直してくれた。”
テキスト
T12-2, 鼎の疲労

鼎“「ぐふっ……」

部屋に戻って間も無くベッドに倒れ込む”

“ぐったりするのを見逃してくれると、ルームメイトから許可が
出たようなので、そのままベッドで突っ伏しておく。

そういえば……今晩、奈岐と穢れを調べに行くんだよね。

体力が少しでも回復してるといいんだけど……。

そんなことを想いながら、私は疲労感に誘われるまま、
ゆっくりと目を閉じていく”
T21-3, 鼎への想い / T12-3, 鼎の疲労

奈岐“「寮の入り口で待ってても、いつまでも
鼎が出てこないから、迎えに来たけど……
もしかして……問題だったか?」

奈岐がどこか心配そうに尋ねていた。

鼎「ううん、平気だよ。
御花会の練習でちょっと疲れてただけ」

奈岐「無理、していないか?」

鼎「んー……」

四肢を伸ばし、手でグーとパーを繰り返す。

身体のどこが痛んだり、疲労が蓄積して
動けないということは無さそう。

「大丈夫少し寝たから元気になったよ」”

T20-6, 奈岐への想い / T12-4, 鼎の疲労 / f7-14, 見鬼

鼎“「そっか、分かった――じゃあ、行こう」

私の言葉を聞いた奈岐が僅かに口元を緩める。

何となく分かってきたけど……これは奈岐が
とても喜んでいる、と解釈しても良さそう。

感情をあまり表情に出さない奈岐だからこそ、
ほんの些細な変化だけでも、とても大きな感情の
動きなのかもしれない。

奈岐「っ……か、鼎……行くなら、すぐに行くぞ!」

いつものマントを翻して、奈岐が少し慌てて
部屋の入口へ向かう。

これは照れている時――と、
やっぱり少し分かってきた気がする。

笑みが零れるのを堪えつつ、ベッドから抜け出した時、

鼎「うっ……」

ズンッと全身に重しが付けられたような感覚が襲い来る。

ゆ、油断した……いざ立ってみると、
まだ疲れが抜けきってない。

奈岐「鼎……? どうした?」

鼎「あ、ううん、なんてもない!」

今は待ちに待った時間でもあるんだし、
考えないようにしよう。”

T18-9, 穢れの調査 / f19-2, 祠 / f20-2, 神社

奈岐「その点が穢れの出現ポイントだ。
ちなみにそれは五月、先月の分だ。
今月は次のページから始まる」

言われるがまま、ページをめくると、
同じように織戸伏島の地図が描かれており、
赤い点が三つ――これも全部学園の北だ。

鼎「穢れは……北からやってきているってこと?」

奈岐「間違いないだろうな。時折、南の方でも
発見したが……その数は北に比べると少ない」

鼎「北に何かあるのかな……
さっき言ってた祠とか神社?」

奈岐「神社はもう管理している人間がおらずボロボロ
だが……祠の方は……何かあるかもしれないな」”

“「だた昼夜問わず、松籟会の手下が
見張りに付いている。調べるのは難しいだろう」

鼎「お祭りで使う大切な場所だから、かな?」

奈岐「私もそう思っている。それに穢れが祠から
発生していたら、見張りの連中は餌になるか、
とんだ節穴だ。」

じゃあ、一体どこから穢れは現われているんだろう?

それも合せて、ちゃんと穢れのことを調べないといけない”

脚本
演技
演出
作画
補足






3-2-7-1 3-2-7-2
状況
さらに森の奥へ。四匹の穢れと遭遇、海岸へ
海岸におびき寄せた穢れと戦闘、
水蒸気爆発の後、奈岐がこれを仕留める
時間

場所
森 ~ 海岸 海岸
設定
・変身すると、身体能力が向上する
・穢れは巫女の力以外では祓えないが、
傷を与える事は出来る
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T22-1, 鬼子の力 / T23-1, 奈岐への信頼

奈岐“「鼎、私を――鬼子を信じろ」

奈岐が神狼ではなく、忌み嫌っている鬼子の名を口にする。

鼎「奈岐……?」

奈岐「穢れ共――ゲームの始まりだ」

険しい視線で闇を睨んだ後、奈岐は口早に言葉を紡いでいく。

「鼎、合図と共に左手の木に炎を放て、二匹の足止めになる」

鼎「左手の……えっと……?」

途端に早口になったので、上手く聞き取れない。

「そこの表面が枯れている木だ。中身も腐って抜け落ちている」

奈岐「そこの表面が枯れている木だ。中身も腐って抜け落ちている。
すぐに着火し、よく燃えるはずだ」

鼎「わ、分かった……!」

今度は聞き逃さないようにしつつ、右手に炎を集束させ、
指示された木へ解き放つ。

火球を受けた木が燃えさかり、めきめきと音を立てて、
穢れ達の進路を塞いでいく。

奈岐「よし、後退する――走れ!」

鼎「私、身体能力は上がってるから! 奈岐、抱えるよ!」

駆けだしていた奈岐をそのまま抱きかかえて、地面を蹴った。

すぐに背後から穢れの咆哮が聞こえ、迫ってくる気配を感じる。

奈岐「鼎、手前の枯れ草! 茂みを飛び越えて、すぐに火を!」

鼎「了解っ! 奈岐は私の首に捕まってて!」

見た目以上に軽い奈岐の身体を右手で抱いたまま、
左手に炎を収束させていく。

「燃えろッ!」

茂みを飛び越えると、すぐに背後に向けて火球を放つ。

穢れ「ガアァァッ!?」

茂みが炎を上げたところに穢れが踏入り、その身を焦がす。

奈岐「このまま真っ直ぐ! 左右の木に剣で裂いて、炎を!
再び穢れの進路を塞いだ後、全力で北へ走れ!」

鼎「任せて!」

奈岐を右手で抱いたまま、腰に下げた剣を握り締める。

「さっきの二倍の炎――燃えて!」

剣自体に炎を宿すと、奈岐の指示通りに左右の木を切り裂く。

すぐに木々が揺らめき、炎に焼かれて倒れると道を閉ざす。

奈岐の策通り、穢れ達の動きがまた止まったのが分かる。

その際に私は跳躍して、さらに加速した。

このまま逃げ切れる――!

鼎「って行き止まり――!?」

森を抜けた先には岩場が広がり、そしてそこには断崖絶壁。

奈岐「動じるな。ここへ来ることは予定通りだ」

鼎「でも、ここからどうするの……?」

奈岐「この私が穢れからただ逃げると思ったか? 策はある」

私の腕の中で奈岐が得意げに唇の端を釣り上げる。

鼎「うん、分かった。信じる」

奈岐「鼎は岩場を進みながら追手を妨害、その隙に私が力を使う」

頷いてから、私は奈岐を抱えたまま、岩場を駆け出す。

鼎「穢れは?」

目視出来ないぐらいには距離を離している。

でも、この肌で感じる気配……一匹、二匹……!

奈岐「よし、妨害を頼む。私はここから上へ向かう。
深追いはするな。接近した奴だけを狙え」

私の首から腕を離し、奈岐が地面に降り立つや否や、
すぐに岩場を駆けだしていく。”

奈岐“「鼎っ! すぐに上まで登れ!」

鼎「奈岐っ……!」

奈岐の声が背後から響き、
私は最後の力を振り絞るようにして、地面を蹴る。”
T12-5, 鼎の疲労

“ずしり剣の重さが両手にのし掛かってきた。

まずい、昼間の疲れも含めて……
身体が本格的に疲労している。”

T22-2, 鬼子の力 / f17-2, 水蒸気爆発

奈岐“「フッ、既にチェックメイトだ。
あと一手で勝負は決まる」

鼎「既に、って……何をすれば?」

奈岐は得意げな笑みを浮かべたまま、
両手を少し広げた。

奈岐「この付近、岩の下をくぐるようにして
氷が展開してある。鼎はその氷に全力で
炎をぶつけて欲しい」

鼎「そんなことしたら、また――あ、そうか」

頭の中でぴたりと符合が繋がった。

奈岐「鼎、合図を出す。やれるか?」

鼎「任せて……!」

凍てついた地面に剣を突き立て、
柄を握る手に集中する。

炎、揺らめく火炎を頭の中で構築していく。

奈岐「――来るぞ」

奈岐が作った氷を全て溶かしてしまうほど……
ううん……違う、一瞬で気化させるほどの
炎を解き放つんだ。

事故じゃなくて、今度はわざと。

「鼎、今だっ!」

穢れの影が岩場を這い上がってきたタイミングで、
私は剣に溜め込んだ全ての熱を解放させる。

鼎「全部――燃えろッ!!」

湧き出るようにして火の粉が舞い、
一呼吸置く間も無く、剣を中心に業火が広がった。

そして――ドンッと身体を揺さぶる衝撃が
駆け抜ける。

昨晩と同じ爆発が起こり、周囲を濃い霧が覆う。

一瞬で気化した氷――そして、その衝撃があれば。

奈岐「この距離なら、落石を回避することは出来ない」

足場を構成していた大岩が衝撃で揺れ動き、
土煙と共に崩壊を始める。

「鼎、掴まれ!」”

T18-10, 穢れの調査 / F9-18, 巫女の真実

奈岐“「やはり巫女以外の力では奴らを
倒せない――祓えない」

鋭くなった奈岐の視線の先、
崩壊した岩場に黒い影が揺らめく。

羽虫が群れたような塊は、
次第に見覚えのある姿を作り出す。

鼎「そんな……岩に押し潰されたのに……!?」

奈岐「だが、再生しているとしても効果はあった。
今が好機だ」

奈岐の両手に冷気が集まり、二振りの短刀が宿る。

「――奴らが再び行動を開始する前に叩く」

トッと小さく岩を蹴る音が聞こえたかと思えば、
奈岐の姿がかき消え、穢れ達へ向かっていく。

岩場が崩れた急斜面を奈岐が滑空する。

「悲鳴を上げてくれるな……頭に響くっ!」”

脚本
演技
演出
作画
補足






3-2-7-3 3-2-8
状況
過労から倒れる鼎、(駆けつける末来)、奈岐の部屋へ
昼休み、八弥子と食事。昨日の件が噂となる。
御花会、昨日と同様の砂浜ダッシュ。
鼎を気遣う由布
時間

二十八日目・昼 ~ 夕
場所
寮・奈岐の部屋 カフェテリア ~ 寮・自室
設定
・狼パジャマ(着ぐるみ)は、神狼の加護を溜め込む為
伏線(大)
H1-6, 娘を守る末来
T20-7, 奈岐への想い / T21-4, 鼎への想い
f6-6, 名簿の伏線 / f7-15, 見鬼

奈岐“「お前を引きずりながら森へと戻ると、片倉末来が来ていた。
騒ぎに気付いたのだろう」

鼎「末来さんが……」

奈岐「それでここまで運ぶのを手伝ってもらった。納得したか?」

鼎「末来さん、足早いですね」

奈岐「鼎の危険に気付いて走った、と本人は言っていた」

鼎「あはは……」

末来さんなら、ホントに走ってくれそう。

後でちゃんとお礼をいわないといけないな。でも今は……。

「奈岐……ごめんね。ありがと」

奈岐「…………」

「先輩として、ペアとして……と、友達として当然のことだ」

奈岐は少し顔を赤くしながらも、私の目を真っ直ぐに見てくれる。

鼎「顔、赤くなってる」

奈岐「わ、分かってる……何で鼎はそんなことを口にするんだ」

鼎「もっと照れたところが見たいから」

奈岐「こ、この意地悪っ!」

バサッとシーツを頭に被せられて視界が塞がれてしまう。

鼎「あははっ、奈岐って結構照れ屋さんだよね」

奈岐「慣れてないだけだっ」

シーツを取ると、不満そうに眉をひそめた奈岐が座っていた。

「さて、……おふざけはこの辺りにして、鼎に報告がある」

鼎「私に?」

奈岐「お前の母親のことだが、学園と寮の過去の名簿を探しても、
どこにも名前が見つからない」

「今日の昼間、職員の物をくすねてきた物だから、
正確なもののはずだが……」

鼎「えっ……?」

一瞬、目の前が真っ暗になりかけたところ、頭を振って何とか意識を保つ。

奈岐「お前の言葉を疑ってはいない。だから、松籟会にとっても、
学園にとっても、母親のことで不都合があると考えている」

鼎「疑ってないって……そんなあっさり。 どこにも名前が残ってないなら、
まず私の事を疑う方が自然じゃ……?」

奈岐「鼎は疑って欲しいのか?」

鼎「そうじゃないけど……」

奈岐「なら、それでいい」

あっさりと言った奈岐が僅かに口元を緩める。

でも、納得が出来なくて私は言葉をつづけていた。

鼎「私が嘘ついてないって……確信が持てるようなことがあるの?」

奈岐「ある。私は勘が鋭いからな」

この話は終わりと奈岐がベッドを離れて、
冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出す。”
伏線(小) f6-6, 名簿の伏線 / 疑問二, 松籟会と学園の癒着
T12-6, 鼎の疲労 / T15-11, 奈岐の洞察
F12-3,
未来と末来の計画
推論二, 末来の計画

奈岐“「おかしい……やはり、名前が無いな。名簿にすら名前が無い」

部屋のどこからか奈岐の声が聞こえる。

身体を起こそうにも、四肢が鉛をつけられたように重く、びくともしない。

奈岐「偽名か? いや、実の娘に偽名を使う必要は無い。
それに片倉末来も知っているはず……何故だ」”
テキスト
T20-8, 奈岐への想い

奈岐“「シャワーなら使ってもいいけど、倒れるなよ」

鼎「倒れるかもしれないって言ったら、一緒に浴びてくれる?」”


T8-7, 神狼伝説

奈岐“「これは神狼の加護を溜め込むパジャマだ」

しかも、説明までしてくれた。

何度、まばたきをしても……やっぱり変わらない。

奈岐「鼎、これは神狼の加護を得るための――」”
脚本
演技
演出
作画
補足
⇒神狼パジャマ(着ぐるみ)を身に纏った奈岐の、
世界を震撼させる程の恐るべき可愛さに注目!
筆者「ぐふっ……」(奈岐のあまりの愛らしさを目にし、気絶)






3-2-9
3-2-10
状況
夕食を終え、廊下へ。末来に会う
穢れ調査三。神住に遭遇(頼継の差し金)
時間
二十八日目・

場所
寮・廊下
寮前 ~ 森
設定
伏線(大)
伏線(小) T12-8, 鼎の疲労 / T21-5, 鼎への想い
T1-23, 鼎の強い意志、母への想い
f7-16, 見鬼 / T18-11, 穢れの調査

奈岐“「鼎、そろそろ話を。場合によっては
鼎を寮へ戻す」

鼎「そこまで深刻じゃないよ。ただちょっと
疲れが抜けないだけで」

奈岐「疲れが抜けない?」

少し驚いたように奈岐が眉を跳ね上げていた。

鼎「力を使うのに慣れてなくて、
ずっと全力だったし……」

「それが原因ってちゃんと気付いたから
もう平気だよ」

決して無理をしているわけでなく、
今は早く力のコントロールが出来るように
ならないといけないという気持ちが強い。

もしそうすることが出来れば、
次の模擬戦だって……一人でも負けない
可能性はある。

奈岐「鼎、今日はもう安め。
巫女の力は肉体的な疲労だけでなく、
精神的にも疲労させるものだ」

「力を使えば、感情が昂るだろう――
それも力の作用が原因だ。
回復するには休みしか方法はない」

立ち止まった奈岐が私の腕を引いていた。

眼差しは鋭く、どこか私を
咎めているようにも見える。

鼎「でも……穢れのことを調べていれば、
巫女だったお母さんに辿り着ける
かも知れないから……」

奈岐「穢れは巫女の命を奪いに来ている。
そんな奴らを相手に疲弊したまま、
戦うつもりか?」

「鼎、怪我では済まないぞ」

鼎「…………」

奈岐の言っていることは最もだと思う。

だから、落ち着けと心の中で何度も繰り返す。

でも、それ以上に……
いてもたってもいられない感情が
暴れ出しそうで、嫌な葛藤を起こしてくれる。

奈岐「鼎、今日は私が調べた過去のデータを
報告する。部屋に戻ろう」

奈岐が私の腕をもう一度引いた。
今度は少し強く。

鼎「…………」

心の声が『落ち着け』から『この頑固者』
に変わっていた。

疲れもあるのか、葛藤に歯止めがきかなく
なっていく。どうしても感情が荒ぶってしまう。

まだ立ち止まりたくない――。

奈岐「立ち止まるわけじゃない。
過去のデータを再確認する事は、
次の前進にも繋がるし……」

鼎「えっ?」

奈岐「…………」

息を呑んだ奈岐が私から目を逸らす。

私、立ち止まりたくないって口にしたっけ……?

そんな覚えはないのに……でも、奈岐は
私の声を聞いたように言葉を返してきて……
あ、あれ?

考えれば考えるほど、頭の中が混乱を始める。
テキスト
T12-7, 鼎の疲労

“どうして、こんなに疲れが取れないんだろう?

やっぱり、ちゃんと力をコントロール出来てないからかな?”

T7-4, 天然な末来 / T6-6, 娘の世話を焼く末来
f12-1-3, 末来の実力 / T20-9, 奈岐への想い

末来“「鼎はおでかけ?」

鼎「――ッ!?」

首筋を突かれて、変な声が出そうになったのを必死に堪える。

「み、末来さんっ……声をかけるのはいいにしても、
どうして首筋とか突くんですかっ」

末来「変な声出る?」

鼎「出そうでしたっ」

素で言ってるのか、天然なのか――
あまり考えないようにして、ため息をついておく。

末来「外に出るなら気を付けて、昨晩のことでみんな過敏になってる」

鼎「昨日の……はい、分かりました」

連日の藻や、火事に落石……注意が行って当然だと思う。

「あの、末来さん、昨日はありがとうございました」

ちょうど周りに人がいないので、今のうちにお礼を伝えておく。

あの大惨事の後、私を寮まで運んでくれたのは末来さんだ。

末来「当たり前のことをしただけ。きっと鼎達だって分かってたし」

鼎「鋭いですね」

末来「氷と炎、相性は良くないからね」

末来さんの言葉に僅かな違和感を覚えて首を傾げる。

氷って……?

鼎「末来さん……奈岐の力のことを知っていたんですか?」

話をした八弥子さんは別として、奈岐の力のこと、
私以外に知っている人はいないはず。

末来「力は人の本質を現す。見ていればすぐに分かるよ」

鼎「あはは……末来さんには敵いませんね」

さらりと奈岐の力を見抜いていたなんて、
本当にこの人は凄いところにいる気がする。

「そんな末来さんに一つアドバイスをもらってもいいですか?」

末来「何かな?」

微笑む末来さんに対し、私は開きかけた唇を閉じて首を振るう。

鼎「んー……すみません、やっぱり止めておきます」

「きっと自分達で何とかしないといけないことなんで」

奈岐の氷と上手くやれる方法――それを聞こうと思ったけれど、
ここで正解をもらってしまうのも違う気がした。

T20-10, 奈岐への想い / f7-17, 見鬼
T21-6, 鼎への想い
T1-24, 鼎の強い意志、母への想い

T23-2, 奈岐への信頼

“奈岐「チッ……鼎、遠山とは
私が先に話す。いいな?

鼎「もしかして、また先輩の
揚げ足を取ったりするの?」

奈岐「徹底的にやり込めれば、
鼎まで面倒に巻き込まれないはずだ」

鼎「奈岐、それはダメ。先輩達と
関係が悪くなるだけだから」

奈岐「綺麗事で私に説教か?」

鼎「違うよ。今は上手くやり過ごして
おかないと……
火事と落石のこと、学園でも
問題になってるみたいだし」

「ここで目を付けられたら、
もう活動出来ないかもしれない」

奈岐の両手を取り、睨み付ける瞳を
見つめながら伝える。

奈岐「…………」

「……鼎は母に会いたいから、そう思うのか?」

奈岐の瞳が僅かに揺れた。

威圧感の代わりに、何かに怯えるような
恐怖心が見え隠れする。

鼎「それは……お母さんを見つけるための
手がかりが欲しいって気持ちもあるよ。
そのために奈岐と協力し始めたし」

「でも、友達と一緒にいる時間を
なくされるのも嫌だよ」

どれだけ疲れていても、私は奈岐との時間を
楽しみにしていたのは事実だし……
行きたくないって思ったこともない。

きっと八弥子さんも知らない奈岐の一面を、
毎日見せてくれているような気もするから……
だから、とても大事な時間に思える。

目の前にいる奈岐を独り占めしているような、
そんな気持ち。

奈岐「…………」

黙り込んだ奈岐の顔が何故か赤くなっていく。

鼎「奈岐……?」

奈岐「と、とにかく! 遠山とは奈岐が先に話す
から……!揚げ足を取ったりしない。
やり過ごす……それでいい?」

さっきまでと様子が一転した奈岐が私に
詰め寄ってくる。

鼎「う、うん……」

勢いに押されるがまま、返事をしたけど……
良かったのかな?

でも奈岐なら大丈夫……
そう思える気持ちも強い。

私が思っている以上に奈岐は頭が切れるから、
きっと上手くやれるはず。”
脚本
演技
“末来「……うん、分かった。鼎、気を付けて」”

⇒一瞬、つまらなそうな残念そうな声音の後に、納得したような“うん”。

本当は頼って欲しい、世話を焼いてあげたい、という気持ちが感じ取れる
演出
作画
補足
“そんな私達の背中を見送る影が
あることも知らずに――。”

⇒ここから別の視点へ移動する。
少々だが映像作品寄りになっている。
群像劇的である為、メタ(高次)視点に
なっている。つまり、主人公が物語を
外から俯瞰的に眺めている

F11-7, 頼継の計画 / 推論二, 頼継の計画

“昌次郎「頼継様、これでよろしいのですか?」

頼継「遠山神住はね、もう少し彼女達に
関心を持った方がいいんだよ」

「あと――余計なお節介って、
僕は大好きなんだよね。
いつまでも向山奈岐が黙ってるのは
フェアじゃないよ」

昌次郎「どうなさるおつもりで……?」

頼継「ちょっと高遠鼎とお話をするだけさ。
ほんの少し、ね」

昌次郎「はっ……」”

[⇒鼎と奈岐を組ませたのは頼継だが、
引き離そうとする意図は?]
(2-4-7-1 設定)

追記:2015/10/22

⇒ 門を閉じさせる為に、
鼎達に一対として力を付けさせたかった。
あるいは、二人の今後の関係の為に、
試練を与えたのか。
何にせよ、単なる嫌がらせでないのは確かだ。






3-3-1
状況
奈岐、神住に連れられ寮の一室へ。鼎、ロビーで待つ。頼継が現われる。見鬼の事を聞かされる鼎。
葉子登場、頼継退散。鼎、半自失で自室へ。迎える由布。神住が来訪、謹慎処分について。
見鬼の事に動揺し、苛まれる鼎
時間
場所
寮・ロビー ~ 寮・自室
設定
伏線(大)
伏線(小) f7-18, 見鬼 / f14-4, 葉子の実力

頼継“「鬼子ってね、すごく目がいいんだ。色んなモノが見えるんだよ」

「星霊石を扱える血が混じった織戸伏の鬼子はね――人の魂を覗くことが出来るんだよ」

鼎「魂を……覗く?」

頼継「うん? 向山奈岐から何も聞いていないのかい?あの子も僕と同じなのにさ?

「見鬼って言葉を伝えれば、きっと教えてくれるよ」

鼎「見鬼……ですか?」

聞き慣れない言葉に私は自然と問い返してしまう。

頼継「見るって書いて、鬼って書く。鬼を見ることが出来る力だと思ってくれればいいよ」

「本土ではそのままの意味――悪さをする鬼を見破る業として知られているみたいだけど、織戸伏ではもう一つ加わる」

「本土の業が後天的なものだとしたら、織戸伏のは先天的。生まれながらにして、人の魂を覗き見出来るのさ」

「魂って漢字を頭に思い浮かべてごらん? 鬼って字が入っているよね?鬼は中国で幽霊、死人の魂って意味もあるんだよ」

「それを視ることが出来るのが見鬼の業なのさ」

見鬼……人の魂を覗く?

でも、そんなことをして何が出来るんだろう?

頼継「簡単なことさ。ほら、今まさに僕がやってみせている」

鼎「えっ……?」

頼継「向山奈岐との会話で不自然に感じたことはないかい?」

「まだ頭で考えてる言葉が、何故か会話として成立していく。普通はありえない――おかしいよね?」

今の理事長との会話も、確かに不自然なところが多い。

思い返せば、今日も奈岐と話していた時だって……。”

(以下の三文は回想)

奈岐「立ち止まるわけじゃない。過去のデータを再確認することは、次の前進にも繋がるし……」

鼎「えっ?」

奈岐「…………」

“立ち止まりたくない――私はそう思っただけなのに、まるで考えを汲み取ったかのように奈岐は答えを返した。

頼継「うんうん、核心に近づいた。そうだよ、それが織戸伏の鬼子、見鬼として怖がられる力だよ」

見鬼……人の考えを覗く……。

頼継「あっはは、自分が考えていることを覗かれちゃ、勝負にすらならないからねぇ」

唖然としている私に対し、理事長は持っていた飴玉を向ける。

「これを知っているのは鬼子自身と――松籟会の人間、学園でもごく一部の人間だけ。みんなには内緒だよ?」

「だってさ、これは僕ら鬼子にとって、最高のアドバンテージなんだからさ、あっははっ」

だって、この人の前で何かを考えたとしても……すぐに知られる?

「うん、分かる分かる――視えるんだよ」

鼎「…………」

息を呑む。寒くも無いのに鳥肌が立っている。

一歩後退ったところで自分が恐怖していることに気付いた。

頼継「あっはは、そんなに怖がらないでよ。傷ついちゃうなぁ」

鼎「…………」

言葉が出ない。頭の中を掻き回されたみたいに混乱している。

葉子「あれれ? 理事長?」

見回りをしていたのか、葉子先生が二階から顔を見せた。

ゆったりとした動作で階段を下りてきて、理事長に一礼する。

「こんばんは、理事長。ここは男子禁制の女子寮ですよ?」

頼継「ああ、そうだったね。ごめんごめん、忘れちゃってたよ」

葉子「もう、ダメですよ~、理事長」

頼継「金澤先生は怒ると怖いからねえ、僕は退散させてもらうよ。それじゃあね」

私と先生に微笑みかけた後、理事長は玄関へ足早で向かっていく。”

⇒七年前の敗戦が原因で、頼継は葉子が苦手
テキスト
推論七, 頼継は見鬼について神住に話したか

“遠山先輩がここに来たということは、もう奈岐との話は終わった?

理事長は遠山先輩に私達のことを知らせたと言っていた。

もしかして、鬼子――見鬼のことも?

でも、そんなことを知ったら……遠山先輩なら、奈岐と話すことを避けるはず。”
脚本
・回想で伏線の回収、回想部分は短めで必要十分

⇒ようやく居場所を見つけ、母へと至る道が見え始めようか、という所で、一度落とす。
そして、ここまで丁寧に積み重ねて来た伏線や互いへの想いが、次に描かれる一つの名シーンへと結実する
演技
演出
作画
補足






3-3-2
状況
動揺する鼎。気持ちを落ち着け、奈岐の元へ
時間
場所
寮・自室~ 寮・廊下 ~ 寮・奈岐の部屋
設定
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T12-9, 鼎の疲労 / T17-10, 消え入るような鼎
T1-25, 鼎の強い意志、母への想い / f7-19, 見鬼
T20-11, 奈岐への想い / T21-7, 鼎への想い
鼎の公平さ


鼎“「……ごめん、ちょっと横になるね」

由布に一言だけ断って、おぼつかない足取りでベッドに向かう。

そのまま倒れ込むようにして、枕に顔を埋める

由布が何か声をかけてくれるのが聞こえたけれど、返事をする気力もなく、私は目を閉じたまま動けなかった。

しばらくして消灯の時間が来たのか部屋の電気が落とされる。

暗い天井を見上げたまま、ゆっくりと息を吐き出していく。

私、何をこんなに……動揺しているんだろう?

何をそこまで怖がっているんだろう?

目を閉じれば、私の考えを全て覗き込んだ上で、楽しげに笑う理事長の顔が思い浮かぶ。

鬼子、見鬼――そんな言葉ばかり頭の中でぐるぐると回る。

息を吐き出す唇がまだ震えていた。

鼎「…………」

シーツをきつく握り締める。

今の私……絶対に奈岐に会えない。

頭からシーツを被り、怯えるように身を丸くする。

こんな気持ちが知られたら、こんな気持ちを見られてしまったら。

奥歯を強く噛み締め、必死に目を閉じる。

色んなモノが怖く思えて、すがるようにお母さんの勾玉を握り、私はシーツにくるまったまま、震え続けた。

消灯からどれだけ時間が経っただろうか?

私は部屋を抜け出し、人気の無い廊下を歩んでいた。

手にはお母さんの勾玉をしっかりと握りしめたまま。

「私……何してるんだろ」

鬼子、穢れ、巫女、松籟会、御花会、星霊石――見鬼。

頭の中で回り続ける言葉の数々が気分を憂鬱にさせる。

この島に来てから、何度も嫌な思いや怖い思いもしたけど、今回のは特別で、また違うものだ。

何よりも怯える自分が嫌だった。

考えを読まれるのは怖いことだと思う。

でも、鬼子として生まれた子だって……知りたくて知っているわけじゃないかもしれない。

きっと知りたくもない声を押しつけられることも多いだろう。

冷静になれば分かることなのに、まず私は恐怖してしまった。

見鬼のことを知った後、奈岐と一度も話してもいないのに、確かめる前から、友達を怖がるなんて……。

「…………」

息を漏らし、廊下の壁にもたれかかる。

奈岐に会わないといけない――そう思っているのに、足が止まってしまった。

私、ホントに何をしてるんだろう?

繰り返し、自身に問いかけて答えを求める。

「…………」

止まっていた足先が目的地を見つける。

やっぱり奈岐に会わないと。

理事長と同じだとしても、今は奈岐と話をしないといけない。

こんな気持ちの自分が嫌だ……。

奈岐の部屋の前に辿り着き、ノックしようとした手が止まる。

心の準備、どうしたらいいんだろう?

何も考えずに話せたら一番いいんだろうけど……そんな器用なこと出来ないし。

だったら、私はいつも通り――いつものようにするだけ。

つま先に落ちかけていた視線をあげて、前を向く。

そして、静かにドアをノックした。

「奈岐? 起きてる?」

小声で周囲を気にしつつ呼びかける。

カチャカチャと――複雑な鍵が外される音が聞こえた。

きっと、これは入ってもいいの合図。

「入るね?」

一度深呼吸してから、ドアノブに手をかける。

証明の落ちた暗い部屋は、月明かりだけが光源だった。

例の奇妙な姿ではなく、まだ制服姿の奈岐が私を迎え入れる。

奈岐は笑顔だった。

奈岐「奇遇だな、そろそろ様子を見に行こうと思っていたところだ」

「遠山と話したなら、もう知っているかもしれないが、それなりに上手くやり過ごしたつもりだぞ」

得意げに奈岐は語りながら、ベッド脇の椅子に座った。

「簡単な取引をしたんだ」

「遠山が抱いている風間由布への偏愛について、私は口を閉ざす。その代わりに、処分は最も軽いモノにしろ、とな」

鼎「そんなこと、したんだ……」

奈岐「被害は少ないとはいえ、森に火を放ち、岩山を崩した。普通なら停学もしくは退学ものだ」

「それに謹慎処分なら、学園に顔を出す必要がないという口実を得たようなものじゃないか」

「謹慎が何日になるか分からないけど、昼間から調査に出ることが出来るぞ。鼎、私達にとって、これは都合の良い話だ」

微笑む奈岐に対して、私はとても笑顔を返せなかった。

「鼎……?」

鼎「そういうやり方って……感心出来ないかも」

奈岐「……非難されることかもしれないが、退学処分をくらえば、学園付近には近付けなくなる。やむを得ないだろう」

鼎「…………」

私は息を吐き出すと、ゆっくり目を閉じる。

そして――頭の中で言葉を紡ぐ。

《ねえ、奈岐、それは遠山先輩の考えを読んだの?


奈岐「ッ――!?」

部屋にガタンッと椅子が倒れる音が響いた。

瞼を開くと、立ち上がった奈岐が目を見開いている。

《やっぱり、奈岐も理事長と同じことが出来るんだね

「待って、鼎っ! 何で……そのこと……!」

「理事長って! あの男……あの男が来たのか!?」

動揺を顕わにした奈岐の小さな肩が震えている。

「鼎っ!奈岐は鼎との時間を守りたくて……! だから!」

鼎「そうじゃないよ……私が言いたいのは、そんなことじゃないよ」

奈岐「…………っ」

誰だって秘密にしておきたいことはある。

だから、奈岐が私に見鬼のことを話さなくてもいい。

私は心の中を覗かれることを怖がった自分が嫌で、はっきりさせたいと思って、奈岐の部屋に来たんだ。

実際に奈岐の顔を見たら、怖がった自分がバカみたいって、そう思えるぐらい気持ちが楽になった。

私は、嘘もはったりも苦手だし、今まで通り何も変わらない。

でも――でも、遠山先輩のことは違うと思う。

鼎「私達が事故を起こしたのは事実だし……学園の人からしたら、何が起きたのか把握出来ないと大問題だよ「」

「学生達に危険が及ぶかもしれない。 その犯人が御花会に所属していたら、遠山先輩が動くのはと当たり前だと思う。」

「私は……謝らないといけないことだと思うよ。

奈岐「…………」

鼎「遠山先輩の気持ちを利用して、取引なんて……そんなことしたら、ダメだよ」

「誰だって、人に言えない弱い部分を持ってるんだから……奈岐はそれを知ることが出来るとしても……それはダメだよ」

奈岐は黙ったまま床を見つめていた。

僅かにまだ肩を震わせ、目尻に涙を浮かばせる。

奈岐「でも……でも、もし退学になったら、穢れを調べたり、鼎のお母さんを探したりすることも出来なくなる……」

鼎「ちゃんと事情を説明しないまま、遠山先輩を脅したの?」

奈岐「……っ!?」

奈岐が再び驚いて顔を上げた。

やっぱり……取引なんて生やさしいことじゃなかったんだ。

遠山先輩の心を読んだ上での脅迫――。

鼎「……穢れが出てきた時、奈岐の言う通りに動かなかったら、二人とも怪我じゃ済まないことになっていた」

「だから、火を放って岩を落とした理由も説明した?」

奈岐「そんなこと話しても……信じてくれないっ」

目を見開いたまま、奈岐がゆっくりと後退っていく。

そして背中が窓ガラスに当たったところで、奈岐の動きが止まる。

震えているのか、カタカタと風が吹き付けてきたかのように、
窓枠が音を鳴らしていた。

「奈岐は……奈岐は……ただ、鼎との時間を守りたくて……」

鼎「奈岐の気持ちは嬉しいよ。でも……そのやり方は間違ってる」

奈岐「……でも、奈岐にはそうすることしかっ!」

鼎「奈岐には出来ないことでも、私なら出来たかもしれない。少なくとも……脅すようなことは、私ならしない」

そんなことしたら、きっとお母さんに会わせる顔が無くなる。

どんな状況でも……その選択肢は選んじゃいけない。

奈岐「っ……」

身体を震わせる彼女の名前を静かに呼ぶ。

静寂。
沈黙。
ただ無言の時間。

それから、一度深呼吸して――両手をパンッと叩いた。

鼎「はいっ、反省会は終わり!」

出来る限りの微笑みを奈岐に浮かべる。

奈岐「えっ……?」

鼎「だから、反省会は終わりにしよう。やっちゃったことは仕方ないってお母さんなら言うと思う」

「問題はね、そこからどうすればいいかって話!」

「そこで私の考え! 朝一で遠山先輩に謝ってから、ちゃんと事情を説明しよ」

奈岐「…………」

ぽかんと口を開いたまま、奈岐がずるずると崩れ落ちていく。

鼎「な、奈岐? え、えっと……私、言い過ぎた?」

奈岐「…………ふぇっ」

鼎「ふぇ?」

奈岐「ぐすっ……ううぅっ……鼎に……鼎に嫌われたと思ったぁ……」

ぼろぼろと大粒の涙を零しながら、奈岐は声を震わせる。

「うっ、ぐす……鼎に……友達じゃないって……言われるかと思って……ううっ……うぅ……」

鼎「わわっ、そ、そんなこと言わけないからっ……!」

泣き出し始めた奈岐に駆け寄ると、私の服にしがみついてきた。

「な、奈岐?」

奈岐「奈岐が……鬼子だから……嫌われたかと思った……!」

「鬼だからっ……人の心を覗く……鬼だからっ……!」

見鬼――そんなことが出来るから、きっと嫌な思いもいっぱいしてきたんだろう。

大丈夫、私は友達だから。何があっても奈岐の友達だから。

と、ちょっと恥ずかしい言葉だから心の中で告げておく。

「鼎……」

鼎「あはは、やっぱり……ちゃんと言葉にした方がいいかな?」

奈岐「そ、それは……いい。ただ、鼎は……これからも奈岐と友達でいてくれるのか?」

鼎「もちろん――えっと、夜の眷族だっけ? 神狼の方だっけ? とにかく、私は友達だよ」

奈岐「……鼎」

「うん、鼎は……眷族でもなんでもなく、奈岐の友達」

トンッと奈岐の頭が私に寄りかかり、背中に腕を回すと、そのまま抱きついてくる。

その細くて小さな身体を私も抱きしめる。

月明かりを浴びて、銀色に輝く奈岐の髪を撫でながら、私の気持ちを伝えていく。

鼎「考えを読まれるって……理事長に言われた時、最初はね、すごく怖いって思った」

「自分の頭の中に急に入り込まれた気がして、どうしようもなく怖くなって……シーツにくるまって震えてた」

「でもね、考えてみたら、私って考えてることと言ってること、やってることが同じだから――何も変わらないなって」

奈岐「鼎……」

鼎「ただ、これでも女の子だし、理事長みたいなよく分からない人に覗かれるのはちょっと嫌だな」

奈岐「奈岐も……鼎のことを……」

鼎「奈岐なら平気。怖いって気持ちは奈岐の顔を見たら、吹き飛んじゃったから――代わりに反省会したけど」

クスッと奈岐が笑い、私の身体から少し離れる。

そして薄明かりの中で私を見上げて柔らかく微笑んだ。

奈岐「ありがとう……鼎」

鼎「うん。だから、これからもよろしくね」

奈岐「……うん」

頷いた奈岐の頭を抱き寄せるようにして再び撫でる。

鼎「ね、いつもの口調より、今の奈岐らしい口調の方が可愛い」

奈岐「な、何を急にっ……」

鼎「二人でいるときは奈岐らしい口調がいいな。ほら、私だけ特別」

奈岐「…………」

見る見る内に顔が赤くなった奈岐が逃げるように、私の胸に飛び込む。

奈岐「ほ、保留っ……で……!」

鼎「あはは、分かった、保留だね」

奈岐のことを聞いた時、どうなるのか分からなくなったけど、やっぱり話してみないと気付かないこともある。

他の人にどんなことを言われても、奈岐は私が見てきた奈岐だし、それも変わらないから。

そんな気持ちに落ち着いてくれた自分に安心しながら、
胸に抱いた奈岐の頭を再び撫でる。

鼎「明日、早起きして遠山先輩にちゃんと謝ろうね」

奈岐「…………うん、分かった」

小声だけど、奈岐はしっかりと私の言葉に答えてくれた。

夜がさらに更けていく。

月の明かりが角度を変えていっても、私と奈岐はしばらく離れることなく、距離を埋めるように身体を寄せ合っていた。

その夜は奈岐の部屋の空いているベッドを借りて休むこととなる。

巫女の力を使わなかった夜――でも、ようやく奈岐に一歩近づけた気がした。”
脚本
⇒一般的な作品だったら、これでエンディングを迎えてもおかしくない程に場面が練り上げられている。
無論、物語が決着していない中で終わらせるわけにはいかないが。

⇒神住は、奈岐の対極に位置する人間であり(
T15-9)、遠山家は松籟会の筆頭でもある。(2-4-7-1)
巫女の選抜などは結果の見えた椅子取りゲームに過ぎず(
T15-3)、候補者達の戦う理由は本質から外れている(T15-8)。
神住と奈岐の対立は最早必然ですらある。
奈岐の行動は神狼同様に、私でありながら公の為に動いている(T8-6)。
その上、
鬼子と呼ばれる事を奈岐が気にしているにも関わらず(2-2-1-5 設定)、
憎しみを込めてその名を呼んだ(3-1-2 演技)。これだけの事が重ねれば、相手に対してどういう姿勢を
取るべきかは言うまでもない事だ。
頑なとなった奈岐の氷の心は、八弥子の言葉通り不器用だ。(T19-1)
それでもなお、鼎は、裏にどのような事情があり、神住が歪んでいようとも、
御花会を束ねる者として当然の行動をしたのであると、奈岐を諭す。
鼎の決意した通り、奈岐の氷の心を溶かそうとしている。(T20-1)
相手に対し、可能な限り善を見出そうとするのは、鼎の人柄
と言える(T14)
鼎は、自らの命を狙ってくる相手にすら、命を絶つ事に躊躇いを覚えている(T4-4)。
二人は、互いに無いものを相手に見ている(2-1-6-1 演技)。
奈岐は鼎を失う事を何より恐れている(T21-5 / T21-6)。
こうした積み重ねがあって初めて、この場面は名シーンたり得るのである。


⇒シーンに説得力をもたらすものとは、設定を読み手に十分に理解させ、構成が十全であり、
台詞や独白、情景描写の一つ一つに細心の注意を払い、熱意を込め、冷静さを失わない脚本がまずあり、
次に人物の心情を理解した的を射た演技がなされ、音楽は然るべきものが付せられ、
そしてそれらに相応しい絵が合わさり、渾然一体となった時、初めてもたらされる。
本作には無関係だが、たとえそれぞれが単独では凡庸であったとしても、
一つとなった時に得られる力は計り知れないものがある。脚本と演出は、本来一つのものでなくてはならないのである
演技
⇒鼻が詰まり気味な所や、程々に震える声など、演技が過剰になってはいない。
しかし不足によって無機質であるわけでもなく、程々に中庸な印象を与えている。作画や作風に適合していると思われる
演出
作画
補足

 

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