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奈岐編 注釈五

5-1 5-2-1
状況
寮に帰る二人。約束を交わす
三度目の模擬戦、鼎の命を狙う真琴。止めに入る奈岐
時間

三十二日目・放課後
場所

姫渡り海岸
設定
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T21-12, 鼎への想い T20-15, 奈岐への想い /
T1-27,
鼎の強い意志、母への想い
/
H1-2-4, 松籟会の思惑 / F7-4, 松籟会の危険性 / (2-4-2-1 補足)

奈岐“「鼎……明日の模擬戦、出るつもり?」

不意に奈岐がそんなことを私に訪ねてきた。

鼎「そのつもり。どこに手掛かりがあるか分からないしね」

「私、奈岐に心配かけてるかな?」

奈岐の視線がつま先へ落ちていく。

奈岐「明日の模擬戦は……中村真琴が相手になると思う」

「アイツの家は松籟会に深く関わっている。
模擬戦という場を利用して、鼎を襲う可能性も高い」

鼎「その時はすぐに降参するよ。他のみんなもいるし、
無茶な真似は出来ないと思う」

奈岐「…………」

奈岐の足が止まり、自然と手が離れていく。

振り返ると、奈岐は俯いたまま口を閉ざしていた。

鼎「奈岐?」

名前を呼んでも視線はつま先に落ちたまま。

気になって、一歩近づいた時、奈岐の声が聞こえた。

奈岐「鼎……ここは閉鎖的な空間だ。松籟会という存在が動けば、
人が一人いなくなっても、誰も何も言わない」

「実際に、鼎の母、高遠未来という名前はどこにも残っていない。
奴らにとって、それぐらいは容易いことなんだ」

つまり、明日の模擬戦で中村さんが私を手にかけたとしても、
大きな問題にはならない可能性が高い。

目撃者は巫女候補だけ――無かったことにするのは簡単だろう。

奈岐「鼎、明日は行かないで欲しい」

鼎「……」

ようやく顔をあげた奈岐の瞳が僅かに揺れていた。

奈岐「もし奈岐が行ったとしても……鼎の力になれないし、
禰津の追い風を受けている中村を止めることも出来ない」

奈岐「鼎、危険なんだ」

奈岐の目尻に零れ出しそうなほど涙が溢れる。

伝わるのは真摯な思い。

私は島に来る船で、中村さんに命を狙われ、
殺意や殺気なんてものを初めて感じさせられた。

自ら進んであんな思いはしたくない。

それでも、お母さんに繋がる可能性があるなら……私は行く。

奈岐「…………っ」

私の気持ちを目で見て知った奈岐の表情が悲痛に歪む。

そんな彼女に私は手を伸ばし、柔らかい髪の毛に触れる。

鼎「約束する。何があっても私は無事で帰ってくるよ」

奈岐「……その約束、明日の模擬戦だけじゃないなら」

「これからもっと危険なことになる。
だから、これからも含めた約束なら――鼎と約束する」

これから……か。

御花会の行く末、巫女の決定、穢れを祓う儀式――。

関われば関わるだけ命の問題になってくるだろう。

でも、関わらないわけにはいかない。

鼎「うん、これからも含めた約束」

奈岐に小指を差し出して、指きりの合図を出す。

奈岐「絶対に……約束だから」

鼎「私が奈岐にとって唯一なら、絶対にその約束を守らないとね」

奈岐「……うん」

私の小指に、奈岐の小指が絡まる。

鼎「約束、奈岐を独りにしない」

奈岐「うん……約束」

静止したような時間の中で、私達は約束を交わす。

その言葉の重みが今はどれほどのものか分からない。

でも、一つだけ確かに思えることはある。

私にとって奈岐は特別で、奈岐にとっても私は特別な存在。

だから、交わした言葉もきっと特別なものになる。

私はそう思い、そう思っていた――。

本当の約束の意味に気付かないまま、ただそう思い込んでいた。”

(2-4-2-1 補足) / T20-16, 奈岐への想い
T21-13, 鼎への想い/ f17-3, 水蒸気爆発

真琴“「禰津先輩、今日は幸魂の振りだけで
お願いしたい」”

“「高遠鼎は一人です。対等に戦う方が
訓練にもなるでしょう」

正論に聞こえるけれど、その言葉の意味を考える
だけでも嫌な予感しかしない。

八弥子「マコ、変なこと考えてるなら……
ヤヤが止めに入るよ?」

真琴「余計なことは考えていません。
ただ戦うだけです」

「真剣に――戦うだけです」”

“「――本気で来い」

そして《死にたくなければ》と唇の動きだけで
私に伝えてきた。

隙があれば、私を狙う……その考えは確かで
間違いないらしい。

こんなところでやられるつもりは無いし、
奈岐との約束もある。”

(鼎、戦闘不能後)

八弥子“「ストップ! マコ、そこまで!」

誰よりも早く状況を察した八弥子さんが声をあげた。

だけど、中村さんは耳を貸す様子も無く、
剣を持った左手に力を籠める。

剣の大きさから、まるで断頭台か。その想像に違わず、
叩き付けるようにして、切っ先が私の首元へ向かう。

「マコっ!!」

八弥子さんの怒声の後、甲高い金属音が鳴り響く。

間一髪、八弥子さんの放った鎖が中村さんの剣を
絡め取っていた。

真琴「チッ――」

そして、異変に気付いた末来さん達が声をあげるのが
聞こえる。

でも、私の全神経はまだ目の前にいる中村さんへ。

真琴「皆が動くまで数秒――充分過ぎる」

やっぱりまだ諦めていない。

中村さんの右手に蒼い炎が宿り、揺らめく。

今度は火傷じゃ済まない火球が眼下の私を狙う。

それに対抗するためにコチラも両手を突き出し、
炎を収束させた瞬間、視界が暗転する。

鼎「――――ぐっ!?」

ドンッ――と遅れてやってきたのは腹部への鈍痛。

蒼い炎はブラフで本当の狙いは足技、
容赦無い踏みつけ。

呼吸が止まるほど、中村さんの踵がめり込んでいく。

鼎「ぐはっ……!」

対抗するための炎が、痛みで集中力を欠き、
四散していってしまう。

その時を待っていたかのように、中村さんが右手に
宿していた蒼い火球が解き放たれる。

踏みつけられ、身動きが取れない――回避出来ない。

真琴「消えろ」

近づく熱気に身体が焼かれるのを覚悟した。

その瞬間、頬に僅かな冷気を感じる。

鼎「――ッ!?」

反射的に両手を交差させて衝撃に備えた。

ここ数日何度も経験した――あの爆発を受けるため。

私を包む冷気が急激に高まり、蒼い炎を激突する。

真琴「これはっ!?」

そして、幾度となく味わった衝撃が襲いかかってきた。

ドンッという振動が身体に駆け巡っていく。

私と中村さんを中心にして、砂が飛び散り、
クレーターのようなくぼみを作り上げる。

そして、立ち込める霧の中、予期せぬ衝撃を受けた
中村さんの身体が砂浜に投げ出された。

すぐさま彼女の元に八弥子さんが駆けつけ、
拘束していく。

助かった――と気が抜けた時、視界が霞む。

霧のせいじゃなくて……こ、これは……落ちる……?

激しい体力の消耗に加えて、中村さんから受けた
打撃の痛みが反響している。

鼎「あ……ダメ……かも……」

身体を包んでいた熱気が勾玉へ集束していく。

手の中に収まった勾玉の熱と――。

奈岐「鼎っ! 無事か!?」

微かな冷気を感じながら意識がぷつりと途絶えた。”
脚本
⇒小説的なメタ視点
⇒真琴との戦いは、戦術にアイディアがある

⇒先日の約束の直後に、命を失いかける鼎。
鼎を道化者にしない為に、あえて結果を急いで見せた
(2-4-4-2 脚本)
演技
演出
作画
補足






5-2-2
状況
鼎を連れ、部屋に籠もる奈岐。開けるように促す八弥子。尋問を受ける末来
時間
三十二日目・夜
場所
寮・奈岐の部屋
設定
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T21-14, 鼎への想い / T20-17, 奈岐への想い / T24-3, 変わる奈岐 / T1-28, 鼎の強い意志、母への想い
T15-13, 奈岐の洞察 / f3-9, 末来と鼎の関係 / F9-21, 巫女の真実 / T3-3, 血の宿命
F12-4,
未来と末来の計画
/ 推論二, ) / (1-1-9-6 演技) / H1-7, 娘を守る末来 /H4-2, 末来の決意
f4-2, 未来を想う末来 / f7-24, 見鬼 / f12-4, 末来の真実 / T2-3, 鼎の意志を尊重 / T7-5, 天然な末来

“物音がする。

ドアを叩く音、それから音が聞こえた。

八弥子「ナギっち、ここを開けてってば!みんな、カナのこと心配してるよ!」

八弥子さん……?

奈岐「ふざけるなっ! 中村真琴が鼎に危害を加えることを察していながら、お前達は誰も止めなかったっ!」

「巫女候補はみんなして松籟会に尻尾を振ってばかりだ!そんな言葉、信じられるものかっ!」

八弥子「ナギっち……!」

次第にドアを叩く音が遠のいていく。

鼎「…………」

目を開く。背中でドアを押さえる奈岐が見えた。

しかめっ面で機嫌は最悪といった様子である。

奈岐「はぁ……やっと行ったか」

苛立ちを隠せないため息の後、マントを引きずりながら、ベッドの方へ歩いてきた。

鼎「……奈岐?」

奈岐「気がついたか。朝まで起きないと思っていたぞ」

奈岐がベッドの縁に腰をかける。

奈岐「……中村真琴だが、部屋での謹慎処分に加え、学園にも連絡が行っている」

「鼎、ここは奈岐の部屋だから安心してもいい」

中村さん、か……。

記憶を辿れば、これで命を狙われたのは二回目。

どちらも助けがなければ、私は死んでいただろう。

鼎「奈岐……ごめん」

奈岐「鼎は約束を守っただけ。謝る必要なんてない」

でも奈岐が駆けつけてくれなかったら、私はあのまま……

「奈岐が鼎に約束を守らせただけ。謝ることじゃない」

鼎「奈岐……?」

奈岐の真剣な瞳が私を捉えて離さない。

きっと考えを読んだ上での答えなんだろうけど……いつもの奈岐とどこか違う雰囲気があった。

鼎「でも……ずっと隠してた奈岐の力も……みんなの前で見せちゃったし」

奈岐「そんなの、どうでもいい」

鼎「奈岐……?」

突き放すような奈岐の言葉にまばたきを繰り返す。

奈岐「鼎が無事ならそれでいい」

鼎「…………」

やっぱり様子が変だ。

いつもなら中村さんを動けなくするような策を練ったり、使ってしまった自分の力のことを考えたり……。

奈岐は事態に対し、頭を働かせることを優先していた。

感情的になったとしても、私には理解出来ない勢いで、次々と論旨を展開させて、答えを出すのが奈岐だ。

それが今は感情自体に起伏が無いような……。

違う、状況に対して全く興味を持っていないように見える。

奈岐「鼎……もう御花会にはいかないで欲しい」

鼎「えっ……?」

奈岐「今回は間に合ったけど、次は無理かもしれない」

奈岐の細い指が私の手に絡み、強く握った。

意識が状況ではなく、私に集中していることがようやく分かる。

それだけ私は奈岐に心配をかけてしまったんだ。

胸が締め付けられるように痛む。でも……。

鼎「奈岐……御花会に行かなかったら、巫女にはなれない」

奈岐「――――」

言葉と考えを同時に奈岐に伝える。

驚き、目を見開いた奈岐が唇をわななかせた。

その後、途端に奈岐の眼光が鋭くなる。

奈岐“「あの場には末来もいた。なのに、中村を止めていない。そんな奴の言葉をまだ鼎は信じるのかっ……!?」

鼎「でも、末来さんは……溺れた私を助けてくれたし、嘘をつくような人じゃないと思うから」

奈岐「そんな理由だけで……」

鼎「それだけじゃない」

「末来さんって、私の記憶にあるお母さんにそっくりなんだ。双子だって言われても信じちゃうくらい瓜二つなんだよ」

違うのは髪色と仕草や口調ぐらいだと思う。どこか優しげな双眸も……お母さんにそっくりだ。

奈岐「…………」

奈岐は僅かな間だけ考えるような素振りを見せる。

その後、何を思ったのか、突然立ち上がると、部屋の外へ向かって歩き出す。

奈岐「片倉末来を連れてくる。この場で問いただして、嘘か真か、奈岐の目で全部確かめる。」

鼎「ちょっ、ちょっと、奈岐!?」

慌てて私が声を上げた時には、もう奈岐は部屋から飛び出したところだった。

ドアが締まり、特殊な施錠音が響く。

鼎「……奈岐」

暗い部屋の中、独り残された私は重い息を吐き出す。

今、巫女のことを奈岐に言うべきじゃなかった。

でも、言葉にしなくても奈岐には分かってしまう。

奈岐が望む回答を心に持たない限り、傷つけてしまう結果しか待っていない。

私はうつ伏せになると、枕に顔を埋めた。

自分の考えが――意固地になりそうな考えが、奈岐を傷つける。そう思うと、心に恐怖が過ぎっていく。

それは考えを見通される恐怖ではなく、自分の考えが奈岐を傷つけてしまうという恐れだ。

奈岐を傷つけたくないという気持ち、末来さんを信じてお母さんに会いたいという気持ち――感情がせめぎ合う。

勾玉を握り締め、落ち着くように自信に言い聞かせても、気持ちは昂ったまま、私の胸を苛み続けた。

きっと末来さんの真意を聞くまでおさまってくれない。

自身の身体を抱くようにして、シーツの中に潜り込むと、私は奈岐の帰りを待ち続けた。

しばらくした後、カチャカチャと鍵を外す音が聞こえた。

慌てて身を起こすと、部屋に入ってきた二人分の影が見える。

末来「穏やかじゃないね」

奈岐「そう思ってくれる方がいい」

すぐに鍵を閉める音が響き、奈岐が末来さんを連れてきた。

奈岐「座れ」

奈岐が机の側にある椅子を引ったくるように掴み、部屋の真ん中に投げ出した。

そして手早くカーテンを閉じ、外からの視界も遮る。

末来「まるで尋問だね、奈岐」

奈岐「そう思ってくれて構わない」

末来「鼎の意志は?」

指示された通り、末来さんは椅子に腰をかけた後、ベッドにいる私へ視線を向けた。

鼎「末来さん、私は――」

奈岐「今、この場で重要なことは私の質問に答えてもらうことだけだ」

「中村真琴の危険性について、末来は気付いていたはずだ。なのに、それを看過し、鼎の身を危険に晒した。何故だ?」

奈岐の視線は末来さんではなく、末来さんの考えを見ているように思えた。

末来「今、ボクは力を消耗するわけにはいけない状態にある。あの場は奈岐を信じることしか出来なかった」

奈岐「……私が手を出すと確信している口ぶりだな」

末来「必ず鼎を助けてくれると信じていた」

僅かな沈黙、奈岐は末来さんを見つめたまま思考を読み取る。

奈岐「その理由は鼎に対する私の執着が異常だと思うからか? お前に私の気持ちが分かるものか」

末来「分かるよ。 誰かを特別思う気持ちは同じだ」

末来さんの言葉に対し、奈岐が眉をしかめる。

奈岐「言い直そう――鬼子の気持ちを理解出来るわけがない」

末来「……それは難しいね」

末来さんは奈岐に考えを知られることを前提として、話しているように見えた。

恐らく、それに気付いている奈岐は向かい側のベッドに――視界に私と末来さんの両方が入る位置に座る。

奈岐「何故、鼎を巫女になるように焚き付けた?」

末来「奈岐の質問はいつも唐突だね」

奈岐「はぐらかすな。質問にだけ答えろ」

末来さんがまるで尋問と表現した通りの光景だった。

末来「鼎が未来の後を追ってきた場合、ボクが道標となること。それがボクと未来が交わした約束だから」

奈岐「この島の内情を知った上で、巫女になる道を示したか」

末来「そうすることが、未来に合える唯一の方法だから」

奈岐「巫女にならねば会えない? 高遠未来はどこにいる?」

末来「それを言葉にするのは危険。 言えないよ」

奈岐「この島のどこにいる?」

末来「奈岐、それは言えない。 少なくとも今はまだ言えない」

末来さんから有力な情報を読み取れないのか、奈岐は眉をしかめたままだった。

奈岐「危険な場所に鼎を行かせるつもりか?」

末来「鼎が望んだ真実はそこにある」

お母さんに会いたいと私が末来さんに告げたことを思い出す。

あれは……この島に来て、最初の夜のことだった。

私がそのことを思い出していると、奈岐から呆れ返ったような声が聞こえてくる。

奈岐「……鬼子との話し方を知っているな。それに慣れている」

末来「少ないけれど、理事長と話をしたことがあるからね」

理事長の話を聞いて、奈岐が外見不相応に眉をすくめた。

奈岐「真っ先に聞いておくべきだった」

末来「そうかもしれないね」

元より末来さんの性格には天然が混じっている気がする。

たぶんそんな相手は奈岐にとってやりにくいのだろう。

奈岐「無駄だと思うが聞いておく。何故、お前は高遠みくと瓜二つの外見をしている? 血縁者か?」

末来「それも今はまだ言えない。キミ達を危険に晒すことになる」

答えを知っていたとばかりに、奈岐は失笑していた。

そして長いため息の後、改まった様子で奈岐は末来さんを見る。

奈岐「なら、ここからは私個人としての願いだ」

末来「何かな?」

奈岐「今の御花会は危険だ。末来が守れない以上、鼎を参加させるな」

鼎「奈岐……」

思わず私は抗議の声をあげてしまうが、奈岐の視線は末来さんに向いたままだった。

末来「奈岐――それがキミのいけないところだ。御花会にいるのは鼎の敵だけじゃない。みんなを信じてあげるんだ」

奈岐「今日、私が手をださなければ、鼎の命は危なかった。そんな状況の御花会を信じろと?」

末来「八弥子はすぐに動いた。神住達も星霊石を手に取っていた」

言い終わる前に、奈岐は立ち上がり、末来さんに詰め寄る。

奈岐「行動を起こせたのは禰津の一人だけだ。だが、アイツも中村の目論みに気付いていながら、鼎との戦いを許可した」

「それに、末来、お前が力を消耗できない理由は何だ?」

末来「それも今は言えない。でも、キミ達を守るために必要な力だ」

奈岐「くっ、鼎の命を危険に晒しておいて、よくそんな言葉が言える」

座ったままの末来さんの胸ぐらを奈岐が掴んだ。

鼎「奈岐、落ち着いてっ」

私の声が聞こえたのか、それとも動じない末来さんを見て、冷静さを取り戻したのか、すぐに奈岐は手を離した。

奈岐“「もういい、出て行け。鼎の身は私が守る」

奈岐は早足で部屋を歩き、ドアの鍵を外す。

それを見た末来さんは立ち上がり、一瞬だけ私に視線を向ける。

末来「鼎――奈岐を助けられるのはキミだけだからね」

小声で私にそう告げると、すたすたと廊下へ歩いて行った。

奈岐も続いて廊下に出ると、再び施錠する音が部屋に響く。

鼎「えっ……? 奈岐を……助けられる?」

末来さんの残した言葉の真意が分からず、私は呆然としながら、二人の消えたドアを見つめていた。

奈岐が部屋に戻ってくると、両手で抱えていた段ボールを床に下ろした。”
脚本
⇒奈岐が独りになる事にどれほど心を痛めていたかは、以前の描写を見れば解かる(T21-5~7/11~13)。

⇒変化には痛みが付きまとうもの、それがこの時の奈岐を歪ませている。
奈岐にとって、形骸化した模擬戦など、巫女候補の愚かさの象徴でしかない
(T15-6/8)。
松籟会の筆頭である遠山家の娘である、神住への姿勢が軟化した後に
(T24-1)
こうした事が起こり、改めて松籟会と巫女候補に対する不信感が募ったのだと思われる。

⇒鼎の意志を尊重しようとする未来と末来さん
(T2)。その上で叶う事なら因習を断ち切りたい(H4)

⇒この場面には本作の主要な要素のほぼ全てが詰め込まれている。
奈岐が激昂するのも当然だが、末来さんも心苦しい。
(3-2-7-3)で倒れた鼎の為に駆け付けた辺りや、
(1-1-9-6 演技)にあるように、鼎を守ってやりたい気持ちは奈岐にも寸分劣らない。
だが、自身の行動を計算に入れられていた事も奈岐にとって看過出来ない。
理由が何であれ、実際に鼎を救うことが出来たのは奈岐のみだ。奈岐にとっては、助けようとした、
などという未然的なことは何らの意味を持たない、と思われる

演技
演出
作画
補足






5-2-3
状況
神経質になる奈岐、末来に頼んで由布に鼎の荷物をまとめさせる。
奈岐の部屋
に引っ越しさせられる鼎。部屋の蛍光灯を取り替える。状況を打開する兆しが見えた鼎
時間
場所
設定
・神住の祖父は松籟会に属している
(松籟会の筆頭である遠山家なのだから、改めて言うまでもないが、後に登場する前振りにはなっている)

・奈岐の狼パジャマは、見た目以上の通気性と肌触り、一般的に必要とされる条件はクリアしているはず(奈岐曰く)
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T24-4, 変わる奈岐 / T21-15, 鼎への想い / T20-18, 奈岐への想い
T1-29, 鼎の強い意志、母への想い / F9-22 巫女の真実
F7-5, 松籟会の危険性 / 推論八, 巫女の力と穢れの正体

奈岐“「風間も信用出来たものではない。遠山と一対に選ばれ、奴を慕っている以上、いつ問題が起きてもおかしくはない」

「遠山神住の祖父は松籟会に属している。中村家とは違い、保守的ではあるが、鼎をこころよく思ってはいないだろう」

それは……遠山先輩に何か言われれば、由布が動く……?

少なくとも、この一ヶ月近く仲良くやってきたルームメイトが、そんなことをするだろうか?

鼎「奈岐、過敏になりすぎだと思う。由布はそんな子じゃないよ」

振り返った奈岐は無表情だった。でも、その瞳は僅かに揺れて、悲しみの色が見て取れる。

奈岐「自分でも疑心暗鬼にかられているのは分かる。だけど、可能性があるなら……一つでも多く潰したい」

鼎「そんなことを言い出すと、切りが無いよ?それに私も用心してないわけじゃないし」

奈岐「分かっている。でも、頼む……鼎」

どこか悲痛にも聞こえた奈岐の声を耳にして、思わず反論の言葉を無くしてしまう。

鼎「…………」

そして、運ばれてきた荷物に再び視線を落とした。

中村さんとの一件があったのは今日のこと。

日曜日を挟んで、週が明ければ、奈岐の気持ちも落ち着くかも知れない。

それに末来さんが言った言葉。

奈岐を助けられるのは私だけ――その言葉も気になる。

鼎「前向きに考える。うん、分かった」

「しばらく奈岐とルームメイトだね!」

奈岐「……鼎」

鼎「ふつつか者ですが、今日からよろしくお願いします」

少し戯けてみせるが、奈岐の表情は晴れないままだった。

何か話題はないものかと考えながら、段ボールの中から、着替えを取り出していく。

しかし、月明かりだけでは暗くてよく見えない。

「ねえ、奈岐。いつも照明つけてないけど、何か理由あるの?」

奈岐「それは……蛍光灯が切れている。一年近くこのままだ」

鼎「交換しないの?」

奈岐「申請したら、替えの蛍光灯だけ渡された」

何となく話が見えてきた気がする。

鼎「んー、もしかして届かない?」

天井を見上げてから、再び奈岐の背丈を確認した。

奈岐「…………」

「ベッドに椅子を置けば届く。でも、足場が不安定で失敗した」

ベッドの上で転ぶ奈岐の姿が容易に想像出来てしまう。

それに、床からだと届かないらしい。

奈岐「うぅ……」

鼎「ずっと暗いのも困るし、私が替えておくね」

脚立を借りるか、八弥子さんに頼めばいいのに……変な所で意識が高いんだから、と内心で苦笑しておく。

もちろん、そんな内心を覗かれることは前提として。

奈岐「だって、禰津の奴に貸しは作りたくないし……脚立なんて借りたら、目立つし……」

鼎「でも、これでもう平気だね」

ぶつくさと口を動かしていた奈岐に微笑みかける。

すると、ようやく、奈岐が安堵したように頬を緩めてくれた。

奈岐「……そう、だな」

鼎「替えの蛍光灯はどこ? 今から交換するよ」

奈岐に声をかけながら、椅子を足元まで運んでくる。

色々と気がかりなことはあるけれど、今は目を閉じて、生活環境の改善に取り組むことにした。
約一年ぶりに奈岐の部屋に電気の明かりが灯っていた。

久々の証明に落ち着かないと言った奈岐はシャワーを浴びに行き、私は一人で夕飯のサンドイッチを齧っているところ。

ちなみにサンドイッチは奈岐が調達してくれたものだ。

お腹が空いたから食堂に行こうと伝えたけれど、鼎は部屋から出ない方がいい、と言われて――結局、言う通りに。

私が思っている以上に、奈岐は過敏になっている。

「……落ち着いてくれるといいんだけど」

巫女の件に関われば関わるほど、危険性は増していく。

でも、危険を避ければ、私の目的は果たすことは出来ない。

末来さんは巫女にならないとお母さんに会えない、そう繰り返していた。

もし奈岐が訊いたことに全部答えてくれていれば、こじれることも無かったのだろうか?

そんなことは末来さんも分かった上で話している、か。

「……ん?」

そんなことを考えていた時、机の上にある書籍に気付く。

照明の御陰で題字を読み取ることが出来る。どれもが神道や古事記を示唆するものばかりだ。

その文字を見た時、一つだけ状況を打開出来る方法が閃いた。

「そっか、穢れと巫女の関連性……ずっと奈岐が追っている」

巫女の力でしか祓うことの出来ない霊体のような存在。

もしかしたら、そこに末来さんが語れなかった子細も含まれている可能性もあるだろう。

「…………」

末来さんのことを考えた時、頭の中で符合が繋がっていく。

奈岐を助けられるのは私だけ……。

助ける――その意味が奈岐の心だけじゃなくて、今の状況を含める全てのことを指しているなら。

まるで私を他の人から守る盾のようになっている奈岐この状態は巫女と御魂の関係に酷似しているような気がした。

荒魂に幸魂、織戸伏では一対の存在として扱われている、

すぐさま私は机の上ににある書物に手を伸ばす。

巫女を守る盾……他者から遠ざける術……。

ページをめくりながら、島に来て間も無い頃に聞いた御魂の授業を思い出す。

荒魂、和魂、幸魂、奇魂――それらが書かれている項目をいくつかの書籍から探し出していく。

「助けるって……その意味、繋がったかもしれない」

きっと私達の間に必要なのは愛情だけじゃない。

助けること、それが示すことは、私達に今まで足りていなかったこと、気付いていなかったこと。

「やっぱり……」

ページをめくる指が御魂について書かれたページで止まる。

やるべきことが見えると、目の前が明るく開けてきた。”
脚本
⇒由布が信用出来ない、という奈岐の言葉は、八弥子ルートでの由布の行動を見れば解かる。
最終的には神住との関係を何よりも優先する由布は、それ程信用するに値しない(ルートによっては無害だが)
演技
演出 ⇒部屋の蛍光灯が切れていたのは、奈岐の心の象徴だと言える。
そこに光を灯すのは、鼎で無くてはならない。その上、鼎の属性は炎と光。
奈岐の冷たく閉ざされた心に、鼎という日差しが差し込む事を、この場面は象徴していると捉えられる。
そうでなければ、わざわざこの場面を描く必要が無いが、単なる箸休めである可能性も否定出来ない
作画
補足

 

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