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奈岐編 注釈十一

11-1-1 11-1-2
状況
儀式を止め、完全なる封印を施す為、祠へ向かう二人。
島民は家から出ることを禁じられているはずで、
動けるのは松籟会に関わる者と巫女だけだと言う奈岐。
ガジは留守番。頼継も動き出しているだろう、と、奈岐。
穢れの大量発生に対処出来る者達が、
祠に集まっている事を憂慮する鼎。

茂みの向こうから姿を現す恵。見鬼で見破る奈岐。
松籟会より恵に下された命は二つ。
穢れが出現すれば、即座に祓うこと。
鼎と奈岐を発見次第、拘束すること。
恵から見れば、二人は儀式を妨害し、穢れの発生を促し、
他の学生、家族、島民を危険にする存在。
恵の為、儀式の詳細はあえて伝えない鼎。
松籟会が恵に持ち掛けたのは、二人の身柄と引き換えに
来年の巫女の座を約束すること、一対の相手を由布で。
恵を無力化する鼎。力を嗅ぎつけた穢れと他の巫女候補から
逃れる為、先を急ぐ二人。突然現れた葉子、恵を回収する。
学園長の指示だという。祠以外で二人の力を感じたら
駆けつけるようにと。次いで由布と縁子に遭遇する二人。

力を解放する暇を与えない由布の射撃。
奈岐、劇場型の振る舞いで由布を煽る。
由布達の行いが神住を殺す、と言った所で、
奈岐に意識が集中する。そこを逃さず力を発現する鼎。
恵に同じく由布と縁子を倒す鼎。
奈岐の力をまだ使う訳にはいかないという。
寮に戻らず一部始終を見ていた葉子に、由布達を頼む鼎。
祠へ続く道には無数の足跡、松籟会の男衆が
巫女を逃さずに広間まで連れて行くのだろう、と、奈岐。

祠に着くと、頼継の指示で昌次郎ら修験者が
松籟会の者達と交戦中。鼎達を待っていたという頼継。
陣を変え、戦線突破する。洞窟の最奥部に至ると、
穢れの記憶で見た石造りの門が道を閉ざしている。
神住の祖父、遠山彦左衛門が控えていた。
儀式を壊すと宣言する頼継。穢れが溢れ、
織戸伏が潰える、と、彦左衛門。
それを無視して脇へ退けるよう指示する頼継。
水蒸気爆発で門を破壊する二人
広間に到達すると、真琴と神住が戦闘を行っていた。
四十を超える穢れに囲まれて
いる真琴達。
星霊石に手を掛ける奈岐、力を温存するようにと鼎。
陽動に出る昌次郎と頼継。
穢れの爪が鼎に迫るその瞬間、
八弥子の風が穢れの腕を切り裂く。
傷が開き、八弥子の腹を赤く染める。
八弥子に謝る奈岐、済んだ事だと八弥子。
鼎、八弥子を幸魂として力を得て、
包囲の一角を崩し、真琴達の元へ。
謝罪する神住と真琴、許す鼎。
包囲を突破し、祠の奥へ。巨大な石の門が
そこに佇んでいた。黒い瘴気が溢れ、
光る鉱石がくすんでいる。
地震が起き、門が開き始める。
穢れが急増し、劣勢となる。
穢れを使役する頼継。鼎の出生と末来の真実
を語る頼継、鼎に礎となるよう促す。
瘴気の催眠効果を看破する奈岐、皆の催眠を解く

時間
四十九日目・夕
場所
神社前 ~ 森 ~ 祠
広間
設定
・例年と異なり、封印が綻び始めている為、穢れの気配が強い
・広間への扉を力尽くで開けるには、何十人単位の男手が必要
・門は黄泉の世界、常世の国へと通じている
・門の瘴気が集結し、穢れを構成する

・末来は数百年以上も昔に礎となり、
封印されていた。巫女の始祖かもしれない(頼継曰く)
自分の姿形と記憶を失っていたそれは、
目の前の未来に、自身を真似た。それが末来(〃)
・鼎はその二人の間に生まれた

・門から溢れる瘴気には、判断を鈍らせる成分が
含まれている(奈岐曰く)
・予備知識があれば、効果は弱まる(〃)
・催眠状態が浅ければ、
僅かなショックで覚醒出来る
(〃)
・七年前の敗戦で、頼継はこれを知った
伏線(大)
F7-9, 松籟会の危険性

“死に物狂いと理事長の言った表現が相応しいかのように、
装束姿の人達は倒されても、すぐに起き上がってくる

まるで映画のゾンビを見ているみたいだった。

頼継「不気味だよね。でも仕掛けさえ分かれば、全然怖くない。
みんな強烈な痛み止めを呑まされているのさ」

「儀式を妨害しようとする悪い奴らから、巫女達を守るため、
神酒を分け与えた――そんなカラクリかな」”
伏線(小) (倒れた由布と縁子をどうするかという場面で)

f14-7, 葉子の実力

葉子“「はーい、先生の力が必要ですかー?」

鼎「わわわっ!?」

突然の声に驚いて転けそうになってしまう

奈岐「……寮に戻ったわけでは無さそうだな」

葉子先生は背負っていた恵を近くの木に横たえる。

葉子「こうなることは何となく分かっていましたので、
先生はこっそり後を付けていたのです♪」

と……満面の笑顔で言われてしまうが、
まったく気付かなかったし、気配も感じなかった。

奈岐も気付いてなかったのか、
驚きと呆れが混ざった息を漏らす。

鼎「えっと……由布と三輪さんも任せて平気なんですか?」

三人を抱えて帰るとか、かなり無茶があるように思える。

葉子「先生、こう見えても力持ちなので大丈夫ですよ」

そういう問題で解決されるらしい。

鼎「もし無理そうでしたら……誰か人を呼んで下さいね」

葉子「はーい。それじゃあ、高遠さん達は前を向いて進んで下さい」

鼎「……あ、ありがとうございます」”
f13-12, 八弥子の力、境遇 / T24-17, 変わる奈岐

八弥子“「ヤヤね、やらないで後悔するのは嫌なんだ。
悔いが残らないぐらい、全力でやり切りたい。」

「それに、今はさ……自分の血との戦いなんだと思う。
傷つけるんじゃなくて、誰かを守るために戦いたい」

奈岐「…………」

「禰津、金澤葉子に伝言を頼んでいたが、
改めて言わせてくれ。すまなかった……
私は……お前のことを」

八弥子「ナギっち、それはもう済んだことだよ。
今は戦わないといけないんでしょ? ほら、前を向く」”
テキスト
T4-10, 鼎の優しさと強さと公平さ

鼎“「恵、何も言わずに道を譲って。説明してあげたいけど、
そんなことをしたら、恵の身が危険になる」”


(恵の考えを見て、奈岐が動揺させた後で)

T27-5, 鼎への信頼

鼎“「奈岐、私に考えがあるから。ここは任せて。
あとそれ以上、踏み込まないで」

奈岐「……分かった」

むぅと小さく呻いた後、奈岐は一歩後ろへ下がっていく。

それを確認してから、私は手に勾玉を握り締めた。

鼎「恵、見逃してくれないなら、こうするしかない」

「今は言い訳をしてる時間も無い。
恵がどう思ってくれても、私は構わない」

「ただ……こうすることが、友達としての責任だと思うから」”

(奈岐が由布達を釘付けにした後で)

T20-36, 奈岐への想い

“この瞬間を待っていたわけじゃないけど……
奈岐の考えだと、ここで私が動かないと始まらない。”

奈岐と鼎の関係の深さが顕われている場面

T28-7, 力の増大、技量

“剣をその場に突き立て、すぐに後ろにいる理事長達を守るように、
力をコントロールしていく。”

⇒力を障壁の様に用いているのだろう。力の応用は、
(7-3-2)にて
奈岐が三階から飛び降りた衝撃を消した頃から見られる


(穢れの記憶で見た門を目の前にして)

f17-7, 水蒸気爆発 / T4-11, 鼎の優しさと強さと公平さ
T21-28, 鼎への想い / T20-37, 奈岐への想い

奈岐“「鼎、始めよう」

鼎「……うん」

もう戻れないし、引き返す気も無い。

私はここを開き、本当の意味で儀式を終わりにさせるんだ。

「――燃えろ」

勾玉の力を解き放ち、炎の流れを操っていく。

巫女を閉じ込めた門に、次々と炎が覆い被さる。

そして、まるで門自体が燃えているかのように、
洞窟内は明々と照らし出され、熱気で溢れかえった。

「まだっ……」

決してこの門を炎で溶かすことは出来ないだろう。

だけど、その限界まで熱をはらみさえすればいい。

門に集中させた熱気が溢れ、周囲の壁を変色させていく。

洞窟自体に被害が出るのが先か、
それとも充分な熱を溜め込むのが先か。

出来れば、被害は出したくないんだけど……
そう思いながら、さらに炎を集中させていく。

奈岐「鼎、もう充分だ――身を守れ!」

奈岐の声を聞き、私は巫女の力を解放させる。

剣をその場に突き立て、すぐに
後ろにいる理事長達を守るように力をコントロールしていく。

奈岐「砕けろっ……!」

奈岐が星霊石を輝かせ、一斉に冷気を門へ浴びせかける。

ゴオオオォォォォォォン――ッ!!!

その次の瞬間、鼓膜が破れるかと思うほどの轟音が響き渡った。

大量の水蒸気と砂ぼこりが視界を埋め尽くしていく。

これが奈岐と私の策――
この爆発は巫女の力ではない。

限界まで熱を蓄えた岩に対し、水をかけるとどうなるか。
火の付いた油に水をかけることと同じ原理だ。

高熱に浴びせられた水が水蒸気となり、急激な体積の増加により、
爆発が起こる――という奈岐からの受けうり。

散々失敗でやらかしてきたことを最大限に利用してみたけど……
その結果はどうなったか。”

鼎「…………」

水蒸気と砂ぼこりが晴れてくると、
道を遮っていた門が崩れ落ちていた。

奈岐「やったか……鼎、無事か?」

奈岐の声を聞き、再び周囲を見渡す。

理事長達と、唖然としている遠山先輩のお爺ちゃんも含め、
全員無事で済んだらしい。

鼎「何とかね。全員、無事だよ」”

“この先にいるはずの遠山先輩と中村さんは無事だろうか?

とにかく、今は急がないといけない。

私は剣を手にしたまま、先行するように走り出す。

鼎「奈岐、ギリギリまで力は使わないで」

すぐ隣を併走する奈岐に声をかけておく。

奈岐「その判断は私がする」

鼎「今は聞き分けて、一緒に帰るって決めたから」

奈岐「…………」

「……分かった」”
T4-12, 鼎の優しさと強さと公平さ / f21-3, 言霊、呪い
F7-10, 松籟会の危険性

鼎“「先に言います。助けに来たのとは少し違います。
正確には、この儀式を壊しに来ました」

神住「高遠さん……
あなたは全部知っていたのですね」

鼎「はい。だから、呪いだと言いました。
事実を知った巫女を松籟会が
生かしておくはずがありませんし」

神住「……私がこうなったのも盲目的に
御花会の伝統を、島の仕来たりを信じた
結果なのかもしれませんね」

そして、どこか自嘲めいた笑みを
遠山先輩が浮かべた。

鼎「でも、先輩なら、その伝統を変えることが出来ます」

神住「高遠さん……?」

鼎「御花会の意味は変わると思います。
二度とこんなことを繰り返さないためにも、
みんなに事実を伝えて下さい」

「それだけの発言力があるのは、遠山先輩だけです」

神住「まさか、そこまで考えて……私をこの場所へ?」

鼎「あはは……私、そんなに賢くないですよ。
偶然です」

私の答えを聞いた遠山先輩がクスッと微笑んだ。

「遠山先輩、生き残って下さいね。もし先輩に
何かあれば、由布が悲しみますから」

神住「ふふっ、そうですわね――。
それに、私はこの事実を伝えなければいけません」

遠山先輩の手に力が籠り、再び大鎌を構え直した。

その姿を見てから、私は中村さんへ視線を向ける。

鼎「中村さん、本当は気付いているんだよね?」

真琴「何のことだ?」

こんな時でも中村さんから殺気が私へ向かってきた。

鼎「あなたのお母さんは巫女だった――
本当に会えると思う?巫女が
こんな状況に晒されることを知ったのに」

真琴「叔母が……そう約束してくれた」

鼎「その目でみたものと、事実を隠してきた人の言葉、
どっちを信じるの?」

真琴「お前が言いたいことは分かる。だが、その言葉
だけが私の希望だった。それを捨てることは出来ない」

そう言い切った中村さんが大剣を片手に構える。

しかし、その切っ先は私ではなく穢れへと向かう。

「その望みを果たすためには、
生き残らなければならない」

「ただ……高遠鼎、一つだけ言わせてくれ」

「……すまなかった。詫びて済むようなことではない。
その責任は生き延びた後に果たす」

そう言ってくれた中村さんに対して、
自然と微笑みが零れる。

鼎「その言葉だけで充分だよ。
あなたは私とよく似ているから。とても真っ直ぐ――
ううん、私よりももっと真っ直ぐだ」

真琴「何を言っている……? 私は何度もお前を……」

中村さんの驚きに満ちた双眸が私を捉える。

鼎「お母さんに会いたいって気持ち、私にはよく分かる
から。中村さん、ちょっとやりすぎだったけどね」

「でも、許すよ。全部許す。
だから生きて、その目で真実を確かめて」

真琴「…………」

僅かに震えた息が漏れた後、
中村さんの大剣に炎が宿った。

真琴「それが贖罪に繋がるのであれば――
生き延びてみせよう」

中村さんは……
私より真っ直ぐで、もっと真面目な人だ。

だからこそ、真実をその目で確かめて欲しい。”

F9-31, 巫女の真実 / F11-12, 頼継の計画
f12-8, 末来の真実 / F2-11, 鼎の出生と勾玉の秘密

頼継“「僕の目的は果たされ、ようやく封印は
解かれた――この島に縛り付けられた姉さんを
解放出来たんだよ」”

頼継“「姉さんはね、一度あの封印を見て、
礎となっているモノに気付いてしまった。
そして、それを解放してしまった」

「封印の礎、それが片倉末来というモノだ」

理事長が末来さんの星霊石を
私の足元へ投げ捨てる。

鼎「…………」

頼継「彼女は数百年以上も昔に礎となり、
封印されていたんだよ。ひょっとすると、
巫女の始祖かもしれない」

「だけど、その魂は自分が人であった頃の姿形も、
記憶も、名前すらも忘れてしまっていた」

「だから、目の前に現れた者の姿を真似し、
形作った。で、憎らしくも、そいつは姉さんと
同じ姿になったわけさ」

鼎「末来……さん?」

地面に転がった末来さんの星霊石に輝きは無い。

もうこの世に末来さんはいない、と語りかけるようで、
思わず目を逸らしてしまう。

頼継「……一度解かれた封印に対し、贄を捧げる
ことだけでは、あの門を維持することは出来ない」

「その禍根を断つ為、僕達は完全な封印を
行おうとした。でも、それは失敗に終わり……
姉さんが犠牲となった」

「だから、今度は僕が姉さんを
解放してあげたわけだよ」

そう言った理事長の唇が不気味な三日月姿に歪む。

「そして片倉末来と……姉さんと片倉末来の間に
生まれた忌み子、高遠鼎、
キミを礎として完全な封印を行う」

鼎「…………」

薄々勘付いていたけど、
やっぱり私はお母さんと末来さんの……。

どうやって私を作ったのかは分からないけれど、
その事実として、私はここにいる。

鼎「それが……あなたの目的だったんですか?」

頼継「そうだね。悲劇を繰り返したくないという意味に
おいては、僕達の利害は一致していたんだよ?」

「ただキミの犠牲が必要とは、
告げていなかったけどね」

そう言った理事長が私に向けて片手を差し出す。

「さあ――片倉末来はもう礎となった。
あとはキミ一人の犠牲で封印が完成する」

「ほら、救ってみせてよ? この呪われた島を、さ」”

頼継“「今は門の瘴気に取り込まれ、
穢れた姿になってしまった。でも、
完全な封印を行えば……救ってあげることが出来る」

「穢れは全て門の中へ封じられるわけだからね」

理事長がお母さんへ視線を向けながらそう語った。”

T15-21, 奈岐の洞察

奈岐“「――茶番は終わりか?
なら、私の手番(ターン)だな」

鼎「えっ? えっ、あ、あれ? な、奈岐?」

奈岐「この瘴気は判断を鈍らせる成分が
含まれているらしい。予備知識も無しに
吸ってしまえば、その効果はてきめんだ」

「気付かぬ内に催眠状態に陥る。ただし、浅い
催眠なら、僅かなショックで覚醒することが出来る」”

“「そうして、自身は瘴気を吸わないようにしながら、
都合の良い誘導を行う。一度辛酸をなめただけある」

頼継「やっぱり、杞憂に終わってくれなかったか……。
大した洞察力だ。さすがは僕と同じモノだね」”
脚本
⇒水蒸気爆発の仕組みも、鼎が直接知っているのではなく、
奈岐を通している事で、極めて自然に感じられる (
2-2-1-3 脚本)
演技
演出
作画
補足
⇒車懸りの陣には諸説あるらしいが、江戸時代以降、
陣と戦術とが混同されているらしい。渦巻き状の陣形が車輪の様に
回りながら、交代させて兵を戦わせるというもの。
相手方に強力な痛み止めが用いられている本作の状況からして、
こちらを指すものと思われる。

⇒鶴翼の陣とは、翼を広げた鶴の様な形の陣形だという。
先行する中央の部隊に敵を釘付けにし、
両翼で包囲するというもの。
兵数に勝る場合に用いられるらしい。

⇒鋒矢の陣とは、矢の様な陣形で、
主に中央突破を目的としたものらしい。
失敗した時は包囲される危険性があるという

昌次郎“「皆、死力せよ! 今が頼継様への恩義に報いる時!」”

「はっ。全てはこの時のため――頼継様のために」

⇒[安部一門と頼継の間に何があったのかは、後日検討する]
追記:2015/11/05
これはついぞ判る事は無かった。

“杖を手に、他の者とは違う黒い装束を纏っている。”

⇒遠山彦左衛門の、この黒い装束は死を象徴しているのだろうか
真琴“「まだだっ! ここで倒れるわけにはっ!!」

神住「贄――
高遠さんの言葉がようやく分かりましたわ」

中村さんの背中を守るようにして、
遠山先輩が大鎌を翻す。

「ここで巫女を捧げること――それが贄となる」

真琴「自分は贄となるつもりはない。
生きて戻る必要がある」

「生きて戻りさえすれば、母さんに合えるんだっ」

神住「……中村さん」”






11-N
状況
八弥子達に背中を任せ、二人で先へ急ぐ。
限界まで力を解放する奈岐、神狼伝説と今が似ている事を口にする。
しかし絶対に同じ結末にはさせない、と、鼎。応じる奈岐。
岩を背に迎え撃つ頼継ら。頼継、勾玉の秘密を明かす。
白い彫像の様な穢れと化している未来。頼継、その未来を鼎とは別の勾玉で操り力を増幅させ、奈岐を狙う。
互角に思えた両者だったが、奈岐の身体に限界が訪れる。
末来と未来に呼びかける鼎、それに応えるように増幅させていた勾玉が壊れる。
鼎を呼ぶ奈岐の声、奈岐が信じた自分をどこまでも信じ抜く、と、鼎。
門を力任せに閉じようとする鼎、姉さんを見ているようだ、と、頼継。鼎の意志に賭けることに。
頼継と昌次郎、穢れを門の表面に沈め、自身らも引きずり込まれる。
全ての力を炎に変え対抗する鼎。門が動き始めるも、先の穢れの棘が門から構成され、同時に鼎の剣を取り込み始める。
剣から熱を発し融合を防ぐが、金属のような物質が剣を浸食し、手首まで絡め取られる。
大柄な穢れが背後に迫る。落ちる腕、奈岐の氷の刃。二人の約束を叫ぶ奈岐、応じる鼎。
二人の力の全てが門に届き、封印がなされる。身体の感覚が消える鼎。
不思議な空間の中で、未来と対面する。良く頑張ったね、と、未来。
そちらに行きたいという鼎。会話が出来る事が奇跡のようなものなのだと、未来。
別れを告げる未来、自分がいなくなったらちゃんと泣くようにと鼎に言う。応じる鼎。鼎、慟哭。
意識を取り戻すと、神住は祖父に、真琴は叔母に詰め寄っていた。
葉子と櫻井も居合わせている。奈岐を探す鼎。駆け寄り、倒れている奈岐を抱き起こす。
二人とも瘴気を浴び過ぎた事で魂の一部を持って行かれた、断定は出来ないが、失ったものは戻らないという。
奈岐、鼎を思う気持ちだけは取られたくないと言う。一緒に居ると約束をする鼎。
半年後。学園や松籟会は体制を変えることとなり、今後の方針について揉めている最中。御花会は来年度から廃止。
あれから数週間奈岐は眠り続け、目覚めた時には、鼎への想いもろとも人を思う気持ちを失っていた。
人を遠ざける奈岐。それでも側にいる鼎。交わした約束は呪いとなった。
研究の為、本土の大学へ進学するという奈岐。自分から感情を奪った仕組みを調べるのが目的。
同じ症例の鼎はサンプルになるという。ただし、そこに進学出来なければ、自分を切り捨てるだろうと、鼎。
交わした約束は絶対だから、これからも奈岐と時を共にするという鼎
時間
四十九日目・夜 ~ その半年近く後
場所
門前
設定
・勾玉は、禍時に生まれた魂を示す、禍魂という皮肉
・禍時に石を加工すると、魔が宿る
・その禁忌を犯せば、より純度の高い霊石が作り出せる
・これを頼継が打ったのは、贄にされかけた未来を助ける為
・鼎は末来の分御魂
伏線(大)
F2-12, 鼎の出生と勾玉の秘密
f2-12, 勾玉の熱

頼継“「何故その星霊石だけ勾玉を形作ったか、気付いているかい?」

「それは禍時(まがとき)に生まれた魂を示す――禍魂(まがたま)という皮肉さ」

私の勾玉が自然と熱を増幅させていく。

「本来は禍時に石を加工してはならない。魔が宿るからね」

「でも、僕はその禁忌を犯し、通常の星霊石よりも純度が高く強力なモノを作り出した」

「全ては贄となりかけた姉さんを助けるためにね。だけど、それが皮肉にも、今はキミの手元にある」

「勾玉に宿った魔が為した業なのかな――いずれにしても、星霊石の意味に気付いていないキミ達の負けだ」”

F9-32, 巫女の真実 / T17-16, 消え入るような鼎 / T2-5, 鼎の意志を尊重 / T1-35, 鼎の強い意志

頼継“「だから、言ったじゃないか。星霊石の意味に気付いていないキミ達の負けだってさ」

嘲る理事長がやれやれと肩をすくめていた。

鼎「どういうことですか……?」

頼継「星霊石はね、その門から削りだして作るんだよね。そして、贄となった巫女の魂は門に捧げられる」

「簡単に言っちゃうとさ、穢れと巫女の力って同じなんだよ。全部、この門から作られ、振り分けられちゃってるわけ」

「穢れを祓ってもいなくならないのは、そのせいだし……向山奈岐がアレに勝てないのも、門の仕組みの御陰さ」

瘴気を吐き出している門へ視線を向ける。

「死者が生者を門へ引き寄せている――こういうのってさ、負の連鎖っていうのかな?」

鼎「祓った穢れの魂は……まさか、また門に……?」

頼継「そそ、この門に還ってきて、また穢れとなる。死んだ巫女は永久にここで囚われ続け、苦しみ続けるわけ」

「その悲しみや怒りや恨みが、門の封印を保つ力になる。力は決してプラス方向のものだけじゃないしね」

話を聞けば聞くほど、自身の呼吸が乱れていく。

巫女の嘆きや苦しみによって、この門は守られている。

それは終わることのない地獄でしかない。

穢れとなり、声にならない声をあげ、祓われ、痛み苦しみ、そしてまた新たな穢れとして、門によって生成される。

死んでなお、巫女達は殺され続けていた。

次の贄となる巫女達の手によって、命を断たれ続ける。

その苦しみが門を封印する力となり、今日まで保たれてきた。

鼎「……奈岐が勝てないのは、どれだけあの白い穢れを傷つけても、門が再生させてしまうから……?」

頼継「そそ。でも、それを終わらせる方法もある」

理事長が笑みを浮かべたまま、私へ振り返る。

「キミが門を支える礎になればいい。完全な封印を行うんだ」

「片倉末来というモノと、その分御魂でもあるキミが贄となれば、この織戸伏に存在する門は封印されることになる」

「それは見鬼の業で見れば分かることなんだ。門を鎮める魂にあと何が足りてないか――」

「力を持った巫女、複数の星霊石を扱える稀代の巫女……その魂を捧げることで、封印は完全なものとなる」

理事長の言葉に息を呑む。

瘴気を吸い込みすぎたわけではなく、自分の意志が揺らぎ始めていた。

私の決断だけで、数え切れないほどの巫女の魂が救われる。

それが目の前にあるんだ。

鼎「……でも」

鼎「でも、私は約束したんだ。 生きて帰るって奈岐と約束した」

頼継「それがどれほどのエゴか分かっているかい?」

鼎「分かってる。数え切れないほどの苦しみの上に、私がいて、その上でまだ生き残りたいって言っている」

手の中にあった勾玉を中空へ解き放つ。

「それがどれだけ自分勝手なことであったとしても、私の命は私のもの。生きるか死ぬかの選択は私がする」

「死者の声に引かれたりはしない。最後に選ぶのは、いつも自分の意志で無くちゃいけない」

手の平に浮かんだ勾玉が火の粉を散らし始める。”

F3-3, お守りに祈る / T2-6, 鼎の意志を尊重
T1-36, 鼎の強い意志 / T27-6, 鼎への信頼
f8-2, 炎と光

(声だけの回想、七年前)

未来“「鼎……これはね、お守りだよ」


「困った時、どうしようも無いって時、絶対に鼎を助けてくれる力になる」

「だから、どんな時も最後まで諦めちゃいけない。お守りを手にして、自分に祈るんだ」

「そう、自分のことを決めていいのは自分だけだよ。最後に選ぶのは、いつも自分の意志なんだ」”


「本当に鼎が諦めたくないなら、お守りを手にして、どこまでも戦ってやろうって気持ちを持つんだ」

「お守りが鼎の魂に応えてくれるまで祈るんだ――いいね?」

(回想終了)

鼎「お守りに祈る……!」

溢れ出す炎は、私とお母さんの魂――。

「どんな時も最後まで諦めちゃいけない。お母さんはそう教えてくれた」

「最後に選ぶのは自分の意志だって教えてくれた」

「今は……その言葉を私がお母さんに伝えるよ」

「お母さん、それから……末来さん」

「どんな時でも、最後まで諦めないで」

「諦めることを選ぶのも、諦めないことを選ぶのも、全部、自分の意志なんだよ。だから――」

「二人が貫こうとした意志を見せて――お願い」

「お母さんっ!! 末来さんっ!!」”

“岩に押し当てた勾玉から光がほどばしり、秘書を吹き飛ばす。

同時に勾玉が激しい炎に包まれ、熱に焼かれ砕け散っていく。

頼継「姉さん……片倉末来……そんな……まさか、呼びかけに応えた……!?」

火の粉を払い、生み出された剣を両手で握り締める。

感じた光と炎は、お母さんと末来さんのものだった。

やっぱり二人はこんな終わり方を望んじゃいないんだ。

鼎「お母さん、その姿がお母さんの意志じゃないのは分かってる。だから、私が止めてあげないといけない」

剣の切っ先を白い穢れ――お母さんに向けた。

奈岐「っ……かな、え……」

傷だらけになりながらも、奈岐が私の名前を呼んでくれる。

鼎「大丈夫だよ、奈岐。私は信じる。 奈岐が信じてくれた自分を、どこまでも信じ抜く」

お母さんが私の力に反応して、無数の棘を向かわせてきた。

「お母さん、末来さん、見てて――これがあなた達の娘だよ」”
伏線(小) f2-11, 勾玉の熱

“握り締めた勾玉が何かに反応するように熱を放ち始める。”
テキスト
T28-8, 力の増大 / T8-12, 神狼伝説
T21-29, 鼎への想い / T20-38, 奈岐への想い

鼎“「奈岐、行こう。これで終わりにしてみせる」

奈岐「こちらもそのつもりだ――鼎、私から離れるなよ」

不敵に笑った奈岐が星霊石の力を限界まで解き放つ。

吹き荒れる冷気が周囲の穢れを遠ざけていく。

肌を切るかと思うほどの氷塊が渦を巻き、その中心で奈岐が力の集束を続ける。

そして、舞台に張り巡らせた氷が溶けると、細氷が眩く煌めいた。

奈岐を覆っていた外套が消し飛び、氷の塵となって大気中に舞い上がっていく。

方向性を持った全ての冷気が奈岐へ集束し、今まで誰も成し得なかった巫女の力を授ける。

鬼子が鬼子の力を使うための星霊石――。

それは人という肉体の枠を外れた力になる。

でも、奈岐は選択した。

必ず生き残り、共に帰ることを私と約束した。

だから、私は彼女との約束を信じる。

眩い光にともない、冷気が奈岐を中心に駆け抜けた。

無数に氷の短刀を浮かび上がらせ、限界まで力を解放していく。

そんな彼女の表情は険しく、歯を食いしばり、身体に大きな負荷がかかっていることが見て取れる。

「――鼎、こんな時だからこそ、神狼の話をしよう」

「神狼は贄となる娘を助けたいという願いを聞き届け、最期となる戦いへ一匹で赴いた」

「贄となる娘を助ける……この状況、よく似ていないか?」

さらに力を展開させながら奈岐が不敵に笑った。

確かに……私は贄となる娘だし、お母さんは私が贄となる解決策を望んでいない。

既に時刻は神狼が戦ったと伝えられる夜だろう。

そして、これから挑むべき相手は神に近いものだ。

鼎「そうだね……似てるかもしれない」

真っ白な狼――織戸伏だけに生まれる鬼子と呼ばれる者。

伝承そのままに出来事は進んでいる。

でも――。

「だけど、奈岐は独りじゃない。私が一緒にいる」

「だから、絶対に……伝承と同じ結末にはさせない」

伝承で神狼はたった一匹で戦い、最期を遂げる。

そんなことは私が許さない。

一緒に帰る約束を必ず果たしてみせる。

奈岐「……そうだな。私は生きる」

「そう約束した」

奈岐が両手に短刀を取り、門へ向かって跳躍した。”

“「この手で切り開いてみせる――明日を!!」”

T1-33, 鼎の強い意志、母への想い / T17-17, 消え入るような鼎
T21-30, 鼎への想い / T20-39, 奈岐への想い

鼎「諦めるもんかっ……ここで挫けたら、繰り返すだけだっ!!」

歯を食いしばり、まだ動く足を使って、前へ剣を押し込む。

門が動き出す――あと少し。でも、あと少しだった。

「くっ……!」

背後に感じた気配に顔を向けると、大柄な穢れが両腕を降り上げていた。

その鋭い爪が振り下ろされれば、そこで終わりになる。

時間の流れがゆるやかになり、本当にこれで終わりみたいに、穢れの動きがコマ送りで再生されていく。

中村さんが何かを叫ぶ声が聞こえる。

でも、遠い、間に合わない。

「――――」

お母さん、末来さん……ごめんなさい。

せっかくここまで来たのに、二人の意志をこのまま無駄に――。

奈岐「鼎っ!!」

放たれた氷の刃が穢れの両腕を切り落とす。

奈岐「生きろと約束したのは鼎のはずだっ!!」

「犠牲や礎とならず、生きて戻るっ! 奈岐達の約束だっ!!」

氷の短刀が飛び交い、奈岐の道を切り開いていく。

力尽きて動かないはずの身体を奮い立たせ、左右の刃で穢れの群れを切り進む。

鼎「奈岐……?」

血濡れの足をどうやって動かしているのかは分からない。

でも奈岐は地面を駆けながら、私のところへ向かってくる。

奈岐「奈岐が鼎を守るっ!! だから、前だけを見て進めっ!!」

「生きて奈岐達の約束を果たすんだっ!!」

飛び交う短刀が砕け、氷の塵へと化していく。

その煌めく細氷を見て、ようやく気付いた。

奈岐を動かしているものは、力尽きた肉体ではなく、最後の最後まで私を信じてくれる心と――その魂だ。

鼎「そうだよね、約束したもんね……」

「絶対に諦めない……このまま終われないっ!!」

まだ動く身体、いや動かそうとする自分の魂に呼びかける。

このまま終わるな、最期までやり遂げる意志を貫け――。

「約束を守ってみせるっ……!」

身体に再び炎が宿り、門を押しこみ始める。

奈岐「そうだ、鼎……それでこそ……!」

道を切り開いていた短刀が次々と砕けていく。

それでも奈岐は進み続ける。

立ち止まれば、もう動かなくなると分かりきっているかのように、その口元に笑みを宿し、残り少ない短刀を操っていく。

「くっ……!」

だけど、動くはずのない身体を動かす――その矛盾は限界を呼ぶ。

「ごほっ……がはっ……!!」

大量の血が口から吐き出され、彼女の氷がさらに散っていく。

そして、砕けていくのは彼女が作り出す刃だけではなかった。

光を放っている星霊石に亀裂が入っていく。

彼女の身体についで、星霊石にまで限界が訪れる。

それでも奈岐は止まらずに走り続けた。

血を吐き捨て、残りの氷を集束させ、最後の道を切り開く。

「力なら全てくれてやるっ!! これが……!!」

門に迫りながら、声をあげ、両手の刃を振り上げた。

「これが一対の――ッ!!」

門に短刀が突き刺さった瞬間、奈岐の星霊石が砕け散る。

でも、その力は確かに門へ伝わった。

だから――。

鼎「閉じろおおおおおおぉおおおぉぉ――ッ!!」

確かな手応え。

だけど、剣を握り締めた感覚、隣に感じる奈岐の気配――全てが無くなっていく。

ゴゴッと岩が蠢く音だけが耳に響いていた。

同時に辺りの瘴気が消えていく。

門が……閉じた?

T1-34, 母への想い

そう思った瞬間、目の前が真っ白に弾ける。

身体の感覚が無くなっていた。

最初は死んでしまったのかと思った。

でも、こうして考えることが出来ている。

じゃあ、まだ生きている?

その時、瞳の裏に眩い光を感じた。

どこか懐かしく、温かい光に私は無意識に手を伸ばす。

鼎「……おかあ、さん……?」

未来「――よく頑張ったね、鼎」

目を開くと、そこは見たことも無いような空間だった。

色とりどりの光が煌めきながら流れていく。

鼎「……お母さん?」

手を伸ばした先には、求め続けたお母さんの姿がある。

ただ、身体の感覚が曖昧で、どうしてもそこまで届かない。

未来「久しぶり――なんて言ったら、怒られるかな?」

鼎「それは……怒るよ」

未来「あはは、大きくなって、立派に育ってくれたね」

「まるで自分の若い頃を見ているようだよ」

鼎「……私はお母さんみたいにハチャメチャなことしてないよ」

拗ねたように言いながら、何とか身体を動かそうとする。

でも、僅かに指先が動いただけで、お母さんに届かない。

未来「島に来て、色々知られちゃったかぁ……」

鼎「ホント、やりすぎだよ。でもね、お母さんらしいと思った」

未来「ふふっ、それはいい意味で?」

鼎「両方だよ」

指先の感覚がよく分からず、やっぱり手が届かない。

私は痺れを切らして、お母さんに声をかける。

「ねえ、そっちに行きたい」

未来「鼎はまだお母さんに甘えたい年頃かい?」

鼎「七年ぶりなんだから……甘えたいよ」

未来「……七年、か。鼎も大きくなるわけだ」

「時間の感覚が無くてね、言われて気付いたよ」

鼎「お母さん、そっちに行きたい」

未来「……鼎、ここは魂が触れ合っているっていうのかな? 生と死が交わってるような、おかしなところなんだ」

「だから、言葉を伝えられているだけでも奇跡なんだよ」

鼎「……そっちに……行きたいっ」

声が震え、堪えても涙がこみ上げてくる。

未来「鼎は……立派にお母さんの意志を継いでくれたね」

「最後に一目だけでも会えて良かったよ」

「もう知ってると思うけど、お母さんは鼎と一緒にいられない」

鼎「お母さん……そっちに行きたいっ……触れたいのっ!」

未来「七年前か……七年前にお母さんは魂だけ、ここに留まった」

「それも、もうお終い。鼎がお母さんを助けてくれたんだよ」

「お母さんだけじゃないか……織戸伏の島を救ってくれたね」

微笑むお母さんの姿が所々薄くなっていることに気付く。

それが光の波にさらわれそうに思えて、私は何度も手を伸ばそうとする。

「鼎には、お母さん無理ばかり押しつけちゃってたね。 ごめんよ。 ホント、我慢させてばかりだった」

「いいお母さんじゃなかったかもしれない。 でも、会いに来てくれて……嬉しかったよ」

「ありがとう、鼎」

鼎「…………」

「ずるい、ずるいよ……そんな言い方、ずるいよ」

「何も言えないっ……!」

だだをこねるような私にお母さんは微笑むだけだった。

未来「鼎、これからは鼎の生きたいように生きるんだ。 そこにもうお母さんの意志は無い。 分かってるね?」

鼎「……分かってる、分かってるよ」

「うん……もうこの空間も閉じられる。 末来の奴の分までちゃんとお別れするつもりだったんだけどなぁ」

鼎「…………」

未来「鼎、お母さんがいなくなったら、いっぱい泣くんだよ」

「鼎はすぐに何でも我慢する子だからね」

鼎「……分かった」

お母さんの瞳に私が映り込む。

その優しげな眼差しが瞼に覆われると、最後にお母さんが微笑んだ。

未来「鼎、元気でね。 お母さんと末来の分まで幸せになるんだよ」

鼎「うん……さよなら、お母さん」

「私、お母さんのこと、大好きだったよ」

未来「ふふっ……ありがと」

「じゃあね――ばいばい、鼎」

光の波が押し寄せ、視界が眩く弾け飛ぶ。

同時にお母さんを紡いでいた像が、無数の光に流されていく。

鼎「お母さん……」

頬には涙が伝わっていた。

思わず堪えようとしたけれど、今は我慢するのを止める。

いっぱい泣くように、ってお母さんが最後に言ってくれた。

だから、私は声を上げる。

むせび泣きながら、何度もお母さんの名前を呼ぶ。

「お母さんっ……お母さんっ……!」

「触れたかったよっ……一緒に、一緒にいたかったよっ!」

「ホントに……ホントに大好きだったんだから……!」

「うっ……うううっ……ああぁっ……!!」

「ああああああああああああぁあああぁあぁ――ッ!!」

私は声を上げ続ける。

我慢するのを止めるだけで、こんなに涙が出ることを初めて知った。

だから、この眩い光の世界が途切れる瞬間まで、もういないお母さんの名前を叫び――私は泣き続ける。

もう会えないから。

その寂しさの分だけ泣いておこう。

そうして、私はまだ前を向いて歩けるようになるから。

だから。

鼎「さようなら、お母さん」

別れを言葉に。

眩い世界が閉じていく。

そして、意識が途切れていった。”

H3-5, 櫻井の葛藤

櫻井「高遠さん、無事にやり遂げてくれましたね」

どこか優しげに微笑む学園長を見て、私は安堵する。

終わってくれたんだ、と実感できた。

f21-4, 言霊、呪い

奈岐“「そうか、鼎も……持って行かれたか……」

「そうだな……鼎の言葉に力があった。 それを取られるのは、必然だったかもしれないな……」”

“「門を閉じる時……奈岐も鼎も……向こうの瘴気を浴びすぎた。 死者に引かれ、その魂の一部を失ってしまった……」”

“「ああ、そうだ……最も強い力を持っていたもの……鼎は言葉の魂……言魂を失うことで……生きることが出来た」

「鼎の言葉には……力があるからな……」”

どこか悲しげに奈岐が微笑み、息を吐き出す。

「きっと奈岐も何かを失っただろう……この意識が途切れて、目が覚めたら……何を無くしたか、分かるだろう」

無くしたもは戻らない……?

私は言葉を無くし、奈岐は……。

「断定は出来ない……だけど、難しいかもしれないな……」

「でも、鼎……奈岐達は生きた……約束を果たせたな」

鼎「…………」

でも、その約束はこれからも続く。

一緒にいること、独りにしないこと。

奈岐「……そうだな、鼎と一緒にいることが出来る」

「良かった……奈岐は幸せだ……」

そう言った奈岐が苦しげに息を吐き出す。

「はぁっ……ぅ……なあ、鼎……聞こえているか?」

呼びかける奈岐に頷き、頭の中でも返事を繰り返した。

「奈岐は……何を取られたのだろうな……?」

「ただ……無くしたくないものだけはある」

奈岐の指先が微かに動いた。

きっと腕が上がらないのだろう。

私はその手を取ると、指を絡ませあった。

「そう、この……感覚だ……」

「鼎を思う気持ちだけは……取られたくない……」

鼎「…………」

奈岐「鼎……これからも……一緒に……」

言葉が途切れ、奈岐が力尽きるように目を閉じてしまう。

だから、頷く。何度も頷く。

私が頷いていることが分かってくれるまで頷く。

「そうか、ありがとう……これで……安心して、休める……」

「鼎……奈岐は……鼎が大好きだ……」

私も奈岐が好き。

奈岐を愛しているから。

だから、安心して眠っていいよ。

私に言葉が無くなっても、奈岐には伝わるから――。”

“何があっても、奈岐を独りにしない。

約束の言葉を繰り返し、今は奈岐がゆっくりと休めるように、その身体を床に横たえた。

…………。

約束という言葉の意味。

数ヶ月後、その本当の意味を私は知ることになる。”

脚本
⇒鼎と奈岐の約束、鼎の未来への想い。どれも皆、痛いほど読み手には伝わっている。
伏線を敷いて回収することなら、一流の脚本家であれば当然の事。
繰り返す事の重要さと、その時宜(回数、長さ)、場所、量(大きさ)、仕方において
自然な形で織り込む事こそが、真の脚本家にだけ成し得る仕事だと、筆者は考える
演技
⇒約束について叫びながら突き進む奈岐の声。今までに無い程に鬼気迫っている、胸の奥を貫くような良い声だ。
本作において一、二を争うほどの名演だ

⇒未来と鼎の別れは、何度見ても、この心と身体が引き裂かれる様に痛む。
一つ一つの言葉がどうだったか、なんて考える余裕はもう、筆者には無い
演出
作画
補足
頼継“「そんなことをしても封印は――」

鼎「門を完全に閉じることが封印なら! そうすればいいっ!」

頼継「…………」

理事長が言葉を失った後、ハハッと笑い声をあげた。

「あっはは、まるで姉さんを見ているようだよ……そんな力業で本当に通じるとでも?」

鼎「通じさせてみせるよ。私とお母さんと末来さん、全員で抑え込むんだから!」

身体から火の粉が溢れ出し、お母さんの力を感じる。

そして、穢れに突き立てた剣から光が溢れ、末来さんの力を感じた。”

頼継“「面白い、その意志に賭けてみようじゃないか――昌次郎、穢れを門まで押し込むんだっ!」”

⇒鼎の姿に未来を見た頼継。未来は鼎を礎にすることを望んでいない事は、当然頼継にも分かっていた。
だからこそ鼎に賭ける事にした。未来の魂は鼎に受け継がれている事を確信したのだろう






11-T
状況
八弥子、神住、真琴の霊石を預かる鼎。末来の霊石も拾う。
力を解放する奈岐。鼎、奈岐との約束を口にする。穢れを祓い、門の前へ。
頼継、勾玉の意味を語る。未来を救う為にそれを作り出したという。
星霊石、巫女、完全な封印についての真実を話す頼継。
白い穢れの攻撃を受け、負傷する奈岐。未来と末来が鼎の想いに応え、頼継の勾玉が砕ける。
鼎の魂を見る頼継。頼継、鼎を信じ、昌次郎と共に協力する。頼継、自身の真実について語る。
鼎、門に剣を突き立てる、思念が流れ込む。一対を体現した時のようにこれを奈岐に受け流す。
真琴達、生身のまま穢れと応戦する。頼継と昌次郎が白い穢れに呑まれる。
見鬼の業をも取り込んだ黒い穢れに対し、奈岐が思考し引き付ける。
鼎が戦い、穢れの力が弱まった所で、頼継達が内側から穢れの動きを止める。
皆の想いに共鳴し、力を集める鼎。穢れに止めを刺す。光の中で、未来と再会する鼎。その胸に飛び込む。
戦いの後処理へ。後日談を迎える。
時間
四十九日目・夜 ~ 八月
場所
広間 ~ 門前 ~ 広間 ~ 由布の部屋 ~ 理事長室 ~ 海岸 ~ 港
設定
・勾玉は、禍時に生まれた魂を示す、禍魂という皮肉
・禍時に石を加工すると、魔が宿る
・その禁忌を犯せば、より純度の高い霊石が作り出せる
・これを頼継が打ったのは、贄にされかけた未来を助ける為
・間引きされるはずの頼継を救ったのが子供の頃の未来
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T24-18,変わる奈岐 / T25-8, 変わる鼎 / T21-30, 鼎への想い / T20-39, 奈岐への想い / T8-12, 神狼伝説 
T22-8, 鬼子の力 / F11-13, 頼継の計画 / f8-2, 炎と光 / F2-12, 鼎の出生と勾玉の秘密 / F9-32, 巫女の真実 
f9-2, 星霊石に宿る魂 / f13-12, 八弥子の力、境遇 / T1-33, 鼎の強い意志、母への想い
T4-13, 鼎の優しさと強さと公平さ
/ T17-17, 消え入るような鼎 / T26-3, 奈岐の真意 / F3-3, お守りに祈る
T2-6, 鼎の意志を尊重


鼎“「遠山先輩、八弥子さん、中村さん――私に星霊石を渡して」

勾玉が発する熱に従って、私は言葉を紡ぐ。

真琴「この状況で星霊石を……どうするつもりだ?」

鼎「あの門を封印するには、みんなの力が必要になるから。それで、私はみんなの力を使うことが出来る」

足元に落ちていた末来さんの星霊石を拾い上げる。

そして、意識を集中させると、末来さんの星霊石が眩く発光した。

神住「そんな……どうして、片倉さんの星霊石をあなたが……?」

鼎「これが証拠にならないかな? あとは信じてって言うしかない」

私の言葉に反応したかのように、一つの星霊石がこちらへ投げられる。

「わわっ!? な、投げないでくださいっ!」

八弥子「あははっ! どっちにしてもヤヤはもう限界だから、それはカナカナに任せたよっ!」

八弥子さんが血の滲んだ腹部を押さえながらもニコリと笑う。

神住「ですが、今、星霊石を手放せば身を守る手段が……」

真琴「……高遠、封印までどれくらいかかる?」

持ち込んでいたのか、黒い鞘の刀を中村さんが手に取った。

鼎「分からない。 でも、がむしゃに急いでみる」

真琴「――正直な答えだ」

中村さんがフッと笑った後、鞘から刀を抜き放つ。

真琴「私には、お前に命を預けるだけの罪がある。こちらも、がむしゃらに付き合わせてもらおう」

中村さんが星霊石を取り出し、私に投げ渡す。

鼎「わっ、わっ! だから、投げないでっ!」

真琴「遠山先輩、穢れ共は命に代えてでも、私が引き受けます。ですので、今は禰津先輩の安全だけを考えて下さい」

中村さんが迫り来る穢れに対して刀を構える。

右手から左手へ持ち替え、切っ先を下ろす独特な剣術――巫女の力ではなく、自身の業だけで穢れを止めるつもりだ。

神住「ふふっ……中村さん、あなたもそんな目をするのですね」

「分かりました。 今はあなたがたを信じますわ」

遠山先輩が私に歩み寄り、星霊石を手渡してくれる。

「高遠さん、必ず無事で」

鼎「――はい、必ず」

それぞれの星霊石を大切にしまい込むと、私は奈岐に頷く。

「行こう、奈岐。 これで終わりにしてみせる」

奈岐「フッ、神狼の眷族が水先人と言ったところから――上等だ」

不敵に笑った奈岐が星霊石の力を限界まで解き放つ。

吹き荒れる冷気が周囲の穢れを遠ざけていく。

肌を切るかと思うほどの氷塊が渦を巻き、中心で奈岐が力の集束を続ける。

そして、舞台に張り巡らせた氷が弾けると、細氷が眩く煌めいた。

奈岐を覆っていた外套が消し飛び、氷の塵となって大気中に舞い上がっていく。

方向性を持った全ての冷気が奈岐へ集束し、今まで誰も成し得なかった巫女の力を授ける。

鬼子が鬼子の力を使うための星霊石――。

それは人という肉体の枠を外れた力になる。

でも、奈岐は選択した。

必ず生き残り、共に帰ることを私と約束した。

だから、私は彼女との約束を信じる。

眩い光にともない、冷気が奈岐を中心に駆け抜けた。

無数に氷の短刀を浮かび上がらせ、限界まで力を解放していく。

そんな彼女の表情は険しく、歯をくいしばり、
身体に大きな負荷がかかっていることが見て取れる。

奈岐「――鼎、こんな時だからこそ、神狼の話をしよう」

「神狼は贄となる娘を助けたいという願いを聞き届け、最期となる戦いへ一匹で赴いた」

「贄となる娘を助ける……この状況、よく似ていないか?」

さらに力を展開させながら奈岐が不敵に笑った。

確かに……私は贄となる娘だし、お母さん達は私が贄となる解決策を望んでいない。

既に時刻は神狼が戦ったと伝えられる夜だろう。

そして、これから挑むべき相手は神に近いものだ。

鼎「そうだね……似てるかもしれない」

真っ白な狼――織戸伏だけに生まれる鬼子と呼ばれる者。

伝承そのままに出来事は進んでいる。

でも――。

「だけど、奈岐は独りじゃない。 私が一緒にいる」

「だから、絶対に……伝承と同じ結末にはさせない」

伝承で神狼はたった一匹で戦い、最期を遂げる。

そんなことは私が許さない。

一緒に帰る約束を必ず果たしてみせる。

奈岐「……そうだな。 私は生きる」

「そう約束した」

奈岐が両手に短刀を取り、門へ向かって跳躍した。

道を阻む穢れを切り裂き、さらに奈岐が加速していく。

そして、無数の短刀が彼女の側を追従し、周辺の敵を切り刻みながら進む。

並行処理を行えるようになったことで、左右に浮かぶ短刀はまるで
それぞれが意志を持っているかのように動き回っていた。

奈岐は一人でも、自在に動く短刀の数だけ戦える。

だから立ち止まることなく、門へ続く道を真っ直ぐに目指す。

「この手で切り開いてみせる――明日を!!」

立ち塞がる穢れ達に、奈岐が両手の短刀を構えながら突き進む。

奈岐を取り囲んだ穢れが祓われ、四散していく。

畳み掛けるように迫った穢れも自在に飛び交う短刀によって、切り裂かれていった。

「鼎、門が見えた!」

奈岐が開いてくれた道を私は駆けていく。

握り締めた勾玉が何かに反応するように熱を放ち始める。

未だに瘴気を吐き出す門が目前に迫った。

手前に鎮座する岩を背に、理事長と秘書が私の道を阻む。

頼継「大したものだ。 鬼子の在るべき姿を見たようだよ」

手を叩き、理事長が笑みを浮かべていた。

「……でも、こちらにも譲れないものがあるんだ。 僕はこの瞬間の為だけに生きながらえてきた」

「昌次郎、勾玉を使うよ。 鬼退治だ」

昌次郎「はっ……」

秘書が手前の岩に、私の勾玉によく似たものを押し当てる。

頼継「何故その星霊石だけ勾玉を形作ったか、気付いているかい?」

「それは禍時に生まれた魂を示す――禍魂という皮肉さ」

私の禍魂が自然と熱を増幅させていく。

「本来は禍時に石を加工してはならない。 魔が宿るからね」

「でも、僕はその禁忌を犯し、通常の星霊石よりも純度が高く強力なモノを作り出した」

「全ては贄となりかけた姉さんを助けるためにね。 だけど、それが皮肉にも、今はキミの手元にある」

「勾玉に宿った魔が為した業なのかな――いずれにしても、星霊石の意味に気付いていないキミ達の負けだ」

理事長が指を鳴らすと、白い彫像のような物体が動き出す。

鼎「お母さん……!?」

物言わぬ物体は四方に伸びた金属の棘を振るい上げた。

明確な殺意を持ち、鋭利な尖端が私に襲い来る。

奈岐「親に子を殺させるつもりかっ!!」

私の前に現れた奈岐が棘を弾き返し、声を荒げた。

頼継「そんなつもりはないよ。 鬼退治と言ったはずだ」

奈岐「……狙いは私か」

頼継「チェックメイト――終わりだ、向山奈岐」

白い穢れが蠢き、全ての棘を奈岐へ集中させていく。

飛び交う短刀が棘に砕かれ、奈岐のいた地面を深くえぐった。

奈岐「まだた……!」

「その穢れ、無力化させてもらうっ!」

全ての刃を白い穢れに向け、解き放ちながら、奈岐が駆ける。

そして、正面から両者が激突した。

繰り出す氷の刃が次々と砕かれていく。

あれだけの星霊石の力を使っても、戦いは互角――。

いや、違う。奈岐の身体に限界が来ている。

奈岐「ぐっ……!」

棘を受け止めきれずに短刀が砕け散った。

そのまま薙ぎ払われ、土埃をあげて奈岐の身体が地面を転がる。

鼎「奈岐っ!?」

頼継「だから、言ったじゃないか。星霊石の意味に気付いていないキミ達の負けだってさ」

嘲る理事長がやれやれと肩をすくめていた。

鼎「どういうことですか……?」

頼継「星霊石はね、その門から削りだして作るんだよね。 そして、贄となった巫女の魂は門に捧げられる」

「簡単に言っちゃうとさ、穢れと巫女の力って同じなんだよ。 全部、この門から作られ、振り分けられちゃってるわけ」

「穢れを祓ってもいなくならないのは、そのせいだし……向山奈岐がアレに勝てないのも、門の仕組みの御陰さ」

瘴気を吐き出している門へ視線を向ける。

「死者が生者を門へ引き寄せている――こういうのってさ、負の連鎖っていうのかな?」

鼎「祓った穢れの魂は……まさか、また門に……?」

頼継「そそ、この門に還ってきて、また穢れとなる。 死んだ巫女は永久にここで囚われ続け、苦しみ続けるわけ」

「その悲しみや怒りや恨みが、門の封印を保つ力になる。 力は決してプラス方向のものだけじゃないしね」

話を聞けば聞くほど、自身の呼吸が乱れていく。

巫女の嘆きや苦しみによって、この門は守られている。

それは終わることのない地獄でしかない。

穢れとなり、声にならない声をあげ、祓われ。痛み苦しみ、そしてまた新たな穢れとして、門によって生成される。

死んでなお、巫女達は殺され続けていた。

次の贄となる巫女達の手によって、命を絶たれ続ける。

その苦しみが門を封印する力となり、今日まで保たれてきた。

鼎「……奈岐が勝てないのは、どれだけその白い穢れを傷つけても、門が再生させてしまうから……?」

頼継「そそ。でも、それを終わらせる方法もある」

理事長が笑みを浮かべたまま、私へ振り返る。

頼継「キミが門を支える礎になればいい。完全な封印を行うんだ」

「片倉末来というモノと、その分御魂でもあるキミが贄となれば、この織戸伏に存在する門は封印されることになる」

「それは見鬼の業で見れば分かることなんだ。 門を鎮める魂にあと何が足りていないか――」

「力を持った巫女、複数の星霊石を扱える稀代の巫女……その魂を捧げることで、封印は完全なものとなる」

理事長の言葉に息を呑む。

瘴気を吸い込み過ぎたわけではなく、自分の意志が揺らぎ始めていた。

私の決断だけで、数え切れないほどの巫女の魂が救われる。

それが目の前にあるんだ。

鼎「……でも」

「でも、私は約束したんだ。生きて帰るって奈岐と約束した」

頼継「それがどれほどのエゴか分かっているのかい?」

鼎「分かってる。 数え切れないほどの苦しみの上に、私がいて、その上でまだ生き残りたいって言っている」

手の中にあった勾玉を中空へと解き放つ。

「それがどれだけ自分勝手なことであったとしても、私の命は私のもの。 生きるか死ぬかの選択は私がする」

「死者の声に引かれたりはしない。 最後に選ぶのは、いつも自分の意志で無くちゃいけない」

手の平に浮かんだ勾玉が火の粉を散らし始める。

頼継「キミは本当に姉さんとそっくりだ。でも、この状況を覆すことが出来るのかい? キミ一人でいったい何が出来る?」

鼎「なら、聞きます――」

「その岩にどうして勾玉を使ったんですか?」

予想通り、理事長の視線が険しくなった。

手前の岩に秘書が勾玉を押し当て、それから理事長は『鬼退治』と言った。

「まだ話していないことがありますよね」

頼継「そうだね……じゃあ、当ててごらん?」

あの岩が門に通じていて、その門から穢れに力が流れ込む。

そうであるならば、手前の岩に勾玉を使う理由は一つしかない。

鼎「お母さんの……穢れの力を、その勾玉で増幅させている」

頼継「正解だ。でも、もう遅い」

理事長の視線が穢れの方へ向かう。

奈岐「ぐうぅっ……!」

息切れした奈岐が穢れの棘に追い詰められる。

地面を転がった彼女に無数の刃が降り注ぐ。

「ああああああぁああぁ――ッ!!」

回避しきれない棘が奈岐の身体を抉り、鮮血が零れ落ちていく。

獲物を逃すまいと、次の刃が足首を切り裂いた。

「―――― ――ッ!!!」

声にならない悲鳴があがり、奈岐の身体が痛みに仰け反る。

あっという間に舞台が真っ赤な血で染まっていく。

激痛に痙攣を起こしたように震えながらも、奈岐はまだ動く両手を振り上げる。

「はぁっ、はぁっ……まだ……まだだっ!! 生きるんだっ!!」

紡ぎ出される奈岐の氷が穢れに突き刺さり、次の攻撃を止めていく。

鼎「奈岐っ……!」

もう時間が無かった。

これが確実な方法かどうかは分からない・

でも、やらなければ、ここで終わってしまう。

「……お母さん」

(回想・声のみ)

未来「鼎……これはね、お守りだよ」

「困った時、どうしようも無いって時、絶対に鼎を助けてくれる力になる」

「だから、どんな時も最後まで諦めちゃいけない。 お守りを手にして、自分に祈るんだ」

「そう、自分のことを決めていいのは自分だけだよ。 最後に選ぶのはいつも自分の意志なんだ」

「本当に鼎が諦めたくないなら、お守りを手にして、どこまでも戦ってやろうって気持ちを持つんだ」

「御守りが鼎の魂に応えてくれるまで祈るんだ――いいね?」

鼎「お守りに祈る……!」

溢れ出す炎は、私とお母さんの魂――。

「どんな時も最後まで諦めちゃいけない。 お母さんはそう教えてくれた」

「最後に選ぶのは自分の意志だって教えてくれた」

「今は……その言葉を私がお母さんに伝えるよ」

「お母さん、それから……末来さん」

「どんな時でも、最期まで諦めないで」

「諦める事を選ぶのも、諦めないことを選ぶのも、全部、自分の意志なんだよ。 だから――」

「二人が貫こうとした意志を見せて――お願い」

鼎「お母さんっ!! 末来さんっ!!」

二人に呼びかけ、燃え盛る勾玉を突き上げる。

頼継「いけないっ! 昌次郎、岩から離れるんだっ!」

昌次郎「なっ!?」

岩に押し当てた勾玉から光がほとばしり、秘書を吹き飛ばす。

同時に勾玉が激しい炎に包まれ、熱に焼かれ砕け散っていく。

「姉さん……片倉末来……そんな……まさか、呼びかけに応えた……!?」

火の粉を払い、生み出された剣を両手で握り締める。

感じた光と炎は、お母さんと末来さんのものだった。

やっぱり二人はこんな終わり方を望んじゃいないんだ。

「お母さん、その姿がお母さんの意志じゃないのは分かってる。 だから、私が止めてあげないといけない」

門と勾玉による供給が絶たれた今、自分の力を信じれば、勝機は必ずある。

剣の切っ先を白い穢れ――お母さんに向けた。

奈岐「っ……かな、え……」

傷だらけになりながらも、奈岐が私の名前を呼んでくれる。

鼎「大丈夫だよ、奈岐。 私は自分信じる。 奈岐が信じてくれた自分を、どこまでも信じ抜く」

お母さんが私の力に反応して、無数の棘を向かわせてきた。

「お母さん、末来さん、見てて――これがあなた達の娘だよ」

私は床を蹴って、白い穢れへ突き進んでいく。

全ての力を炎に変え、穢れと化したお母さんを祓う――!

炎を纏った剣が金属の肌を貫いた。

「このまま焼き切る――ッ!!」

刀身が赤く発光し、穢れの金属を切り裂いていく。

胴体の半分を切断された穢れは体勢を崩し、ゆらゆらと仰け反っていった。

封印を行うには、一度あの穢れを門へ還す必要がある。

私が剣を構え直し、穢れに向かおうとした時だった。

頼継「待つんだっ! あの門に近づいてはいけないっ!」

鼎「っ……!? どういうことですか!?」

頼継「今のアレは生と死を分かつ境界線だ! もし触れれば、魂を持って行かれるっ!」

それだけの言葉を交わしている間にも、白い穢れの傷が塞がり始めている。

勾玉からの供給が無くなっても、再生力は他の穢れとは比較にならないほど高い。

さすが私のお母さんん――と言いたいところだけど、今はその粘り強さが悪い方向に出ているよ。

鼎「祓う方法は無いんですか!?」

頼継「……それを僕に聞くのかい?」

一瞬、唖然とした後に理事長がハハッと笑い始めた。

「キミは面白いなぁ、ホントに……姉さんにそっくりだ。 僕はまだキミを封印に使う手段を考えているんだよ?」

鼎「じゃあ聞きます。あなたは……お母さんを、お姉さんのことを信じてあげないんですか?」

頼継「…………っ」

鼎「お母さんも末来さんも、私を信じて力を貸してくれてる! それを見ても、まだあなたは信じてあげないんですかっ!?」

私の剣は末来さんの力で光を放ち、私の炎はお母さんの力を得て、さらに燃え上がっている。

「その目で……見鬼の業で私を視れば分かるはずです!」

頼継「…………」

理事長が私を睨み付けるように見た後、長い息を漏らす。

頼継「ハハッ……やっぱり……僕は姉さんに敵わないや」

そう呟いた理事長が私に――違う。 私と共にあるお母さんの力に語りかける。

頼継「姉さん……僕はこの世にいられなかった存在だったよね。 男の鬼子として間引きされるはずだった」

「でも……姉さんが僕を守ってくれた。 まだ子供だったのに、バカみたいに力を使いまくってさ……」

「御陰で諏訪家は大荒れだったよね……ハハッ……」

目元を押さえた理事長が頭を振るい、点を仰いだ。

そして、ゆっくり視線を下ろした理事長は、私に鋭い眼光を向ける。

「あの穢れは僕達が引き受ける。 キミは門を閉じるんだ」

鼎「引き受けるって……そんなこと……」

頼継「時間を稼ぐことなら出来る。 鬼子の目と知恵、そして――」

理事長の側で控えていた秘書がネクタイをゆるめた。

昌次郎「全ては頼継様のために、この力を振るいましょう」

秘書が両手に拳を作ると、穢れへ向けて構えを取る。

頼継「――持って数分だ。 いいね?」

鼎「分かりました……」

理事長が頷くと、秘書が穢れへ向けて駆け出す。

頼継「昌次郎、右から来るっ! 左から回りこむんだ!」

そして、二人の戦いが始まった。

理事長達が時間を稼いでくれる間に、私は門の前へ走り込んだ。

鼎「封印……! どこが力を一番伝えられる……?」

門の手前で、私は視線を左右させていく。

薄汚れた光る鉱石、荒れた地面、瘴気を吐き出す門、そしてその前で鎮座する大きな岩――。

あの穢れに力を渡す際、勾玉を岩に押し当てていた。

岩から門へ、門から穢れへ。 その仕組みが分かっているなら、答えは見える。

「この岩から直接働きかけることが出来るなら……!」

私は剣を振り上げ、岩に突き立てた。

「くっ……あああぁぁっ!?」

途端に、剣を通して様々な思念が頭を過ぎっていく。

これは門に囚われている巫女達の魂……?

負に満ちた感情の波が頭の中を圧迫し、堪らずに声をあげる。

この岩は門と繋がってる。 それは確かだ。

でも、繋がっているだけに彼女達の声が聞こえてしまう。

絶望と悲鳴、慟哭と怨念、生者への憎しみが溢れかえる。

「くうぅっ……!!」

剣を握った手の震えが止まらない。

こちらから力を伝える前に、死者の声に呑まれてしまう。

奈岐「鼎っ!! 一対の力で受け流すんだっ!!」

奈岐の声が響き、意志が僅かに戻る。

振り返ると、地面を這った奈岐が星霊石を掲げていた。

「穢れの記憶を見た時を思い出せ! 奈岐に思念を受け流せ!」

鼎「くっ……!」

すぐに剣から手を離し、奈岐の元へ駆け寄る。

ここまで這って進んできたのか、血の痕がべったりと地面にこびりついていた。

穢れに切られた足から出血が止まらない。

「奈岐……足が……!」

奈岐「そんなものどうにでもなるっ……今は急げ! 奈岐ならどんな思念でも処理が出来るっ!」

鼎「…………っ」

私は奈岐の輝く星霊石に手を触れる。

力の交信がこれで完了した。 あとは一対として、死者の思念を受け流せばいい。

奈岐「行け、鼎っ……! 鼎の手で終わらせるんだっ!」

奈岐に頷き、私は岩に突き刺さった剣へ向かう。

鼎「くっ……!」

柄を手に取ると、同時にまた巫女達の叫びが頭に響く。

私は歯をくいしばり、一対としての魂を体現することだけを、意識し続ける。

奈岐「いいぞ、思念がこちらへ来た……あとは……やるだけだっ!」

頭に反響する叫びが奈岐へ流されることで、私は明確な力を意識することが出来るようになった。

描いた炎の力を剣に注ぎ込み、岩へ力を流し込む。

岩が発火すると、巨大な門が大きく揺れ動き、まるで融解したかのように岩肌が波打った。

鼎「門に変化が起きてる……このままやれれば……!」

そして、さらに力を籠めた時だった。

真琴「くっ祓えないのでは押されるだけかっ!」

刀で穢れの腕を切り落とすが、すぐに再生してしまう。

どれほど中村さんの剣術が卓越したものでも、霊験無きものでは穢れを祓うことが出来ない。

「マコっ! 理事長達がっ!」

神住「そんなっ……!」

真琴「まずいっ! お前達、逃げるんだっ!!」

頼継「間に合わなかったか……でも、これが僕の報いに……なる」

穢れの腕が理事長の身体を掴み上げる。

爪が深く食い込み、鮮血が舞台に滴っていく。

昌次郎「頼継様っ! 報いがあるというのならば、この私がっ!」

秘書が穢れの腕に掌底を叩き込み、金属を砕いた瞬間――。

「がっ……!?」

穢れの放つ棘が秘書の腹を貫いていた。

頼継「昌次郎っ!?」

昌次郎「お逃げ下さい……頼継様っ……! この身が、この魂が尽きようとも、私は……!」

理事長を掴む腕に拳を叩き込み、金属を砕いていく。

頼継「ハハッ……まったく……バカだなぁ、昌次郎……」

「キミがいなくなれば、僕に逃げ場なんてないよ……」

無数の棘が弧を描き、連続して振り下ろされていく。

まるで呑み込むかのように、金属の棘が二人を覆っていった。

鼎「そんな……間に合わなかった……」

奈岐「鼎、意識をそらさずに――」

奈岐が途中で言葉を切り、息を呑んだ。

「なんだ……あれば……」

その視線の先は、理事長達が消えた方向――。

神住「穢れが……集まっていく……」

八弥子「全部、あの白いのに呑まれてる……これって……」

真琴「奴め、高遠が封印することに勘付いたか……!」

中村さんが刀を構え直し、切っ先を穢れが集まる場所へ向ける。

八弥子「マコ、ダメっ! マコまで呑まれるっ!!」

真琴「だが……今、高遠達があの場所を離れるわけには……!」

神住「巫女の力無しでは無謀過ぎますっ!」

真琴「なら、ここで指をくわえて見ていろと言うのかっ!」

中村さんが声を荒らげた時、穢れ達の咆哮が空洞に響き渡った。

穢れ「オオオオオオオオォォォォ――ッ!!」

集結した穢れを呑み込み、その身体からは瘴気が溢れ出す。

白い金属は瘴気を浴びて黒く変色し、紅く虚ろな目が開かれる。

そこにはもうお母さんであった面影は無い。

ただ禍々しく、直視することも躊躇われる異様な穢れが誕生していた。

鼎「くっ……こっちに来る!」

紅い瞳が私を捉え、音も無く穢れの身体がゆらゆらと蠢き出す。

滑空するようにして、次第にその速度が上がり、突進へ変わる。

狙いは私だ――岩に突き刺した剣を引き抜こう力を籠めた。

真琴「させるものかっ!!」

刀を片手に中村さんが穢れに向かう。

六つの黒い棘が反応し、刀を振るい彼女へ降り注いでいく。

「この一刀だけでもっ!!」

引くことはせず、さらに前へ中村さんが踏み込む。

柄を握る手を両手から左手一本に――懐に伸びる秘策の突きを繰り出す。

継いで、甲高い金属音が響き渡る。

「なん、だと……」

棘が中村さんの行動を読み、刀をへし折っていた。

武器を無くした彼女に対し、棘が今度こそ身体を狙う。

神住「避けなさいっ!!」

遠山先輩が中村さんの身体を抱き、その場から転がる。

舞台に棘が突き刺さり、砂ぼこりを舞い上げた。

真琴「くっ……なんて無力な……」

神住「いいえ、今は高遠さんを信じる時です……」

穢れは中村さん達に追撃を加えることなく、再び進路を私へ向ける。

鼎「奈岐、御魂でそのまま私を支援して」

奈岐「まさか、アレとやるつもりか……!?」

岩から剣を引き抜き、刀身に炎を宿す。

鼎「中村さんの行動で分かったよ。 あの穢れは考えを読んでる」

奈岐「見鬼の業……理事長を取り込んだからか……!」

瘴気を放つ穢れには三つの顔が見えた。

お母さんだったものと、理事長達二人の顔が浮かび上がっている。

鼎「アレを止められるのは、私と奈岐の一対だけ」

「一度でも行動を読まれれば、あの棘にやられる」

奈岐「……鬼には鬼を、か」

鼎「神狼じゃなかったっけ?」

剣を構えながら、冗談めかして言うと奈岐が苦笑した。

奈岐「フッ、そうだな……なら、勝ち目はある」

鼎「うん、加護があるあらね」

「奈岐は複雑な思考で見鬼の業を止めて。 アイツの目を乱すだけでいいから」

奈岐「分かった、鼎は死ぬなよ」

鼎「分かってる、それが約束だからね」

奈岐の星霊石がさらに煌めき、強い輝きを放つ。

初めは全然上手くいかなかった私達の力だけど、今はこうして一対として成立している。

心を通わせ、互いの魂を共鳴させ――奇跡を宿す。

「…………」

小さく息を吐き出し、つま先に力を籠める。

「お母さん、末来さん……待っててね」

私は地面を蹴って、迫り来る穢れへと突き進んでいく。

「これで終わりにさせるっ!!」

降り注ぐ棘をかいくぐり、一気に距離を詰める。

そして、最後の炎を解き放つ。

固い金属を切り裂いた感触――手応えがあった。

振り下ろされる棘が当てずっぽうな方向へそれていく。

「まだっ!!」

身を捻じり、両手で持った剣で袈裟懸けに斬る。

ギギッと火花が散り、瘴気をはらんだ金属が溶けていく。

そして、返す刃で胴体を焼き切ると穢れの身体が大きく揺らいだ。

奈岐「鼎っ! 頭を狙えっ!!」

地面に突き刺さった棘を蹴り、私は宙へ飛ぶ。

鼎「たあああああああぁぁ――ッ!!」

剣の切っ先を真下へ向け、穢れの頭部に突き立てる。

ガンッと金属音が響き、頭に剣がめり込んでいく。

体重を乗せ、剣を押し込むと同時に内部から発火させる。

燃え盛る炎が瘴気に包まれた穢れを焼き払う。

頭部に燃える剣を残したまま、私は穢れから飛び退いた。

「やった……?」

次々と棘が地面に落ち、穢れの動きが鎮まっていく。

奈岐「まだだっ!」

「いや――違う!」

振り上げようとした穢れの腕が止まる。

まるで何かに腕を掴まれているかのように、中空でがくがくと震えていた。

「……そういうことか、その言葉を代弁する」

「穢れの力が弱まった今、理事長達の意志が奴を止めている。 この機会を逃すな……そう言っている」

鼎「…………」

並ぶ穢れの三つの顔――その中にある理事長の顔が僅かに動いた気がした。

「うん、分かったよ。 これで終わりにさせるから、待ってて」

すぐに私は踵を返し、門へと向かう。

手の中に勾玉を戻し、みんなから預かった星霊石を取り出す。

目の前には門へ通じる岩、そして門は不気味に波打ちながら、瘴気を吐き出し続けている。

まるで最後の足掻きかのように、穢れを生み出そうとしていた。

「……みんなの力、借りるよ」

あと一歩、最後の一押し――それは私だけの力では足りない。

だから、みんなから託された希望を紡いでいく。

「――由布」

「私の大切な友達――いつも怒らせてばかりいたね」

「でも、私は知ってる。 由布がとても優しい子だって」

「風間家の子として、巫女になることをずっと求められてきた。
でも、本当は遠山先輩に憧れている普通の女の子なんだよね」

「由布、もっと素直になってもいいんだよ。 きっと見えてくる世界が変わるから――」

「私は由布の友達だから、その背中を押してあげるから。 だから、今は――」

「――――ッ!!」

握り締めると、由布の星霊石は力を解き放ち、星屑が散っていく。

周囲に流れ出す力は由布の存在を感じさせる。

星屑が岩に近づく瘴気を撃ち抜き、次々と祓っていく。

まるで由布の銃弾が撃ち込まれているかのように、星屑が煌めき、穢れを祓ってくれる。

「――恵」

「恵も私の大切な友達だよ――」

「恵みは優しすぎるぐらいだよ。 だから、言えないことを心の底にいっぱい溜め込んじゃってる」

「でも、口を閉じることと優しさは違う。 自分を苦しめるのが、優しさだなんて、私は認めない」

「だから、もっと色んなことを話そう。 私は恵の友達だから、恵を嫌ったりしないから」

「一緒に、一つずつ話していこう。 きっと分かり合える。 だから、今は――」

「――――ッ!!」

恵の星霊石を解き放つと、さらに星屑が散っていく。

周囲に流れ出す力は恵の存在を感じさせる。

星屑が岩を取り巻くように煌めき、瘴気を遠ざけていく。

きっと恵の優しさが私達を守ろうとしてくれている。

「――遠山先輩」

「いっぱい迷惑をかけてしまいましたね。 ごめんなさい」

「私は……先輩が被っている仮面を知ってます。 でも、それが悪いことだなんて私は思わないです」

「先輩が御花会をまとめる立派な人でいてくれるから、私はこんな風に無茶することが出来るんですよ」

「先輩、そんな自分を嫌わないでいて下さい。 そうして生きてる先輩も先輩なんですから」

「それに、そんな先輩のことが由布は大好きなんですよ。 生きて由布のところに帰りましょう。 だから、今は――」

「――――ッ!!」

遠山先輩の星霊石を解き放つと、さらに星屑が散っていく。

周囲に流れ出す力は遠山先輩の存在を感じさせる。

星屑が煌めき、瘴気を吸い込み、砕け散っていく。

きっと遠山先輩がこんな時でも私達を庇ってくれている。

「――三輪さん」

「私、最初に聞いたよね? 仲良くなれる方法をさ」

「……それがちょっと分かった気がするんだ。 三輪さんも心に色んなことを抱え込んじゃってる」

「それを誰にも打ち明けられないから、自分を守るためにどうしても刺々しくなっちゃうんだよね」

「私ね、打たれ強いからさ、頑なにされちゃうと、強引に押し迫っちゃうよ?」

「取って食べられたくなかったら、今度一緒に話をしよう。 一つずつ三輪さんを知っていきたい。 だから、今は――」

「――――ッ!!」

三輪さんの星霊石を解き放つと、さらに星屑が散っていく。

周囲に流れ出す力は三輪さんの存在を感じさせる。

星屑が煌めき、門に向かうための道を切り開いてくれる。

どこか渋々やってくれているのが三輪さんらしくて、少しだけ可笑しく思えてしまう。

「――中村さん」

「やっと分かり合えたね。 私達ってホントはそっくりなのにさ。 すれ違って、ぶつかってばかりだった」

「でも、真実を前にして、お互いを知ることが出来た」

「私より真面目で、真っ直ぐな人だから……それだけ抱えた想いは強くて、輝いて見える」

「これからが中村さんにとってのスタートラインになるんだと思う。
でも、一人じゃない。 私達は中村さんを知ることが出来たから」

「色んなことを話して、私達と一緒に歩んでいこう。 嬉しいことも悲しいことも分かちあおう。 だから、今は――」

「――――ッ!!」

中村さんの星霊石を解き放つと、さらに星屑が散っていく。

周囲に流れ出す力は中村さんの存在を感じさせる。

星屑が蒼い炎を舞い上げ、不気味に蠢く門を焼き払っていく。

真っ直ぐな中村さんの力が一番槍として門を押し込んでくれる。

「――八弥子さん」

「いつも私達を見守ってくれてありがとうございます」

「その身体に流れてる血は、今も八弥子さんの中で葛藤を生み続けていると思います」

「でも、八弥子さんはもう気付いているんですよね。 その血もまた自分の一部だから認めないと、って

「もう強がって戦う必要なんてどこにも無いんですよ。 ありのままの八弥子さんが私達は大好きなんですから」

「これからも一緒に。 もちろん、ガジも一緒に。 私達と歩いて行きましょう。 だから、今は――」

「――――ッ!!」

八弥子さんの星霊石を解き放つと、さらに星屑が散っていく。

周囲に流れ出す力八弥子さんの存在を感じさせる。

星屑が煌めき、門を動かす突風と化していく。

いつも助けに来てくれる八弥子さんが門を押し進める。

「――末来さん」

「本当はお母さんって呼ぶべきなんですよね。 でも、そうすると混乱しちゃいそうです」

「末来さんはお母さんとの約束通り、私は導いてくれました。 そして、最後の時まで私を想ってくれました」

「その温かい気持ち、全部私の胸に届いています」

「末来さん……ううん、今はお母さんって呼びます。 もうお母さんと会えないのは知ってます」

「だから、言わせて下さい。 私を生んでくれてありがとう。 末来お母さん――大好きだよ」

「――――ッ!!」

末来さんの星霊石を解き放つと、星屑が舞い上がっていく。

「――そっか、鼎にはもう全部分かっているんだね」

末来さんの声が溢れ出す光り共に響いた。

「鼎、もうボクの魂は人の形を作ることが出来ない。 だから、ここでお別れになる」

「でも、ボクは嬉しく思う。 一人の母として、鼎の明日を作ることができるんだ」

「ボクは未来と一緒に封印の礎となる――あとは鼎がその手で完全に門を閉じるんだ」

「――鼎、お母さんと呼んでくれて嬉しかったよ」

「大好きな鼎、大切なボクの娘……さあ、振り返らずに鼎らしく真っ直ぐに進むんだ」

周囲に流れ出す力は末来さんの存在を感じさせる。

「……うん、私は振り返らない。 前だけを見て進むよ」

「だから、最後まで見てて」

星屑が煌めき、末来さんの温かい光が門を包み込んでいく。

そこで待っているお母さんと一緒に最後の光を見せてくれる。

そして――。

奈岐「――鼎、終わりにしよう」

「この先にある未来を奈岐に見せて欲しい」

奈岐が投げた星霊石を私はしっかりと受け止める。

鼎「――奈岐」

「私は奈岐を独りにしないと約束を交わした。 それは呪いになる言葉かもしれない」

「でも、後悔なんてない。 私は奈岐を愛しているから。 その気持ちに曇りなんてないから」

「今は奈岐が踏み出すことが出来なくても、私は待つよ。 奈岐が一番伝えたい想いを見つけてくれるのを待ってる」

「私は奈岐を独りなんてさせないから。 ずっと側にいるから。 手と手を繋いだまま、どこまでも一緒に歩いて行こう」

「そのために――私が終わらせてみせるから」

「――――ッ!!」

奈岐の星霊石を解き放つと、星屑が私の身を包んでいく。

私に流れ込んでくる力は奈岐の存在を感じさせる。

星屑が煌めき、私に一対としての魂を振るわせてくれた。

共鳴する魂が一つになり、奇跡を起こせるだけの力が宿る。

「お母さん――これで最後だよ」

「このお守りの力、全部使い切るから。 きっとお母さんと通じ合えるのも最後になる」

「この勾玉はお母さんが残した魂だったんだよね。 いつも私を励ましてくれてたんだよね」

「ずっと感じてたよ。 お母さんの温かさ、熱い気持ち――。 だから、ここまで来ることが出来たんだよ」

「お母さんの意志と私の意志、それが重なってる今、ようやく終わらせることが出来るんだね」

「――私、やり遂げて見せるから。 だから、見てて」

「燃えろ――ッ!!」

勾玉から炎が溢れ出し、私にお母さんと同じ力を与えてくれる。

流れる炎の力を集束させ、最後に片手を突き上げた。

紡いできた絆の力が一つになり、私の手に宿っていく。

織戸伏島で続いた連鎖を終わらせることが出来るだけの力。

これで一つの歴史が終わる。

でも、そこで終わりなんかじゃない。

一度流れた涙や血を救うことは出来ないけど、繰り返させないことは出来る。

これが終わりで、これが始まりになる。

「これが私達の想いの全て、絆の力だっ!!」

両手に握った剣を岩に突き立て、集まった力の全てを流し込む。

紅蓮の炎が岩を焼き、地面を焦がし、門から瘴気を祓う。

紅に染まった世界に押し込まれ、僅かに開いた門が動き出す。

ゴゴッと地鳴りを響かせ、門が閉じていく。

生と死を分かつ境界が封印の力によって閉じられる。

穢れは浄化され、現世の光が溢れ出す。

動きを止めていた穢れも光の粒へ変わり、囚われていた魂は全て門の向こうに消えていく。

肌を突き刺すような空気は暖かなものへと変わる。

私を包んでいた熱も勾玉へ戻り、そこに宿っていた力も――お母さんの魂も光の中へ溶けていく。

足が動き、私はその光を追いかける。

届かない光に手を伸ばして、それでも届かなくて、だから、私は飛びつくようにして光の中へ飛び込んだ。

光が瞬き、私を包んだのはどこか懐かしい温もりだった。

その感覚に私は身を委ねながら自然と声をあげる。

「……お母さん」

未来「ようやく……鼎をこの腕で抱きしめられたね」

「こっちの台詞だよ。 やっとお母さんに会えた」

どうりで温かいわけだ。

お母さんの腕は私をしっかりと抱きしめてくれていた。

子供の頃と変わらずに、私をあやすように髪を撫でてくれる。

未来「……ホントに大きくなったね。 お母さんの手を引いていたのが懐かしいなあ」

鼎「それ何年前の話? もうそんな子供じゃないよ」

未来「そうだね、でも鼎は鼎だ。 お母さんの子供だよ」

頭を撫でてくれる感覚に懐かしさと嬉しさを覚えて、目頭が熱くなった。

「お母さんがやろうとしたこと……ちゃんと鼎がやり遂げてくれたね」

鼎「正直、無茶ばっかりだったよ?」

未来「ふふっ、でも最後まで頑張ってくれた。 鼎は自慢の娘だよ」

鼎「じゃあ、いっぱい自慢しておいて下さい」

お母さんが肩を震わせて笑ってくれる。

未来「鼎も言うようになったねぇ。あははっ、これが成長かぁ」

鼎「七年も経ってるんだよ? それに色々あったの」

未来「大人の経験とか?」

鼎「親にそんなことは答えられません」

次は二人で笑い合う。

そうすることがとても懐かしくて、ずっと、こうしていたくて、でも――分かっているから。

目尻から涙が伝い、頬を濡らしていく。

未来「鼎、無理していないかい?」

鼎「うん、平気だよ」

未来「……お母さん、鼎には我慢させてばかりだったよね。 あんまりいいお母さんじゃなかったかもしれない」

鼎「ううん、そんなことはない。 そんなことないよ」

「私にとって、お母さんは……ホントに自慢のお母さんなんだよ」

そんなお母さんの温もりを求めて腕を回す。

頭を撫でてくれる温もりに目を細めながら、今という瞬間に感じる感覚を全て記憶に刻む。

未来「自慢のお母さん、かぁ……ふふっ、嬉しいね」

「ねえ、鼎? もうお母さんは鼎の側にいられない。 ちゃんと一人でもやっていける?」

鼎「……色々知ってる癖に」

「私は……一人なんかじゃないよ」

未来「あははっ、そうだったね。 鼎には可愛い恋人がいるしね」

鼎「友達だって、いっぱいいるもん」

「お母さんこそ、平気?」

未来「鼎がお母さんの心配をしてくれるのかい? ふふっ、平気に決まってるじゃないか」

「これからは末来のやつだって一緒なんだ。 お母さん達も元気にやっていくさ」

鼎「……じゃあ、末来さんにもよろしく、だね」

未来「ああ、言っておく」

言葉が途切れると、温もりも薄れていく。

時間が来た――頭のどこかでは分かっていた。

鼎「…………」

未来「鼎、そんなに強く抱きついたら行けないじゃないか」

鼎「うん、でも……」

未来「…………鼎」

鼎「……分かってる」

腕の力を緩める。

感覚が遠のいていく。

胸が痛くなる。

零れ出す涙が止まらない。

未来「鼎、幸せになるんだよ。 それがお母さんの最後の願い」

鼎「……幸せになるよ。 お母さんよりも幸せになる」

未来「ふふっ。そっか、その心意気だ」

とんっと背中を叩かれた。

これが合図だって分かった。

震え出した唇が何とか言葉を紡いでくれる。

鼎「私ね……お母さんのこと、大好きだよ」

未来「うん、お母さんも鼎のことが大好きだ」

未来「愛してる、鼎」

手が離れる。

腕が離れて、言葉が告げられる。

未来「ばいばい、鼎」

鼎「うん、さようなら――お母さん」

光の波が押し寄せ、視界が真っ白に染まる。

無数の光に流されて、この境界が無くなっていく。

「お母さんっ……!」

声が届くかどうかも分からない。

でも、私は最後の時まで声を上げ続ける。

鼎「私っ、お母さんのっ……分までっ……っ……ぁ……!」

言葉になってくれない。

でも、言葉にしようと何度でも声を上げる。

「お母さんのっ……分まで……っ……幸せにっ……!!」

お母さんの分まで幸せになるから――だから、安心して。

そんな言葉も紡げない自分が悲しくて涙が止まらない。

でも。

「ああ、幸せになるんだよ――鼎」

言葉は届いていた。

鼎「…………うんっ」

眩い世界が閉じていく。

ほんの僅かな再会と別れの時間が終わり、それぞれがいるべき場所へ戻る。

私にも待ってくれている人達がいて――きっとお母さんにも待ってくれている人がいる。

「さようなら、お母さんっ……!」

戻ったら、いっぱい泣いて――そこから歩きだそう。

そう胸に誓って、私は流れる光の感覚に目を閉じた。

ゆらゆらと身体が揺すられる。

誰かが呼ぶ声がして、戻ってきたことが分かる。

「…………」

ゆっくりと目を開けると、そこは祠の舞台の上だった。

奈岐「どうした? 悪い夢でも――いいや、良い夢をみていたか?」

奈岐の膝を枕にしていた私は少し微笑む。

鼎「そうだね……だから、泣いているんだと思う」

頬を伝うの熱い涙だと分かる。

止めようにも止まらずに溢れ続ける。

奈岐「みんな、後処理で忙しい。 誰も見ていない。 鼎、我慢する必要なんて無いんだ」

鼎「奈岐……お母さんみたいなこと。言うんだね」

奈岐「忘れてもらっては困るが、二つも年上だぞ? 甘えられるだけ甘えてもいい」

鼎「ふふっ、忘れてたよ……だから、その分だけ甘える」

奈岐の細い腰に手を回してお腹に頬を埋めた。

声を上げて泣き始めた時、彼女は優しく髪を撫でてくれる。

喉が潰れるんじゃないかと思うぐらいにむせび泣いて、奈岐の身体に何度もしがみついた。

流せる涙は全部流してしまおう。

ちゃんと前を向いて、これからも歩いて行けるように。

私達がそうしている間にも、時は流れ、自体は変化していく。

祠に現れた松籟会のお爺さんに遠山先輩が詰め寄り、それはもう酷い抗議をしたらしい。

遠山家の当主が先輩に変わってしまうほどの出来事が、同じ空間で起きていただなんて……少し可笑しい。

中村さんは真実を携えながらも、叔母さんと冷静にやりとりを交わしたらしい。

きっと中村さんに待っている現実は過酷だから、その心づもりがあったのだろう。

力尽きた八弥子さんは駆け付けた葉子先生に、運ばれていったと聞いた。

八弥子さんの傷口はかなり開いてしまっていたけど、命に別条は無いらしく、私達は胸を撫で下ろす。

学園長に連れられ、由布と恵、三輪さんもこの広間を訪れたらしい。

学園長はその口で彼女達に事実を説明し、伏せられていた歴史を語り聞かせた。

変わっていく島の歴史を新しい世代へ語り継ぐために――。

奈岐「なあ、鼎……」

鼎「ん……?」

奈岐「奈岐のこと、気付いていたんだな」

鼎「……言わない方が良かった?」

奈岐「いいや……御陰で自分と向かい合うことが出来そうだ」

「だから、礼を言いたい」

鼎「ふふっ、じゃあ、お礼をして」

奈岐「…………っ」

「…………か、鼎……ありがとう……」

唇が重なる感触。

その幸せな時の流れに私は目を閉じる。

歩み出すと、様々なものが変化していく。

それはこれからも続いていくだろう。

変わらないものなんて無い。

きっと私達を繋いでくれた好きの意味も変わっていく。

私が望んだ愛になってくれるのか、それはまだ分からない。

でも、前向きに考えて良さそうなのは確か――。

奈岐「鼎……その……なんだ……」

鼎「うん?」

奈岐「…………今度、言う」

鼎「ふふっ、待ってるよ」

少し時間はかかるだろうけど、でもその時を楽しみに。

これからも私達は手を取り合って歩いて行く。

八月に入ると、織戸伏島は本格的に夏を迎える。

通常通りに運行する定期船には二人の人影があった。

頼継「さらば織戸伏島よ――ってところかな」

昌次郎「本当によろしいのですか?」

頼継「ああ、もう僕があの島で出来ることはない」

「……姉さんと片倉末来が礎となり、高遠鼎達の力が封印を完全なものとした」

「それに……未来を紡ぐのは僕の仕事じゃない。 諏訪家は終わり、僕は過去の人間になる」

「そうすることで、織戸伏の島は在り方を変えていく」

昌次郎「……頼継様」

頼継「さて、昌次郎――どこへ行こっか? 世界は広いよー!」

昌次郎「フッ……頼継様が望まれるのでしたら、私はどこへでお供いたします」

定期船は二人を乗せ、水平線へ消えていく。

その後、二人がどこへ行ったのか知る者はいない。

でも、彼が行った通り――織戸伏の島は在り方を変えていく。

櫻井「ようやく……肩の荷が下がりましたね」

葉子「そんな、まだまだ学園長には頑張って頂きますよ?」

櫻井「んんっ……金澤先生、時代は変わるものです。 古き者の象徴である私が一線を退くことも……」

葉子「でも、知っているからこそ、教鞭を執ることも出来ますよね?」

櫻井「……はぁ、後任が決まるまで見逃してはくれなさそうですね」

葉子「ふふっ、当然です。 まだまだよろしくお願いしますね」

神住「――ですので、御花会の在り方も変わる必要があります。 祭りは形を変え、巫女もまた変わるでしょう」

縁子「形骸化するとはいえ、巫女の存在は必要です。 選抜に当たって、何を重要視するか――
それは御花会でも取り決める必要が」

神住「ふふっ、縁子、祭りが一般的な祭りへと変わるのですよ。 神楽の練習も必要になりますわね?」

縁子「神楽……それもまた巫女の務めかもしれませんが……しかし、それは織戸伏とはまた……違うような……」

神住「縁子、肩の力を少し抜きなさいな。 高遠さんにもそう言われたのではなくて?」

縁子「そ、そのようなことを今持ち出されてもっ」

神住「あら、そんなに顔を赤くして。 何を言われたのかしら?」

縁子「…………」

真琴「……母さん、ちゃんと終わったから。 もう何も心配しなくていいよ」

八弥子「ね、やっぱり学園を辞めちゃうの?」

真琴「禰津先輩、来ていたのですか……」

「自分はもう少し外の世界に触れる必要があります」

「彼女が外で見てきたものを、私も見ることが出来れば、きっと何かが変わるような……そんな気がするのです」

八弥子「そっかー。でも、行くなら行くで、みんなにちゃんと言わないとダメだよ?」

「ふふーっ、盛大なお別れ会を開く予定だからっ!」

真琴「……あまり派手なのは控えて頂けると」

八弥子「んー? ジャンボクラッカーは人数分だけ注文したよ?」

真琴「……そ、それは……」

八弥子「どーかぁんっ! ってね!」

真琴「ふふっ……賑やかになりそうですね」

由布「あー、もうっ……鼎のやつ、また逃げてるしっ!」

恵「由布ちゃん、夏期講習に遅れちゃうよ?」

由布「葉子先生から、今日こそ連れてくるようにって散々言われてるのにぃ……どうしよう……」

恵「由布ちゃん、落ち着いて。 そうだ、きっとカナちゃんなら、いつもの場所だと思うから!」

由布「いつもの場所……? 何それ、初耳なんだけど」

恵「あ……な、なんでもなーいっ」

由布「恵、あんた何か知ってるでしょ……?」

恵「し、知らないよぅ! ほらっ、遅刻しちゃう!」

由布「こらっ、ちょっと待ちなさいってば!」

恵「待たないよぉ! 待ったら、由布ちゃんに怒られるもんっ!」

由布「はぁ、また先生に怒られる……鼎のやつぅ……」

「もう……仕方ないなぁ……今回だけだからね」

島も人も――変わっていく。

止まっていた織戸伏島の時間が動き出し、様々な変化をもたらす。

ただ、それが小さなさざ波から大きな波へと変わるまでは、もう少しだけ時間がかかりそうだった。

潮風が私達の髪を撫でる。

波渋木が跳ね、冷たくて心地いい。

強い日差しは夏らしく、肌を焼くように照り付ける。

本土のような蒸し暑さはなくとも、暑いものは暑い。

でも、海沿いにいると、そんな暑さも少しだけ忘れられる。

鼎「風、気持ちいいね」

私達は堤防に座りながら、水平線を眺めていた。

その先には、私達が向かうことになった本土が待っている。

奈岐「……ああ」

三年生の奈岐は進路相談で島を出ることを告げた。

この島で彼女を縛るものは無くなり、途端に世界が広がった。

だから、一つ約束を果たすことになる。

島の外を見に行こう――それもまた約束だった。

「鼎、外の世界は広いか?」

鼎「うん、凄く広い」

奈岐「……そうか」

目を閉じ、波の音を聞きながら、奈岐は私の腕に触れる。

「鼎……奈岐は迷子になるのは嫌だ」

鼎「お父さん、お母さんはどこですか? って聞かれちゃうね」

クスッと笑った私を奈岐が見る。

奈岐「初めて会った時、鼎はそんな調子だったな」

鼎「ふふっ、何だか懐かしいね」

「大丈夫、私は奈岐の側にいるから。 迷子になんてさせない」

奈岐の背が私にもたれかかり、体重を預けてきた。

奈岐「だが、どうするつもりだ? 奈岐は来年で卒業だが、鼎は違う」

鼎「ふふんっ、こう見えても転入経験があります」

奈岐「……不法侵入は外の世界では控えてくれよ?」

鼎「あはは、事故がなければ平気だよ」

奈岐「まったく……」

「でも、楽しみだ。 すごく楽しみだ」

奈岐が水平線の彼方へ視線を戻す。

きっと彼女の瞳には果てなく広がる世界が映っているのだろう。

閉鎖された島から外の世界へ。

それは大変な冒険になるかもしれない。

でも、私達は手を取り合って進むことを誓った。

二人ならどんな大変な事も乗り越えられる、と本気で思う。

だって、それだけのことを私達はこの島でしてきたんだから。

奈岐「鼎、ずっと一緒にいるための言葉、用意してきた」

鼎「んー?」

海の向こうを見つめたまま、奈岐が微笑んだまま唇を動かす。

奈岐「――――」

その言葉はずっと待っていたもので、嬉しさから笑みが零れる。

鼎「えへへ……照れるね」

奈岐「鼎は……奈岐によく言ってくれる」

鼎「ありがたみがない?」

奈岐「そんなことはない。 言葉は力になる」

鼎「んー、じゃあさ、もう一回――聞きたいっ」

奈岐「…………」

墓穴を掘ったと奈岐が苦笑してしまう。

でも、再び微笑みを浮かべると奈岐は私に告げてくれる。

奈岐「――鼎、愛している。 結婚できるところへ行こう」

鼎「えへへ、頬が緩んじゃうよ」

奈岐「しばらく緩んでいてくれ。 その方が嬉しい」

鼎「ふふっ――」

青空を真っ白な海鳥が羽ばたいていく。

翼をはためかせて、空へ昇る。

遥か遠く、私達が見つめる水平線の彼方を目指して、羽ばたいていく。

外の世界は広い。

それでも私達は手を取り合い、歩み出していく。

あの空に羽ばたいた鳥のように、私達はどこへでも行ける翼を手に入れた。

だから、どこへでも行こう。

その先にお母さんと約束した幸せを信じて。

二人で歩み出す――。”
脚本
⇒相手を信頼する事が、一対の本質。それを他の者までが鼎に対して行っている。
鼎が皆の想いに共鳴する事が「星彩のレゾナンス」という題の意味。
“星彩効果”とは、特定の宝石に見られるいくつもの光の筋が一点で交わる様を言う。その中心にいるのが鼎である

⇒後日談、奈岐の言葉が一回目は聞こえないのが、相変わらず西村氏の口説き上手な所。焦らしてくれる

⇒港を背景に選んだのは、旅立ちの象徴。また、海鳥は困難を乗り越える事の象徴と考えられる
演技
演出
作画
補足

 


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