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奈岐編 注釈四

4-1-1 4-1-2
状況
神住に謝る為、出待ちする二人。謝罪後、自室へ。
謹慎処分の通達。その内容は三日間の謹慎後、
御花会の模擬戦に合流すること、および課題
奈岐のマル秘ノートを受け取った鼎、
課題より穢れの知識を復習する事を優先
時間
二十九日目・ 二十九日目・朝~昼
場所
寮前 ~ 寮・自室
寮・自室
設定
・織戸伏の夏は暑いが、蒸し暑くはない
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T20-12, 奈岐への想い

鼎“「奈岐、ちょっといい?」

奈岐「ん?」

振り返った奈岐を見て、私は微笑む。

《ね、口調は保留のまま?》

「……っ!? そ、それは……ほ、保留のままで……」

あえて頭の中で訊ねてみたけど、これは便利かも。

《これから遠山先輩に会うから、キャラ作りとか?》

「そ、そういう意味もある……だから、また今度……」

鼎「ふふっ」

奈岐「……意地悪」

照れながら睨みつけてくる奈岐を見て、自然と笑みが漏れる。”

T24-1, 変わる奈岐

神住“「……あなた達、今日から謹慎処分のはずですよ」

姿を見せた遠山先輩は私と奈岐に険しい視線を向ける。

鼎「謹慎は分かっています。でも、その前に先輩にちゃんと伝えて
おかないといけないことがあるんです」

神住「私に……?」

鼎「一昨日の火事と落石騒ぎ、ご存じだとは思いますが……
全部、私と奈岐がやったことです」

「ただ四匹も穢れが現われて、ああしなければ、私も奈岐も
無事に帰って来れなかったと思います」

遠山先輩は腕を組んだまま、私の話に耳を傾けていた。

神住「……どうして夜中に穢れと?」

鼎「そ、それは……」

穢れを調べるため――と告げていいのか迷っていると、

奈岐「穢れは祓うべきもの。私は独自にその行動を取っている。
一対に選ばれた鼎には、その手伝いをしてもらっていた」

神住「…………」

昨晩のことがあるからか、遠山先輩の表情は険しいままだ。

奈岐「遠山、鼎の話は全て本当だ。その上で私からも一言ある」

神住「何でしょうか?」

警戒する遠山先輩に対して、奈岐はフードを下ろすと、
陽光に色素の薄い髪と肌を晒す。

奈岐「遠山、昨日の夜は……すまなかった」

神住「えっ……?」

奈岐「弱みに付け込むようなことをした……悪く思っている」

神住「…………」

唖然とする遠山先輩に奈岐がほんの少しだけ頭を下げた。

奈岐「昨日の話、取り下げてもらってもいい。だからといって、
他言する気もない」

神住「どういうこと……です?」

奈岐「判断は遠山に任せる。どんな処分が下がっても、
私は昨日告げたことを誰かに言うつもりもない」

「一言、誤りたかった……それだけだから」

奈岐は再びフードを被ると、私に視線を向ける。

鼎「私も奈岐と同じ心構えです。どんな処分でも受けるつもりです」

「ただ、退学だけは許して欲しいなぁ……と思いますが……」

そう言いながら、ちらりと遠山先輩の表情を窺う。

神住「二人して朝からどうしたのですか、頭でも打ちましたか?」

クスッと微笑みながら、遠山先輩は私と奈岐を見比べる。

神住「許可無く夜間に外出したのは問題ですが、あの事件が
穢れから身を守るためということでしたら、酷い処罰は下りませんわ」

「ただ謹慎処分はまぬがれないと思って下さい」

鼎「……はい、分かりました」

遠山先輩がフードを被ったままの奈岐に視線を移す。

神住「向山先輩、巫女候補としての最後の年――
高遠さんと出会えて、本当に良かったかもしれませんね」

奈岐「……遠山」

神住「せめて私が取り仕切っている間、一度でも御花会に顔を出して
頂ければと思いますが……ふふっ、それはまた別の話ですわね」

「高遠さんも向山先輩も部屋に戻っておいて下さい。
午前中には処分の通達が行くはずです」

鼎「分かりました」

神住「それでは」

遠山先輩が私達の前から立ち去り、学園の校舎を目指していく。

その背中を目で追いかけながら、ふぅと長い息を吐き出した。

鼎「……良かったぁ、内心どうなるかとドキドキしてたよ」

奈岐「鼎、私は……あんな調子で問題無かったか?」

鼎「うん、ちゃんと謝れてたよ」

奈岐「そうか……良かった。慣れないことだったから」

言われてみれば、奈岐が誰かに謝るところは想像出来ない。

まして、毛嫌いしている御花会の人たちになんて有り得ない話だ。

これを機会に距離が縮まって、模擬戦に……とはいかないだろうけど、
それでも遠山先輩との関係は少し軟化したかもしれない。”

T1-26, 鼎の強い意志、母への想い

鼎“お母さん、時間かかっちゃってるけど……
絶対にお母さんのところに辿り着いてみせるから。

心の中でそう誓い、私は寮の中へ戻っていった。”
T18-12, 穢れの調査 / f7-20, 見鬼
F9-19, 巫女の真実

鼎“「特徴に形態に……出現時期……うーん」

穢れについての知識を奈岐のノートから
再確認していく。

穢れを祓えるのは巫女の力のみであり、
海水で清めることや、直接的な攻撃――
岩で押し潰すなど――は効果が無い。

ただし、穢れの身体に大きな損傷を与えること
が出来れば、その再生に時間がかかるため、
隙が生じる。

肉体再生中、黒い霧のようなものが穢れの
身体を構築していく様子を確認した。

霧の正体はわからないが、穢れは肉体を持つ
化け物というより、霊的な存在に近いものだと
断定できる。

その理由として、穢れを祓った時に痕跡一つ
残さないというものが一つ――完全に奴らは
実体を残さず浄化されてしまう。

二つ目、実体は無いが、見鬼の業をもって、
奴らを観察すれば、はっきりと魂のような
ものが確認出来る。

鼎「これって……」 (以下の三文は回想)

奈岐「幽霊か妖怪かは、実体を持つか否かで
論じられるところだが……穢れに関して
言えば、霊的なものに近いと判断している」

鼎「その理由は?」

奈岐「何も残らないからだ。それに――いや
それだけだ」

鼎「あの時……奈岐が言いかけたこと」

私はノートに再び目を落とす。

その魂は淀んだ空気のようであり、
言葉にするのは非常に難しい。

そして、そこから聞き取れる声は叫び――悲鳴だ。

頭が割れるような絶叫をあげるため、長時間に
わたって、見鬼の業で観察することは
危険と考える。

もし一対の御霊を体現し、巫女の力で
奴らの悲鳴による意識への被害を緩和できる
なら……《声》を聞けるかもしれない。

鼎「巫女の力……もし私が奈岐の力に
なることが出来れば……」”

T22-3, 鬼子の力 / T8-8, 神狼伝説

奈岐“「鼎、暇で死にそうだ……」

鼎「あはは……でも、謹慎中だよ?」

誰かに見られるのはまずいと思い、
奈岐を部屋の中へ招く。

奈岐「寮から出なければ問題ないだろう」

それはそうかもしれないけど、と考えていると、
奈岐が私の机に置かれた課題の山に手をかける。

「では、出された課題を二人で処理する
という名目でどうだ?」

鼎「む……奈岐、ずるい。それは断れないよ」

奈岐「フッ、今日一日で課題を終わらせて、
残り二日は有意義に使わせてもらおう」

不敵な笑みを浮かべた奈岐が
課題の参考書を開く。

鼎「奈岐の分は?」

奈岐「私? 私に課題は出ない仕組みだ」

鼎「それって、ズルしたの?」

奈岐「いいや、三日分の課題程度では
私を半日も拘束出来ないからだ」

もしかして、奈岐ってもの凄く成績とか
良かったり……?

奈岐「――私は端から見ても特別だからな」

そう言った奈岐が特別の証拠である髪を
掻き上げる。

鼎「はぁ……神狼様は頭もいいんだね。
うらやましい」

やれやれと苦笑しながら、由布の椅子を借りて、
奈岐と一緒に机に向かう。

そして、言葉通り――奈岐は半日とかからずに、
私の課題まで片付けてしまった。”
脚本
⇒鼎と時間を共にする事で、奈岐に変革が訪れつつある

⇒正義に適った罰を受ける事は、魂を治療することである
⇒伏線を回想で回収
演技
演出
作画
補足






4-1-3 4-1-4
状況
夕食後、奈岐の部屋へ。八弥子が訪れる。
本日の御花会の会合で、二人の謹慎および火事と落石の件を
内密にするように伝えられた、と、八弥子より。
海岸(3-2-7-2)にて、一対の練習をする事になった。
その理由は、
北に向かって起伏になっていて、
森の木々で海岸が隠れるから(水蒸気爆発を隠す為)
御魂の体現を練習する為、海岸(3-2-7-2)へ。
幾度もの失敗を繰り返した後、帰路に着く二人。
寮まで手を繋いで帰る事に
時間
二十九日目・夕 ~ 夜
三十日目・夜
場所
寮・奈岐の部屋
海岸(3-2-7-2)
設定
・謹慎中でも割と自由に行動しても良い
その理由は、巫女候補が謹慎中だと他の学生に知られれば、
御花会の尊厳に関わる為

・織戸伏は北へ向かうにつれ、海抜が高くなる
伏線(大)
伏線(小) f13-5, 八弥子の力、境遇 / T21-8, 鼎への想い / f7-21, 見鬼

八弥子“「んー、穢れを独自に祓ってるって聞いたけどさ、
ナギっち達ってホントのところは何してるの?」

奈岐「それは私と鼎だけの秘密になっている」

八弥子「えぇ~……ナギっち、つれない」

奈岐「前にも言ったが、危険なことだ。禰津は関わらない方がいい」”

“以前に奈岐が八弥子さんは戦うべきじゃない、と言っていた。

その理由は聞き損ねていたけれど……と考えていた時、
奈岐が視線で私を呼ぶ。

鼎「……?」

私が歩み寄ると、小声で耳打ちしてきた。

奈岐「――鼎、それは禰津と私の秘密だ」

八弥子さんのため、触れない方がいい話なのかな?

そういうこと、と奈岐が頷いていた。”

T21-10, 鼎への想い / f7-22, 見鬼

奈岐“「処分より、私は鼎との関係を優先する」

鼎「関係を優先って……それ、ちょっと違う意味に聞こえたり」

奈岐「そ、そんな意味じゃ……!」

言ってから自分の言葉の恥ずかしさに気付き、
奈岐の顔が赤くなっていく。

八弥子「ガジ、聞いた? ナギっちがカナに告白してるみたい!」

奈岐「ち、違うっ! 今のは言葉のあやで……!」

鼎「えっ、言葉のあやなんだ……ちょっと寂しいな」

心の中で、ちょっと寂しいのは本当、と繰り返しておく。

奈岐「っ……か、鼎っ! な、何を言い出す!」

八弥子「お、修羅場の予感。こうなったらヤヤはお邪魔かなー?

奈岐「禰津、悪乗りするなっ! ううぅ……も、もう知らない!」

奈岐はマーカーを放り出し、ベッドでシーツにくるまってしまう。

私と八弥子さんはそんな奈岐を見て、吹き出すように微笑む。

《ごめんごめん、ちょっと私も悪乗りしちゃった》

と心の中で謝っておく。

鼎「……ん?」

しかし、奈岐からの反応は無く、シーツにくるまったまま。

八弥子「あーあ、ナギっち、拗ねちゃってる」

奈岐「す。拗ねてないっ……!」

シーツから顔だけ突き出して、八弥子さんに抗議する。

あれ、さっきの聞こえてなかった……?

奈岐「さっきの……? 鼎、何のこと?」

鼎「あ、ううん、何でもないっ」

さっきの心の声が届いてない……?

もしかして、シーツに隠れていたから?

私が考えを巡らせていると、奈岐はどこか納得したように
口元を緩ませる。

奈岐「ああ、そういうことか――」

「この目で見ないと分からない仕組みだ」

なるほど。そういえば……理事長は考えを読むことを、
覗き見る、と繰り返していた。

そっか、テレパシーみたいな感覚で考えていたけど、
目で見て、ようやく知ることが出来るんだ。

八弥子「ん~?二人とも視線で会話中?」

鼎「ふふんっ、そんなところです」

もう一つ奈岐のことが分かった気持ちが嬉しくて微笑んでしまう。

八弥子「へぇ~、ヤヤが知らない間に二人ともラブラブだ」

奈岐「ね、禰津っ……それは……その……なんでもないっ!」

口籠った奈岐が再びシーツの中に隠れてしまった。

鼎「あ、否定しなった」

八弥子「否定しなかったねー」

奈岐「ううぅぅー……二人とも、覚えておけよっ……」

一度照れ出すとなかなか戻って来られない奈岐を眺めながら、
私と八弥子さんは再び吹き出して微笑む。

そんな楽しい時間を過ごしている間にも、
謹慎一日目の夜が更けていく――。”

T15-12, 奈岐の洞察 / F9-20, 巫女の真実
T21-9, 鼎への想い
T20-13, 奈岐への想い / T19-4, 八弥子と奈岐

鼎“「ほら、穢れが何を考えているか分かるかも
しれないんだよね?」”

奈岐“「一対の力は未知数だけど、
二人で一つの魂となるから、穢れのあげる
声を聞き分けられるかもしれない」

「一対となる相手にノイズを――奴らの悲鳴を
押しつけてしまうことになるかもしれないけど」

どこか不安げに奈岐が私を見つめる。

鼎「それも未知数だから分からないよ。
やってみないとね」

奈岐「……まずは一対となれるかどうか、か」

鼎「きっとなれると思うよ」

砂浜に置かれた奈岐の手に触れ、ゆっくりと重ねる。

「少しずつだけど、奈岐のことが分かってきた気が
するし。だから、きっとなれると思う」

奈岐「でも、今日は散々失敗した……」

鼎「その失敗から分かったことは?」

奈岐「……接触に問題がある」

鼎「じゃあ、その解決策は?」

奈岐「鼎……何が言いたいんだ?」

不満そうな双眸が私を覗き込んできた。

鼎「こうして手を握ることが出来て、
話をすることも出来る。
でも魂の力は正反対のまま――何だか
不思議じゃないかな?」

奈岐「どういう意味……?」

鼎「それは秘密。私の課題だよ」

不思議そうにまばたきをした奈岐の後ろに回り込み、
その瞳を――両手で塞ぐ。

奈岐「な、何!?」

鼎「ふふんっ、秘密だから覗かれないように」

そう言いながら、奈岐の力のことを思い返す。

流れる水は何にでもなれるけど……
冷たく人を拒めば、水は氷になってしまう。

八弥子さんは奈岐の力をそう言い当てていた。

奈岐はどこかで私を拒んでいるのかな……?

そう思うと寂しい気もする。

でも、人はすぐには変われないって
言葉は確かなこと。

今は少しずつでも歩み寄っていくしかない、か。

こじ開けてでも……なんて思っていたけど、私だけの
思いじゃ、一対になることは出来ないよね。

鼎「よし、そろそろ帰ろっか」

色々と考えがまとまってから、私が手を離すと、
ふて腐れた様子で奈岐が睨んでくる。

奈岐「むぅ、目をふさぐのはずるい……」

鼎「ふふんっ、こう見えても、私は意地悪なんだよ?」

奈岐「意地悪なのは知ってる」

奈岐は立ち上がると、砂浜に落ちていたマント
を拾った。

鼎「拗ねちゃった?」

奈岐の後を追いかけるようにして、顔を覗き込む。

奈岐「…………」

「……ちょっとだけ」

鼎「じゃあ、その分だけ奈岐との時間を大切にする」

奈岐「大切に……?」

不思議そうに顔を傾けた奈岐の片手を握りしめる。

鼎「寮まで手を繋いで帰る!」

奈岐「か、鼎っ……それは……」

鼎「恥ずかしい?」

奈岐「…………」

無言で奈岐の手が私の手を握り返した。

これは肯定かな?

奈岐「か、帰るなら……早くしないと朝になる!」

鼎「うん、帰ろう」

そのまま手を繋いで歩き出す。

寮に着く頃には、もう陽がのぼっているだろうか?

これで少なくとも数十分――
奈岐との距離がまた縮まる。”
の洞察

(御魂の体現に何度も失敗したあとで)

鼎“「魂の力って変化したりしないのかな?」

奈岐「ひとは簡単には変われない。
子供ならともかく……自我がある程度
確立されてしまうと、時間がかかる」”
テキスト
脚本
演技
演出
作画
補足
⇒昨日の一件で奈岐に近づいたが、八弥子と奈岐の間の事に
鼎は立ち入るべきではない。関係が深くなったとはいえ、
抑える所は抑えなけばならない (
3-2-4 補足)






4-2
状況
鼎の身の上話。鼎の告白、奈岐の告白
時間
三十一日目・夜
場所
海岸(3-2-7-2)
設定
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T17-11, 消え入るような鼎 / T20-14, 奈岐への想い / T21-11, 鼎への想い
T24-2, 変わる奈岐 /
f13-6, 八弥子の力、境遇 / 家柄 / f7-23, 見鬼
f10-2, 松籟会からの逃亡生活

奈岐“「それで……今日は無策でないと?」

鼎「うん、ちょっと色々考えがって」

浜辺に腰を下ろし、隣に奈岐を誘う。

奈岐「…………?」

小首を傾げながらも奈岐は私の隣に座った。

鼎「今日は少し私の話を聞いてもらおうかなって」

奈岐「鼎の……?」

鼎「うん、奈岐は色々見ててくれていたかもしれないけど、ちゃんと言葉で伝えたことって限られているし」

「あらためて私の話をしたいなって思ったの」

不思議そうにまばたきをする奈岐に微笑む。

鼎「もし変なこと考えたら恥ずかしいし、背中からでいい?」

奈岐「何を話すつもりなんだ……?」

鼎「色々。とにかく色々」

奈岐「……少しだけ、なら」

視線をそらせた奈岐の後ろへ回り、背中をくっつける。

鼎「これで見えない?」

奈岐「海と星空なら見える」

鼎「うん、それだけで充分」

奈岐に伝えたいことを一日かけて考えてきた。

自分を知ってもらうことで、奈岐の氷に私が入り込める余地が出来るかもしれない。

こういうやり方は押しつけかもしれないけど、自分のことをちゃんと伝えておきたかった。

奈岐の中に自分という存在を作る――そこからだと思うから。

鼎「私ね、小さい頃から引っ越しとか多くて、親しい友達も出来なかったんだよね」

奈岐「……意外」

鼎「そうかな?」

奈岐「禰津ほどではないけど、鼎は明るくて元気だ。そんな人間のところには自然と人が集まってくる」

鼎「んー……今はね、ちょっと無理してる」

ぴくっと奈岐の背中が驚くように反応する。

鼎「うつむかないように――って毎日が必死」

「性格はお母さん譲りだから、きっと奈岐の言う通りだとう思う。でも、たまに塞ぎ込んじゃう時もあるんだよ」

「引っ越しが決まった時とか、どうしても嫌でね、閉じこもって、友達にも言い出せずじまい……なんてことも」

「お母さんに不義理なことをするなって怒られたけど、友達とさよならする勇気が持てなくてね」

奈岐「連絡手段は?」

鼎「引っ越し先の電話番号は教えてくれなかったし――ようやく携帯電話を持ったのは、ついこの間」

そんなせっかくの形態も、今頃は海の底だろうけど。

鼎「私はね、怖がりなんだよ。さよならを告げたら、友達になってくれた子がどんな反応をするか……知る勇気が無かった」

奈岐「……鼎」

「もし……鼎の母親が見つかったら……鼎は何もいわずにいなくなっちゃうの……?」

奈岐の背中が動き、長い髪が私の頬に触れる。

鼎「奈岐、振り向かない約束」

奈岐「…………」

無言のまま、背後の背中が少し丸くなった。

鼎「勝手にいなくなったら、奈岐はどう思う?」

奈岐「……それは……嫌だ」

鼎「何も言わなかったことが?」

奈岐「それは当然だけど……鼎がいなくなることが嫌だ」

「鼎は……この閉鎖的な島で、ただ一人だけ奈岐のことを理解してくれた」

奈岐「鼎がいなくなれば……奈岐はまた一人になる」

鼎「八弥子さんは? ちゃんと話せば分かってくれると思うよ」

奈岐「禰津は……奈岐といればいるだけ不利になる。禰津がどう思おうとも、禰津という家が必ず後ろにあるんだ」

奈岐「……奈岐と行動すれば、禰津の家が危なくなる」

閉鎖的な島だからこそ、より異端は排他されやすい、か。

島を仕切る松籟会の存在を否定する奈岐の動きは、きっと危険視される。

奈岐「それにアイツを見れば分かる。禰津は巫女の力を祓うべきじゃない。本人が望んでいない」

鼎「……八弥子さんが?」

奈岐「アイツは優しい。優しすぎるから禰津の血には相応しくない。だからこそ戦うべきじゃない」

禰津の血……巫女の力に長けているとは聞いたけれど……。

「この島の慣習に縛られていない鼎は……奈岐にとって、一緒にいられる唯一の存在なんだ」

島にいる人間という観点からすると、私はきっと特別だと思う。

でも、その特別を無くしてしまえば、どうなる?

そんな考えが頭を過ぎってしまう。

鼎「ね、奈岐、意地悪を言ってもいい?」

奈岐「……意地悪?」

小さく息を吸って、気持ちを落ち着けながら言葉を紡ぐ。

鼎「それって、私じゃなくても平気だよね。島の外から来て、ここにいられるだけの条件満たしていたら」

「それが高遠鼎って人じゃなくても、条件を満たせる人なら、奈岐にとっての唯一になれる」

奈岐「…………」

奈岐の背中が震えた。

怒っているかもしれないし、悲しんでいるかもしれない。

背中合わせで顔も見れない今、正解は分からない。

でも、そんな状態たからこそ話せることだってある。

鼎「奈岐、私じゃないとダメな理由が欲しい」

「それって難しいことだし、押しつけがましいことだし、すごくわがままなことだと思う」

「でも、その理由があれば……私は自分が奈岐にとっての唯一だって自信が持てる」

奈岐「…………」

砂場にあった奈岐の手が私の手を探すように動く。

私がその手を取ると、奈岐は握りかえしてくる。

「……鼎は意地悪だ。本当に意地悪だ」

二回も言われて、僅かに苦笑してしまう。

「約束……鼎の母親が見つかっても勝手にいなくならないこと」

鼎「……うん、約束する。お母さんが見つかっても、勝手にいなくなったりしない」

繋いだ奈岐の手が強く握りしめてきて、少しだけ震えた。

奈岐「人に感情を伝えるのが苦手だから……上手く言えないけど、
鼎じゃないと嫌だって思う気持ちがある」

「織戸伏の見鬼は魂を視る。奈岐に視える鼎の魂じゃないと、嫌だって……強く思う」

「それが鼎じゃないとダメって理由にならない……?」

奈岐の手は震えたまま。

感情を吐露することに怯えながら、言葉を口にしてくれた。

奈岐の問いかけに対する答えはイエスだろう。

でも、私はそれ以上を求めたい。

鼎「それは好きって言葉で表現出来ること?」

奈岐「…………」

恥ずかしさからか、奈岐の手から感じる体温があがった。

鼎「私には奈岐の魂を見ることは出来ないけど、今の奈岐が好きで、奈岐と一緒にいたいって気持ちがある」

「私は奈岐が好き」

くっつけていた背中を話して、私は立ち上がる。

奈岐「鼎……?」

鼎「奈岐、もうこっち見てもいいよ」

きっと、これは奈岐にだからこそ伝えられる方法――。

立ちあがった奈岐の双眸がゆっくりと私を映し出していく。

私の魂を、私の感情を、全てを見通す瞳が私を映す。

奈岐「…………」

そして、今までに知った奈岐を思い浮かべていく。

そのどれも自分にとって特別で、好きという感情を向けられることを意識する。

頭の中がごちゃごちゃで、それを見る奈岐も大変だろうと思う。

でも、これが私に出来る最大限の方法。

奈岐「……み、見てる方が……照れる……」

鼎「あはは、伝わったようで何より」

目を背けた奈岐に微笑んでから、言葉の続きを促す。

「それで……私は目で見ても分からないし、奈岐の言葉が聞きたい」

奈岐「……どうしても?」

小声と共に奈岐の視線が私に戻ってくる。

鼎「今だから、どうしても聞いておきたい」

きっとこんな話は何度も出来ないから、奈岐の言葉が聞きたい。

まるで告白を強要しているみたいだけど――。

「…………」

こ、告白……告白って……。

自分で考えたことにも関わらず、状況と照らし合せると、頬が熱くなっていく。

私を見ていた奈岐もそれに気付いたのか、ぴくっと肩を震わせた。

それでも……奈岐は何も言わず、私と向かい合う。

顔を上気させて、視線を再び彷徨わせ、唇を開いては閉じ、何度も言葉に迷いつつも、奈岐は逃げようとはしない。

私に対して、必死に言葉を紡ごうとしていた。

とても長く感じられた数秒の後――か細い声が奈岐から発せられる。

奈岐「奈岐も……鼎のことが好き」

確かに聞き取れたすの言葉は、不思議と胸を高鳴らせた。

こんな状況にしたのは自分ではあるけれど、心臓がうるさいほど早鐘を打っている。

鼎「……うん、ありがとう。すごく嬉しいよ」

奈岐「鼎……」

奈岐とは一緒にいたい。

大きな目的こそ違っても、一対の巫女として一緒になりたい。

だからこそ、奈岐の気持ちを聞けたのは嬉しかった。

小さく息を吐いた後、一度頷く。

今日は身の上話だけするつもりだったけれど、本音まで話せて良かったかもしれない。

鼎「よし、奈岐! 今日はもう帰ろう!」

奈岐「……か、鼎? でも、まだ何も……」

鼎「せっかく本音を伝え合えたのに、ここで失敗とかしたら、残念な気持ちになるし」

思い出が台無し、とも言うかな?

奈岐「それも……そうだな」

苦笑した奈岐に手を差し出すと、すぐに握り返してくれた。

重なりあう手――感じる温もりに安らぎを感じる。

今日も寮まで手を繋いで帰ろう。

でも、今日はいつもよりゆっくり歩きながら――私達だけのペースで歩いて行こうと思った。”
脚本
⇒このタイミングで、人格形成に関わる過去の出来事を語るのは、見事に時宜を弁えている。
その理由は、物語が始まって間も無い内に、こうした重要な事を語り出せば、主人公は読者の手を離れてしまう為。

⇒二人の関係が近づくのにあたって、きちんと段階を踏む事が何よりも好印象。

⇒鼎の奈岐に対する問いかけの鋭さは、女性主人公だけに可能な描写と言える。
同じ事を男性が言っていたら、実に滑稽なシーンとなるだろう、自分に自信が無い、なんと女々しい男だとされて。

⇒出会って一月も経っていない状況での告白を早いように思う者もあるかもしれないが、
文字通り命を懸けて戦っている二人にとって、一日の持つ重みは一般人のそれとは比べものにならない
演技
演出 ⇒ここで使われる主題歌のピアノバージョンは、ここを除くと二回しか使われない。
それ故、非常に印象的な場面となっている。
何故なら重要な曲は、重要な場面でのみ使用しなければ、効果が薄れてしまう為
(4-2 / 7-1 / 7-3-2 演出)
作画
補足

 


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