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末来編 注釈


奈岐編と異なり、割と未整理な状態。
いずれ手直ししたいと考えている。


 

  4-1-4
状況
寮に戻ってきた鼎。末来と櫻井が祠にいた理由は聞けずじまい。
櫻井に謹慎中だと釘を刺される鼎、自室へ。櫻井、校舎へ。
課題に取り組む鼎、本土より進んでいる問題集にうなだれる。
由布が御花会から帰室。由布の着替えを眺める鼎。
由布、神住に呼ばれているという。鼎、由布を鈍感だという(神住の事)。
神住の元へ向かう由布。疲労から思わず眠ってしまう鼎。
八弥子が部屋に来る。末来が奈岐を捕まえたという。
奈岐、部屋に立てこもっているという。奈岐の部屋に向かう鼎達。
反応無し、奈岐を想う鼎と八弥子。
末来に相談する為、八弥子に末来の部屋を訊ねる鼎。
夕食時に学生が揃っているか確認する為、食堂にいるという。
奈岐の事で、末来と相談する鼎。とりあえず夕食に。
夕食を終え、奈岐の分を持って行く。
葉子の話題で怯える八弥子。奈岐の部屋へ。返事無し、夕食を置いておく。
奈岐へ、また明日も来ると伝える鼎。奈岐におやすみ、と、八弥子。
何か方法を考えておくと、鼎。無理しない様にと、八弥子。課題もある為。
踵を返し、奈岐の部屋に再度向かう鼎。待ち続け、消灯の時間となる。
葉子の見回り。謹慎の身故、避けたい鼎。奈岐、鍵を開ける。
真剣な様子で、奈岐、鼎に勾玉を使わないで欲しいという。
鼎、応じるが、八弥子と神住に謝るように、と。早速八弥子の部屋へ向かう二人。
奈岐に対し気にしていないと、八弥子。八弥子、奈岐が妬いていた事を口にする。慌てつつ謝る奈岐。
ややあって、もふもふされることに。ようやく仲直りが出来た。
勾玉の事で先行きを心配する鼎。奈岐、翌朝に一人で神住に謝りに行く
時間
〃 ~ 二十九日目・夕 ~ 夜
場所
寮 ~ 寮・自室 ~ 寮・廊下 ~ 寮・食堂 ~ 寮・廊下 ~ 寮・奈岐の部屋 ~ 寮・八弥子の部屋
設定
・寮の三階に、鼎と由布・奈岐・八弥子・恵と縁子の部屋がある(⇒神住と真琴は分からない)
・寮内はペット禁止
・末来は寮長である為、夕食時に学生を確認する為の点呼を取る
・未来は料理が上手くはない
伏線(大)
 
伏線(小) 末来と鼎の関係
親子関係

末来“「ん、鼎? 奈岐なら部屋に戻っているよ」

末来さんは入り口から少し離れた場所でノートを手に、点呼の準備を行っていた。

鼎「その奈岐のことで相談があって……今、大丈夫ですか?」

末来「うん、鼎の相談なら大丈夫」

少しだけ微笑んで、いつものごとく特別待遇にしてくれる。

でも、忙しそうな雰囲気は伝わってくるので手短に……。

鼎「ありがとうございます。それで……奈岐なんですけど、部屋に立てこもり中でして、話すらしてくれません」

末来「――奈岐らしいね。こうなるのは分かってた気がする」

鼎「末来さん?」

末来さんは目を伏せた後、僅かに息を漏らす。

末来「奈岐はね、独りでいるのが怖いんだよ。友達を失いたくない。だから、閉じこもっている」

鼎「……でも、閉じこもっていたら、独りと変わらないですよ」

末来「鼎と友達でいる事が揺らいでしまう現実から、奈岐は目を背けている――怖がっているんだよ」

鼎「…………」

私が怒ったから……友達じゃなくなると思っている?

「……奈岐と友達だから私は怒ってるんです」

末来「それでいいんだよ。その事を奈岐に伝えてあげるんだ」

鼎「また逃げ出したりしませんか……?」

末来「もう逃げないよ、きっとね」

不安げに末来さんを見上げた途端、頭を撫でてくれる。

私がそうすることが分かっていたようなタイミングで、驚きでまばたきを繰り返してしまう。

「鼎、そろそろ夕食の時間。奈岐のところに行くのは、ご飯を食べてからだよ」

鼎「……夕食の時間」

些細な言葉でも、周りの喧騒が聞こえなくなる。

末来さんとの会話が日常的であればあるほど、その陰がお母さんと重なっていく。

だからだろうか、自分でも不思議に思うようなことを、末来さんに訊ねていた。

「あの……末来さんって料理得意な方です?」

末来「ん? それなりだよ。 食べてみたい?」

鼎「えっと……ぜひ、機会があれば」

末来「うん、分かった。楽しみにしてて」

お母さんの料理はお世辞にも上手とは言えなかった記憶がある。

末来さんの料理はどうなのだろう?

無意識でそんな比較をして、また影を重ねようとしてしまう。

鼎「あ、その、変なこと聞いてすみませんでした……」

末来「ううん、楽しみが一つ増えた」

そう言って末来さんは微笑んでくれるけれど、
これ以上、作業を邪魔してしまうのも問題だ。

鼎「それじゃあ……ありがとうございましたっ」

末来「うん、またね」

私は頭を下げると、落ち着けと自分に繰り返しながら、
空いているテーブル席を探し始めた。”

葉子の実力

鼎“「もう一度、奈岐のところに行ってみましょうか」

八弥子「そうだねー。最悪、あのドア外しちゃう?」

鼎「外す? ですか?」

八弥子「ドーン、って!」

八弥子さんが両手を突き出す仕草の後、カラッと笑う。

鼎「八弥子さん、それ、先生に怒られますよ?」

八弥子「うっ……ヨーコ先生が出てくるのはゴメン」

すぐに手を引っ込めてしまう八弥子さんに私も笑みを零す。

鼎「ふふっ、八弥子さんって葉子先生が苦手なんですか?」

八弥子「に、苦手……じゃないよ……?」

と言うものの八弥子さんの声は上擦っていた。”
テキスト
八弥子と奈岐 / 奈岐への想い
八弥子の力、境遇

八弥子“「ナギっちはああ見えて怖がりだしね。特に人の感情とかそういうの」

鼎「見鬼、人の心を除く鬼……そう言ってましたね」

きっと見なくていい悪意も見てきてしまった。だからこそ、人の感情を畏怖する気持ちは分かる。

八弥子「特にさ、この島の人達がナギっちに向ける気持ちって、想像するだけでも嫌になりそうだしね」

鬼子として、見鬼のことを知る者からは遠ざけられ、類い稀なる才智はさぞ多くの敵を作ってきたことだろう。

鼎「普通ならこの島のことが嫌いになりそうですけど、奈岐は巫女の力で出来ることを探してる……」

八弥子「巫女の力で出来ること?」

あ……と思わず口を開いてしまう。そういえば、八弥子さんには詳しい事情を離していなかった。

そんな私の様子を見た八弥子さんは目の前で手をぱたぱたと振る。

八弥子「カナカナ、話しにくい秘密なら話さなくていいよ。ヤヤもカナカナには無理するなーって言われてるしね」

鼎「……八弥子さん。そうですね、じゃあ今はお言葉に甘えて」

私の言葉に八弥子さんが二コリと微笑んでくれた。”

奈岐への想い

八弥子“「カナカナ、怒られないぐらいに開けちゃう?」

鼎「奈岐のへんてこな鍵は壊してもいいかもしれませんけど、ドアに何かしたら危ないですよ」

八弥子「鍵だけ壊すのは、ちょっと器用だなぁ……」

それは困ったと八弥子さんが頬を掻く。

あと無理やり開けたりしたら、また逃げ出しそうな気もする。

それも今度は戻ってこないオマケ付きで。”

“朝行ってみた時、ご飯がそのままだったらどうしよう……?

何も食べずに閉じこもり続けていたら、心だけじゃなくて、身体まで弱ってしまいそうだ。”

“鼎「ねえ、どうしたら返事してくれる? 私が怒ってるのが怖い?」

「……奈岐と友達じゃなかったら、ここまでしない。友達だから言わないといけないことがあるんだよ」

「そういうのって大事なことだと思う」

ドアの向こうにいると思う彼女に語りかける。”

鼎の出生と勾玉の秘密 / 奈岐への想い
巫女の真実 / 末来の真実 / 見鬼
言霊、呪い / 八弥子と奈岐 / 八弥子の力、境遇
鼎への想い / 変わる奈岐


奈岐“「その勾玉の力を使うことを止めたほうがいい」

鼎「勾玉の力って、どうして急に……?」

奈岐「松籟会はその力を禍々しいと言っていたが、あながち間違いでは無かったのかもしれない」

禍々しい――確かに何度か耳にした記憶があった。

奈岐「……その勾玉の力、島に封じた災いに反応している。この目で確かめてきた。嘘ではない」

鼎「それって……祠に行ったの?」

昼間、学園長と末来さんが祠から出てきたのを覚えている。

確か、あの時――。

(以下、回想4-1-4)

櫻井“「あの様子では……それほど長く持たないでしょう」

末来「そうだね。キミの読み通り、反応していると考えていい」

櫻井「しかし、まだ巫女の用意は調っていません。他の対応策を考える必要が……」

末来「その他の手段が通じる状況だと思う?」

「…………」


(回想終了)

二人は奈岐と同じように反応していると言っていた。お母さんの勾玉が島の災いと関係している……?

奈岐「祠には行った。勾玉がどういう仕組みで反応しているか……それが分かるまで、力の使用を控えて欲しい」

鼎「どうしてそんなことを急に……?」

奈岐「奴ら急でな、向こう側から私にコンタクトを取ってきた」

「私と同じモノ――理事長が直々に解説してくれた。鵜呑みにするつもりはないが、この目で見たものは確かだ」”

“「それは言えないことになっている。口にしてはならないし、鼎が関わるべきじゃない」”

“「関連性は調べてみる。だから、それまで待って欲しい」

とても今まで立てこもっていたとは思えないほど、強い意志が混ざった言葉だ。

鼎「私達が調べていた穢れのことも関係しているの?」

奈岐「それは確実だ。しばらくは接触しない方がいい」

事態は知らぬ間に深刻なものへ――。

学園長と末来さんの話し、奈岐が理事長と話した結果、雲行きが怪しくなっているのは分かる。

鼎「勾玉のこと、分かった。善処する。でも、いくつか条件」

奈岐「……条件?」

鼎「八弥子さんと遠山先輩にちゃんと謝ること――あと、私とも仲直りすること」

「深刻そうな問題が見つかっても、まずはそこからスタートだよ」

奈岐は戸惑うように視線をそらす。

奈岐「……だけど、それは……」

鼎「だけど、じゃないよ。奈岐が鬼子だとしても、人を傷つけていい理由にはならない」

「悪いことをしたら謝らないと。そういうの、全部自分に返ってくるものだと思うし」

奈岐「…………」

「そうしないと……鼎は奈岐のことが嫌いになる?」

怯えるような奈岐の瞳が私を捉える。

それに対し、私は首を横へ振るう。

鼎「嫌いにはならないよ。でも、悪いことをしたら、謝れる友達でいてほしい」

私はそう言ってから奈岐に微笑みかける。

奈岐は迷っているのか、私から再び目をそらしてしまう。

奈岐「奈岐は……そういうの慣れていないから」

鼎「慣れていけばいいよ。ほら、今が切っ掛けになる」

私は奈岐に歩み寄り、その手を取った。

僅かに震える手を握りながら、もう一度微笑みかける。

「まず、私と仲直り、それから八弥子さんのところに行こ。八弥子さん、ずっと奈岐の心配してたから」

奈岐「でも……奈岐は禰津のことを酷く言ってしまった」

鼎「だから合わせる顔が無い……じゃなくて、だから謝らないとね」

奈岐「…………」

鼎「奈岐、私は友達でいるから。嫌いになったりしない。仲直りしたい。引っぱたいてごめんね」

奈岐「あれは……痛かった。でも当然だと思う」

奈岐は頭をあげると、私の肩に目元を押し当てた。

「鼎、ごめんなさい……見鬼のことを言われて……取り乱した」

鼎「うん、私もごめん。すごく繊細なことなのに、土足で踏み込むようなことをした」

奈岐「そんなこと……」

鼎「でも、事実だから。素直に受け取って」

奈岐「…………」

私奈岐の手を離し、彼女をぽんっと叩く。

鼎「よし、仲直りだね。奈岐、いつものマントはどこに?早速、八弥子さんの部屋に行こう」

奈岐「ホントに……今から?」

鼎「こういうのは早い方がいいんだよ。気持ち的にも、ね」

私の言葉に迷いながらも、奈岐はベッドに脱ぎ捨てられていたマントを見やる。

「あとは奈岐も私も謹慎中だから先生に見つからないように」

奈岐「……鼎には敵わないな。頭の中まで真っ直ぐだ」

呆れたように言いながらも、奈岐は微笑んでマントに手を伸ばす。

鼎「あはは……考えてることと言ってること、同じだしね。私、器用なことは出来ないから」

鼎「フッ、それでいい。その方がいい」

マントを羽織った奈岐は行こうと視線を入口へ向ける。

私は奈岐に頷くと、先ほどまで頑なに侵入を拒み続けていたドアに手をかけた。

忍び足で八弥子さんの部屋までやってくると、静かにノックを繰り返す。

ドアの隙間から僅かに明かりが漏れており、どうやら八弥子さんはまだ寝ていないらしい。

八弥子「はいはーいって、カナカナと――」

ドアを開けた八弥子さんが奈岐の姿を見て固まる。

「ナギっち……? あれ、このナギっち、本物?」

鼎「偽物とかあるんですか……とりあえず詳しくは中で」

八弥子「そうだね、二人とも入っちゃってー」

八弥子さんに招かれ、私と奈岐はそそくさと部屋に入っていく。

部屋に入ると、奈岐の足元にガジが駆け寄ってくる。

八弥子「ガジもナギっちのこと心配してたってさ」

いつも通りの八弥子さんに、奈岐は何かを言いかけて口を閉じ、どうにも落ち着かない様子だった。

鼎「奈岐、八弥子さんと話に来たんだよ」

軽く背中を叩くと、奈岐の身体がビクンッと跳ね上がる。

奈岐「っ……!?」

鼎「そ、そんなに驚いた……?」

奈岐「いや……へ、平気だ」

奈岐はマントの裾を掴んだまま、八弥子さんへ向かった。

八弥子「ナギっち? もう平気なの?」

八弥子さんはガジを抱き上げて、いつもの位置にセットし終えたところ。

奈岐は咳払いをした後、緊張気味に話を切り出した。

奈岐「禰津……この前のことだが、気にしているか?」

八弥子「この前? ナギっちが飛び出した時のこと?」

奈岐「そうだ、お前が知られたくないことを私が話した」

うーん、と八弥子さんが目を伏せて考え込む。

八弥子「ねえ、ナギっち。アレってさ、よく考えたんだけど……八つ当たりとはちょっと違うよね?」

八弥子さんの問いに私は首を傾げる。

でも、奈岐は図星でも指されたかのように、まばたきを繰り返していた。

「鬼子のことは知られたのに、ヤヤのことは何もしられていない。確か、そんなこと言っていたよね?」

奈岐「っ……分かった、禰津。分かったから、それ以上言うな」

八弥子さんの考えに気付いたのか、奈岐が慌てて止めに入る。

「すまなかった。悪かった。だから、それ以上は……」

八弥子「いやいや、カナカナも気付いてないみたいだし、言っておこ」

奈岐「禰津っ……」

八弥子さんが楽しげな表情を浮かべたまま、私へ振り返った。

八弥子「カナカナ、アレってヤキモチなんだよ? ナギっちがヤヤに嫉妬してたの」

鼎「えっ……?」

奈岐「…………」

頬を上気させた奈岐が明後日の方向を向いてしまう。

背中を向けられてしまっては、その表情が読み取れない。

八弥子「カナカナが頼ったことに妬いたんだよねー?」

だから、八弥子さんに必要以上に突っ掛かった……?

特に知られたくないような――嫌われるかもしれないようなことをわざわざ口にしてみせた?

鼎「えーと、それを知ってたから、八弥子さんは怒らなかったんですか?」

八弥子「んー? そうじゃなくても怒るようなことじゃないし、ナギっちが言ったことはホントだしねー」

心が広いというか、何というか……。

「それに、あの事に関してはヤヤが怒られる側にいると思うし。怒っちゃダメだと思うんだ」

「ナギっちにも言われちゃったけど、こうして呑気に過ごしてるわけだしね」

奈岐「禰津、アレはお前を動揺させようとして言っただけで……」

八弥子「でも、ざっくり来た。だから、事実なんだよねー」

八弥子さんがあっさり言ってのける。

それから、奈岐のもとへ歩み寄ると、髪の毛に手を伸ばす。

「ナギっちはね、間違ったこと言ってないから、あんまり気にしないの」

八弥子さんが奈岐の髪をもふもふと遊び始める。

どうにも抵抗出来ないのか、されるがままの奈岐は眉間に皺を寄せていた。

その様子を見ていると、一つアイディアが思い浮かぶ。

鼎「うーん、八弥子さんが全面的に許したとしても、奈岐が悪いことをしたのは事実です」

八弥子「お? どしたの? カナカナ?」

奈岐「……それについては反省している」

もふもふされながらも、奈岐が八弥子さんに謝るが……。

鼎「なので、ここは八弥子さんと……ついでに私にもちょっとお得な罰ゲームを奈岐に受けてもらおうかと思いまして」

奈岐「罰ゲーム……?」

ふふんっと笑みを浮かべながら、私は奈岐に歩み寄った。

鼎「題して――奈岐をもふもふし放題ですっ」

奈岐「…………」

内容を悟ったのか、奈岐が露骨に顔をしかめてくれる。

八弥子「カナカナ、それ、グッジョブ!」

奈岐「待て、鼎。し放題って何だ? 制限時間はあるんだろうな?」

鼎「……んー?」

バレた、と内心で舌打ちすると、奈岐がため息をついてくれた。

奈岐「やるにしても、五分だけだからな。ただし、今回は私に非があるからであってだな――」

鼎「はい、奈岐。面倒なことはそれ以上言わないの。今から五分間、奈岐はもふもふされるのです」

奈岐「…………はぁ」

諦めた奈岐が肩をすくめながら息を漏らす。

奈岐「一つお前達に聞いておく……楽しいか?」

鼎「猫毛に癖毛、そしてボリュームのある髪――その加減が絶妙なんだよ」

八弥子「うんうん、もふもふだよね。ガジよりもふもふしてる」

その絶妙な混ざり具合は一度触れると、ずっと撫でていたくなる魔性の髪だ。

触れれば離れられなくなる危険性を伴うけれど、こんなチャンスはそうそう訪れない。

鼎「では、八弥子さん……私からお先にっ」

奈岐の髪に触れると、恐ろしいまでのもふもふが私の手を呑み込んでいく。

「も、もふもふっ……!」

奈岐「何なのだ……」

何をどうしたら、この柔らかさを作り出すことが出来るのだろうか?

高級な低反発素材をしのぐ、この吸い込まれる感触……。

八弥子「ナギっち! もふもふー!」

腕まくりまでした八弥子さんが奈岐の髪に触れ、ここぞとばかりに掻き混ぜ始めた。

奈岐「この、お前達は……」

鼎「奈岐、狼もこんな風にもふもふなのかなー?」

奈岐「私は、ただのくせ毛だ……」

八弥子「でも、猫毛なんだよねー。あとすっごくふわふわ!」

鼎「ひょっとして、このもふもふか神狼なんでしょうか……?」

八弥子「そうかもしれない。このもふもふ……神様っぽいもんねー」

奈岐「神様っぽいもふもふとは何なのだ……はぁ」

奈岐の盛大なるため息を無視しつつ、私と八弥子さんは時間の許す限り――
正確には五分間だけど、もふもふと髪を堪能していく。

だた、もし制限時間を設けていなかったら……そう思うと、背筋が寒くなってしまう。

それほどまでに、もふもふがもふもふで――もふもふだった。

手が離れないようにも離れない。それこそがきっと神狼の業の一つで――。

奈岐「そんなわけがあるかっ! もう五分だぞ、五分っ!」

鼎「延長で!」

八弥子「ヤヤも!」

奈岐「却下だっ! ええぃ、はーなーせーっ!!」

奈岐がジタバタと暴れ、私と八弥子さんの手から逃れていく。

そして、手が離れた途端にハッと意識が戻ってくる。

鼎「また意識が飛ぶぐらいもふもふしてたっ……」

八弥子「……ヤヤも危なかったよ。あのまま、もふもふし続けていたら、きっと朝になるどころか、数日間は……」

八弥子さんの恐ろしい言葉にうんうんと同意しておく。

奈岐「はぁ……まったく、髪がぐしゃぐしゃだ……」

鼎「ん? といてあげようか?」

奈岐「も、もうしばらく誰にも触らせないっ!」

そんな姿を見ては、私と八弥子さんは顔を見合わせ、声を上げて笑ってしまう。

ようやく仲直りが終わり、明日からはきっと日常が――。

鼎「あ、課題……」

その日常の前には、まだ大きな壁があることを最後に思い出す。

翌朝、奈岐が一人で遠山先輩に謝りに行ったことを聞き、また一つ胸を撫で下ろす。

二人とも謹慎処分は変わらないけれど、これでようやく騒動の幕引きとなってくれた。

ただし、代わりとばかりに発生した問題は、底が知れないほど厄介な気がする。

勾玉のこと――どうにも嫌な予感が拭えなかった。

⇒奈岐が調査を進めたのは要請を受けただけでなく、神狼になろうとすることが、鬼子という存在を否定する事に繋がる為。
見鬼の一件での鼎の対応が、それに拍車を掛けた。頼継の狙いは、鼎だけでなく、鼎を使って奈岐を利用する事にあった。

そして、門の存在を知った
脚本
 
演技
 
演出  
作画
 
補足
 






  4-2-1 4-2-2
状況
学園長に呼び出される鼎。
緊急で伝えなければならないことがあるという。
巫女候補の座から離れてもらうとのこと。
勾玉の力の影響で、封印の儀を早める必要あるという。
封印の力が弱まっていて、巫女の選出も急ぐとのこと。
それを危険視する松籟会の介入にあたっては、
末来か葉子を頼るようにと。学園長室を後にする鼎。
末来に相談する為、寮へ戻る事に。
相談の後、
課題に取り組む鼎。

朝から呼び出される鼎。理事長室へ向かう。
課題の為に徹夜をした鼎、ロビーで八弥子に遭う。
明日は模擬戦だと言う八弥子。棄権を促す。
謹慎明け故、顔だけは出すと言う鼎。
八弥子、朝食に誘う。鼎を一人で行かせる事を
気にする八弥子。鼎にガジを連れていくように、と。
嫌な予感がするという八弥子、鼎を見送る。
真琴、鼎を横目にする。
鼎、理事長室へ。昌次郎に案内され、食堂に。
頼継、ガジを見て戯けてみせる。
またも、勾玉の使用しないようにと言われる鼎。
松籟会もそれを注視していて、強行策に出るという。
自身で勾玉を守るか、誰かに頼るか、身を隠すかを
促す頼継。それを自分に伝える事を訝しむ鼎。
それに答えて、松籟会が嫌いだからと言う頼継。
挨拶の後、カフェを出る鼎。真琴の事で、
昌次郎を向かわせる頼継(⇒末来に伝達した)
時間
三十日目・朝
三十一日目・朝
場所
学園・学園長室 ~ 学園・学園長室前の廊下 ~
寮・ロビー ~ 寮・廊下 ~ 寮・自室
寮・ロビー ~ (理事長室) ~ カフェテリア
設定
   
伏線(大)
   
伏線(小)    
テキスト
鼎の強い意志、母への想い
鼎の出生と勾玉の秘密 / 巫女の真実
松籟会の危険性

櫻井“「結論から申し上げると、
高遠さんには巫女候補の座から離れて頂きます」

鼎「巫女候補の座からって……それ、巫女になれないってことじゃ」

櫻井「理由はあります。ただし、この事は内密にして下さい」

学園長が声を低くして、どこか私を脅すように言う。

鼎「理由を知った上で内密にするかどうか判断します」

櫻井「そのような子供の理屈に付き合っている状況ではないのです。
私とて理由なく処分を告げるようなことはしたくありません」

櫻井「高遠さん、約束して頂けますか?」

鼎「…………」

強気に出てみたものの、見事に一蹴されてしまった。

「何を言われても、巫女のこと、諦められないですよ」

櫻井「……あなたのその考えが島に災いをもたらすとしてもですか?」

鼎「災い……? まさか、私の勾玉のことですか?」

私の質問を受けた学園長の眉が僅かに動く。

櫻井「どこでそのことを?」

鼎「鬼の付く人達です」

少し戯けてみせるが、学園長は重いため息をついた。

櫻井「はぁ……ある程度は知っているということですね」

鼎「勾玉の力が危ない、ということぐらいまでは」

櫻井「ええ、その力は大変危険なものです。 その力の影響で、
封印の儀を早め、巫女の選出を急ぐ必要が出て来ました」

学園長の話に、今後は私が眉をしかめる番だった。

封印の儀を早めて、巫女の選出を急ぐ……?

鼎「それって……どういうことですか?」

櫻井「巫女を選出するのは、本来は夏の祭りの前ですが、
封印の力が弱まった結果、急がねばなりません」

「巫女に関しては、現時点で力のある者から選び、
一対の組合せも変える必要があるでしょう」

鼎「……そうしないと、儀式を行えないからですか?」

櫻井「ええ、祓うべき穢れに敗北してしまうことでしょう」

期間が短いからこそ、力の及ばない巫女もいる。

祭りの日に現れる穢れに敗北してしまえば、
巫女の命はそこまでだろう。

櫻井「高遠さん、出来れば勾玉を学園に預けて欲しい
ところですが、それは難しい話でしょうね。」

「お母さんのお守りですし……」

櫻井「そこまでは強要しません。 ですが、勾玉を所持していることが
危険な状態であることは理解しておいて下さい」

鼎「……力を使うこと以外で、ですか?」

櫻井「ええ、この事態に気付き次第、動く者もいることでしょう」

鼎「…………」

頭の中で嫌な単語が過っていく。

松籟会――手段を選ばない人達。

勾玉のことが知られれば、私をまた狙う可能性がある。

櫻井「彼らの動きがただならぬ場合、学園側であなたを保護します。
その時は私達の言葉に従って下さい」

鼎「それ、勾玉を渡さないといけないって意味ですか?」

櫻井「儀式が終わるまで、そうして頂く必要があるかもしれません。
非常に危険な事態だと認識しておいて下さい」

学園長はそう言い終えた後、椅子に腰を下ろす。

桜「話は以上です。 くれぐれも周囲の動向には気を付けて下さい。
何かあれば、金澤先生か片倉さんへ伝えて下さい」

鼎「保護してくれるんですか?」

「ええ、学生を守ることが学園の役目ですから」

この言葉、どこまで信用出来るのだろうか?

奈岐がこの場にいれば、学園長の真意が分かるかも
しれないけど、それは無い物ねだりだ。”

“祠で聞いた学園長と末来さんの会話からして、
事態は深刻なのは間違いないみたいだけど……。

でも、勾玉を失って、巫女になることも出来ないとしたら、
私がこの島に来た意味が無くなってしまう。

お母さんを見つけるという目的――。

勾玉を無くしたら、そこへは辿り着けない気がした。”

天然な末来 末来と未来の計画

“それに勾玉のことなら、末来さんに相談したい気持ちもある。

鼎「末来さん、まだ寮にいるかな……?」

窓の外に見える学生の数は先ほどよりも多い。

今は謹慎中の身ではあるし、
あまり一目につく場所にいるべきじゃないだろう。

私は末来さんを探しつつ、そそくさと寮に戻ることにした。

登校する学生とすれ違いながら、ロビーにまで戻ってくる。

当然のように、ここにも学生の姿が多いわけで、
末来さんを探すのは困難に思われた。

「そういえば、私……末来さんの部屋がどこか知らない」

葉子先生に聞けばいいのかもしれないけれど、
今は学園にいそうだし……。

その場で、うーんと考えを巡らせていると――。

末来「鼎、どうしたの?」

鼎「ひわっ!?」

突然、首筋を突かれて、変な声が出てしまう。

「み、末来さんっ……いきなり首筋つつくのはやめてくださいっ」

末来「変な声出てた」

鼎「ううぅっ」

探していたけれど……気配も無く、突然現れるから困る。

とりあえず、呼吸を整えてから、末来さんに顔を上げた。

「末来さんに相談したいことがあるんですけど……」

周囲を見渡すとまだ学生の姿が多く目立つ。

末来「場所を変えた方が良さそうだね。おいで」

そう言った末来さんが近くの階段を上がっていく。

寮の三階にまで上がり、しばらく進むと他の学生の姿が無くなる。

「ここなら立ち話をしても、聞き耳は立てられない」

手すりから階下を見下ろせば、まだロビーは喧騒に包まれていた。

この辺りの学生はもう登校してしまったのだろうか?

いずれにしても、末来さんはもうすぐ登校しないといけないし、
手短に済ませよう。

鼎「それで……相談なんですけど、
学園長から巫女候補を諦めるように言われました」

「あとお母さんの勾玉が危険だって」

末来「やっぱり学園長はそう動いたんだね」

「聞き流しておいていいよ。鼎は今まで通り巫女を目指すんだ」

末来さんが学園長の指示を微笑みながら切り捨てていた。

それがあまりにもあっさりとしていたので戸惑ってしまう。

鼎「え、えっと……」

末来「ただ選抜の方法が変わるかもしれないし、
松籟会の一存だけで巫女を選んでしまうかもしれない」

「どちらに転ぶにしても鼎は今のままでいい。
巫女の力に慣れることが大事」

鼎「それで巫女になれるんでしょうか?」

末来「学園や松籟会の望む巫女にはなれないかもしれないね。
ただボクや鼎のお母さんが望む巫女にはなれる」

末来さんやお母さんの望む巫女……?

でも、巫女を選ぶのは学園と松籟会じゃ?

「勾玉も同じだよ。 それは鼎と鼎のお母さんのものだ。
絶対に手放してはいけない」

鼎「……分かりました」

どこか力強く感じた末来さんの言葉に頷く。

末来「そろそろボクは行かないと。鼎はちゃんと部屋に戻るんだよ」

鼎「はい、ありがとうございました」

そして末来さんは微笑みを残して、廊下を歩いて行ってしまう。

その背中をしばらく目で追った後、勾玉を手に取る。

「……手放したらいけない、か。その通りだよね」

これはお母さんが残してくれたお守りだし、何度も私を助けてくれた。

詳しい理由も分からないまま、簡単に手放すことなんて出来ない。

「よし……」

私は決意をあらたにすると、部屋へ足先を向ける。

自室に戻れば、山のような課題が待っているし、
まずはそれと格闘することからスタートだ。”



守る為の力

八弥子“「朝一番から理事長に?
カナカナ、それこそサボっちゃえば?」

鼎「あはは……でも、行かないと
怒られないそうなので」

八弥子「そういえば、
あの人もナギっちと同じなんだよね?」

思い出したかのように八弥子さんがそう言う。

鼎「そうでしたね。
私に見鬼のことを教えたのもあの人ですし」

八弥子「うーん……ナギっちなら別に
いいんだけどさ、あの人に考え読まれるのは
抵抗あるっていうか」

八弥子さんが難しい顔をしながら腕を組んでいた。

鼎「それ、分かります。男の人っていうのもあると
思うんですけど、何考えてるのか分からない感じ
がして……怖いんですよね」

八弥子「うぅん、そんな人のとこにカナカナを
一人で行かせるのは気が引けるぅ」

鼎「大丈夫ですよ、私って考えてることと言ってる
ことが同じですし。若干、抵抗はありますけどね」

八弥子「ね、カナカナ、あれって目で
見ないと分からないんだよね?」

鼎「詳しいことは分からないっですけど、
そうだと思います」

八弥子「じゃあ、ガジの出番だっ!」

ガジ「ニャーン?」

八弥子さんが頭に噛み付いていたガジを
抱きかかえると、私に向かって突き出してきた。

鼎「わわっ……って、なんでガジなんですか?」

八弥子「ふふっ、こうしてカナカナがガジを抱いて
おけば、理事長の目もガジが防いでくれるはず!」

おー? と思ったけど、仕組みが分からないので、
役に立ってくれるのかどうか……。

八弥子「あとカナカナに何かあったら
ガジが知らせてくれるしね」

鼎「あはは、それは頼りになります」

そっちの方が本命に聞こえたので、
八弥子さんからガジを預かっておく。

八弥子「んー、よく分かんないけどさ、
嫌な予感がするんだよね。
肌にぴりぴりって来る感じ」

鼎「私は平気ですけど……何かありそうです?」

ガジを抱きかかえ直して、八弥子さんに訊ねる。

八弥子「ヤヤの勘って結構当たるんだよねー。
でも、何だろうななぁ?さっきからずっとなんだよね」

鼎「ふふっ、ガジがいてくれるんで私は平気ですよ」

八弥子「んー、そうだねー。ガジ、ちゃんとカナカナ
を守らないと、朝ごはん抜きになっちゃうぞー?」

ガジ「ニャーン……」

通じているのか、実にしょんぼり
とした声をガジがあげた。

鼎「あはは、遅刻するとまずいんで、
そろそろ行きますね」

八弥子「うんー、いってらっしゃーい」

手を振ってくれた八弥子さんに微笑んでから、
私は寮の外へ向かっていく。

そんな私を見送る視線が
もう一つあることも気付かずに――。

真琴「――――」”

松籟会の危険性 頼継の計画
鼎の出生と勾玉の秘密
疑問,松籟会に背く頼継に対し

頼継“「わざわざ朝一でキミに
来てもらった理由は二つだ」

理事長はまず一つと人指し指を立てた。

「一つ目は、キミが持つ勾玉の危険性だ。
これがなかなか困ったものだ、
ってもう聞いているかな?」

鼎「学園長と……あと向山先輩からも」

頼継「うん、伝言が行ってくれたようで何よりだ。
ま、危険なんだよ。内容は聞いての通り、
島で封じてるものに影響を与えてしまう」

「で、松籟会も学園もその力を使わせたくない。
当然の反応だね。ただ時既に遅し、
儀式を早める必要が出てしまった」

「そこで僕からも一言。あまりその力を
使わないで欲しい。 なぜなら、これは
二つ目の用件に繋がる」”

“「松籟会がさ、これ以上の勾玉の使用を怖がって
てね。ここで、またキミの身が危険になったわけだ」

鼎「松籟会の人が……私に何かするんですか?
まさかとは思いますけど、取り上げるとか……?」

頼継「ご明察。そう、勾玉を奪いに来るんだ。
そこでキミには選択肢が生じる」

「勾玉を今ここで僕に渡すか、
自分で守り抜くか――」

鼎「…………」”

頼継“「ただキミとしては勾玉を手放したくない
だろうし、僕も無理強いをするつもりはない」

鼎「……?」

勾玉を渡すように言われると思っていたら、
そんな言葉が聞けて、若干拍子抜けする。

頼継「だったら、どうするか。答えは一つだ。
高遠鼎、キミが勾玉を守り抜けばいい」

「ただし、キミ一人の力じゃ松籟会の人間には
敵わない。友達を頼るか、身を隠すか、
そこは好きにするといい」

「相手は実に狡猾だ。そこにいる猫が狩りを
する時と同じさ。身を隠して、得物に忍び寄り、
突然襲いかかる」

理事長が手先をばくばくと動かして、
何かを齧る仕草を真似してみせた。

鼎「…………」

でも、私の反応が今一つなのを見ると、
やれやれと肩をすくめてしまう。

頼継「話はそんなところさ。 ちなみに松籟会が
動き出したって話は今朝
入手したばかりの新鮮な情報さ」

「奴らはもう動いている。 キミがその勾玉を
守りたいなら、充分に気を付けることだ」

「ただし、あまり力は使わないでおくれよ?」”

鼎“「……どうして私にそんなことを
教えてくれるんですか?」

「最もな質問だ。だから、最もな回答を返そう」

理事長が唇の端をつり上げ、
どこか不敵に思える笑みを浮かべた。

「僕は松籟会が大嫌いだからさ」

鼎「えっ……」

頼継「おっと、今の発言は秘密にしておいてくれよ。
松籟会の老人達の耳に入ると面倒になる」

理事長自身も確か松籟会に
属しているはずなのに……。

でも嫌いだから松籟会の考えに背く行動を
取ることに疑問は……無いような、あるような?

「内部から食い破るために僕は松籟会にいる。
そういうことだ。おっと、今のも秘密だよ」

鼎「えっと、私にそんな
秘密を教えてもいいんですか?」

頼継「んー、いいんじゃないかな。 今のキミが
松籟会と仲良くすることは考えられないし、
向こうも考えていない」

随分とアバウトな考えを披露されてしまい、
再び呆気に取られてしまう。

「だから、僕は味方だ、なんて胡散臭い
ことは言わないよ。ただキミが
告げ口をする理由が無ないだけさ」

鼎「まあ、確かに……
わざわざ言う必要は無いですね」

頼継「そういうこと。 さて、質問は終わりかな?」

鼎「あ、はい……ええと、ありがとうございました」

頼継「あっはは、律義だね。 いいよ、気にしない。
気にするべきは、今のキミ自身の安全だ」

鼎「……分かってます。それでは、失礼します」

頼継「それじゃあね」”

“「んー、言ったか。昌次郎、中村家がもう
動いているはずだ。彼女の味方に
連絡を入れてあげるといい」

「もう気付いているかもしれないけどね。
ただ、手遅れになってからじゃ遅い」

昌次郎「かしこまりました」”
脚本
   
演技
   
演出    
作画
   
補足
   






  4-2-3 5-1
状況
学園中庭を通り、寮へ向かう鼎。寝ているガジ。
校門で真琴が歩み寄ってくる。
嫌な予感がするが、話しかけてみる鼎。
一蹴し、付いて来いという真琴。鼎への母が
真琴の母を死人同然にしたという。
逡巡した後、真琴を追う鼎。学園の南にある森へ。
真琴、鼎の母について語る。
勾玉をよこすように迫る真琴。断る鼎。
実力行使に出る真琴。霊石を投げ捨て、砂を蹴り上げ、
鼎の目を遮る。横薙ぎ一閃虚を突かれるも、間一髪躱す鼎。
逆袈裟が予想以上に伸びる。柄元の左手を離し、右腕を伸ばした。
刀を振り上げる真琴、末来の介入。
末来と会話の後、撤退する真琴
末来との約束の為、ロビーへ向かう鼎。
課題は済ませてある。
到着後、数分して末来が訪れる。
末来、鼎の手を握り、自室へ向かう。
到着後、勾玉の事を話す末来。
自身の事、未来の事、
これまでの事、これからの事を鼎に告げる末来。
鼎、末来達の覚悟を知り涙する。
末来、鼎の涙に感謝する。
鼎、泣き腫らした顔を洗い、シャワーを浴びる。
末来達を想う鼎、末来、背中を流しに入ってくる。
床上手な末来に翻弄される鼎。
火照った身体のまま部屋に戻り、
末来の膝枕で眠りに落ちる鼎
時間

〃 ~ (夜)
場所
学園・中庭 ~ 学園・校門 ~ 森(学園の南)
寮・ロビー ~ 寮・末来の部屋
設定
・真琴が言うには、鼎の母の所為で、自分の母が犠牲となった
・災いとは、島が多くの穢れで溢れることである
・島の封印について、八弥子もいくらか知っている
(⇒礎の事は知らず、穢れの大量発生までと思われる)

・真琴の口から、連絡船での一件が、
頼継から末来へ口添えがあった事が明らかとなる
・やはり星霊石を使用していた末来
・末来の部屋は、鼎の部屋の近く
・寮長の部屋であっても、他と変わらない

・勾玉は未来の為に作られた
・作り出してはいけない時に
・未来の力に耐えられるように

・未来と末来の望みは、因習を終わらせる事
・祠の奥で、巫女は贄とされる
・完全な封印は、未来と末来を一対の礎とし、
鼎が閉じる事
・封印を維持する為には、巫女を捧げることしか
方法は無かった
・数百年前、最初の儀式で末来は巫女となった
・末来を礎から解放したのは未来
・末来は床上手
伏線(大)
   
伏線(小)    
テキスト
鼎の優しさと強さと公平さ 鼎の強い意志、母への想い
巫女の真実 頼継の計画 末来の真実 親子関係


真琴“「お前に話がある。ついてこい」

鼎「わ、待ってっ……それ、物騒な予感しかしないんだけどっ」

踵を返そうとした中村さんを慌てて呼び止める。

松籟会の人間かつ私を狙った前科一犯な人に
ついていけるほど、お人好しには出来ていない。

真琴「……高遠未来がこの島でやったことを一つ教えてやる」

中村さんが振り返り、鋭く私を睨み付けてくる。

どうしてそこまで恨まれるのか……そう思っていたけど、
次の言葉を聞いた瞬間、胸に突き刺さるものがあった。

真琴「高遠未来は私の母を死人同然にした」

鼎「えっ……?」

真琴「高遠未来が巫女の掟を破り、
島に災いをもたらそうとした。
母さんはそれを防ぐため――犠牲となった」

「私が嘘を言っているように見えるなら。
このまま寮に帰って好きにするといい」

「ただ自分の母がしたことに、
少しでも責任を感じたなら、私についてこい」

中村さんがそう言い残すと
校門の外へ向かって歩き出す。

鼎「お母さんが……災いを、って……」

理事長の話の後だからか、嫌が応でも
勾玉のことを意識してしまう。

お母さんがこの島で何かした……?

型破りな人だと思うけど、
誰かを傷つけることを望む人じゃない。

本当に災いをもたらそうとしたら、
その過程で何かあったはず。

でも、たとえ何かがあったとしても、
中村さんのお母さんをそんな状態にしたとしたら……。

「ガジ、寮に戻ってて。私、行かないと」

ガジ「ニャン……?」

ガジを地面に下ろし、中村さんの背中を目で追いかける。

私を連れ出すための嘘かもしれない。

だけど、嘘ならもっと上手な嘘があるはず。

それにたぶん……中村さんは嘘をつけない人間だと思う。

鼎「うーん……ガジ、私って甘いかな?」

「でも、お母さんが何かしたって言われるとひけないよね」”

(真琴の後を追い)

真琴“「殊勝な心がけだな、高遠鼎。私を信じたか」

鼎「中村さん、あんまり嘘は得意じゃないみたいだし」

真琴「否定はしないな。それで話がある」

早速と――もう嫌な予感しかしない。

勾玉の力に頼る事態だけは避けて欲しいところだけど……。

真琴「その勾玉、こちらへ渡してもらおうか」

やっぱり、と内心で頭を抱える。

鼎「それ、断ったら実力行使だよね……?」

真琴「話が通じるようになったな」

中村さんの行動は松籟会からの指示だけでなく、私怨もあった、

しかも、それは私のお母さんがしでかした結果のこと。

鼎「ねえ、災いって何?」

真琴「私が聞いたのは島が穢れで溢れかえることだ。
学生だけでなく島民にも危険が及ぶ」

「島を取り仕切る松籟会としては避けなければならならい」

だから、中村さんのお母さんに何かがあった?

鼎「ここで勾玉をあなたに渡したとして……
私、無事に帰れる気がしない」

真琴「フッ、素直な奴だ。しかし、その通りだな」

「命までは取らない。だが、母さんと同じ目には遭ってもらう」

本気でそんなことを言われ、顔が引きつるのが分かる。

今から殺さない程度に痛めつけるなんて宣告されて、
平然としていられるのは……それこそお母さんぐらいだろう。

鼎「どちらにしても、だったら……勾玉は渡せないよ」

「お母さんは島にいる。見つけ出して、何をしようとしたのか、
ちゃんとお母さんの口から聞きたい」

「どうして災いを引き起こすようなことをしたのか……
聞いておかないといけない。何か理由があるはず」

真琴「理由があったとしても、母さんは殺されたも同然だ。
私には積もり積もった恨みがある」

「勾玉を渡さないと言うなら、奪えという指示が出ている。
それを実行させてもうだけだ」”

(真琴の強襲)

末来「そこまで」

一筋の光が過ったかと思えば、
中村さんの刀が二つに両断されていた。

今の……巫女の力?

真琴「バカな……どうして、あなたがここに……?」

中村さんが半分に切れた刀を捨て、視線を私から――。

鼎「末来さん……?」

末来「どうしてボクがここに? そうだね、今度こそ質問に答えよう」

「真琴が危ないことをしようとしているって知らせを受けたんだ」

真琴「連絡船の時と同じ……理事長の差し金か」

島に来る時……連絡船……。

あの時、私は末来さんの姿を船の上で見ている。

でも……理事長の差し金っていったい?

末来「前回のように星霊石を無駄にする必要はないけど」

真琴「……何故、私の邪魔を」

中村さんが草むらに捨ててあった自分の星霊石を拾い上げる。

末来「もし真琴が鼎を手にかけてしまえば、
その心を穢れに持って行かれてしまう」

真琴「事情を知った上でのお説教ですか」

末来「違うよ、事実だ。そして、真琴はその事実を知らされていない」

中村さんが僅かに眉を跳ね上げた。

だけど、それも一瞬だけのことで、
すぐに末来さんへ険しい視線を向ける。

真琴「戯れ言を……私を惑わすつもりですか」

末来「キミの叔母さんが本当のことを言っていると思う?」

真琴「っ……当然です。叔母は私にとって母のような人です」

末来「でも、実の母親ではない」

末来さんの指摘に中村さんが顔を顰めた。

対して、末来さんはいつものように淡々として……冷静だった。

真琴「それがどうしたというのです?」

末来「惑わされているのはキミだ、真琴」

「……ボクはこの目で島の歴史を見てきた。
だから、あの時、キミのお母さんがどうなったか、ボクは知っている」

真琴「母さんのことを……?」

今度は隠すことなく、中村さんが疑問の表情を浮かべる。

そんな彼女に末来さんがゆっくりと歩み寄っていく。

末来「真実を教えよう。ただし、受け入れられるかはキミ次第だ」

真琴「…………」

そしてその距離が僅かになった時、
末来さんが中村さんの耳元で何かを囁いた。

末来さんの言葉に……中村さんが驚き、目を見張る。

だけど、その驚きの後、彼女の瞳に怒りの火が灯り、
星霊石から蒼い炎を舞い上げた。

「嘘だっ! そんなことがあるはずがっ……!」

激昂する中村さんと冷静な末来さん。

取り残されたままの私には何が起きているのか分からない。

ただ、末来さんはこうなることが分かっていたかのように、
自分の星霊石から光を解き放ち始めた。

「私を惑わそうとしているのはあなたの方だっ!」

末来「真琴、キミには力がある。その力で真実を見極めるんだ」

真琴「それ以上、喋るなっ! 私を惑わそうとするなっ!!」

蒼い炎が輪となって駆け抜け、
巫女装束姿へと変わった中村さんが大剣を取り出す。

鼎「末来さんっ!」

中村さんは本気だろう。

末来さんにどんな考えがあるか分からないけれど、
声を上げずにはいられなかった。

だけど、末来さんは私に優しく微笑みかける。

末来「大丈夫、鼎は何も心配しなくてもいい」

鼎「末来さん……?」

末来「今は真琴を無力化する――彼女には考える時間が必要だ」

そう言った末来さんが星霊石の光をさらに強めていく。

その光が末来さんの身体を包み込んでいき、
巫女という力を宿していく。

その姿は他の誰よりも抽象的で、ただ光だけが溢れていた。

鼎「これが末来さんの……」

星霊石は人の性質を現すと八弥子さんから聞いたことを思い出す。

じゃあ、この光が末来さんの……?

温もりと同時にどこか懐かしさ――お母さんの影を感じる。

眩い光が弾けると末来さんが巫女装束を纏った姿に変化した。

光を纏った末来さんの姿は神々しさすら感じる。

そして、周囲にはまるで意志を持っているかのように、
不思議な金属体が飛び交っていた。

これが末来さんの武器……?

末来「真琴、キミが怒っているのは……
そうかもしれないと思っていたからなんだよ」

末来さんが片手を広げると、
その手に光が集束し、一振りの剣が宿った。

真琴「……それ以上、喋るなと言ったはずだっ」

相手が誰であろうと臆することなく、
中村さんが大剣を構える。

末来「真実を受け入れるのはつらいこと。
だから、今のキミには考える時間が必要だ」

真琴「黙れっ! あなたの言っていることは全て偽りだっ!!」

怒声を発し、中村さんが炎を放ちながら末来さんへ駆け込む。

こうなると、もう戦いは避けられない。

末来「…………」

どこか悲しげに目を伏せた末来さんが、
剣の切っ先を中村さんへ向ける。

そして、その光の力を再び解き放った。

中村さんの剣が末来さんの操る武器に弾かれる。

強気に攻め込んできたはずの中村さんだったが、
いつもと何か様子が違った。

真琴「何だ……この力……殺気を感じない……!」

そう、末来さんの力には殺気を感じない。

攻撃するという意志が全く見えないから、
対応することも出来ないんだ。

無闇に打ち込んでしまえば、絡め取られるだけ。

だからといって、動かずにいたら――。

「また剣がっ!?」

末来さんの操る剣が鞭状にしなり、
中村さんの大剣に絡み付いていく。

末来「もう離さない」

真琴「くっ……ならば、こちらから!」

中村さんが大剣を手放し、両手で炎を構成していく。

しかし、その炎に目掛けて、既に展開されていた
末来さんの浮遊武器から光が放たれる。

「また気配が無いだと……!?」

末来「真琴、これ以上は無意味だ」

中村さんの炎が消し飛ばされ、無手になったところ、
元の形状に戻った末来さんの剣が突き付けられる。

真琴「…………」

末来「真実を確かめるんだ、キミの目で――。
逃げ続ければ、それだけでキミの心が穢れに呑まれる」

「それに――叔母さんが望むことは、
キミのお母さんが望んでいることだと思う?」

負けを認めたのか、それとも末来さんの言葉に思う所が
あったのか、中村さんは星霊石に自身の力を戻していった。

そんな彼女を見た末来さんも元の姿へ戻っていく。

真琴「……もし、あなたが嘘を言っていた場合は」

末来「ボクを好きにしても構わない」

真琴「充分です、退かせていただきます」

最後に末来さんを睨み付けると、中村さんが踵を返し、歩き去る。

その姿を私はただ唖然と見送ることしか出来なかった。

鼎「あの……末来さん、中村さんにいったい何を……?」

末来「事実。悲しい事実だよ」

鼎「…………?」

星霊石をしまうと、末来さんが私に近づく。

そして、今度はそっと私の頭を抱き寄せた。

末来「怖かった? もう大丈夫だよ」

鼎「えっと……末来さん?」

何か、肝心なことを……はぐらかされた気がする。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、
末来さんは私の髪を撫でていた。

末来「……事態がこうして動いた以上、
鼎にはちゃんと話をしないといけないね」

「ボクと鼎のお母さんのこと、ちゃんと伝えておこう。
そうしないと、きっと鼎に恨まれてしまう」

そう言った末来さんがクスッと少しだけ微笑む。

そして、私から離れると、いつもの表情に戻る。

末来「今日の夜八時に寮のロビーで。待っているよ」

鼎「末来さん? どこか行くんですか?」

末来「うん、力を使ったことで少し野暮用が出来たから。
鼎は先に寮へ戻って、課題を終わらせておくんだ」

そ、そういえば……そんなものもあった。

私が頭を抱えていると、末来さんが再び微笑みを浮かべる。

「それじゃあ、約束の時間に」

鼎「あ、はい、ありがとうございましたっ」

末来さんが来た道を少し早足で引き返していく。

ううん……結局、中村さんのことを聞きそびれてしまった。

中村さん、お母さんのこと……何かあるのかな?

疑問が浮かぶものの、今の私に知る術も無く、
寮へ引き返すことぐらいしか出来なかった。”
鼎の優しさと強さと公平さ
末来の真実 未来と末来の計画
鼎の出生と勾玉の秘密
巫女の真実 親子関係 
末来と鼎の関係 天然な末来

“末来「待たせたね、鼎」

何故か制服姿の末来さんが私の側に歩いてきた。

もしかして……今、戻ってきたとか?

鼎「いえ、末来さんは今まで外に?」

末来「門限破りになってしまいそうだから、
それは秘密でいいかな?」

鼎「あはは……それもそうですね」

仮にも寮長なんだし、門限破りはまずい。

そんなことを思っていると、末来さんが私に手を
差し出し、ソファーから立たせてくれた。

「ありがとうございます」

末来「いいよ。 ボクの部屋に行こう。鼎には話がある」

そう言った末来さんが
歩き出すのはいいんだけど……。

何故か私の手は握られたままだった。

まだロビーには他の学生達もいるので、
少しだけ恥ずかしい気がする。

一方の末来さんは特に気にした様子も無く、
むしろいつもより楽しげにも見えた。

うーん……末来さんって……
やっぱり、天然なところがある?

カチャッと音を立てて、末来さんが部屋の鍵を開ける。

そんな部屋の場所はというと、
驚くべきことに……私の部屋から、
ほんの少し離れたぐらいの所にあった。

目を凝らさなくても自分の部屋が見えてしまう。

末来「鼎、入って」

鼎「あ、はい、失礼しますっ」

末来さんの声に促されて、
若干緊張気味ながらも部屋の中へ踏み出す。

室内に入ると、すぐに末来さんが電気をつけてくれた。

寮長の部屋といっても、
やっぱり他と変わらないらしい。

規則は規則……ってところなのかな?

末来「話が長くなるかもしれない。
好きに座っていていいよ」

そう言ってくれたものの、
ベッドは何となく躊躇われたので、
机の近くにあった椅子に腰をかけておく。

すると、すぐに末来さんが
コップに注いだお茶を出してくれた。

鼎「ありがとうございます」

末来「さて……鼎が今一番困ってるのは
勾玉のことだね。 そこから話をしよう」

末来さんが向かいに腰かけると、
神妙な面持ちで切り出す。

「その勾玉は未来のために作られた星霊石なんだ。
未来の魂がそこにあると言っても過言じゃない」

そんなことを言われ、
改めてお母さんの勾玉を手に取ってみた。

鼎「お母さんの……?」

末来「どうして、その星霊石だけ
勾玉の形をしていると思う?」

そういえば……と聞かれてみて、初めて疑問に思う。

お母さんのだから、という考えが念頭にあって、
深くは考えていなかった。

「それは禍魂――禍々しい魂と書いて、
マガタマと読む。 本来、星霊石を作り出しては
いけない時に作られた」

「未来の力に耐えられるだけの
星霊石を作り出したんだよ」

鼎「でも、何だか……不吉なイメージですね」

お母さんには悪いけど、禍魂だなんて……
ちょっと良いイメージが持てないかもしれない。

末来「……そうだね。実際に使い方を誤れば、
それは魔を宿してしまうほど危険な物だよ」

鼎「…………」

末来「だから、未来や鼎だけが勾玉を使ってもいい。
それは真っ直ぐな魂を持つものだけの物だ」

褒められている気がしたけれど、少しだけ怖くなった。

使い方を誤れば、危険なものが私に託されている。

息をついた私に気付いたのか、
末来さんが立ち上がると、私に歩み寄ってきた。

末来「鼎、絶対にその勾玉を手放していけない。
それは……ボクと未来の望みを紡ぐ手段だ」

鼎「望み……」

末来「そう、望みだ。この島を縛る因習に
終わりを告げること。
そして、それがボクと未来の望みだよ」

因習に終わりを告げる……?

それって巫女の伝統を終わらせるってこと?

「鼎は学園に来て不思議に思ったことはない?
どうして元巫女の人間が一人もいないって」

鼎「…………あ」

またお母さんのことが頭にあったから、
気付いてなかった。

巫女候補だった人――
葉子先生みたいな人はいても、
巫女だった人を私はお母さん以外に知らない。

末来「役目を終えた巫女は島を出る――
そういう話になっていたね。でも、
そんなものは松籟会が作ったでたらめにすぎない」

「学園長とボクが行った祠、あの奥に巫女は向かい。
そして――この島のために贄となる」

鼎「贄……生贄……ですか?」

唐突に聞かされた不穏な言葉を聞き返してしまう。

末来さんは冷静な様子のまま、私の頬に手で触れる。

「そう、生贄。封印しているものを保つための贄となる」

鼎「…………」

末来「ボクは松籟会が絶対悪だとは言わない。
彼らの存在もまた歴史の被害者に過ぎない」

「封印を保つため、巫女を捧げるしか手段は
無かったんだ。 だから、その伝統を担う者達が
必要になるのは当然だよ」

頬から末来さんの手が離れ、今度は髪に触れた。

そして、そのまま緊張をほぐすように
優しく撫でてくれる。

「でも、未来は見つけることが出来た。
もう贄を必要としない封印の方法を、ね」

鼎「……でも、
まだ巫女の伝統は続いていますよね?」

末来「そして、ボクと未来の計画も続いているんだよ」

鼎「末来さん……お母さんの……」

ちゅっと啄む音を立てて、
末来さんが私の髪に口づけ、手を離していった。

あまりに自然な流れですぐに気付かなかったけど、
ちょっと照れてしまう行為に胸が高鳴ってしまう。

「未来はあの祠の中で、
ボクが鼎を導いて来る時を待っている」

鼎「……えっ」

私から離れた末来さんは真剣な眼差しだった。

末来「完全な封印を行う方法――
それはボクと未来が一対として封じること」

「そして、その象徴である鼎が
一対の巫女として門を閉じること」

一対の巫女、この島で続けられてきた因習。

でも、お母さんと末来さんが一対として……?

それって……嫌な単語が頭の中で過っていく。

鼎「お母さんと末来さんが一対に……
それ、さっき言ってた話……」

突然のことに混乱して上手く喋れないけれど、
どうしても末来さんに言いたかった。

浅い呼吸の後、私は末来さんに問いかける。

鼎「お母さんも末来さんも……贄になるつもりですか」

末来「……そうだね、最期の生贄になる。
もうこんなことを繰り返させないためにね」

予想した言葉がそのまま返ってきてしまい、
愕然とする。

途端に嫌だという感情が胸に溢れ、
つい末来さんの胸を掴んでしまった。

「……鼎?」

鼎「お母さんが祠にいるってことは……
もうお母さんは……」

末来「鼎を騙すような形になったかもしれないね。
未来は魂となって、あの場所に留まり続けている」

「……ボクと鼎が来るのを待っているんだ」

鼎「それ……封印が成功しても、
お母さんも末来さんもっ……!」

気付くと手が震え、どうしてか目から涙が溢れる。

お母さんだけじゃなくて、末来さんまで……?

そんなことを思うだけで、昂る感情が止められない。

末来さんは私の頬を伝った涙を指でそっとすくう。

末来「だけど、これから先に続く悲劇を止められる」

鼎「でもっ、でもっ……そんなのっ……」

お母さんや末来さんの方が私にとっては――。

そう言いかけた言葉を寸前で呑み込む。

この島に来て出会った巫女候補のみんな。

それから、この先に巫女候補となる子達。

それがどれだけの数になるのかも分からないのに、
私の感情だけで言ってしまっていい言葉なのか。

そんな想いがぎりぎりのところで私を止めていた。

末来「鼎は優しい子に育ってくれたね……嬉しいよ」

鼎「っ…………」

何も言えなくなってしまった私を
末来さんが抱きしめる。

いつものように優しい温もりが今は胸に痛かった。

また涙が溢れて止まらない。

末来「――最後に一つだけボクのことを話そう」

「ボクは最初の儀式で贄となり、
礎となった巫女なんだ」

鼎「…………」

最初の儀式……?

驚き、顔をあげようとした私の頭を末来さんが撫でた。

末来「ボクが封印の要となった。
それはもうどれだけ昔のことか覚えていない――
数百年は前じゃないかな」

「未来がそんなボクを封印から解き放ったんだ。
未来のことだ、きっとその場の勢いだったんだろうね」

「それからボクは彼女と一緒にこの計画を立てたんだ」

二人の考えが私には重すぎて……
また何も言えなくなる。

ただどうしても涙だけが溢れて、
末来さんから離れられない。

「一度に色んなことを話すぎたね。
鼎を混乱させてしまったかもしれない」

鼎「…………」

末来「でも、ボクのために泣いてくれてありがとう」

首を振ることも出来ず、
末来さんに抱かれたまま肩を震わせる。

そんな私を末来さんは
何も言わずに抱きしめ続けてくれた。

しばらく時間が経って、気持ちが落ち着いてくれる。

泣き腫らした顔で部屋に帰りにくいと
思っていたところ、末来さんは好きなだけ
ゆっくりしてくれていいと言ってくれた。

シャワーも貸してくれるらしく、
今は遠慮せずに借りることにする。

お湯で顔を洗うと、少しだけ気分もすっきりしてくれた。

でも、色んなことが頭を過ってしまうのは変わらず。

鼎「…………」

このままお母さんと末来さんの考え通りに動いて
しまえば、もう二人には会えなくなってしまう……?

一対として、この島で最後の犠牲となって……
いなくなる。

そんなのはどうしても嫌だ。

二人がそう望んでいたとしても、私は……。

そう思っていた時だった。

末来「鼎、背中流してあげる」

鼎「えっ……わっ、わわわっ!?」

お風呂の扉が突然開いたかと思えば、
末来さんが顔を見せて……。

背中を流すといったそばから……
そこ、背中じゃないしっ!?

「み、末来さんっ! そこ、背中じゃ……!」

末来「ん、背中だよ?」

確かに背中に柔らかいものを感じるけど……。

でも、そうじゃなくて、末来さんの手が私の胸とかに!

鼎「って、違っ……!
む、胸っ……胸、触ってますっ!」

末来「ダメ?」

そんな正直に聞かれても答えられない。

そう思っていると、
お腹の辺りを末来さんの手がなでる。

ボディソープの泡が滑って、
なんか変な感じになりそう。

鼎「ひぁ……っ……
く、くすぐったいっ……ですっ……!」

末来「そうかな? くすぐったい?」

今度は内股を撫でられると、やっぱり
くすぐったいのとは、少し違う感覚が身体に響く。

思わず身をよじりながら末来さんの名前を呼ぶ。

鼎「……ぁ……んっ…………み、末来さん……?」

洗ってくれているというより、
別の意図を持っている気がしてならない。

末来「背中だけじゃ寂しいし」

鼎「せ、背中だけでっ……大丈夫ですからっ……!」

ちゃんと言葉にしてみるものの、
末来さんの手は止まらない。

胸や太ももを優しくなぞられ、
声が堪えられなくなってくる。

「っん……はぁっ……そ、そんな触り方……
ダメですって……」

末来「どうして? こうした方が気持ちいい」

その気持ちいいの意味……少し違う気がしますから。

色々伝えたくても、末来さんの手が
変な動きをしてくるので、堪えるのが精一杯だった。

鼎「くっ……んうぅ……はぁっ……ぁ……
ど、どうして……?」

「そんな変な触り方……あっ……くっ……はぁっ……」

無理して喋ろうとすると、
自分でも恥ずかしいような声が混じる。

末来「鼎の声が可愛い、気持ちいいの?」

鼎「そ、そういうこと言うの……
無しでっ……お願いしますっ」

末来「そう? じゃあ、ここをこうするのは?」

末来さんの指先が秘所へと還ってくる。

ぞくぞくと来る感覚に
思わず背中が跳ね上がってしまう。

鼎「はぁ、ううぅっ……だ、ダメっ……そこはっ……!」

末来「でも、気持ちいい方がいい」

鼎「それ、違う意味……に……なって、ませんっ?」

頑張って聞いてみるが、秘書に泡が塗り込まれていく。

ぬるぬると滑る感触に、
また声が堪えられなくなってくる。

鼎「それ、ダメですっ……あっ……
んんんっ……あぁっ……」

「はぁっ、泡が滑って……なに……これ……
はぁ……あんっ」

末来「こうすると気持ちいい」

割れ目をなぞるような動きは本格的な愛撫だった。

身体をくねらせて逃れようとしても、
後ろから抱きつかれていて、
まともに動きが取れそうにない。

それどころか、背筋に末来さんの乳首が
伝っていくから、また変な感覚を味わうことになる。

鼎「末来、さんっ……
これ、ホント……ダメです、って……」

「身体が……熱くて……変な感じに……
んあっ……あっ……」

末来「それ、気持ちいいってこと? ふふっ、良かった」

ううぅ、やっぱり最初からそのつもりで……。

考えれば考えるほど、今の状況がよく分からない。

とにかく、変な声を出さないようにと
我慢するだけだった。

末来「鼎、胸おおきくなった?」

鼎「き、気のせい、ですからっ……
そんな刺激しないで……」

「あっ……んんっ……ダメ……
胸も……変な感じで……」

末来「胸も気持ちいい? じゃあ、これは?」

乳房から乳首へと指先が這い上がる。

鼎「あんっ、んんっ!
こ、声出ちゃ……くっ……んっ……」

「そんなに、掴まれたら……はぁっ、んううっ……!」

末来「じゃあ、こりこりしてみる」

鼎「同じ、ですよっ……ひぁっ、んああっ……だから、
そんなの、んっ……はぁっ、ホントに……
こりこりして……くうぅ……」

胸からじわじわとくる刺激だけで、
何度も身体が反り返る。

しかも、胸だけでなくて秘所を滑る指先が
的確に私の弱いところを攻めてきた。

「な、なんで……そんなに弱いとこ……
ひぁっ……ダメ、声……」

「はぁっ、はぁ……あぁ……
末来さんっ……ダメってば……」

末来「でも、鼎の身体、熱くなってる。
ダメじゃない感じ」

鼎「そ、そんなこと、ないですっ……これ、
お湯の……熱で……熱くなってるだけで……
くっ……んんっ……あっ……!」

末来「でも、鼎、変な声いっぱい出てる」

鼎「くうぅっ……い、意地悪っ……
末来さんっ……はぁっ……」

「意地悪っ……はぁ、んあっ……だから、
そこ……ダメっ……」

どうして末来さんには、
こんなことまでお見通しなのか。

それほどまでに刺激がピンポイントすぎて、
すぐにでも達してしまいそうになる。

そんな感覚に身体が苛まれているタイミングで、
末来さんの指が陰核を軽く弾いた。

鼎「くううぅっ! んああっ……
あっ……くぅぅ……はぁっ……」

「そこ、もっと……ダメ、です……
ひぁっ、ああぁっ、あっ……」

末来「ダメ? でも、鼎が気持ちよさそう」

鼎「んうっ、んっ、ああっ、あっ、違っ……
これは……そのっ……はぁっ、泡が……
滑るのが……ひぃんっあんっ……!」

色々抗議するのも限界で、まともに喋れなくなってくる。

ぬるぬると陰核を指先で刺激され、
頭の中まで惚けてしまう。

「ダメ、ダメっ……やあぁっ……
そんなにしないで下さっ……」

末来「ふふっ、またイッっちゃう?」

うぅ、さっき少しだけイッたの……バレてるし。

そんなことを言われてしまい、さらに顔が熱くなる。

ただ今はそれどころじゃなくて、
もう身体中が限界を訴えていた。

鼎「ひあっ、あああっ、ダメ……
それ以上……触ったら……!」

「くっ、はあぁっ、ぬるぬるして……いやっ……んあっ」

末来「じゃあ、もっと……ほら、鼎? ボクの指、見て」

視線を下ろすと末来さんの指が
私のソレを摘み上げるようにして……。

それ以上、考えるだけでも
恥ずかしさと変な快感が押し寄せる。

鼎「そんな、こんなのっ……やあぁ……
くううっ……だめ、だめっ、末来さんっ……
もう、来ちゃっ……うぅっ……!」

末来「うん、イっていいよ。ほら、鼎?」

ちゅっと耳にキスの音が響いた瞬間、
身体の中で何かが弾ける。

「ひあぁっ、来ちゃっ……うっ……んんんんっ!!」

「イッちゃ……末来さん……イッちゃうっ……
はぁっ、んっ、あああああああぁああぁっ……!」

がくりと身体から力が抜けて、頭の中が真っ白になる。

そのまま背中から末来さんにもたれかかり、
荒い息をつく。

末来「ふふっ、ぐったりした鼎、可愛い」

鼎「はぁっ……はぁっ……ふぅ……
身体……力はいんない……です」

末来「うん、だったらこのまま……」

鼎「えっ……? えっ……わわっ……!」

終わり……とばかり思っていたろころ、
末来さんが体勢を変えてきた。

末来「鼎をもっと気持ち良くさせてあげる」

「い、今、イッたばかりで……
身体、まだ敏感でっ……!」

私の抗議なんて聞かず、
ソープを垂らした身体を塗りつけてくる。

達したばかりで全身が敏感になっていろところを、
ぬるぬると刺激されて、
また意識が飛びそうになってしまう。

「やっ、ああっ、あんっ……
身体中、まだ熱いのにっ……」

「そんな……の……んああぁ……ダメ……
なに、これ……?」

身体中に響く刺激が止まらず、
意識は朦朧とすらしてくる。

「ずっと……イってる……みたいで……くっ、
ああっ……ぁ……」

「はぁっ、ああっ、んっ、はあっ、あっ……
末来、さんっ……」

末来「鼎、これからもっとすごい」

秘所に這わせていた指が、
私の膣口辺りを刺激しはじめた。

ちゅっ、くちゅっと……お湯か泡か愛液か、
どれかも分からない音がお風呂場に響く。

ただ恥ずかしさだけは充分にかき立てられる。

鼎「やだ……音……立てないでくださ……い……
んあぁっ……」

「それに……そんなとこ……くぅ……んっ……んっ!」

末来「ボクの指先、分かる?」

末来さんの指が膣口をノックするように響く。

鼎「はぁ、はぁっ……ん……うん……分かります……
末来さんの指……私の……エッチなとこ……
触ってて……んっ……」

末来「今から鼎に中の感覚を教えてあげる」

鼎「中の……? それって……んっ……
中に……指……ひぁっ……」

「ああぁっ……だめ……末来、さんっ……やぁっ……」

愛液を塗った指先が少しずつ入ってくる。

僅かな圧迫感の後、入口辺りで指が動き始めた。

鼎「んっ、あっ、あっ! 中、動いてるっ……ひあっ!
な、なに、これっ……
くっ、んっ! 末来さんの……指っ……!」

末来「ボクの指、気持ちいい?」

鼎「はぁっ、ああっ……
きもち、いいですっ……はぁっ……」

「んうっ、んっ……こんなの……もうっ……
んっ……ぁ……!」

内側から陰核側へと刺激が来る度に、
身体が反り返り、
何度も達してしまっている感覚を味わう。

「あっ、ああっ、指が……動くたび……
だめっ……また……」

呼吸のリズムすら忘れて、朦朧とする意識の中、
末来さんの空いた手を必死に握り締める。

それに応えてくれるかのように
末来さんが私の手を掴む。

「末来さ、んっ……また、イッちゃ……
うっ……んっ……!」

末来「ふふっ、何回でもイッていいよ? ほら、鼎?」

頬と首筋にキスの雨が降ると、
またしても達してしまう感覚が響く。

そこへ膣内からの刺激が合わさると、
意識が弾け飛ぶ。

鼎「あああぁっ、イってる……ずっとイッちゃってて……
ひあっ、んんっ、だめ……もう、おかしくなりそ……
くう、んんっ!」

「もう、こんなの……だめっ……
はぁ、ああぁっ、イッてる……」

「んああっ、また……来ちゃっ……ううぅっ……
んんんんっ!!」

バスマットの上で何度も背中がびくびくと跳ねる。

滑らないようにと末来さんが
身体で押さえてくれるけれど、
火照った肌が重なる感覚だけでも、また絶頂に喘ぐ。

「末来さんの……身体、きもちよくて……
くうっ、んんっ!」

「だめっ、また……イッてる……
なに、これぇ……ああっ!」

ぬるぬると末来さんがの肌が私の身体に滑るだけで、
絶頂が止まらずに何度も意識が飛びそうになる。

「こんなの、ほんとに……もうっ……
はぁっ、ああっ、んっ……」

「むり……末来さんっ……もうむりぃ……
ひぁあああぁっ!!」

全身の感覚が無くなったり、
また鋭敏になったりを繰り返して、
視界がちかちかと点滅しているかのようだった。

末来「ふふっ。 鼎、
いっぱい気持ちよくなってくれたね」

鼎「あ……んっ……はぁ……ぁ…………」

何も考えることが出来ず、
もうぐったりとしていたかった。

そんな私の頬に末来さんが口づける。

末来「ね、鼎? もうちょっとだけしてもいい?」

鼎「う……ぅ……も……む、むり……です……」

末来「ふふっ、冗談」

そうしている時、末来さんがチュッと啄む音を立てて、
今度は唇を合わせてくる。

「んっ……ちゅっ……ありがと、鼎」

鼎「……んっ…………」

結局、私はしばらく起き上がることすら
出来なかったので、当初の予定通り、
末来さんに身体を洗われることとなった。

あと……
その時の感覚も危なかったのも秘密にしておこう。

鼎「……ぐふっ」

末来さんに攻められ続けた上、
すっかりのぼせてしまい、ベッドでダウンしてしまう。

末来「今日はそのまま休んでいいよ。
ちょっとやりすぎた」

微笑んでいる末来さんがとても楽しそうで……
ちょっと憎らしい。

あと、お風呂上がりだからって、
その格好は挑発的すぎます。

鼎「うぅ……とても……動けそうにないです」

ベッドでぐったりとしていると、
末来さんが私の隣に腰をかけた。

そして。

末来「つんっ」

首筋を突かれてしまい、思わず跳ね上がる。

鼎「今つつかないで下さいぃっ!
末来さんのせいで、
とにかく身体が大変なことになってるんですっ!」

末来「そんなこと言われると、もっとしたくなる」

鼎「だ、ダメですっ! もう無理ですっ……!」

転がるようにして壁際に逃げていく。

そんな私を見て末来さんは声に出して笑った。

末来「ふふっ、冗談だよ。おいで、鼎」

鼎「…………」

そういう風に誘われると……抗えない何かがある。

おそるおそる側まで行くと
末来さんが膝枕をしてくれた。

お風呂上がりで温かい生足の感覚が、
逆にちょっと恥ずかしい。

末来「これで許してくれる?」

鼎「……許すとか、そんな……怒ってはいないです」

末来さんがとかすように髪を撫でてくれるけど、
事の後なので……ちょっと反応してしまう。

うぅ……今は髪を撫でられるだけでも危ない。

末来「鼎、髪の毛でも感じちゃってる。 敏感」

鼎「分かってても言わないで下さいっ……
恥ずかしいですっ……」

抗議を口にしつつも、
末来さんの腰から離れられない。

そうしている間にも、
次第に身体の火照りもおさまってくる。

末来「鼎、眠くなってきた?」

鼎「はい、少しだけ……」

末来「このまま寝てもいいからね」

末来さんといる不思議な安心感から、
つい、うとうととしてしまう。

鼎「末来さんはお母さんみたいに……
勝手にいなくなっちゃダメですよ……?」

末来「…………」

心地良い睡魔に誘われながらも、想いを口にする。

末来「おやすみ、鼎」

結局、そのまま返事を聞くことが出来ないまま、
私は眠りに落ちてしまう。”
脚本
⇒真琴にのこのこと付いて行くのは、どうかと思うが、
母への想いが、割と明晰な鼎の判断を曇らせている。
また、自身は沈黙を守って真琴に語らせておくのは恥である。
加えて、真琴の母に対する想いに響くものがあったのかもしれない。
いざとなれば、勾玉も手元にある。技量の差はあるが

⇒“野暮用”とは、星霊石の事で頼継の所へ行く必要があるのだろう

⇒末来の部屋が、自分の部屋の近くにあることに
驚く鼎。これは、互いの関係の象徴でもある。
つまり、鼎にとって
末来は遠い存在にも思えるが、
本当は身近な存在であるという事
演技
   
演出    
作画
   
補足
⇒鼎の事を頼まれていたが、食後に眠ってしまうガジ。
相変わらずのお気楽にゃんこだ






  5-2 6
状況
目を覚ます鼎。
末来、頼継に呼び出された為、学校へ。
昨日、鼎に話した内容についての案件。
付いて行く鼎。カフェテリアで頼継と話す。
末来と自身の真実を知り、動揺する鼎。
頼継らと別れ、授業には出ず、一日を末来と過ごす。
末来から未来の話を聞く鼎。未来の部屋で眠りに就く。
七年前の回想、末来と未来の会話。
頼継らと共に、祠へ向かう末来。礎となる為に
時間
三十二日目・朝 ~ 夜
〃・夜
場所
寮・末来の部屋 ~ カフェテリア ~ 寮・末来の部屋
寮・末来の部屋 ~ 森 ~ 祠・広間
設定
・末来も鼎の母親
・頼継は鼎の伯父
・高遠の名字は母方の旧姓
・未来がこれを名乗っていたのは、諏訪家のしがらみを嫌った為
・昔に礎となった末来は、肉体的には死んでいる
・数百年の間に、自身の姿を忘れた為、未来の姿を借りている
・末来は魂だけの存在であり、
それ故、未来が望めば子を宿す事も出来た
・織戸伏という地と、星霊石の力の為に、
末来は人の形を維持する事が出来る
 
伏線(大)
   
伏線(小)    
テキスト
未来の真実 鼎の出生と勾玉の秘密
巫女の真実 頼継の計画
未来と末来の計画

“鼎「おはようございます……登校、早いですね」

末来「理事長に呼び出されただけだよ。
昨日、鼎に話した内容でね」

昨日の話……お母さんと末来さんの?

どうしてその話を理事長と……?

気になった途端、私はベッドから飛び出していた。

鼎「……その話でしたら、私も行きます」

末来「それはいけない。鼎は一対の相手のところへ戻るんだ」

鼎「封印のため……ですか?」

こくりと末来さんが頷く。

末来「最後に必要なのは一対としての力であり、魂なんだよ」

末来さんは諭すように私にそう言うけれど……。

昨日から私の気持ちは何も変わっていない。

自然と手が末来さんの服を掴んでいた。

「鼎……?」

鼎「私、お母さんも末来さんも……失いたくないです」

末来「鼎、それは出来ないよ」

そう言われても末来さんを離すことなんて出来ない。

「末来さん、私はあのお母さんの娘です。
素直に聞き分けると思いますか?」

末来「……難しいことを言うね」

鼎「だから、今の末来さんからは離れられません」

「どこかに行ってしまいそうな……そんな顔してます」

私の言葉に少しだけ目を丸くした末来さんが息を漏らす。

末来「鼎の性格は遺伝だね。分かった、ボクは何も言わない」

鼎「遺伝ですね。ありがとうございます。」

私は末来さんに微笑み、すぐに寮を出られるように支度を始める。

末来「さて、鼎を連れて行くと……彼も困りそうだ」

末来さんはそんな独り言を口にして苦笑していた。

先日と同じく、理事長は食堂にいるそうで、
秘書の人に食堂まで案内される。

昌次郎「どうぞ、頼継様がお待ちです」

鼎「どうも」

テーブル席で理事長が今日はコーヒーを傾けていた。

頼継「やあ、おはよう――と言いたいところだけど、
彼女がここにいるのはどんな判断かな?」

理事長の視線が訝しげに私へ向かう。

でも、末来さんは特に気にする様子もなく、テーブル席に座った。

末来「鼎に全部話す機会があった。それだけだよ」

頼継「全部? その判断、早急過ぎじゃないかい?」

理事長の言葉の最中にも、末来さんが私に席をすすめてきて、
何となくそのまま座ってしまう。

末来「封印の状態が危険。それは知っているはず」

頼継「当然だ。でも、キミの口から話せばどうなるか、
それぐらいは考えられなかったのかい?」

末来「ボクには話す責任がある」

頼継「……それは姉さんに助けられた恩があるからか?
それとも、親としての責任なんて言い出すのか?」

鼎「えっ……?」

理事長の口から……今、何て……?

姉さん……? 親……としての……責任……?

えっ?

まばたきを繰り返す私を見たのか?
理事長が露骨に眉をしかめていた。

頼継「やれやれ……全部話してないじゃないか」

そして、少し苛立ったようにコーヒーカップを置く。

そっか、この人も奈岐と同じで……私の考えを読める。

末来「その話は封印に必要無いこと」

頼継「しかし、キミは責任という言葉を口にした。
なら、彼女に話す義務があるだろう?」

末来「…………」

理事長の言葉に末来さんが何も答えず目を伏せる。

そんな末来さんから視線を逸らして
理事長は長い息を吐いた。

二人の状況も、理事長の言葉の意味が分からない私は、
ただ混乱するだけで、視線を左右させる。

末来「……鼎、落ち着いて聞いて欲しい」

私の顔を覗き込むようにして、
末来さんがゆっくりと話し出す。

「未来の本名は諏訪未来。高遠は母方の旧姓だ。
諏訪家のしがらみを嫌い、未来は高遠と名乗っていた」

鼎「諏訪……」

はぁ、と理事長が再び息をつくのが聞こえた。

頼継「諏訪家、即ち僕の家に当たる。
そして、諏訪未来は僕の姉だ」

鼎「…………」

頼継「キミからすると、僕は叔父に当たる」

そんなことを言われてしまい、まじまじと理事長を見るが……
お母さんにまったく似ていない。

どうしても鬼子としての要素が強すぎて、
髪や肌に目が行ってしまう。

末来「それから……鼎、まだ落ち着いて聞いて」

「鼎はね、末来と――ボクの子供なんだ。末来とボクの間に生まれた」

鼎「…………」

開いた口が塞がらなかった。

そして、そんなことを言った末来さんから目を逸らせない。

得体の知れない緊張で、唇が震えている。

落ち着けと頭の中で繰り返しながら、言葉を再確認していく。

お母さんは女の人、これは間違いない。

それで末来さんも……女の人で間違いない。
昨日の今だ。見違えるはずもない。

ということは……? あ、あれ? どこで、どういう風に……私を?

末来「ボクはね、正確にはもう死んでいる存在――
それは昨日話したね。ずっと昔に封印の礎となった」

「こうしてボクが人の形を保っていられるのも、
織戸伏という地と星霊石の力があるからなんだよ」

鼎「……それで……どうやって……お母さんと?」

口の中が渇いている。

思考が無茶苦茶になっていて、もう考えることが出来ない。

そんな私を見ていた理事長はこめかみ辺りを押さえながら。
窓の外へ視線を逸らしていった。

末来「ボクは長い時の中で自分の姿形すら忘れてしまっていた。
だから、こうして未来の姿を借りている」

鼎「それで、末来さんは……お母さんとそっくりに……」

末来「魂だけの存在のボクは何にでもなれる。
だから、未来が望めば、鼎という子を宿すことも出来た」

とても……信じがたい話だった。

でも、末来さんが嘘を言っている様子も無い。

頼継「この織戸伏の地は、最も死に近い場所――
彼女が存在していられる理由がそれだ」

「何代にも渡り、巫女の命を落とし続け、封じているものこそが、
死という概念に繋がる場所……死者の魂が向かうところだ」

理事長が窓の外を見たまま、淡々と言葉を口にしていく。

そんなことを聞きながらも、
私は落ち着こうと何度も深呼吸を繰り返していた。

「これで彼女は全部知ったことになるかな?」

末来「……鼎、大丈夫?」

理事長に答えず、末来さんが私の顔を覗きこむ。

鼎「まだ頭の中で混乱してますけど……なんとか」

それでも強張った顔がしばらく元に戻らない気がした。

理事長は無言で手を挙げ、秘書を呼ぶと水を持ってこさせる。

私は秘書の人から差し出されたコップを受け取った。

「ありがとう……ございます……」

水を口に含んで飲み干す。そして、深呼吸を何度か。

何とか気持ちだけ落ち着いてくれた気がする。

頼継「はぁ……これだから、僕はキミが苦手なんだ。
一度に話して、押しつけていく……変わらないな」

末来「……未来にもよく言われたよ」

頼継「まあいい。今は建設的な話をしよう」

理事長と末来さんがそうして話を進めていく。

もう私は隣で聞いているだけで精一杯だった。

「姉さんの魂が勾玉に反応していることに気づけたのは、
幸運としか言いようがない」

「手遅れになっていれば、僕は間違いなく彼女を礎に選んだ。
完全な封印が姉さんの望みだからね」

末来「封印の状態は?」

頼継「夏までは持たない」

末来「……そう、分かった」

僅かに息をついた末来さんが目を伏せる。

それだけで”話が終わったのか、理事長が私へ振り返った。

頼継「フッ……姉さんは育て方を間違えなかったみたいだ」

鼎「……理事長?」

頼継「キミの心はまるで水のようだ。何にでもなることが出来る。
どんな巫女候補とでも一対を体現出来るだろうね」

「そして、どんな星霊石でも使いこなせる――
まるで姉さんが戻ってきたかのようだよ、まったく」

苦笑の後、理事長が席から立ち上がる。

「話はおしまいだ。もう充分に伝わっただろう?」

末来「そうだね。分かってる」

目を伏せたまま、末来さんがそう答えた。

返事を聞いた理事長は秘書を連れ、足早に食堂から出て行く。

そして、私と末来さんの二人がテーブル席に残された。

鼎「…………」

何も言えず、沈黙の時間が流れていく。

しばらくして、末来さんは目を閉じたまま私に話かけてきた。

末来「……こんな打ち明け方、未来に知られたら怒られてしまうね」

「でも、話せて良かったと思っている自分もいる」

「もし何も伝えられないまま、鼎と別れていたら……
ボクは後悔し続けていたと思う」

まぶたを開けた時、末来さんの瞳が僅かに揺れた気がした。

末来さんが……泣いていた……?

「これからどうするか――それは鼎が決めて欲しい。
ボクはボクのするべきことをする」

鼎「…………」

末来さんは……するべきことをする……?

それが意味するところは一つしかない。

この島を救う為にお母さんと一緒に――。

「私が決めていいなら……末来さんから離れません」

末来「鼎……?」

鼎「お母さんと同じように、私を置いていくつもりなんですよね」

「もう……置いてきぼりは嫌です」

私の想いを聞いた末来さんはどこか悲しげに目を伏せた。

末来「そう、それが鼎の選択なんだね」

その後、ゆっくり立ち上がると私に手を伸ばしてくれる。

「おいで、鼎。今日は未来の話をいっぱいしよう」

鼎「……授業はいいんですか?」

末来「ふふっ、構わないよ。ボクにとっては鼎が一番だ」

いつものように微笑んでくれた末来さんにどこか安堵して、
私はその手を取った。

お母さんがいなくなった時と同じ思いは……もうしたくない。

封印がなんだと言われても、私はもう失いたくなんてない。

末来さんだけは、絶対にもう……。

自然と私は末来さんの手を強く握ってしまう。

末来さんはそんな私に何も言わないまま、
手を握り返してくれた。

島でお母さんがどういう風に生きていたか、
末来さんの知る範囲で色んなことを教えてもらう。

私の知っている破天荒なお母さんだったのは変わらず……
何度も笑って、何度も苦笑させられてしまった。

末来さんの表情は終始優しくて、
今朝の話が嘘みたいに思えてしまう。

でも、それは現実のことで……。

気付くと夜も更けていたので、
今日も末来さんの部屋に泊めてもらうことになった。

寝巻きに着替え、ベッドに入ったところで思い立つ。

側にいた末来さんのシャツを私は掴んでいた。

「鼎? まだ話し足りない?」

鼎「そうじゃなくて……その……」

末来「添い寝が必要?」

言い当てられてしまって顔が熱くなる。

鼎「子供っぽい……ですか?」

末来「ううん、それ以前に鼎はボクの子だよ」

鼎「実感……無いです」

末来「だろうね。でも、それでいいんだよ」

電気が消され、末来さんは私のベッドに入ってきてくれた。

そして、今日も優しく頭を撫でてくれる。

「おやすみ、鼎」

その言葉とともに頬に口づけ。

暗がりの中、また頬が熱くなっている。

鼎「おやすみなさい……末来さん」

色んなことを聞いて、知って……まだ緊張が解けないけど。

でも、末来さんが側にいる安心感から、意識が遠のいていく。

(回想)

末来「戻ってきてしまったんだね、未来」

未来「ん……アイツが無茶しようとしてるって聞かされてね」

「それを止めに戻ってきたっていうのは言い訳かい?」

末来「本当は……頼継くんは未来に知られたくなかったんだよ。
だから、彼らだけで封印を行おうとしている」

「鼎と一緒に外の世界で生きていて欲しかったんだと思う」

「でも、巫女の血がそれを許してくれない」

未来「……そうだろうね、この身体に流れている血は薄れちゃいない」

末来「諏訪の家と血が未来を呼び戻してしまった」

未来「因果はあるだろうさ。でもね、そいつを運命だなんて、
割り切ってしまうような柄じゃないしさ」

「こうなったら、どこまででも戦ってやるつもりだよ」

末来「……そっか、未来らしいよ」

未来「でも……もしさ、同じようにあの子まで
血の宿命ってやつに逆らえず、この島に来た時は……」

末来「分かってる、その時はボクが鼎を導く。
ボクが未来の意志を継いでみせる」

未来「あははっ、頼もしいね。これで心置きなく――」

「先にいけるよ」

未来「必ず望みは叶えてみせる」

未来「ああ、頼んだよ、末来」

(回想終了)

末来「――行こう」

頼継「その服、僕は嫌いなんだけどな……姉さんの真似だ」

未来「着替えに戻ってたら鼎が起きるかもしれない」

頼継「一言ぐらい言いたかっただけさ」

「……封印にほころびが生じる前に、キミを礎に戻す」

末来「鼎が巫女になるまで頼んだよ」

頼継「キミに頼まれなくても、それが姉さんの望みだ。
そのために僕は戦い続けて来た」

末来「……ありがとう」

頼継「その顔で礼を言うのはやめてくれないかい」

「さて、急ごう。昌次郎、祠までの様子は?」

昌次郎「ほころびが近いと知ってか、穢れが溢れ出しております」

頼継「道を開けるかい?」

「ご命令とあらば――」

頼継「片倉末来、キミは直前まで力を残しておくんだ」

末来「分かってる」”
鼎“「…………っ」

ふと意識が戻ってくる。

飛び起きて視線を左右させる。

末来さんがいない。

この感覚……。

嫌な予感が胸を急き立てる。

お母さんが勝手にいなくなった時と同じだ。

何も言わずに私を残して――酷い既視感。

「末来さん……?」

「そんな……末来さん……?」

呼びかけても末来さんの返事が無い。

向かいのベッドには脱ぎ捨てられたシャツ……
壁に掛けられてあった
末来さんの私服が無くなっている。

末来さんは……行ったんだ。

お母さんと同じように私を置いてきぼりにして
行ってしまった。

「こんなの……嫌……」

「また置いて行かれるのは嫌……」

動けと何度も心の中で繰り返す。

もう同じ思いをしたくないなら、動け、と。

お母さんがいなくなって、この島まで来て……
それで……今、動かなかったらどうするの?

「末来さん……お願い、待って……待ってよ……」

「もう勝手にいなくならないでよっ……!」

私服を掴み、すぐに着替えると
私は部屋を飛び出した。

手に勾玉を握り締めながら、
夜の森を全力で駆ける。

末来さんの目的地はあの祠で間違いない。

封印の礎になろうと――戻ろうとしているんだ。

お母さん達がそれを望んでいても、
私は絶対に嫌だった。

もう失いたくなんてない。

どうするのが一番正しい方法なんて分かりやしない。

でも、今はただ末来さんだけは失いたくなかった。

鼎「はぁっ、はぁっ……末来さんっ……
お願い、待って……!」

走り続ける。

木々の隙間をくぐり、茂みを超え、
とにかく走り続けた。

息を切らしながら、
一心不乱に一度だけ見た祠を目指す。

ようやく見えた祠の入口には、
黒服の男性達が警備に当たっている様子だった。

やっぱり、末来さん……
それに理事長はここへ来ているんだ。

私が走り込んでくると、男性達は驚きつつも、
慌てて進路をふさごうとする。

「退いて、退かないとひどいよっ!」

勾玉を握り締め、脅しではないと火の粉を散らす。

その勢いに怯んでくれたのか、
僅かに出来た隙をついて、
私は洞窟の中へ駆け込んでいった。

暗い洞窟内を薄く光る鉱石が照らし出す。

仄かな明かりだけを頼りに、私は奥へと駆けていく。

静寂に包まれた洞窟内に自分の足音が反響する。

その音が余計に焦燥感を煽った。

まだ手遅れじゃないと信じて、
私は速度を落とさずに走り続ける。

そして、大きな石造りの門を超え、
見えた広間に飛び出す。

「末来さんっ!!」

儀式が行われるであろう広間――。

そこに末来さんの背中を見つけると、
息を切らしながらも、私は大声をあげていた。

末来「鼎……どうして……」

頼継「……来てしまったか」

「昌次郎、彼女を止めてくれ」

驚く末来さんと、唇を噛んだ理事長が指示を出す。

昌次郎「……頼継様、どうかご無事で」

末来さんと理事長は私から視線を逸らすと、
さらに奥へ急いで行ってしまう。

そして、私の前に秘書の人が
命令通りに立ち塞がる。

鼎「はぁっ、はぁっ……そこ、どいて下さいっ!」

昌次郎「それは……出来かねます。
頼継様に私は全てを捧げた身」

鼎「っ……だったら、
どうして……ついていかないんですか!?」

昌次郎「…………!」

冷静沈着に見えた男性の眉が僅かに跳ねた。

鼎「この先がどこに続いているのか、
知っているんですよね……!」

「そんな場所に
あの人を行かせていいんですかっ!?」

昌次郎「…………」

押し黙った秘書の人の横を私は走り抜ける。

その男性が私を止めることは無かった。

きっと……止められないんだ。

それが分かっているから、
私は振り返らずに走り続ける。

石造りの舞台を駆けて、
末来さん達が消えた奥を目指した。

鼎「末来さんっ!!」

再び見えた背中に声を張り上げる。

私を見た末来さんが僅かな驚きの後、
首を横へ振るう。

末来「鼎……これはボクと未来の望みなんだ」

「そして、鼎はボク達の希望なんだ」

鼎「そんな理由を急に押しつけて……
末来さんがいなくなるなんて嫌ですっ!」

「末来さんが私のお母さんなら……
もう、いなくならないで下さいっ!」

末来「鼎……」

どこか迷うように末来さんの視線が彷徨う。

その時、隣にいた理事長が何かに気付き、
声をあげた。

頼継「いけない、
勾玉の接近に反応しているっ……!」

そして、すぐ奥にある門へと振り返る。

閉じられている石造りの門――。

その扉が微かに脈動したように見えた。

あれが死者の魂が向かう場所……
黄泉へ繋がる門?

門が蠢くと、瘴気が溢れ出し、人の形……
見たことないような穢れを作り出していく。

肌に突き刺さる感覚からして、
穢れに間違いはないのに……。

これは何……?

頼継「……姉さん」

理事長の言葉通り、
その穢れの顔はお母さんと同じものに見えた。

鼎「そんな……お母さん……?」

まさかお母さんが……?

魂が囚われているって聞いたけど……
こんな形で?

そう思っていた時、穢れが身体を蠢かし、
左右から無数の棘を解き放ってきた。

頼継「――ッ!?」

最も近くにいた理事長に穢れの棘が迫っていく。

お母さんの顔をしていても、
意識はもう穢れに堕ちている……!

昌次郎「頼継様っ!!」

彼を呼ぶ声とともに黒い影が駆けた。

そして、理事長を庇い、
秘書が穢れの棘を受け止める。

金属のような棘が男性の背中を切り裂き、
地面に鮮血が散っていく。

昌次郎「ぐううぅっ!!」

頼継「昌次郎っ……!?」

昌次郎「ご無事……ですかっ……」

頼継「僕を庇うなんて、まったくキミって奴は……」

その場で倒れ込みかけた秘書の人を
理事長が支える。

そして、手に付いた秘書の血を見た後、
理事長が険しい視線を穢れへ向けた。

「アレは姉さんで間違いない。僕の目には視える」

見鬼――
魂を覗く鬼子の目で理事長は穢れを見ている。

「穢れを祓うんだ。
姉さんの魂がまだ視える間に祓ってくれ」

その声に応えるように、
末来さんが穢れの前に立つ。

末来「未来、すぐに解放してあげるから――」

そして、星霊石を輝かせ、光を解き放っていく。

その光は瘴気すら祓っていくが、
お母さんの穢れは怯まない。

末来さんはその姿を見つめながら、
星霊石の光を集束させていく。

巫女装束を纏い、剣を手にし、再び穢れに向かう。

瘴気を切り裂くようにして、
自在に飛び交う武器が既に穢れを包囲している。

鼎「末来さんっ! 私の勾玉に触れて下さいっ!」

末来「鼎……?」

鼎「巫女は一対ですよね、
力を使うなら私の力も使って下さい」

末来「…………」

末来さんの側に駆け寄りながら声をあげる。

そして、差し出した私の勾玉を見て、
末来さんは再び迷うように視線を左右させた。

鼎「あんな状態のお母さんなんて見てられないです」

「娘を放り出して……何してるんだか」

末来「鼎……」

鼎「両親の責任ですよ、末来さん」

私がそう言って微笑むと、
末来さんの瞳がようやく勾玉を捉えてくれる。

末来「そうだね、これは親の役目だ」

そして、末来さんの手が私の勾玉に触れた。

鼎「全部、末来さんに託します」

これで一対の交信は交わした。

あとは力を発現させるだけ。

私は勾玉を強く握り締め、炎を立ち上がらせていく。

末来「鼎の魂を感じる、これなら大丈夫」

末来さんが剣の切っ先をお母さんの穢れへ構える。

同時に展開していた武器が一斉に穢れへと向かう。

末来「未来、戻って来るんだ。鼎が来たよ」

「末来っ!!」

お母さんの名前を強く呼んだ末来さんが剣を振るう。

そして、穢れを祓うための戦いが始まった。

「お願い、ボクの光――未来を祓って!」

末来さんの剣が穢れの棘を切り落とす。

次いで、放たれる光が瘴気を焼き切り、
穢れの身体を剥き出しにしていく。

その隙を逃さずに末来さんが床を蹴り、
穢れの身体に剣を突き立てた。

血も瘴気も溢れ出すことなく、
甲高い金属音が”鳴り響く。

末来「未来、このまま……ボク達が……!」

末来さんが両手で持った剣に力を籠め、
穢れの身体を波打つ門へ押し込む。

それと同時だった。

末来さんが近づくのを待っていたかのように、
門から瘴気が溢れ出す。

鼎「末来さんっ!?」

末来「穢れは祓われ、ボクと未来は礎となる――
これはボク達の望み、明日への希望を繋げていく」

最初から分かっていたかのように、
末来さんは溢れ出す瘴気に身を任せていた。

門に呑み込まれる、
このまま礎としていなくなってしまう。

鼎「っ!? 末来さんっ!!」

「そんなのは嫌だっ!
そんな希望なんていらないっ!」

「私はこの島を救いに来たんじゃないっ!!」

「私はお母さんを捜して、ここまで来たんだっ!!」

私は両手に炎を集束させ、
剣を呼び出すと門へ向かう。

剣に炎を纏わせ、黄泉へ繋がるという門に迫る。

末来「鼎っ!? 来ちゃダメだっ! この門は――」

言葉が途切れ、
末来さんの身体が門に取り込まれていく。

だけど、その言葉の続きは私の後ろから聞こえた。

頼継「その門は人を取り込み、
穢れへと変貌させるっ!」

「片倉末来も姉さんも、望みを叶え、礎となった!
もう遅いんだっ!!」

血濡れの秘書の身体を抱きながら、
理事長が声を荒らげていた。

その言葉を聞いても、私は剣の熱を緩めず、
ありったけの炎を宿していく。

頼継「止めるんだっ!
キミが取り込まれてしまえば、
そこで姉さん達の希望が途絶えてしまうっ!!」

鼎「そんな希望なんていらないっ……!
私はお母さんを返して欲しいだけだっ!」

剣を振り上げると、
瘴気を祓うようにして門を斬りつける。

私すら取り込もうとする瘴気を焼き払いながら、
門を作る岩を削るように幾度も剣を振るっていく。

頼継「バカな……姉さんと……同じことを……?」

身体中に瘴気が纏わり付き、
門へと身体が引き込まれる。

鼎「絶対に持って行かれるもんかっ!」

「返せっ! 末来さんを返せええぇ――ッ!!」

声を張り上げ、炎を纏った剣で瘴気を祓いのけ、
さらに門を斬りつけた。

金属とも岩とも知れぬ門を削る攻防を続けていくと、
僅かな光が瘴気の中から溢れているのが見えた。

「お母さんっ! 聞こえてるなら、答えてっ!!」

「私から末来さんを取らないでっ!!
他に方法を見つけて、封印してみせるからっ!!」

「絶対に見つけるからっ!!
だから、末来さんを返してっ!!」

見えた光を目指して、瘴気を切り裂いていく。

そして、その光が瘴気の中から溢れ出した時――。

未来「まったく……その頑固さ、誰に似たんだろうね」

「いいよ、お母さんがもう少し頑張ってみせるさ。
でも、それがどれだけ持つか分からない」

「だから、鼎、
それまでに必ず方法を見つけるんだよ」

「これは親子の約束だ、いいね?」

鼎「分かってる、約束――」

末来「なら、鼎、その手を伸ばすんだ。
昔のお母さんみたいに、末来を救ってみせるんだ」

鼎「待ってて、お母さん、
絶対に方法を見つけ出すから」

「だから、末来さん……お願い」

光の中、お母さんの気配を感じながら、
私は手を伸ばす。

その指先に確かな温もりを感じた。

回想 (未来が巫女の時)

未来「キミ、平気かい?」

末来「ボクが分かるかい? おーい?」

末来「……ボクが……分かる……?」

未来「お、返事があった? 声、聞こえたよ」

「でも、魂だけの状態だとなぁ……
頼継のやつ、呼んだ方がいいかなぁ……?」

未来「魂……だけ……?」

未来「そそ、ボクがキミをあの門から切り離したんだ。
ただもう肉体が残っていないみたいでね」

末来「ボク……肉体……残ってない……」

末来「ん? さっきから
おうむ返しみたいな喋り方だなぁ。
もしかして、キミさ、言葉も失ってる?」

未来「言葉……失ってる……」

未来「うーん、勾玉……
その辺りの星霊石を上手く使うかな?」

「霊石使うなら、
やっぱり頼継のやつ呼んでこないとダメか」

「でも、これはやりすぎたしなぁ……
あーあ……またぶつぶつ言われるよなぁ……」

末来「ふふっ――」

未来「お? いい反応したね、そう、その調子だ」

「ゆっくり帰ってくればいい。キミの名前は?」

末来「…………名前……」

未来「そっか、言葉も無ければ、
名前も無いか……うーん」

「それじゃあ、キミにはボクの名前をあげよう。
ミライって書いて、ボクの名前はミクって読む」

「でも、二つも読み方はいらない。
だから、今日からキミがミライだ」

末来「ミライ……ボクの名前……」

未来「そうだ、その調子で戻って来るんだ」

「さあ、ボクの手を取るんだ――」

(回想終了)

鼎「そのまま手を掴んで下さい……
末来さん……!」

末来「…………かな、え?」

鼎「末来さんっ! 私はここにいますっ!
だからお願いっ!」

末来「っ……かなえ……かなえっ……!」

そして、指先の感覚をそのまま引き上げていく。

力を使い果たし、腰が砕けると、その場に倒れ込む。

鼎「はぁっ……はぁっ……」

「はぁっ……ははっ……やった……
やれたよ、お母さん……」

掴んだ手の温もりは決して離さなかった。

私の視界には確かに末来さんの姿がある。

救えた、助けることが出来たんだ。

膝をついた末来さんが私を覗き込む。

末来「……未来の時と……同じだ」

「また……ボクは……救われた……」

鼎「ふふんっ、
そう簡単に末来さんをあげるもんですか」

身体を起こすと、私は得意げに微笑んで見せた。

すると、つられるようにして、
末来さんも微笑んでくれる。

末来「そっか、鼎がそう言うなら……
ボクはまだあっちに行けない」

鼎「まだ、じゃないです。ずっとですよ」

「末来さんと一緒にいる方法を考えるんですから」

私の言葉を聞いた末来さんが
吹き出すようにして笑う。

末来「ふふっ、鼎は未来以上のことを
しようとしているんだね」

鼎「ええ、お母さんを超えてみせますよ」”

私は立ち上がると、
膝をついたままの末来さんに手を伸ばす。

末来「……うん、鼎ならきっと出来る」

そして、末来さんはその手を取ると優しく微笑んだ。
脚本
  ⇒過去における人物の重要な場面を、
短く鮮烈に見せるのは、
物語に幅を持たせる事になる
演技
   
演出    
作画
   
補足
   






  後日談
状況
 
時間
(三十二日 + 数ヵ月後)
場所
 
設定
 
伏線(大)
 
伏線(小)  
テキスト
“数ヶ月後――織戸伏島に本格的な夏が訪れていた。

結局、今年は儀式が行われることは無かった。

直前まで巫女を用意していたけれど、お母さんが頑張ると言った通り、不思議と災いの前兆すら起きなかった。

決してこれで巫女の歴史に終止符が打たれたわけじゃない。

でも、まだ考える時間、準備をする猶予を得ることが出来た。

理事長達は再び松籟会と対立を続けながら、別の方法を模索し続けている。

そして、私と末来さんは――

鼎「お母さんと同じ服っ! どうです? 似合ってますか?」

末来「とても似合っている。鼎、すごく可愛いよ」

波打ち際を二人で歩きながら言葉を交わす。

鼎「ふふっ、探したかいがありました」

末来「帽子も似合ってる。鼎、すごく可愛い」

鼎「末来さんってば、可愛いばっかりです」

末来「だって、可愛い」

鼎「あはは……」

あの一件以来、今まで以上に末来さんが甘くなってしまった。

猫かわいがりもいいところ、べったりである。

それでも悪い気がしないのは……
私も末来さんに甘くなっているからなのかもしれない。

鼎「私、こうしていられるのが、まだ夢みたいに思えます」

末来「夢……?」

鼎「はい。だから、こうして末来さんと手を繋ぐんです」

「末来さんを助け出して、お母さんとの約束を思い出せば、
夢じゃないって――約束を果たさないといけないって」

「お母さんも頑張ってくれたし、私も頑張らないと」

末来「ふふっ、そうだね。未来がくれた時間でボクは生きている。
そして、これからも生きていく」

「そうです、もう末来さんを取られたりしませんっ」

繋いだ手に力をこめる。

末来「うん、もう鼎から離れたりはしない」

指先が絡まり合い、互いを繋ぎ止める。

「鼎、勾玉は持っている?」

鼎「勾玉ですか? はい、ちょっと目立つんで服の中ですけど」

末来「その勾玉は絆を紡いでくれる。鼎という存在を現してくれる」

「困った時、絶対に鼎を助けてくれるものだよ」

服の中にしまってある勾玉が僅かに熱を放つ。

でも、その熱はいつもと違うように思える。

鼎「お母さんのお守りですから、効果はありますよ」

末来「うん。だから、どんな時も最後まで諦めちゃいけない。
そのお守りを信じて立ち向かうんだ」

鼎「ふふっ、末来さん、お母さんと同じこと言ってます」

末来「そうだね、未来もきっと同じことを言うと思った」

足を前に進めると、波飛沫が立つ。

海水の冷たさが心地良くて、私は目を細める。

そのまま末来さんと手を取り合ったまま歩いて行く。

鼎「そうだ、呼び方でずっと迷っていたんです」

「末来さんと末来お母さん、どっちがいいですか?」

末来「唐突だね。でも、そんなの決まってるよ」

楽しげに微笑んだ末来さんが唇を動かす。

やっぱり――と、その答えを聞いた私は吹き出して笑う。

私はこれからも織戸伏島で、末来さんと一緒に生きて、
お母さんとの約束を果たしてみせる。

だから、その時まで待っててね――お母さん。”
脚本
⇒ここまでのテキストを読んでいると、もしかしたら、
未来も礎から解放した上で、完全な封印を果たすという結末も考えられる
演技
 
演出  
作画
 
補足
 




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