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奈岐編 注釈十

10-1-1 10-1-2
状況
事件後、学園長室に集められる鼎、奈岐、真琴、神住。
半自失状態の奈岐、櫻井の質問に応じず。
真琴、松籟会の許可無しには答えられないと言う。
電話が鳴り、真琴の身柄は松籟会が預かる事に。
神住、食い下がるも、櫻井により制止。
星霊石の加工は、頼継の独断と判明。
頼継の失踪の為、学園側は松籟会に対し不利な状況に。
鼎と櫻井の問答の後、部屋を出る二人
荷物を取りに寮へ向かう二人、
学園中庭にて、ガジに遭遇。八弥子を思う奈岐。
寮前で葉子がスポーツバッグを手に待っていた。
八弥子の事を、葉子に謝る奈岐。
葉子に礼を言い、森へ急ぐ二人
時間
四十一日目・夕
場所
学園・学園長室
学園・中庭 ~ 寮前
設定
・八弥子と葉子は従姉妹
伏線(大)
伏線(小) f21-1, 言霊、呪い

奈岐“「中村真琴、遠山神住……鼎の言葉を聞いたな?
それは呪いになる。その身を喰らう呪いだ」”

“「ああ、学園長はもう呪いにかかっていたな……高遠未来の。
墓に入るまで、そのまま自責の念に駆られていろ」”
テキスト
F7-7, 松籟会の危険性 / F9-28, 巫女の真実
T3-5 血の宿命 / T3-3-3, 言葉遣い / H3-3, 櫻井の葛藤
T1-33, 鼎の強い意志

“この島にいる限り、松籟会の権力は絶対的なもので……
そこに今まで知ってきた常識なんてものは通じない。

彼らが何かを取り決めれば、それは島にとって絶対の法となる。

私を何度も殺そうとしたことも、この島では問題にすらならない。

八弥子さんの身に起きたことも明るみに出ることはなく、
事実はまた嘘に隠されていく。

鼎「……それでいいんですか?」

思わず口から言葉が零れていた。

神住「高遠さん、いいも悪いもありません。
松籟会がどれだけの力を持っているか、あなたはもうご存じでしょう?」

鼎「ずっと……この島で行われてきたこと、
学園長は何も知らないんですか?」

櫻井「今はそんな話をしておりません。
この島には、この島のルールがあると話しているのです」

鼎「ルール、ですか……」

そう語ることが出来た学園長は大人なんだと思う。

だから、私が初めてこの部屋に来た時……驚いたのだろう。

《高遠の娘が戻ってきたような》――そんな言葉と驚き。

学園を預かる立場からすると、松籟会に従わない
私やお母さんの存在は、非常に危険なものだ。

お母さんの行動がとても危険だったから、
そして、その姿によく似た娘だから驚いた。

血の為せる業とも言った学園長の予想通りに、
私も事実を知った危険人物となる。

でも、その危険は松籟会にとっての危険でしかない。

だったら、私はどこまでも危険な人間でいようと思った。

もう戻れないところまで来ていることは知っているから。

小さく息を吸い込み、はっきりと言葉にする。

「この島の大人は、ルールで人を殺すんですか?」

櫻井「…………!」

真琴「…………」

神住「高遠……さん?」

鼎「あなたは、それでいいんですか?」

自分の言葉がどれだけ危険か、それを分かった上で訊ねる。

櫻井「……個としての力は非常に弱いものです。
誰もがあなた達のように強くはなれないのです」

鼎「それ、逃げ口上です」

櫻井「私が意見しても島の仕組みは変わりません。
出来ることは、ただ一人でも多くの学生を守ることだけです」

鼎「学生の八弥子さんは意識不明の状態です。
今も危険な状態が続いています」

「言葉だけは、立派で……でも、実際は守れてないじゃないですか」

櫻井「……彼女のことは弁解の余地もありません」

巫女を輩出することが、学生を守る?学生である巫女を犠牲にして?

色々限界だった。だから、もう言葉が止まらない。

鼎「じゃあ、聞きます。贄と封印の先に何があるんですか?」

櫻井「……片倉さんが言い残したのですか?」

鼎「知っているんですね?」

そう言いながら、学園長を睨み付ける。
殺気を籠めるぐらいに強く睨んだ。

櫻井「それは口にすることすら禁じられています。
こうして話しているだけでも、この場にいる全員が危険なのですよ」

鼎「……なら、この目で確かめることにします」

櫻井「高遠さん、あなたは……高遠未来さんと、
あなたの母親と同じ過ちを犯すつもりですか?」

過ち? この期に及んで、何を過ちというのだろうか?

ただ自分の意志を確かめれば、一つだけははっきりと分かる。

鼎「命を数で天秤にかける人が何を言っているんですか?」

櫻井「…………」

二人の犠牲で済めばいいなんて考え方、私には理解出来ない。

鼎「奈岐、行こう。私達が戦う相手はこの人じゃない」”
T24-14, 変わる奈岐 / T20-29, 奈岐への想い
T15-17, 奈岐の洞察 / f14-5, 葉子の実力
f20-3, 神社 / f22-1, 八弥子による救援
F7-8, 松籟会の危険性

奈岐“「――覚えておけ、
これがお前の主人を刺した鬼の顔だ」

「私は過ちを犯した。だが、選択を
誤ったとは思っていない」

「中村真琴がまだ鼎の命を狙うならば、
最低でも数ヶ月は動けなくなってもらうつもり
だった。後方に憂いを残したくはない」

奈岐は抱き抱えたガジの顔をジッと見つめていた。

奈岐「……情けない顔をしているだろう?実際に、
そうだ。私は失敗した。実に愚かで惨めだ」

奈岐が私に振り返り、
腕に抱いていたガジを見せる。

奈岐「鼎、この猫は禰津が戻るまで私が預かろう。
ただ、もし戻れなかった時は……」

「…………」

「すまない……どうしたらいいのか分からない」

八弥子さんは意識不明の重体のまま――
とても『大丈夫だよ』と言うことなんて
出来なかった。

鼎「しばらく一緒だね、ガジ」

奈岐の腕に収まっているガジの頭を撫でてやる。

すると、ガジは心地良さそうに目を細めてくれた。

奈岐「……鼎、事態はすぐに動く。
私達にも追ってが差し向けられる」

鼎「松籟会が今から巫女を任命して、
祠で贄として捧げる。奈岐の予測だと
どれぐらいかかりそう?」

奈岐「調整を含めて七日前後、
二週間もかからないだろう」

そう言った後、奈岐が私に背を向けて歩き出す。

奈岐「さて、急ごう。寮にはまだ資料が残っている」

鼎「うん、分かった」

私はガジを抱きかかえた奈岐の隣に並ぶ。

少しだけ無言で歩いた後、奈岐がぽつりと
言葉を零した。

奈岐「鼎……今、私は泣いているか?」

鼎「ううん、まだ泣いてない」

奈岐「そうか、ならいい」

会話を区切り、私達は寮へ続く道を
早足で歩いて行く。

寮の前では、葉子先生達が私達を待っていた。

足元には少し大きなスポーツバッグが
二つ地面に並べてある。

葉子「高遠さん、向山さん、おかえりなさい」

奈岐「……病院には行かなくていいのか?」

葉子「先生は先にやらないといけないことが
あったので、二人が戻ってくるのを待ってました」

そう答えた後、葉子先生が足元の
スポーツバッグに顔を向けた。

「一時間ぐらい前に、松籟会の人達から
立ち入りがありました、向山さんの部屋から
荷物を撤去されそうになりました」

「でも、女の子の部屋なので、少しだけ
待ってもらって、先生が勝手に荷物をまとめ
させてもらったのです」

それが足元にある大きなバッグらしい。

奈岐「顔を合せる時は、頬を叩かれるつもり
だったのだが」

葉子「話は聞きました。でも、ヤヤちゃんが望んで
やったことに、先生は何も言えませんし、
怒ることじゃないですよ」

奈岐「だが、血の繋がりがある。
可愛い従姉妹だろう?」

奈岐の言葉に私は思わず目をしばたたかせた。

鼎「従姉妹って……えっ、
先生と八弥子さんが……?」

葉子「ふふっ、少し歳は離れてますけど、可愛い
従姉妹ですよ。ちなみに先生の年は秘密です♪」

少し茶化すように言う葉子先生はいつもと
変わらない。

奈岐「じゃあ、右の頬を引っぱたけ。
左は口内炎があるからダメだ」

葉子「こーら、先生に手をあげさせようとしちゃ
ダメですよ?何を言われても、先生は
向山さんに手をあげませんからね」

奈岐「……禰津がそんなことを
望むはずが無いからか?」

葉子「ふふっ、ヤヤちゃんのこと、よく分かって
くれてるんですね。先生、少し嬉しいです」

奈岐は葉子先生から視線を逸らして、
目を伏せる。

見鬼の業で内心を見た事を後悔している様子
だった。願わくば、その答えを自分で
出したかったのだろう。”

“奈岐「禰津の猫はしばらく
預かっていてもいいか?」

葉子「はい、その方がヤヤちゃんも喜びますし、
先生は賛成ですよ」

奈岐「……分かった。見舞いの際、
伝えておいて欲しい」

葉子「はい、分かりました。さて、向山さんなら
気付いていると思いますけど……
なるべく早くここから離れて下さいね」”

“奈岐「身を隠すにはいい場所がある。
そこへ行こう」

そう言った奈岐は葉子先生に再び顔を向ける。

奈岐「私達は北の神社に身を隠す。禰津が心配
するようなら……いや、それは伝えないでくれ。
無理をしそうだ」

葉子「ヤヤちゃんなら無理しそうですね。
ふふっ、分かりました」

奈岐「あと……」

僅かに口籠った後、
奈岐がうっすらと瞳を揺らした。

「先生、禰津のこと……本当にごめんなさい……」

そして、奈岐は長い髪を垂らし、
深く頭を下げていた。

そんな奈岐の姿に葉子先生は少し驚いた後、
すぐにいつもの微笑みを浮かべる。

葉子「ふふっ……向山さん、初めて先生って
呼ばれましたね。でも、先生より葉子先生
って呼んでくれる方が嬉しいです♪」

奈岐「それは……考えておく」

葉子「はい、期待してますね。
じゃあ、二人とも気を付けて下さい」

鼎「葉子先生、ありがとうございました」

私も先生に頭を下げてから、
スポーツバッグを両手に持つ。

奈岐「鼎、進路がバレる前に急ごう」

鼎「……うん」

昨日までは帰る場所だった寮にもう戻れない。

少し未練がましく思えるけれど、考えるのは
全部後回しだ。

今は安全な場所まで逃げないといけない。

この数時間で私達の立場は一転して
危険なものとなった。

元より、事実を知っているという意味では、
危険な状態であったことは確かだけど……
今はそれ以上に危うい。

中村さんの行動により、
八弥子さんは重傷を負い、
前代未聞の出来事として、松籟会が私達を
処分出来るだけの口実を得る。

これで巫女にせずとも、
口を封じることが出来るのだ。

だから、今の私達を
松籟会は見逃そうとしないだろう。”
脚本
⇒真実を知っている櫻井は、鼎を島から遠ざけようとした。
良心の呵責に苛まれていた櫻井にも、
語られなかった苦悩があるのだろう (
H3)

⇒ここで回想を使わないのは、個人的には良い。
主要人物中での重要度において、櫻井は一つ下に当たる為

⇒この時の鼎には、
贄となった末来さんへの想いも含まれているだろう。
八弥子、末来、未来、自分を含む全ての巫女候補、
かつて巫女となった者達。それらの想い全てを鼎は背負っている
⇒奈岐が自身を、今また“鬼”と言うのを見ると、
筆者は悲しまずにはいられなくなる
(8-2-1)

⇒一般的に、人間よりも正直な動物が
好意を示す事で、奈岐に罪が無い事を示している
(自然法)

⇒松籟会の立ち入りに当たり、
“少しだけ待ってもらって”とあるが、
これにはかなり葉子の実力者ぶりが顕われている
演技
演出
作画
補足






10-1-3
10-2-1
状況
松籟会の追手から逃げる二人。真琴が現れる。
名目は、二人の連行と、奈岐の霊石の回収。
鼎の出生の秘密と、未来が封印を解いた事による
穢れの大量発生とが語られる。
力を使い果たし倒れる奈岐、割って入る昌次郎。
頼継、先へ行けという。神社へ急ぐ二人
森の奥、朽ちた社に辿り着く二人。
これからの事を考える。鼎、奈岐を抱き寄せる。
奈岐、鼎の胸で泣く。
夜までかけて、社を綺麗にする
時間
四十一日目・夕 ~ 夜
場所

神社前 ~ 神社内
設定
・鬼子の身体能力は、常人と変わらない

・贄を供えなかった為、数日間、島に無数の穢れが溢れ、
当時の巫女候補は死に物狂いで戦
った
・贄となったのは(真琴の母、と真琴は聞かされている)

男の鬼子は間引かれ、女の鬼子は生まれた時に、
巫女となる定めを背負わされる
・ここ数十年は鬼子が生まれてこなかった
・社は朽ちている(カビ、埃、腐食、立てつけが悪い)
・ため池の近くに、神社は位置する(徒歩五分以内)
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T15-18, 奈岐の洞察 / T24-15, 変わる奈岐
T1-6-9, 鼎の判断力 / T28-8, 力の増大 、反動
F2-8, 鼎の出生と勾玉の秘密 / f3-13, 末来と鼎の関係
F11-9, 頼継の計画 / 推論二, 頼継の計画

奈岐“「中村真琴、一つだけ問おう――
先ほどの事故、私を誘ったな?」

奈岐の言葉に私と中村さんが同時に息を呑んだ。

「以前に浜辺で……私は我を忘れるほど怒りを顕わにした。
もし自分にもっと力があれば、と何度も口にした」

「それを知った上で、お前は危険をかえりみず、私を誘った。
そして、今回の事件を引き起こし、立場を逆転させた」

奈岐を激昂させ、枷の外れた力を存分に振るわせる。

そして、八弥子さんの犠牲まで誘った……?

でも、中村さんの個人の考えにしては、出来過ぎている気がする。

真琴「私は『死を恐れずに高遠鼎の命を狙え』と命令されたのみ――」

「ただ、松籟会の考えは……向山奈岐、あなたの言う通りだろう」

「上手く事が運んだ、と叔母様も口にしていた」

奈岐「予想通りか……だが、読むべき相手を違えたな」

奈岐はわざとらしく肩をすくめると、私へ振り返った。

「鼎、ここは私が処理する。猫を連れていってくれ」

奈岐がガジを地面に下ろした時、蒼い火の粉が周囲へ弾ける。

真琴「そうはさせない、二人とも連行させてもらう」

中村さんが巫女装束を纏い、巨大な剣を片手で握り締めていた。

奈岐「ならば、押し通るだけだ」

鼎「奈岐……」

まさか今度こそ中村さんを手にかけるつもりでは、声をあげる。

奈岐「禰津の意志もある。 今は道を開くことだけに集中する」

そう言った奈岐が星霊石の力を解放していく。

鼎「っ……またこの力……!」

圧倒的な冷気にたじろぎ、鞄をその場に落とす。

こんな力、何度も使えるようなものじゃ――。

「まさか、中村さんは……」

奈岐「ぐっ……」

顔をしかめた奈岐が僅かに呻く。

枷が外された星霊石は、
奈岐の思考に追いつくほどの力を見せている。

でも、いくら鬼子として優れた知性を授かっていても、
それに対応出来るほど、強靭な身体を持ち合せているわけではない。

中村さんはそれに気付いている?

だとしたら、この戦い……止めないと。

「一瞬でけりをつける……!」

真琴「これは――予想通りか」

奈岐の身体がかき消えるようにして、中村さんに飛びかかった。

目を疑うような速度だけど、その分だけ身体に負担が来る。

肌を切るような冷気の中、私は勾玉の力を解放させていく。

しかし、この冷気の中では思うようにイメージが作れず、
僅かな炎しか作り出せない。

鼎「くっ……お願い、間に合って」

その間にも奈岐と中村さんが衝突を始めていた。

霜が降りた木々の合間を縫うようにして、奈岐が駆ける。

さすがの速度に対応しきれず、中村さんは木々を盾にしながら、
正面からの衝突を避けていた。

今の状態の奈岐と剣を交えれば、また武器を失うことになる。

そこまで知りながら、中村さんがまだ交戦を続ける理由――。

「やっぱり……奈岐の息切れを狙ってる」

奈岐が連続して放つ短刀を木々を盾に中村さんは回避する。

距離を詰めれば、炎で牽制しながら後退をしていく。

逃げに徹する中村さん、追いかける奈岐――。

その表情から余裕が無くなったのは、やはり奈岐が先だった。

奈岐「ぐっ……!」

構成しようとした氷の短刀が中空で砕け散ってしまう。

肩で大きく息をし、額には大量の汗が滲んでいた。

「はぁっ、はぁっ……身体が処理にっ……」

真琴「フッ、やはり冷静さを欠いていたか」

木の陰から中村さんが姿を見せると、周囲の冷気を炎で薙ぎ払う。

「それだけの力を何度も使えば、体力の消耗も激しいはず」

「鬼とはいえ、肉体の限界値は人並みのようだな」

中村さんが大剣を片手に奈岐へ歩み出す。

奈岐「私はまだ――!」

新たに氷を集結させた奈岐の表情が苦痛に歪む。

「がはっ……!」

奈岐の息が詰まり、氷は短刀を構成する前に砕け散る。
そして、その場に崩れ落ちて両膝をついた。

周囲に漂っていた冷気は消え失せ、力が星霊石に戻っていく。

「はぁっ、はぁっ……」

真琴「最後は自滅か――滑稽だな」

そして、中村さんの大剣がゆらりと蠢いた。

鼎「そこまでっ!」

勾玉に溜め込んだ熱を解放させ、燃え盛る炎をイメージした。

奈岐の冷気が途絶えたことで、ようやく力を使うことが出来る。

真琴「幸魂を欠いた状態で、私に敗北したことを忘れたか?」

鼎「今が同じ結果になるとは限らないっ」

奈岐と中村さんの間に割って入り、私は炎を纏った剣を振るう。

奈岐「鼎っ……」

鼎「ごめん、もっと早く加勢出来れば良かったんだけど」

「でも、その分だけ戦えるから」

剣の切っ先が中村さんの姿を捉える。

真琴「……今が好機か。高遠鼎、お前を助ける者はもういない」

鼎「どうして、そんなに私を狙うの?」

真琴「お前の存在を肯定することは、
島に災いを呼び起こすことと同じ意味を持つ――」

「お前の母の所業を許すわけにはいかない」

中村さんの大剣が蒼い炎を携え、構え直される。

鼎「お母さんは……いったい何をしたの?」

真琴「巫女の務めを果たさず、禁忌を犯し、島に災いを呼び起こした。
その象徴がお前という存在に繋がる――高遠鼎」

鼎「災いって……?」

真琴「巫女が務めを果たさずに過ぎた数日間、
島に無数の穢れが溢れ、
当時の巫女候補は、死に物狂いで戦うことを強いられた」

「そして、お前の母の代わりに立てられた巫女は――」

鼎「…………」

蒼い炎が強まり、中村さんから感じる殺気が膨れあがった。

真琴「忌むべき巫女と、存在してはならぬ巫女の間に……
厄災の象徴として、お前はこの世に生を受けた」

忌むべき巫女……? 存在してはならぬ巫女……?

お母さんと……まさか末来さんのこと?

でも、巫女の間にって……?
頭の中で生まれた符合が合致してくれない。

真琴「二度と災いを繰り返してならない!」

鼎「っ!?」

もう話すことは無いと中村さんの足が動いた。

真琴「今度こそ、この手で仕留めるっ!」

大剣を横手に構え、勢いよく私へ迫ってくる。

頼継「昌次郎、今だ!」

真琴「何っ!?」

黒い影が視界に映ったかと思えば、
中村さんの大剣に素早い蹴りを放っていた。

轟音を響かせる先で黒スーツの男性が拳を構え直す。

昌次郎「オン・ベイシラマンダヤ・センジキャ・ソワカ――
全ては頼継様の為に――」

「ここは、安倍一門が残党、安部昌次郎がお相手を務めましょう」

真琴「この後に及んで……犬が邪魔をするかっ!」

中村さんが大剣を振るい反撃を試みるが、
秘書は素早い足運びで一撃を回避する。

そして、生まれた隙を逃さずに連続して拳を打ち込んでいく。

真琴「チッ……!」

不本意にも守りに入らざるを得なくなった中村さんが後退する。

その姿を目で追っていた時、視界に見なれた人影が入り込む。

頼継「やあ、ここは僕と昌次郎に任せて、キミ達は逃げるといいよ」

鼎「……理事長」

手を貸してくれたのは礼を言うべきところだけど、でも、
奈岐の星霊石の枷を外したのはこの人で……。

頼継「この島で鬼と呼ばれた子はね、関わる人を不幸にしてしまう」

「でも、実際はどうなんだろうね?」

「男の鬼子は間引かれ、女の鬼子は生まれた瞬間から、
巫女となる定めを背負わされ、必ず命を落とすことになる」

「だからさ、鬼子と深く繋がった一対の巫女も命を落としてきた。
そんな繰り返しに……キミ達なら終止符を打てるかもしれない」

そこまで語った理事長が僅かに微笑む。

「――鬼子と関わっても不幸にならないかもしれない。
その可能性にだけ、嘘は無いって思って欲しいな」

迷った私の背中を押すように、理事長はそう告げていた。

鼎「……分かりました。聞きたいことはいっぱいありますけど、
今は……その言葉を信じます」

頼継「礼を言うよ。ほら、早く行きな」

理事長に頭を下げて、地面に座り込んだままの奈岐に駆け寄る。

鼎「奈岐、背負うからね。道案内だけお願い」

奈岐「っ……鼎……すまない……」

奈岐を背負って、二人分の荷物を拾えば、両手が塞がってしまう。

力を解放しているからこその荒業だけど、
これ以上荷物は運べない。

鼎「仕方ない、ガジは頭に噛み付いても良し!」

ガジ「ニャーン!」

そんなに嬉しそうに鳴かなくても……って。

「痛っ! 八弥子さん、いつもコレに齧られてるのっ!?」

鼎「ううぅ、とにかく急ごう……!」

全力で私はその場から逃げ出していく。

背後で中村さんの怒声と、理事長が秘書に指示を出す声が
響いていたけど、今は振り返る余裕なんてない。

とにかく、息を止めずに走り続けた。”
T8-11, 神狼伝説

“手前の台座には何かが置かれていた
痕跡こそあるけれど、肝心の狛犬らしきものは
見当たらない。

社を守るはずの存在がいないから、
こんな外観になってしまったのだろうか?

奈岐「文献によれば、守護していたのは
白い狼だったそうだ。鬼子の風習とともに
撤廃されたのかもしれないな」”

“「案ずるな、私は眷族だ。ここの、な」”

F11-10, 頼継の計画 / 推論二, 頼継の計画

奈岐“「あの男がどうやって生き延びたの
かは分からないが、私が逃げ回ることが
出来たのは……あの男の御陰だ」

「……泳がされていたとも言うがな」”


T20-30, 奈岐への想い / T21-24, 鼎への想い
f13-11, 八弥子の力、境遇 / T24-16, 変わる奈岐

鼎“「池って前に水浴びしたとこ?」

奈岐「そうだ、歩いて五分もかからない。
しばらく、あの池でもになる」

色々と思い出のある池だからか、
不意に奈岐と視線が合う。

奈岐「……さ、先に水を汲みに行ってくるっ」

鼎「わっ、ちょっと待って」

逃げ出しかけた奈岐の手を慌てて掴む。

鼎「最初は一緒に行かないと、
どこに池があるか分からないよ」

奈岐「……それも……そうか」

珍しく抜けてしまったのは、恥ずかしい事を
思い出したからか、それとも……
ようやく安心出来たからか。

鼎「ね、奈岐、おいで」

奈岐「……へ、変なことしない……?」

鼎「あはは、しないよ。
ちゃんと奈岐が泣けるようにするだけ」

奈岐「…………」

「それは……助かる」

奈岐が私の胸元に顔を埋めてくる。

そして、肩を震わせ、静かな嗚咽が漏れ始めた。

奈岐「っ……ううぅ……ぁ…………」

鼎「よく我慢したね……八弥子さんのこと、
奈岐が一番辛いよね」

奈岐「もし禰津が回復しなかったら……
奈岐は……どうしたら……」

「禰津は……奈岐のことをよく見てくれていた。
なのに、奈岐は……禰津のことを酷く言った……」

「血に縛られた獣……きっとアイツが一番
傷つく言葉なのに……それなのに……
アイツは奈岐の手を汚させないために……!」

「アイツはただ笑っていればいいのに……
猫とじゃれていればいいのに、血に縛られて……
巫女候補に顔を出して……!」

「そして、今……死の淵を彷徨っているっ!」

「アイツは大バカ者だ……だから、余計に
あんなことを言った自分が許せない……
ちゃんと……謝りたい……」

しゃくり上げた奈岐が答えを求め、私を見上げる。

「鼎……禰津は……
ちゃんと戻って来られるよね……?」

鼎「うん……八弥子さんは嘘をつく人じゃないから。
自分で平気だからって言ってくれていたから」

奈岐の頭を撫でて、もう一度強く抱き寄せる。

奈岐「鼎っ……ごめん……
ごめんなさい……ごめんなさいっ」

「ごめんなさい……奈岐が……奈岐が……
全部……全部ダメにして……ごめんなさい……」

「禰津も、鼎にも……
奈岐はどれだけ謝っても……」

鼎「奈岐、もう充分だよ。私はね、
失敗を悔やみ続けるより、今出来ることに
全力を出したいんだ」

「巫女にはもうなれない。でも、
私達は生き延びて、まだ真実を知っている」

「まだやれることは……いっぱいあるよ」

奈岐をゆっくり引き離し、
涙の跡で濡れた頬を撫でる。

奈岐「鼎の……そういう考え方が……
奈岐には出来ない」

鼎「出来なくていいんだよ。
奈岐の分まで私が前向きで、
ちょっとやりすぎなことまで考えるから」

奈岐「鼎……」

私の名前を読んだ奈岐に微笑み、
ゆっくりと顔を近づける。

鼎「奈岐、私のために……怒ってくれてありがとう」

奈岐「んっ……」

ちゅっと啄ばむように口づけを交わす。

奈岐の細い身体に腕を回したまま、
何度か唇を重ねていく。

涙の味がするキスは少しだけ胸を痛くさせるから、
より奈岐が欲しくなって、強く身体を抱き寄せる。

奈岐「また……するの?」

鼎「ううん、今はこうしているだけで……」

奈岐「今は……? むぅ、
鼎の考えが少しだけ読めた……」

鼎「ふふんっ、それはなにより。
心の準備が出来るね」

奈岐「……鼎、ずるい」

そう呟いた奈岐から私への口づけ。

そのまま私達は飽きることなく
何度もキスを繰り返す。

ここに来るまで痛み続けていた心の傷が
落ち着くまで、互いの体温を感じながら、
互いを求め合い続ける。

そんな時間を過ごした――。

数刻後、長かった一日の夜が訪れる。”
脚本
⇒真琴の取った戦術は、鼎が穢れに対して取ったものと一部同じ。
力と速さの差を、障害物を
用いて回避する (1-2-7-3 / 3-2-7-1)
(※
1-2-7-3の描写は引用を省略してある)

⇒昌次郎
が割って入るのは、これで二度目 (9-1-1)
演技
演出
作画
補足
[⇒一部設定において、真琴編との齟齬が見られる。
あるいは、真琴の叔母を含む松籟会が、
真琴に母と叔母の事を黙っていたか。この辺りは後日に検討する]

追記:2015/11/05

⇒やはり設定は異なっていて、
真琴の母は既に亡くなっていると思われる。

⇒神狼を祀っていた朽ちた社を綺麗にするという
事は、神狼の加護を得るに値する行為であり、
鬼子の風習を、贄の因習を否定する事にも繋がる






10-2-2 10-2-3
状況
池と神社を往復し、掃除を終える二人。
心の準備が出来た奈岐、鼎と情を交わす
葉子が入れておいてくれた栄養食を食べる二人。
情報収集に出る事に。先の一戦で真琴を退けた
昌次郎と頼継が訪れる。頼継、自身の目的と
七年前の事を話す。奈岐、訝しむ。
鼎、母について問う。儀式の現状を伝える頼継。
神住と真琴はどこかで軟禁。
儀式は二ヶ月前倒しで、一週間後に行う。
その理由は封印に綻びが生じた為。
先の地震の震源地は祠。次は島ごと呑まれるという。
贄と封印の先にあるものは語ることすら出来ない、
その理由は言霊にあるという。
意識下でやりとりをする奈岐と頼継。
儀式での段取りが語られる。儀式当日、
祠へ乗り込み、贄を使わずに封印を行うという。
松籟会の守りを突破し、広間に辿り着き、
封印を完全な形で行う。
奈岐、霊石の力を更に引き出させる為、頼継に渡す。
頼継ら、松籟会に包囲されている諏訪家へ、
加工の為の道具を取りに行くという。奈岐を想う鼎。
二人、ため池で話すことに
時間
四十一日目・夜 四十二日目・朝
場所
神社内
神社前
設定
・神社を取り囲む森は、鎮守の森と呼ばれている
(神域とされていたのだろう、と、奈岐曰く)
・本来は穢れは入ってこれない

・頼継が未来の弟だと語られる(本人の口より)
・高遠は母方の旧姓(頼継より)
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T4-9, 鼎の優しさと強さと公平さ / F9-29, 巫女の真実
F2-9, 鼎の出生と勾玉の秘密 / f17-5, 水蒸気爆発
f3-14, 末来と鼎の関係 / f2-8, 勾玉の熱
T21-24, 鼎への想い / T20-31, 奈岐への想い

“葉子先生が懐中電灯を鞄に入れてくれていたけど、
灯りは目立つので、今は使わないでおく。

埃を払って、綺麗になった床と壁にもたれる。

鼎「ね、奈岐……今年の巫女はもう決まったかな」

マントを抜いでから、隣に座る奈岐に話しかけた。

奈岐「ああ、もう巫女は軟禁されているだろう。鼎の呪いの御陰だ」

学園長の前で言った私の言葉――全てを語ったわけじゃないし、
直接的なことには、それほど言及していない。

それでも秘密主義に徹する松籟会にとっては、
聞き捨てならない言葉ばかりだろう。

学園長が松籟会に伝えたか、それともあの部屋にいくつか
盗聴器が仕掛けてあったか……それは定かではない。

でも、他の誰かの耳に入る前に、処理をすることだけは確かだ。

鼎「……遠山先輩には悪いことをしたかもしれない」

あそこにいた巫女候補は、遠山先輩と中村さんの二人だ。

恐らくあの二人が今年の巫女に選ばれ、口を封じられる。

奈岐「気に病むな。いずれにしても消去法で、
あの二人が選ばれる分かっていたことだ」

「それに……事実を耳にした以上、遠山が風間との巫女に拘るとは
思えない。心中か犠牲か、二択を迫られたわけだからな」

鼎「酷い二択だよ。そんな連鎖をもう終わりにしないと」

もうこれ以上の犠牲を増やしてはいけない。
自然と手が力み、拳を作っていた。

奈岐「儀式の場所は以前に行った祠で違いないだろうが……
穢れの記憶によれば、巫女は大広間に閉じ込められる」

「唯一の扉は巫女の力が通じぬように霊石――
星霊石が使われている。どうやって突破するかだ」

鼎「巫女の力が通じない、か……じゃあ、それ以外の力なら?」

奈岐「それはやってみないと分からないが……何がある?」

閃いたといった様子の私に、奈岐が疑問の眼差しを向ける。

そして、私が頭の中でその方法を描いてみせると、
奈岐はフッと吹き出して笑った。

「確かに、それは巫女の力ではないな」

鼎「ふふっ、成功するかは分からないけどね」

息を吐き出しながら、私は暗い天井を見上げる。

一つ考えるべきことが終われば、
次に考えないといけないことがやってくる。

(以下、回想
10-1-3)

鼎「お母さんは……いったい何をしたの?」

真琴「巫女の務めを果たさず、禁忌を犯し、島に災いを呼び起こした。
その象徴がお前という存在に繋がる――高遠鼎」

鼎「災いって……?」

真琴「巫女が務めを果たさずに過ぎた数日間、島に無数の穢れが
溢れ、当時の巫女候補は、死に物狂いで戦うことを強いられた」

「そして、お前の母の代わりに立てられた巫女は――」

鼎「…………」


真琴「忌むべき巫女と、存在してはならぬ巫女の間に……
厄災の象徴として、お前はこの世に生を受けた」

(回想終了)

途端に分からなくなった自分自身の存在について。

巫女と巫女の間に、厄災の象徴として――生を受けた。

巫女と巫女の間……? 厄災の象徴……?

少し経った今でも理解が及ばない。

お母さんが災いを引き起こしたとして……
その象徴として、私が巫女の間に生まれる?

そこに、子を成せる要素があるのだろうか?

鼎「…………」

中村さんが私を揺さぶるために、うそぶいた可能性もあるし、
間違ったことを松籟会から知らされているかもしれない。

奈岐「鼎、その答えも巫女が贄となる場で分かるはずだ。
あそこに何があるかさえ分かれば……」

考え込んでしまっていた私を心配するように奈岐が覗き込む。

鼎「……そうだね」

あの場所へ封印に向かった末来さんの姿を思い出す。

お母さんにそっくりな理由も、そこにあるんだろうか?

腰にある勾玉を握り締めると、僅かに熱を感じた。

その手の上に、もう一つ温もりが重なる。

奈岐「鼎、奈岐に出来ることは少ないと思う……」

「ただ……その……心の準備なら、もう出来てるから」

奈岐の照れた言葉に思わず微笑んでしまう。

鼎「ふふっ、それは奈岐がしてくれる合図?」

奈岐「そ、それは……たぶん……まだ……無理」

どんどん縮こまっていく様子が、いつもより愛らしく感じる。

だから、もっとそんな彼女に触れていたいと思った。

鼎「冗談だよ。 私は奈岐に触れることが幸せだから」

奈岐「……鼎」

奈岐の手を握りかえして、正面から向かい合う。

奈岐「鼎が……幸せに思ってくれるなら、好きにして欲しい」

鼎「ふふっ、奈岐も幸せに思ってくれないとダメだよ?」

奈岐「それは……と、当然だから……」

額をくっつけて、熱くなっている奈岐の体温を感じる。

鼎「じゃあ、奈岐から聞かせて」

奈岐「…………っ」

こうして吐息のかかる距離にいると、
奈岐から感じる熱がさらに上がるのが分かった。

視線を彷徨わせ、何か言いかけた唇を慌てて閉じたり、開いたり。

私が奈岐みたいに考えを覗けるなら、困らないんだろうけど、
とてもそんなことは出来ないから、言葉を求める。

鼎「ね、奈岐? 言ってみて」

出来ることは、ちょっとだけ背中を押すことぐらい。

それだけでも充分だったのか、奈岐が上目遣いに私を見る。

奈岐「鼎のこと、好きだから……もっと奈岐に触れて欲しい」

鼎「触れるだけでいいの?」

奈岐「……い、意地悪っ……」

ちゅっと啄ばむ音を立てて、奈岐の頬に口づけていく。

「また…………して、欲しい……」

これ以上いじめるのは可哀想に思えるぐらい、
奈岐が耳まで紅潮してしまっている。

鼎「うん、分かった」

なので、いじめるのはここまでにして、
頬から唇へキスの居場所を求めて移動していく。

「奈岐のこと、大好きだよ」

奈岐「んっ……鼎……」

唇にかかる吐息を感じて、奈岐が身体を震わせた。

そして、奈岐は続きを期待するように目を閉じる。”

鼎“「ね……奈岐にこうしてると、
すごくいけないことしてるみたいで興奮する」

息継ぎのため、すこしだけ唇を話して話しかける。

奈岐「……どうして?」

うっすらと開いた奈岐の瞳が私を見つめているが、
見る余裕は無いのか、疑問を口にしていた。

鼎「だって、ソフトブラとか……すごく懐かしい気がする」

奈岐「……うぅ……育たないものは……仕方ないし」

「鼎は……大きいほうが好みか?」

鼎「んー、今は奈岐のが好き」

他の誰かと比較しようとしても、頭に奈岐以外の人が浮かばない。

奈岐「……そう言われると、何だか変な感じになる」

鼎「ふふっ、奈岐が一番ってこと。それ以外に考えられない」

奈岐「それは……奈岐も一緒だから」

目を閉じると、奈岐はキスの続きを求める。

唇を重ねれば、待ちかねたように彼女は下を絡み合せてきた。”

奈岐「はぁっ……ぁ、んっ……鼎、そんなに触られると……」

鼎「触られると……?」

奈岐の唇を舐め、頬に口づけ、淡い髪色に隠れた耳にキスをする。

奈岐「ひっ……あんっ……んぅ……また身体が……熱くなる……」

鼎「それってダメなの?」

奈岐「っ……んっ……ダメ、じゃないけど……怖い……」

耳の形に沿って、舌先を這わせていく。

時折、ちゅっと吸い付いては耳元でキスの音を響かせる。

鼎「私が触れても?」

奈岐「……鼎に触れられるのは……嬉しい……
でも、身体が……熱くなっていくのは……怖い……」

耳から首筋へのキスを繰り返しながら、下での愛撫を重ねていく。

奈岐「はぁ……んうぅ……ぁ……身体、熱くなって……ひぅ……」

鼎「大丈夫、怖くないよ。ほら、私は奈岐の側にずっといるから」

手を重ね合わせると、奈岐がすぐに指先を絡めてきた。

奈岐「ずっと側に……?」

鼎「うん。だから、大丈夫」

奈岐「んっ……」

安心してくれたのか、奈岐の身体から緊張がほぐれていく。

目を閉じると、身を任せるようにして、私にキスを求めた。

鼎「ちゅっ……んっ……奈岐の唇も、舌も大好きだよ」

奈岐「……はぁっ、んんっ……奈岐も……鼎が好き……」

そう言ってくれる奈岐が愛おしくて、さらに舌を絡み合わせる。”

奈岐“「……鼎の……意地悪……」

鼎「ふふっ、奈岐ってば、そればっかり」

奈岐「だって……すごく……恥ずかしい……」

そんな抗議の声が聞こえるけれど、奈岐の瞳は
穏やかだったので、私は頬笑みを返しておく。

鼎「じゃあ……次は、意地悪じゃなくて、
大好きって言ってもらえるようにいじめてみるね」

奈岐「うぅ、鼎……いじめるって発想がもう意地悪なんだ……」

鼎「じゃあ、いっぱい愛してあげる」

奈岐「っ……そ、それは……その……」

鼎「その?」

奈岐「……も、もっと恥ずかしいけど…………嬉しい……」

真っ赤になりながらもそう答えてくれたことが、
私にとっても嬉しくて、奈岐の身体に覆い被さっていく。

鼎「じゃあ……意地悪しないから、もっとするね?」

奈岐「……愛してくれる……の……?」

鼎「うん、いっぱい。私が出来る精一杯で」

奈岐「……鼎……うん……大好き……」

奈岐が私に頬をすり寄せてキスをねだって目を閉じる。

口づけると、どちらからともなく舌を絡ませていき、
再び身体を重ね合せていく。”
f14-6, 葉子の実力

“奈岐がマントを纏うと軒下に座り、
荷物から栄養食を取り出す。

奈岐「腹は膨れないだろうが、
食べておいた方がいい」

鼎「葉子先生が入れておいてくれたの?」

奈岐「ああ。もし戻ることが出来れば、
礼を言わねばな」

鼎「うん、先生に感謝だね」

ペットボトルに数日分の栄養食、まるでこうなる
ことを予想していたかのような荷物だった。”

T15-19, 奈岐の洞察
F11-11, 頼継の計画 / 推論二, 頼継の計画
H6-2, 諏訪家

頼継“「一対こそ相手に出来ないけど、今回は一人
だったからね。昌次郎が後れを取るはずが無いよ」

昌次郎「勿体無きお言葉。然れど、
巫女と渡り合えたのは頼継様のお言葉が
あったからこそでございます」

この人、奈岐の予測では、
確か修験者だったかな……?

頼継「へえ、すごい洞察力だ」

鼎「あっ……あはは……」

考えをそのまま読まれてしまい、私は苦笑する。

奈岐「何の用だ? 鼎の考えを
覗きに来ただけならば、帰ってもらう」

頼継「まあまあ、今日は情報共有に来たわけさ。
今のところ、僕達は利害が一致していると
思わないかい?」

奈岐「……そちらの目的を知らないわけだが?」

理事長は苦笑すると、
わざとらしく肩をすくめてみせた。

頼継「ああ、話してなかったね。
どうりで警戒されてるわけだ」

そして、視線を私の手――勾玉を握る手に映す。

頼継「ずばり大きなところで、
キミ達と目的は同じなんだよ」

「僕もこの島の因習を叩き壊してしまいたいわけさ」

鼎「えっ……?」

とんでもないことを理事長が語って見せたので、
聞かされた私は口をぽかんと開いてしまう。

鼎「た、叩き壊したいって……
でも、理事長は松籟会の人じゃ?
そんなことをする理由があるようには……」

頼継「あっははっ、普通はそう思っちゃうよね?
でもね、それがあるんだよ」

「さしずめ、七年前のリベンジみたいなものかな」

鼎「七年前って……お母さんがこの島に来た時……」

どうせ考えが読まれてしまうので、
そのまま口にする。

頼継「僕はね、色々と悪い事をして諏訪家の
当主に上り詰めた後、その権力を使い、
一つの賭けに出ることにした」

「本土から力を持った修験者を集め、この島で続いて
いる儀式、巫女を贄とする因習を止めさせようとね」

「結果は失敗、敗戦したところを
松籟会の追手に襲われて、昌次郎が属する
安部一門を僅かに残して全滅さ」

鼎「その事件、お母さんは……
関係しているんですか?」

私が訊ねると、理事長は重いため息を漏らした。

頼継「ああ、そうだね……キミのお母さんが
助けに来なければ、松籟会にやられる前に、
僕達はみーんな死んでいたよ」

鼎「…………」

頼継「彼女の魂は今もあの祠に囚われている。
僕はそれを救いたい。そして、この呪われた因習を
終わらせたいのさ」

そこまで語った理事長が両手を広げて見せる。

「――と、これで信じてもらえるかな?」

奈岐「何故、お前が高遠未来に拘る?
その理由が抜けている」

奈岐の指摘に、理事長は片眉をあげて……
と、これもわざとらしく驚いた様子だった。

頼継「やっぱり、それは話しておいた方が
いいよね。仕方ないなあ」

こほんと咳払いをした後、
理事長が真っ直ぐに私を見据える。

そして、はっきりと言葉を紡いだ。

頼継「高遠未来はね――僕の姉だ」

鼎「…………えっ?」

口が開いたまま、私の中で時間が静止する。

あ、姉……?

姉って……理事長のお姉さん……? お母さんが?

頼継「本名は諏訪未来、高遠は母方の旧姓だよ。
島の内情を知った後、松籟会に属する諏訪家に
反感を抱いて、高遠を名乗っていた」

「姉さんが事実を知ったのは巫女に選ばれ、
儀式が行われた時。贄となるはずが、元気に
生き残っちゃってさ。松籟会は大慌て」

「あっはは、ホント、破天荒な人だったよ――で、
事実を知った姉さんがこんな儀式は
終わりにさせるって言い出したのさ」

「それが事の始まり。僕は姉さんの意志を継いで、
儀式の崩壊を企んだけど、さっき言ったとおり、
失敗に終わる。で、現在に至るわけさ」

理事長の話に、私はただ唖然と
することしか出来ない。

奈岐も難しい顔をしたまま、
理事長と向い合っている。”

鼎“「あなたはお母さんのことが好きでしたか?」

頼継「――――」

理事長は僅かに驚いた表情を見せた後、
優しげに微笑む。

頼継「ああ、大好きだったよ」

その言葉を聞いて、この人は嘘を言っていないと
確信が出来る。

ただ、『大好きだった』という
過去形が……頭に響いた。”

F9-30, 巫女の真実 / f21-2, 言霊、呪い
疑問十一, 封印とは何か
f17-6, 水蒸気爆発 / T20-32, 奈岐への想い

頼継「さてと、今年の巫女だけど、
もう予想はついてるよね?遠山神住と中村真琴の
二人が既に抜てきされている」

理事長が早速とばかりに状況の報告を始める。

全部信用すると答えたわけじゃなく……
今はこうするより他に選択肢が無かった。

奈岐の星霊石のこともあるし、
どうしてもまだ引っかかる部分がある。

それを踏まえた上で、一時的な協力関係を
継続するという形に今は落ち着いている。

「儀式の準備と称して、二人は学園と別の場所で
軟禁状態だ。その場所は掴めていないし、
さほど重要でもない」

「重要なのは儀式の日取りだ。本来ならば
八月に行うところを、二ヶ月も前倒した上……
急遽、一週間後に行うつもりらしい」

奈岐「一週間後だと……? どういつつもりだ?」

頼継「地震が起きたのを覚えていないかい?
ちょうど二日前だ」

奈岐「関係があるというのか?」

訊ねる奈岐に理事長がうんうんと二度頷いた。

頼継「震源地は儀式が行われている場所、
随分と厄介なモノを封印してるんだけどさ、
それにほころびが出ちゃったわけ」

鼎「封印……」

ここ数日で何度か聞いた言葉に私は眉を顰める。

頼継「その際に地震が起きちゃったのさ。何とか今は
抑え込んでいる状態だけど、儀式を急がないと……
今度は地震じゃ済まない」

「ちょっと、ほころびが出ただけで、祠を中心に大量
の穢れが出現しちゃったんだ。次は島ごと呑まれるよ」

地震直後に現れた穢れの存在……
私達は祓っていないけど、その痕跡の多くを見てきた。

でも、穢れが大量に溢れだすような
封印っていったい何?

「松籟会としては、どうしてもそれを止めたいわけさ。
もちろん、こうして色々企んでいる僕達もだけどね」

鼎「封印って……
いったい何を封印しているんですか?」

私の問いに理事長は開きかけた口に指を当てた。

頼継「――っと、危ない。口にすることは禁じられて
いるんだ。アレばかりは目でみてもらわないと
説明も出来ない」

鼎「…………」

学園長も同じようなことを言っていた記憶がある。

でも、口にすることも出来ないような封印って……?

頼継「言葉には魂が宿る。言霊って聞いたこと
あるよね?『言う』に『魂』と書いて、言魂とも読むんだ」

「魂の存在は、この織戸伏だと繋がりが深いもの
だから、災いを呼び込みやすいんだよ」

「だから口にすることも出来ないわけさ。
迷信かもしれないけど、あの姉さんだって言葉に
したことが無い。僕には無理だよ」

苦笑した理事長がやれやれと頭を振るった。

奈岐「それを目で確かめるとしても……
儀式は一週間後か、急いているな」

頼継「それだけ危険な状態ってことさ。
だから僕達に残されている時間も少ない」

「それで本題に移りたいんだけど、いいかな?」

理事長が私と奈岐に対し、交互に視線を向ける。

そして、理事長が話した内容は
単純明快なものだった。

儀式の当日、祠へ乗り込み、
贄を使わずに封印を行う。

聞こえは簡単だけど、まず祠へ辿り着くには
松籟会が敷いた防備を突破する必要がある。

次に封印が行われている広間に辿り着く必要――
これは私と奈岐が既に方法を思索していたことだ。

最後に、封印を完全な形で行う、というもの。

奈岐「……完全な封印方法が『行けば分かる』では
話にならない。具体的に話せないのか」

頼継「僕達とキミ達の到着が間に合えば、あの
場所には中村真琴と遠山神住の二人がいるはずだ」

「巫女二人の協力が得られれば、封印は可能だよ」

理事長の返答に奈岐は苛立って眉をしかめた。

奈岐「私は方法を聞いている。
可能性はこちらで判断する」

頼継「うーん、参ったな……」

例の言霊を気にしているのか、
理事長は重いため息を吐く。

昌次郎「頼継様、お許しがあれば、
私からこの者達へ伝達を行います」

頼継「いや、昌次郎の力は必要だ。失えないよ」

昌次郎「ですが……」

頼継「仕方ない、向山奈岐――ココで話そう。
僕らの特権だ」

理事長が目を指さし、それから自分の頭を指さした。

鬼子同士、意識下でやりとりをすることで、
言霊の危険を回避するつもりなんだろうか?

奈岐「……分かった」

奈岐は理事長に頷き、険しい視線で彼を見つめる。

意識下でのやりとりを開始したのか、
無言の時間が流れていく。

奈岐も理事長も互いを真剣な表情で見つめ、
時折どちらかが眉をしかめていた。

そして数分後、奈岐が長い息を吐き出す。

「概ね把握した。だが、こちらの条件を呑まない限り、
封印に対しての可能性を見出せない」

頼継「……正直、キミの言っていることは無謀だよ」

挑発ではなく、理事長が真面目な口調で
奈岐を咎めていた。

奈岐は気にする様子も見せず、
マントを脱ぎ、星霊石を手に取る。

奈岐「今から三日やる。
私の望み通りに霊石を調整しろ」

ぶっきらぼうに奈岐が星霊石を理事長へ投げ渡す。

頼継「以前、鬼子の演算に耐えられるだけの
調整はした。次はそれを並列で行える調整を?
キミは無茶を言う」

奈岐「それがこちらの条件だ。無茶と言われようが、
呑んでもらう」

頼継「知っているとは思うけど、肉体への負担は限界
を超える。キミの身体が封印の時まで持たない」

奈岐「負担は考えなくていい。
とにかく、やれ――以上だ」

理事長は奈岐の星霊石を見て、重いため息をつく。

頼継「困った子だ……昌次郎、諏訪家に
道具を取りに戻るよ」

昌次郎「諏訪家に? しかし、
屋敷は既に松籟会の手に……」

頼継「その掃除はキミ達の仕事だ。
頼めるね、昌次郎?」

昌次郎「はっ、頼継様の為ならば――承知致しました」

秘書と話した理事長が一度私へ振り返る。

頼継「三日後、連絡を入れる。詳しい事情は
向山奈岐に聞くといい」

「その子鬼を止められるのは
キミだけだよ、高遠鼎――」

理事長は軽く手を挙げると、神社の入口へ向かって
歩き出す。それに秘書の人が足早に続いていった。

鼎「……奈岐、星霊石をどうするつもり?」

奈岐「封印に対応出来るだけの調整をかける」

調整って……あれ以上は無茶だと目に見えている。

中村さんと戦った時、奈岐は肉体の限界に
動けなくなった。

その危険性は本人が一番よく
分かっているはずなのに……。

鼎「そこまでしないといけない封印って……何?」

そこに納得出来るだけの答えが無ければ、
奈岐に星霊石を渡してはいけない気がした。

この無茶の先にあるのは、間違いなく――。

奈岐「少し場所を変えよう」

抑揚な無い調子で言った奈岐が森へ向かい出す。

鼎「……奈岐」

長い髪を揺らして歩く彼女の背中が、
何故か今はとても遠くに感じた。”
脚本
⇒古の巫女が残してくれた記憶もまた、
決戦を後押ししてくれる
(7-1)

⇒試行錯誤の日々、
水蒸気爆発(
f17)という失敗もまた二人の絆の証

⇒ソフトブラに懐かしさを覚えるのは、女性主人公ならでは
⇒頼継が親類だと発覚し、読み手は動揺するが、
同じく鼎も動揺するのを見て、読み手は安心する。
仮に、鼎が突然、そんな気がしてました、
などと言い出したら読み手は混乱するだろう。
無論、伏線などがあれば話は別だが。
これは先の、巫女と巫女の間に生まれた、
という場面でも同様である

⇒奈岐が自身の行動を計算に入れられることを
良しとしないのは
(5-2-2)にもある通り
演技
演出 ・回想時、音声と画調を加工
作画
補足
⇒[高遠教授の性は、婿養子だから?
ルート間齟齬?後日検討予定]

追記:2015/11/05

⇒婿養子として籍を入れたのが濃厚か、
どちらの名字を名乗るかは自由とされているらしい。
(少なくとも、現実の日本では)
鼎の存在を世間に認めさせるには、
父親という存在が建前としてだが必要になる

この辺りは、末来さんが片倉を名乗っているのと
同じ理由だと言える






10-2-4 10-2-5
状況
頼継から訊いた事を、仄めかす奈岐。それは禍言であり、
織戸伏には魂の存在と直結する場所がある。
それ故に霊石があり、巫女の力が発現するという。
伝承と封印の関係について語る奈岐。奈岐の身を案じる鼎
神社に戻って来た二人。奈岐、ノートを再読。
鼎、無為に時を過ごす、ガジと話す。
母を想い、奈岐を想い、決意を新たにする鼎
時間

四十二日目・夕
場所
ため池
神社前
設定
・禍言は口に出来ない
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
F9-31, 巫女の真実 / (H4, 末来の決意)
T20-33, 奈岐への想い / T21-25, 鼎への想い
T28-9, 力の増大
/ H6-3, 諏訪家
T17-14, 消え入るような鼎

奈岐“「それは禍言として言葉にすることは禁じられている。
私の口からもまだ言えないだろう」

「ただ魂の存在と直結する場所が、この織戸伏にはある。
それ故に星霊石があり、それ故に巫女の力が発現する」

「……穢れとは上手く言ったものだ」

意味深に笑った奈岐が水辺に視線を向けた。

「清めの塩の由来を覚えているか? イザナギが海水で
穢れを祓ったことが切っ掛けになったというやつだ」

鼎「古事記の話だっけ……?」

「ああ、イザナギが黄泉の国から戻った時の話だ。
そして、それが答えになる」

鼎「えっと……? それって……つまり……」

奈岐「鼎、明確に禍言を発するな。
穢れが言霊に引き寄せられる」

鼎「…………」

息を呑み、頭の中で奈岐の言葉を整理する。

魂の存在と直結する場所が、この織戸伏にはあり――
その後、奈岐は黄泉について言及した。

黄泉って……魂の力が密接に関わってくるのは
分かるけれど、本当にそんな場所がここに?

いや……そんな場所が織戸伏にあるからこそ、
ずっと悲惨な因習が繰り返されているんだ。

鼎「それは……あの祠から繋がっているの?」

奈岐「そうらしいな。だから、封じている」

鼎「でも……どうして織戸伏にそんな場所が?」

歴史のある島かもしれないけれど、何も知らない私から見れば、
ただの南の島だった。 少なくとも、ここに来るまでは。

奈岐「織戸伏に伝わる伝承を知っているか?
火の玉が空から降ってきたというものだ」

鼎「うん、それは聞いたことがある」

奈岐「その火の玉というのは、おそらく隕石か何かの類だ。
その落下の衝撃が地脈に影響を及ぼし、繋がったと考えられる」

鼎「島を焼いた火の玉を鎮めるための封印かぁ……
当たらずとも遠からずだよね」

「でも、その封印は完全じゃなくて……毎年、贄が必要になる」

私の言葉に奈岐が深く頷いた。

奈岐「ああ、それを終わりにさせるには、
今まで以上の力が必要だ。どの巫女よりも強い力が求められる」

「霊石を扱う諏訪家に鬼子が生まれ、巫女候補にも鬼子がいる。
こんな状況は前例が無く、おそらく次は無いだろう」

「間引きされる男の鬼子が生き残り、諏訪家にいること自体が
奇跡に近い。この機会を最大限に活用する」

その方法が身体への負担を無視した星霊石の調整――。

成功すれば、どんな巫女よりも強い力を発揮出来ると思う。

でも、奈岐は……。

鼎「奈岐、独りにしないって約束……覚えてるよね?」

奈岐「――ああ、鼎は奈岐を独りにしない」

鼎「…………」

思わず言葉を失ってしまう。

私は奈岐を独りにしない。

そう、私は奈岐を独りにしないだけで、
その逆は……約束されていない?

奈岐は私を独りにしてもいいの?

この約束は、こうなった時のことも考えていた?

奈岐「鼎は奈岐にとっての唯一だ。死なせはしない。
この先、何があっても……生きていて欲しい」

鼎「待って、そこに奈岐がいないと意味なんてないよ」

「私が奈岐を独りにしてしまう。約束が守れない」

奈岐「奈岐はもう独りじゃない。だから、大丈夫だ」

奈岐が微笑むのに対して、
私の唇は得体の知れない恐怖に震えていた。

鼎「そんなの……約束を守れてないよ……屁理屈だよ」

奈岐「そうかもしれないな……」

そう呟いた奈岐は、水面に視線を逸らしてしまう。

鼎「奈岐、私は奈岐を独りにしないから。約束したから」

手の甲で僅かに濡れた目尻を拭って、奈岐に伝える。

奈岐「…………」

だけど、奈岐は何も答えずに目を伏せていた。

その後、私達は言葉を交わすことなく、無言の時間を過ごす”

T17-15, 消え入るような鼎 / f12-7, 末来の真実
疑問十二、星霊石の形状
F2-10, 鼎の出生と勾玉の秘密
T1-34, 鼎の強い意志
T20-34, 奈岐への想い / f2-9, 勾玉の熱

鼎“「ねえ、ガジ、私には
お母さんと同じ血が流れているんだよね?」

隣で丸まっていたガジに何となく話しかける。

お母さんは贄とならず、儀式で生き残り、
末来さんを助けるために封印を解いた。

あの実体を知った上で封印を解くなんて、
ホントに滅茶苦茶なことをする人だと思う。

封印を解くことで、どうして末来さんが
助けられたのか分からないけど……
一つだけ言い切れることがある。

思い込んだら真っ直ぐで、
どこまでも自分の意志を貫く――
そうすることが出来る力を、お母さんは持っていた。

でも、私は?

このままだと、間違いなく奈岐は
無茶な力を使ってしまう。

私との約束を一方的に守り、そして何もかも
終わりにする。

「ガジ、私には何が足りないんだろう?」

ガジ「ニャン?」

ガジが私の問いを理解出来るはずもなく、
小首を傾げていた。

鼎「自分の意志を貫けるほどの強さ……
その強さって、どこから来ているんだろう?」

「三輪さんなら血筋とか言いそうだけど、
お母さんの娘だから、それはクリアしてるはずだし……」

お母さんの勾玉を手に取り、空にかざしてみる。

綺麗な空色をした勾玉――中心に向かうにつれて、
青色が濃くなる不思議な石だ。

こうして勾玉をまじまじと眺めてみて、
ふと思うことがあった。

鼎「……どうして私の石だけ勾玉なんだろう?」

これが星霊石だとして、
他のみんなのは球体になっている。

島の外から持ってきたものだから、と思っていたけれど、
星霊石の加工は諏訪家が行うものらしいし……。

勾玉の形に諏訪家がわざと加工したことになる。

「お母さんが諏訪家の人だから……?」

そんな特別扱いが許されるのだろうか?

許されそうな人ではあったみたいだけど……うーん?

「それに、理事長の話だと……お母さんは一人で戦って、
一人で生き残ったみたいな……?」

一対の相手について言及すらされていなかった。

ますます分からなくなってきて、考えを中断させる。

そして、私はため息をつきながら。軒下で寝転がった。

「はぁ、お母さん……今が最大の山場だよ」

「私、好きな人を失うなんて絶対に嫌だよ……」

何も語らなかった奈岐の横顔を思い出せば、
また瞳から涙が溢れ出しそうになる。

例え封印に成功したとしても、そこに奈岐がいなければ、
私にとっては……成功じゃない。

ガジ「ニャーン……?」

鼎「んー、泣いてないよ。ガジ、心配してくれてありがと」

目元を手の甲で拭ってから、ガジをぐしぐしと撫でる。

儀式までの一週間――きっとここが正念場になると思う。

私もお母さんみたいに真っ直ぐ進まないといけないのに。

「……しないといけないって考える癖、直らないなあ」

ふと末来さんに指摘されたことを思い出して苦笑する。

島に来た頃は、ずっとしっかりしないといけないって
思っていた。

思い描いた通りに出来ていたかは疑問だけど、
でも私は真実に辿り着きつつある。

だからこそ――最後の強さが何かを知りたかった。

「お母さん……答えを聞いたらダメだよね」

「うん、儀式の時までに絶対にみつけないといけない」

と……またいけないって言ってるし。

お母さんに似て、こんなところまで
頑固な娘になったのかな?

「よし……」

勾玉を握り締め、私は深呼吸をしてから身体を起こす。

夕陽の赤が強くなり、もう間も無く陽が沈もうとしていた。

鼎「――待ってて、お母さん。
私、胸を張って、そこに行けるようにするから」

自分の背中を自分で押すことが出来る……
そんな最後の強さを見せつけてみせるから。

心の中でお母さんに誓い、熱を放つ勾玉を胸に抱いた。”
脚本
⇒イザナギについて (3-2-4)

⇒伝承について (
1-1-2-1)
世界観の最も奥深くにある基礎とは、神話である。
歴史はその次に位置する。ほぼ完全に事象を再現出来るものは
科学であり、捨象によって得られるのは数学的対象である

⇒最終決戦へと向かうに当たり、これまでの物語を
お復習いしておく事で、この物語が一体何だったのか、
何を得て何を失ったのか、世界と人にどれだけの変革と革新が
成されたのが、より解かるようになる。
これを自然な形で行う辺りに、脚本家の技術と経験が見て取れる
⇒無理をしてきた鼎 (4-1)
⇒“しっかりしないと”と繰り返してきた鼎
f3-5 /
T1-17 / T20-20 / H4-3 / T20-28 / T17-14
演技
演出
作画
補足






10-2-6 10-2-6
状況
櫻井と葉子が訪れる。生活物資と奈岐の星霊石を届ける。
奈岐、葉子に八弥子への伝言を頼む。
鼎、櫻井から母が儀式から生還した際の要因に
ついて聞かされ、光明を見出す
更に手を加えた霊石の具合を確かめる奈岐。
奈岐の霊石から冷気を発現させる鼎。
奈岐、鼎の可能性を信じる。誓いを交わす二人
時間
四十五日目・朝
場所
神社前
神社内
設定
・病院もまた、松籟会の管轄
・一対を体現するように、相手の想いを知り、
その魂に共鳴する事で、力とする事が鼎には出来る
(未来もそうだったように)
伏線(大)
伏線(小)
テキスト
T28-10 力の増大 / T21-26, 鼎への想い
f22-2, 八弥子による救援 / H6-4, 諏訪家
H3-4, 櫻井の葛藤 / f2-10, 勾玉の熱

葉子“「向山さん、この星霊石の意味、
ちゃんと分かっていますか?」”

葉子先生が布に包まれていた星霊石を取り出す。

見た目には同じ形をしていても、感じる力は別物だった。

奈岐が希望した通り、複数の力がそこにはあるような……
とても人の感覚で使えるものでは無い。

奈岐「現状で考え得る最良の手段だ」

葉子「自己犠牲が、ですか?」

奈岐「決して犠牲ではない。 これは礎となる」

鼎「…………」

葉子先生が困ったように眉を寄せ、学園長は静かに目を伏せた。

葉子「向山さん、先生達は学生の身を一番に
考えないといけません。
そのような心づもりでしたら、これは渡せません」

奈岐「渡す? 私はお前達に預けた記憶は無い。返してもらう」

葉子「向山さんの身に何かが起きた時、
一番悲しむのは誰ですか?」

奈岐「……そんな問答に付き合う暇はない」

葉子「向山さん、せめてそれだけは答えて下さい」

先生の言葉に奈岐は短い息を吐くと、視線を私に向ける。

奈岐「…………」

だけど、奈岐は何も語らずに再び葉子先生を見上げた。

奈岐「充分だろう。石を渡してもらおう」

葉子「……学園長」

困ったような声で葉子先生が学園長に判断を仰ぐ。

櫻井「構いません。その石は彼女の物です」

奈岐「いい判断だ」

そして、葉子先生が持っていた石が奈岐の手元に渡る。

葉子「神山さん、高遠さん、
ヤヤちゃんは無事に意識を取り戻しました」

「ヤヤちゃん、まだ動くこともままならない状態なのに。
二人のことをとても心配してました」

奈岐「……そうか、意識を取り戻してくれたか」

奈岐は帰ってきた星霊石を握りしめ、目を閉じた。

「禰津と話がしたい。 病院に行けるか?」

葉子「病院自体が松籟会の管轄です。今の向山さんでは……」

奈岐「なら、伝言を頼みたい。そちらもそちらで話があるだろう。
私達は社の中へ場所を移そう」”

櫻井“「さて、理事長から諏訪家の話を伺いました。
私が伏せていたことは、ほぼ知ったようですね」

鼎「でも……まだ知らないこともありますよ」

私は必然的に学園長と一対一で向かい合うことになる。

「巫女になった時、お母さんは一人で戦ったんですか?」

櫻井「……もう隠す必要も無いでしょうね。
ええ、彼女は一人で儀式に挑み、そして生き残りました」

「ですが、彼女は一人で戦ったわけではありません。
私は、今日そのことを伝えに来たのです」

お母さんは……一人で戦ったわけじゃない?

学園長の言葉に私はまばたきを繰り返す。

鼎「どういうこと……ですか?」

櫻井「人の気質――そこから現される魂の形。
それは簡単に変えられないものです」

「ですが、心を通わせることにより、他者を理解しようとすることは
出来ます。それが一対の巫女のあるべき姿だと私は考えます」

通じ合い、分かり合うことで初めて一つの御魂を体現出来る。

でも、それとお母さんが一人で儀式に挑んだこと……
何の関係が?

「高遠さん、あなたはこの島に来て、
どれだけの絆を育むことが出来ましたか?」

「その絆の数だけ、あなたも、諏訪未来さんと同じように
力を使うことが出来るでしょう」

鼎「お母さんと同じことが私にも……?」

学園長は私に頷き、そして言葉を続けた。

櫻井「もし向山さんがあの石の力を使えば、
彼女は肉体だけでなく、その魂も耐えきれないことでしょう」

「彼女を助けられるのはあなただけです、高遠さん」

鼎「…………!」

その言葉に思わず息を呑んでしまう。

学園長だけでなく、様々な声が頭の中で反響していく。

(以下、回想 5-2-2 / 10-2-3)

末来「鼎――奈岐を助けられるのはキミだけだからね」


頼継「その子鬼を止められるのはキミだけだよ、高遠鼎――」

(回想終了)

櫻井「あなた自身の力と、
諏訪未来さんが残したお守りを信じなさい」

鼎「……お守り」

手に勾玉を取り、軽く握り締めてみた。
僅かに感じる熱はいつも私に勇気をくれる。

櫻井「高遠さん、これを」

学園長が私に透明な石を差し出した。

鼎「それ、星霊石……ですか?」

櫻井「いいえ、星霊石には遠く力が及ばないものですが、
純度の高い結晶ではあります」

鼎「そんなものをどうして私に?」

櫻井「手に取ってみなさい」

言われるまま、勾玉から手を離し、学園長から丸い石を受け取る。

ちょうど手に収まるサイズのそれを握り締めると――。

鼎「……えっ?」

僅かにだけど、石から熱を感じた。

櫻井「星霊石に祈るように、もっと力を籠めてみなさい」

鼎「…………」

少し息を吸って、意識を集中させていく。

すると、眩い光と少しの衝撃が私を中心に広がった。

「これは……?」

慌てて手を開くと、光を放った石は硝子片のように
砕け散ってしまっていた。

風が吹き付けると、はらはらと中空を舞っていく。

櫻井「やはり、血は争えないものですね」

「それは片倉末来さんのために用意した星霊石の残りです。
石の力が及ばず、使用には耐えきれませんでしたが」

鼎「末来さんの石をどうして私が……?」

まだ力を解放した感覚が残る右手を見た。

僅かに感じる熱は――どこかで感じたものに似ている。

「これは、未来……さん?」

そうだ、これは末来さんと繋いだ手の温もりだ。

でも、どうして?

櫻井「ふふっ……本当にあなたがた親子は、
人の心に入り込むのが上手ですね」

学園長が微笑みを浮かべたように見えたので、
思わず目を疑ってしまう。

だけど、それはほんの数秒だけのことで、
すぐにいつもの凛とした表情に戻る。

櫻井「さて、時間のようです」

話が終わったのか、社から葉子先生と奈岐の二人が顔を見せる。

櫻井「立場上、私はあなたを止めるべきなのでしょうが……
もう何も言いません。高遠鼎さん、自分を信じて進みなさい」

鼎「学園長……」

櫻井「それでは」

学園長が踵を返し、神社の鳥居をくぐっていく。

葉子「……向山さん、先生は反対しますからね」

奈岐「…………」

何を話してきたのか、葉子先生はどこか落ち込んだ様子だった。

それに対して、奈岐は聞き流すように目を閉じている。

葉子「高遠さん、向山さん……無事に戻ってきて下さいね」

葉子先生は学園長の後に続き、神社から姿を消していった。

残された私は目を閉じたままの奈岐に視線を移す。

鼎「先生と何を話したの?」

奈岐「今夜のことだ。いずれ分かる」

淡々とそう答えた奈岐は先生が届けてくれたリュックを手にする。

奈岐「社に戻って、霊石の具合を確かめてくる」

鼎「待って、私も行く」

奈岐が持ったリュックに手をかけ、重さを半分にした。

奈岐「…………」

何も言わず、奈岐は私から視線をそらすと、足先を社へ向ける。

そんな奈岐から離れないように、私も歩み出す。”
T28-11 力の増大 / T22-7, 鬼子の力
T20-35, 奈岐への想い / T21-27, 鼎への想い
T27-4, 鼎への信頼 / T19-6, 八弥子と奈岐
(H5, 星霊石の欠片) / T15-20, 奈岐の洞察

“やはり調整された石から感じる力は異質なもので、
私の感覚では、とても扱い切れそうにない。

奈岐は一通り、星霊石の外観を確かめ終えた後、
僅かに冷気を発動させた。

小さな氷の結晶が
石を取り囲みながら構成されていく。

その数が十近くになった時、まるでそれぞれが
意志を持っているかのように、
氷の結晶がその場で飛び交い始める。

一つは円を描くように、一つは上下に、
一つは四角を描くように、結晶は、どれもが
別々の動きを行っていた。

奈岐「鼎、少し話をしよう」

結晶を動かしながら、奈岐はそんなことを言い出した。

それも具合を確かめるため?

奈岐「今は並列で十三の処理を行っているが、
まだ余裕がある」

鼎「並列で十三のって……」

桁外れというか、
既に想像も出来ないことをしているらしい。

さらにここから会話を加えることで、処理はもっと
複雑になる。奈岐はそれを試したいのだろう。

「それじゃあ……奈岐、葉子先生に言ってたことだけ
ど、私、そんな心づもりの奈岐と一緒に行けないよ」

奈岐「だが、鼎一人の力で
儀式を止めることは出来ない」

鼎「でも、お母さんは一人で止めることが出来た。
その理由も何となくだけど……分かったよ」

奈岐は訝しげな表情で私を見るが、
宙を舞う結晶は変わらない。

鼎「その石、少しだけ借りてもいい?」

奈岐「構わないが……どうするつもりだ?」

冷気が収まると、奈岐は私に星霊石を手渡す。

鼎「ちょっと見ててね」

目を閉じて、手の平にある
星霊石の感覚に集中していく。

頭の中で奈岐の姿を描き、
次に奈岐が操る氷をイメージする。

そして、彼女の一番奥底にある想いを意識した。

鼎「…………」

奈岐「なっ……鼎?」

その瞬間、私の回りに氷の結晶が散っていく。

すぐに気化して消えてしまったけど、
確かに冷気を感じた。

鼎「これが……答えだと思う」

奈岐「鼎……? どうして……奈岐の力を?」

鼎「ふふっ、知りたい?」

私は奈岐に星霊石を返した後、
口元に笑みを浮かべる。

奈岐「そういう言い方、気になる……」

少し拗ねた調子で奈岐が言う。

鼎「じゃあ、約束」

「犠牲とか礎とか、どんな表現でもいいけど……
とにかく、私を置いていなくならないこと」

奈岐「だ、だけど、それだと……」

鼎「ね、奈岐一人で何とかするって思わない」

「まだ確信は無いけど、お母さんと同じことが出来る
なら、私にも封印するだけの力がある」

奈岐「…………」

押し黙ってしまう奈岐の手を取る。

鼎「私は自分の可能性を信じる。 奈岐も私の可能性
を信じて。それで、何があっても二人で生きて帰ろう」

奈岐「鼎……」

奈岐の指がぴくりと反応して、
私の手に絡ませてきた。

奈岐「奈岐は……鼎と一緒にいたい。ずっと一緒に
いたい。でも、それは難しいって思うから……」

鼎「ううん、そんなこと無いよ。難しいことじゃない」

自分の背中を押せる最後の強さは、
思ったよりも単純だった。

結局は――どんな状況でも自分を信じ切れるか
どうか。 それだけなんだと思う

自分の力を信じていたから、
お母さんは真っ直ぐに意志を貫くことが出来た。

自信過剰なんて言葉が頭をよぎるけど、
それぐらいでいいかもしれない。

何せ、私は……この島で色んなことをやらかしてきた
お母さんの娘なんだし、
ちょっと過剰なぐらいがちょうど良いはず。

鼎「奈岐、私を信じて」

奈岐「…………」

返事は無かったけど、
奈岐が私の手を強く握ってくれる。

鼎「何があっても一緒にいよう。
難しいことなんかじゃない」

「私を信じて。 私も自分の力をどこまでも
信じてみせるから」

奈岐「……鼎」

言葉を繰り返すと、奈岐が小さく頷いてくれた。

奈岐「信じることが始まり……それは、いつもそうだな」

「鼎を信じないと、また奈岐は独りぼっちの考えに
囚われる。それじゃ、鼎が最初の約束を守れない」

「鼎のことを信じる。 鼎と一緒にいたいから……
信じてみせる」

鼎「うん……ありがとう、奈岐」

腕を引き、身体を抱き寄せると、奈岐の瞳を見つめる。

その目が閉じられたのを合図に、
私は唇を重ね合わせた。

数秒のキスの後、私は奈岐の唇から離れる。

でも距離は近く、額をくっつけ合ったまま言葉を紡ぐ。

「……お母さんは他の人の
星霊石の力も使ったんだと思う」

奈岐「他の人の? だが、
そんなことを出来るはずが……」

鼎「でも、私はさっき奈岐の石を使ってみせた」

奈岐「しかし、星霊石は自分の魂の力を
現すもので……他人には……」

鼎「私もそうだと思ってたけど、厳密には違うみたい」

「もし、自分の魂と紐付けされているなら……
私はお母さんの勾玉を使うことが出来ないし」

奈岐「……じゃあ、どうやって?」

まばたきをした奈岐に微笑む。

鼎「星霊石は所有者の魂を現した力を授けてくれる」

「もし所有者と強い絆で結ばれていれば、星霊石を
通して、その人の想いを現すことだって出来る」

奈岐「そんなこと……」

鼎「一対として魂を体現する感覚と
似てるかもしれない」

「ほら、魂っていうか、気持ちが共鳴してるみたいな?」

奈岐「…………」

奈岐が驚いたように口を開いて固まってしまう。

だけど、その後すぐに――。

「フッ……そうか、そういうことか」

吹き出してしまったかのように奈岐が笑う。

鼎「あ、あれ? 私、変なこと言った?」

奈岐「いいや……それは鼎だから出来ることなの
だろうな。と思ってしまっただけだ」

笑ってしまったお詫びに、と奈岐が私の頬に口付ける。

でも、それだけじゃ物足りないので、
私からは奈岐の頬にキスを残しておく。

「鼎の心は熱い炎のようだと思っていた。
でも、それだけじゃなかった」

「まるで流れる水のようだ。どんな形にでもなれる
から、他人と分かり合うことが出来る」

鼎「水……?」

流れる水は何にでもなれる――
八弥子さんもそんなことを言っていた記憶がある。

奈岐「……奈岐は不器用だから、水にはなれない」

「でも、そうすることが出来るって想像の先に鼎がいる」

奈岐が私に頬をすり寄せ、そのまま肩に頭を預けた。

「鼎の母が島を出て、外で鼎を育てた理由が
分かった気がする」

「この島のしがらみに囚われていたら、その枠でしか
者を考えられない。水のようにはなれない。
だから、外に出る必要があった」

鼎「……でも、お母さん、どうやって
島から出たんだろう?」

「島の外に出ようとすると……
死んじゃうって呪いみたいな話」

この島に来て間も無い頃、
その話を何度か耳にしている。

奈岐「この島に生まれれば、その血や魂が、
封印されているもの結び付けられるのだろう。
確かに、それは呪いだ」

鼎「勾玉が守ってくれていたってこと……かな」

奈岐はそうだなと頷いた後、
自身の考えを口にしていく。

奈岐「鼎の母が勾玉から離れ、島に戻る際は、
誰かと連絡を取って……諏訪家か末来の奴に
星霊石を送らせればいい。 その行動の価値が
分からなければ、無駄遣いだが」

鼎「あはは、お母さんらしいけど……
とんでもないことしてるなあ」

奈岐「そうだな……そう考えると、
本当に鼎は特別だらけだ」

私に身を預けたまま、奈岐が苦笑していた。

鼎「ふふんっ、特別な扱いを受けた分だけ、
頑張らないとね」

奈岐の言葉が正しいとしたら、お母さんは
自分の勾玉という希望を私に残してくれている。

きっとお母さんは
今回の儀式に全てを賭けて行動した。

その言葉に沿って、娘が動いているとは限らない
けれど、今は自分の力をどこまでも信じて
やってみるつもり。

信じる事が始まり――奈岐の言葉を借りるなら、
その通りだろう。

自分を信じて、自分の背中を押せた。

「全部終わらせたら、
奈岐も島の外に出ることが出来るかな?」

奈岐「島との結びつきが断てれば……たぶん」

鼎「じゃあ、一緒に島の外を見に行こう。
いっぱい案内するよ」

奈岐「……そうか、それは楽しみだ」

希望を胸に、あとは真っ直ぐ進むだけ。

最後まで真っ直ぐに――。”
脚本
⇒奈岐から八弥子への伝言は、謝罪と感謝、鼎を頼む、等だろう

⇒人が簡単には変われないことについて (4-1-4)

⇒“奈岐が持ったリュックに手をかけ、重さを半分にした
これの意味は、奈岐一人に重荷を背負わせない、ひいては、
待ち受ける困難の半分を鼎も背負うのだということ

⇒“そんな奈岐から離れないように、私も歩み出す

“長い髪を揺らして歩く彼女の背中が、
何故か今はとても遠くに感じた”(10-2-3)


奈岐が遠くに行ってしまう事を、鼎は感じ取っている
⇒自分を信じることについては、以下の通り

末来“「鼎ならきっと出来るから、
自分を信じて進むんだ」” (
1-1-9-7)

⇒力を授かった者が負うべき使命について

(7-3-1 脚本)

⇒今回の儀式が
最初で最後の好機であることについて

(H4, 末来の決意) (10-2-4)
演技
演出 ・回想 (暗転とエコー)
作画
補足
⇒櫻井らが鳥居をくぐってくるのは、
神狼(とその眷族)に敵対する者ではないという事を
行為で示している

⇒“場所が変わっても凛とした雰囲気で、私達の様子を観察する。”
櫻井の振る舞いは、
立場だけで成り立っているわけではないという事

 


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